演じるのはもうやめます

たくわん

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結婚式の日は、完璧な晴天だった。

ルミエール王国の大聖堂には、二つの国から数千人の招待客が集まっていた。王族、貴族、そして何より、アリシアが支援してきた多くの女性たち。

アリシアは純白のドレスに身を包んでいた。しかし、それは伝統的な保守的なデザインではなく、彼女らしい大胆さと優雅さを兼ね備えたものだった。

母から受け継いだペンダントが、胸元で輝いている。

「お嬢様、準備はよろしいですか?」

エリザベスが声をかけた。

「ええ」

アリシアは深呼吸をした。緊張よりも、期待の方が大きかった。

父である公爵が、娘をエスコートするために現れた。

「アリシア、本当に美しい」

公爵の目には涙が浮かんでいた。

「お父様、今まで本当にありがとうございました」
「いや、こちらこそ。お前が幸せになってくれることが、父の一番の喜びだ」

父と娘は、大聖堂への長い廊下を歩き始めた。

扉が開くと、荘厳な音楽が響き渡った。何百人もの視線が、アリシアに注がれる。

しかし、アリシアの目に映るのは、祭壇の前に立つアレクシスだけだった。

彼の目には、深い愛情が宿っていた。

バージンロードを歩きながら、アリシアは走馬灯のように過去を思い出した。

婚約破棄の夜。絶望と解放が入り混じったあの感覚。

初めて本当の自分として生きると決めた朝。

『ローズ・アンド・ソーン』を開店した日の興奮。

アレクシスと出会った日。

そのすべてが、今日という日につながっている。

祭壇の前で、父が娘の手をアレクシスに託した。

「彼女を、よろしく頼みます」
「お義父様、必ず幸せにします」

そして、式が始まった。

司祭が荘厳な声で誓いの言葉を読み上げる。しかし、アレクシスとアリシアは、伝統的な誓いだけでなく、自分たちの言葉でも誓うことにしていた。

「アリシア」

アレクシスが彼女の手を取った。

「僕は、君をありのまま愛します。君の強さも、弱さも、すべてを」

アリシアの目に涙が浮かんだ。

「君が夢を追い続けることを、全力で支えます。君が君らしくあることを、決して邪魔しません」

次は、アリシアの番だった。

「アレクシス」

彼女は微笑んだ。

「私は、あなたと出会って、本当の愛を知りました。あなたは、私を変えようとしなかった。ありのままの私を愛してくれた」

涙が頬を伝う。

「私は、あなたと共に歩みます。喜びも悲しみも、成功も失敗も、すべてを分かち合いながら」

二人は指輪を交換した。

「それでは、新郎は新婦にキスをしてもよろしい」

アレクシスとアリシアは、深く口づけを交わした。大聖堂に、大きな拍手と歓声が響き渡った。

披露宴は、盛大に執り行われた。

王都からは、トーマス、ソフィア、商人組合の仲間たちが駆けつけた。ヴィクターの姿もあった。

「アリシア、おめでとう」

ヴィクターは心からの笑顔で祝福した。

「ありがとう、ヴィクター様」
「もう、様はいらない。友人として、呼び捨てでいい」

二人は握手を交わした。もう、過去の影はなかった。

マリアンヌも来ていた。彼女は今、画家として活動しており、小さいながらも成功を収めていた。

「アリシア様、本当におめでとうございます」
「マリアンヌ、あなたも幸せそうね」
「ええ、やっと自分の道を見つけました。アリシア様のおかげです」

財団の奨学生たちも招待されていた。彼女たちは、アリシアに花束を贈った。

「アリシア様、私たちの希望です」
「いいえ、あなたたちが私の希望よ」

アリシアは彼女たちを抱きしめた。

宴もたけなわとなった頃、アリシアは演説を求められた。

「皆様、今日は私たちの結婚を祝ってくださり、ありがとうございます」

アリシアは会場を見回した。

「私は、ここに至るまで、多くの困難を経験しました。婚約破棄、事業の危機、偏見との戦い」

人々は静かに聞いていた。

「でも、そのすべてが、今の私を作りました。そして、何より、かけがえのない人々との出会いをもたらしてくれました」

アリシアは微笑んだ。

「私が伝えたいのは、一つだけ。どんなに困難な状況でも、自分を信じて、諦めなければ、道は開けるということです」

会場から、大きな拍手が起こった。

「これから、私はルミエールの王妃となります。でも、商人でもあり続けます。女性たちを支援する活動も続けます」

アリシアは力強く宣言した。

「なぜなら、それが私だからです。そして、私のパートナーは、それを理解し、支えてくれています」

アレクシスが立ち上がり、彼女の隣に立った。

「私たちは、新しい時代を作ります。女性も男性も、誰もが自分の可能性を追求できる時代を」

二人の宣言に、会場は熱狂した。

宴は深夜まで続いた。そして、ついに二人だけの時間が訪れた。

王宮の一室で、アリシアとアレクシスは向かい合った。

「信じられない。私、本当に結婚したのね」

アリシアは笑った。

「ああ。そして、これから長い人生が始まる」

アレクシスが彼女を抱きしめた。

「どんな困難があっても、一緒に乗り越えよう」
「ええ」

二人は窓辺に立ち、星空を見上げた。

「アレクシス、約束して」

アリシアが言った。

「何を?」
「もし私が、また道に迷ったら、本当の私を思い出させてほしいの」
「約束する。でも、君はもう迷わない」

アレクシスは確信を持って言った。

「君は、自分が何者かを知っている。そして、それを誇りに思っている」

その言葉に、アリシアは微笑んだ。

そして、数年後。

アリシアとアレクシスの間には、二人の子供が生まれていた。活発な娘と、好奇心旺盛な息子。

ある日、娘が母に尋ねた。

「お母様、私、将来何になってもいいの?」

アリシアは娘を抱き寄せた。

「もちろんよ。あなたが本当になりたいものになりなさい」
「王女じゃなくても?」
「ええ。王女でありながら、他の何かにもなれるのよ」

娘の目が輝いた。

アリシアは窓の外を見た。『ローズ・アンド・ソーン』は今や国際的なブランドとなり、十か国以上に展開していた。女性支援財団は、数千人の女性たちを支えていた。

ヴィクターは地方で誠実な領主として尊敬を集めていた。マリアンヌは有名な画家になっていた。ソフィアは財団の運営に関わり、多くの女性たちを導いていた。

みんな、それぞれの道を歩んでいる。

アリシアは、母から受け継いだペンダントを握りしめた。

「お母様、見ていますか?私、幸せです」

風が優しく吹き、カーテンを揺らした。まるで、母が答えているかのように。

その日の午後、アリシアは『ローズ・アンド・ソーン』の新店舗の開店式に出席した。王妃として、そして創業者として。

人々は彼女を見て、希望を感じた。地位があっても、夢を諦めない。困難があっても、前に進む。そんな生き方を、彼女は体現していた。

「完璧すぎてつまらない」

かつて言われた言葉を、アリシアは思い出した。そして、笑った。

あの言葉がなければ、今の自分はいない。婚約破棄は、呪いではなく祝福だった。

人生は不思議だ。最悪だと思った出来事が、最高の結果をもたらすこともある。

アリシアは、これからも自分らしく生きていく。王妃として、商人として、母として、そして何より、一人の女性として。

夕日が、美しく街を照らしていた。新しい一日が終わり、また新しい一日が始まる。

アリシアの物語は、これからも続く。輝きながら。

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