演じるのはもうやめます

たくわん

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ルミエールでの生活が始まって半年が過ぎた。アリシアは着実に、この国での地位を築いていった。

『ローズ・アンド・ソーン』は大成功を収め、女性支援プログラムには数百人の応募があった。アリシアの名前は、ルミエール中に知れ渡っていた。

しかし、彼女の心には一つの不安があった。結婚式の日取りが近づいていたのだ。

王妃となれば、自由に活動できなくなるかもしれない。ビジネスを続けられるのだろうか。そんな不安が、心の奥底にあった。

ある日、アレクシスがアリシアを呼んだ。

「話がある」

二人は王宮の庭園を歩いた。

「アリシア、君が不安に思っていること、分かっている」
「アレクシス…」
「王妃としての責務と、自分のキャリア。両立できるか心配なんだろう?」

アリシアは頷いた。

「正直に言うと、怖いの。また、自分を偽らなければならなくなるんじゃないかって」

アレクシスは立ち止まり、彼女の両手を取った。

「アリシア、僕は約束する。君が君らしくいられるよう、全力で支える」

彼は続けた。

「実は、父上と話をした。王妃の役割を、時代に合わせて再定義しようとね」
「再定義?」
「ああ。これからの王妃は、単なる象徴ではなく、国のために積極的に働く存在であるべきだと」

アレクシスは微笑んだ。

「君のビジネスも、女性支援活動も、すべて王妃の公務の一環とする。そういう形を、父上が認めてくれた」

アリシアは驚いて目を見開いた。

「本当に?」
「ああ。もちろん、伝統的な儀式も必要だけど、それ以外の時間は君の自由だ」

アリシアの目に涙が浮かんだ。

「ありがとう、アレクシス」
「君が幸せでいることが、僕の幸せなんだ」

二人は抱き合った。不安が消え、希望だけが残った。

しかし、運命は時に試練を与える。

結婚式の一週間前、王都から緊急の知らせが届いた。トーマスからの手紙だった。

『アリシア様、大変なことが起きました。財団が何者かに襲撃され、資金の大部分が盗まれました。このままでは、財団を維持できません。すぐに戻ってきていただけませんか』

アリシアは青ざめた。自分が築いた財団が、危機に瀕している。

「戻らなければ」

アリシアは即座に決断した。

「でも、結婚式が…」

アレクシスが心配そうに言った。

「延期しましょう。今、私が行かなければ、多くの女性たちの夢が潰えてしまう」

アリシアの決意は固かった。

「分かった。一緒に行こう」
「でも、あなたは王子として…」
「僕の婚約者が困っているのに、傍観するわけにはいかない」

アレクシスも決然と言った。

二人は急いで王都へと向かった。道中、アリシアは状況を分析した。

「おそらく、財団に反対する勢力の仕業ね」
「犯人の見当は?」
「いくつか思い当たるわ。でも、証拠がない」

王都に到着すると、財団は混乱状態だった。スタッフたちは途方に暮れ、奨学生たちは不安そうだった。

「お嬢様!」

トーマスが駆け寄ってきた。

「詳しい状況を教えて」

アリシアは冷静に指示を出した。まず、被害額を正確に把握し、次に犯人の手がかりを探す。

調査を進めるうち、ある事実が浮かび上がった。襲撃の前日、財団の帳簿を閲覧した貴族がいた。それは、かつてアリシアを中傷しようとしたマルコムの関係者だった。

「やはり…」

アリシアは憤りを感じたが、冷静さを保った。

「証拠を集めましょう。そして、法的に対処する」

しかし、相手は権力者だ。証拠を集めるのは容易ではなかった。

その時、意外な人物が現れた。ヴィクターだった。

「アリシア、手伝わせてくれ」

ヴィクターは真剣な表情だった。

「ヴィクター様、なぜ?」
「お前が築いたものを、守りたい。それだけだ」

ヴィクターは、自分の人脈を使って情報を集め始めた。彼は以前の社交界での地位を利用し、マルコムの関係者から証言を引き出した。

「マルコムの従兄弟が、襲撃を指示したらしい」

ヴィクターが報告した。

「証拠は?」
「金の流れを追えば、証明できる。俺の知り合いの会計士が協力してくれる」

数日間の調査の末、決定的な証拠が集まった。マルコムの従兄弟が、盗んだ金を隠している場所も特定した。

アリシアは王太子妃に面会を求め、すべてを報告した。

「これは、許せない犯罪です」

王太子妃は激怒した。

「すぐに、衛兵隊を派遣します」

犯人は逮捕され、盗まれた資金のほとんどが回収された。財団は危機を乗り越えた。

事件解決の後、アリシアはヴィクターに礼を言った。

「ありがとう、ヴィクター様。あなたの助けがなければ、財団を守れなかった」
「いや、当然のことをしただけだ」

ヴィクターは少し照れくさそうに言った。

「それに、これは俺の贖罪でもある」
「贖罪?」
「ああ。お前に対して、俺はあまりにも無理解だった。今、それを償いたいんだ」

アリシアは優しく微笑んだ。

「あなたは、本当に変わりましたね」
「お前のおかげだ」

ヴィクターも微笑んだ。

「俺は、新しい人生を始めた。マリアンヌとも正式に別れ、今は領地経営に専念している」

彼は続けた。

「お前が教えてくれたことを活かして、領民のために働いている」
「それは、素晴らしいことです」

二人は、もはや元婚約者ではなく、互いの成長を認め合う友人となっていた。

事件が解決し、財団も安定を取り戻した。アリシアは安心して、ルミエールに戻ることができた。

その夜、王都を発つ前に、アリシアは財団の奨学生たちと会った。

「皆さん、心配をかけてごめんなさい。でも、財団は続きます」

奨学生たちは安堵の表情を浮かべた。

「これからも、あなたたちの夢を応援します。どんな困難があっても、諦めないでください」

一人の若い女性が立ち上がった。

「アリシア様、私たち、あなたのようになりたいです。困難に立ち向かい、夢を追い続ける、強い女性に」

その言葉に、アリシアは涙した。

「ありがとう。でも、あなたたちはもう十分に強いわ。ただ、それを信じて、一歩踏み出すだけ」

翌日、アリシアとアレクシスはルミエールへと戻った。

馬車の中で、アレクシスが言った。

「君は、本当に強い」
「そんなことないわ。怖かったもの」
「怖くても立ち向かう。それが、本当の強さだ」

アレクシスは彼女の手を握った。

「結婚式、もう一度準備し直そう」
「ええ。今度こそ、何も邪魔されないわ」

二人は笑い合った。困難を乗り越え、二人の絆はさらに深まっていた。

ルミエールに戻ると、民衆が温かく迎えてくれた。

「アリシア様、お帰りなさい!」
「王都の財団を守ったと聞きました!」

人々の歓声に、アリシアは手を振って応えた。

「ただいま。私の場所は、ここにある」

そう、彼女は気づいていた。王都も、ルミエールも、どちらも大切な場所。そして、どちらでも自分らしく生きることができる。

結婚式まで、残り一週間。今度こそ、何も邪魔するものはない。アリシアの新しい人生が、本当に始まろうとしていた。

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