姉の陰謀で追放されました

たくわん

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それから二年の月日が流れた。

辺境は、すっかり変わっていた。治癒院は三つに増え、多くの治癒師が育っていた。リディアの教えを受けた若者たちが、今では立派に患者を診ている。

領地も豊かになった。魔物の襲撃は減り、農作物の収穫も増えた。人々の顔には、笑顔が溢れている。

そして、リディアには大きな変化があった。

ある朝、リディアは目覚めると、吐き気を覚えた。急いで洗面所に駆け込む。

「大丈夫か?」

辺境伯が心配そうに背中をさすってくれた。

「ええ、少し気分が……」

リディアは顔を洗った。最近、こういうことが続いている。

「医者を呼ぼう」
「いえ、大丈夫です」

でも、辺境伯は聞かなかった。すぐに治癒院から医者を呼んだ。

診察の結果、医者は微笑んだ。

「おめでとうございます、奥様。ご懐妊です」

その言葉に、リディアは目を見開いた。

「え……本当ですか?」
「はい、間違いありません。三ヶ月ほどでしょう」

辺境伯も、驚いた表情を浮かべていた。そして、ゆっくりと微笑んだ。

「リディア……」
「私たちの、子供……」

リディアは涙を流した。辺境伯は、リディアを優しく抱きしめた。

「ありがとう。本当に、ありがとう」

その日から、城は祝福に包まれた。騎士たちも、領民たちも、皆が喜んでくれた。

「奥様、おめでとうございます!」
「跡継ぎが生まれるんですね!」

リディアは、多くの人に祝福された。こんなに多くの人が、自分のことを喜んでくれる。それが、何よりも嬉しかった。

王都からも、祝福の使者が来た。国王からの親書と、豪華な贈り物。

クラリッサからも手紙が届いた。

「リディア、おめでとう!私も叔母になるのね。嬉しいわ。元気な赤ちゃんを産んでね」

リディアは、手紙を読んで涙を流した。姉は、今では孤児院で働いているという。かつての自分とは違う、本当の幸せを見つけたようだった。

妊娠がわかってから、辺境伯はリディアを過保護なほど気遣うようになった。

「無理をするな」
「重いものを持つな」
「休め」

リディアは苦笑いした。

「大丈夫ですよ。まだ三ヶ月なんですから」
「いや、用心に越したことはない」

辺境伯の心配そうな顔を見て、リディアは微笑んだ。

「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫です」

治療の仕事は、徐々に若い治癒師たちに任せるようになった。リディアは、難しい症例の相談に乗ったり、指導をしたりするだけになった。

時間ができたリディアは、生まれてくる子供のために部屋を準備し始めた。

「この部屋を、子供部屋にしましょう」

リディアが提案すると、辺境伯は頷いた。

「わかった。好きなようにしていい」

リディアは、クラリッサに手紙を書いた。赤ちゃん用の服や、可愛い飾りを送ってほしいと。

クラリッサからは、すぐに荷物が届いた。可愛らしい服、柔らかい毛布、手作りのぬいぐるみ。全てに、クラリッサの愛情が込められていた。

数ヶ月が過ぎ、リディアのお腹は大きくなっていった。

辺境伯は、毎晩リディアのお腹に手を当てて、赤ちゃんに話しかけた。

「元気に育てよ。お前の母は、素晴らしい人だ」

リディアは、その光景を見て微笑んだ。この人は、きっと良い父親になる。

ある日、リディアはお腹の中で赤ちゃんが動くのを感じた。

「今、動きました!」

辺境伯は驚いて手を当てた。そして、赤ちゃんの動きを感じると、目を潤ませた。

「本当だ……生きている……」

辺境伯は、リディアを抱きしめた。

「ありがとう、リディア。こんな幸せを、くれて」

リディアも涙を流した。二人は、長い間抱き合っていた。

臨月が近づいたある日、クラリッサが辺境を訪れた。

「リディア!」

クラリッサは、大きなお腹のリディアを見て驚いた。

「すごく大きくなってる!」
「お姉様、来てくれたんですね」
「当然でしょう。妹の出産に立ち会わないわけないじゃない」

クラリッサは、リディアの手を握った。

「大丈夫?辛くない?」
「大丈夫です。辺境伯様が、すごく気遣ってくれますから」
「そう。良かった」

クラリッサは、しばらく辺境に滞在することになった。リディアの出産を手伝うために。

そして、ついにその日が来た。

夜中、リディアは陣痛を感じた。

「辺境伯様……」

辺境伯は飛び起きた。

「リディア!」

すぐに医者と助産婦が呼ばれた。クラリッサも駆けつけた。

陣痛は長く続いた。リディアは必死に耐えた。

「頑張って、リディア!」

クラリッサが手を握ってくれた。辺境伯も、側で励ましてくれる。

「もう少しだ、リディア。お前ならできる」

夜明け前、ついに赤ちゃんの泣き声が響いた。

「おめでとうございます。元気な女の子です」

助産婦が、赤ちゃんをリディアに渡した。

小さな命。温かくて、柔らかい。リディアは涙が止まらなかった。

「私たちの、娘……」

辺境伯も、涙を流しながら赤ちゃんを見つめていた。

「美しい……お前に似て……」

赤ちゃんは、小さな手を伸ばした。辺境伯がそっと指を差し出すと、赤ちゃんはそれを握った。

「強い子だ」

辺境伯は微笑んだ。

クラリッサも、涙を流していた。

「可愛い……本当に可愛い……」

三人は、赤ちゃんを囲んで幸せな時間を過ごした。

赤ちゃんは、「エレナ」と名付けられた。辺境伯の母の名前だった。

エレナは、すくすくと育った。辺境伯は、娘を溺愛した。仕事の合間にも、エレナの部屋に行って抱きしめる。

「こんなに可愛い生き物がいるのか」

辺境伯は、いつも微笑んでいた。かつての冷徹な男は、もういない。

リディアも、母親として忙しい日々を送っていた。でも、それは幸せな忙しさだった。

エレナが一歳になった日、盛大なお祝いが開かれた。

王都からは国王が、クラリッサと父も来た。騎士たちや領民たちも集まり、城は祝福に包まれた。

「エレナ、一歳おめでとう」

リディアは、娘を抱きしめた。エレナは、にこにこと笑っている。

「この子は、きっと素晴らしい子に育つ」

国王が言った。

「リディア殿とルカ殿の娘だ。間違いない」

辺境伯は、国王に頭を下げた。

「ありがとうございます、陛下」

宴の後、リディアと辺境伯は二人きりで月を見上げていた。エレナは、クラリッサが寝かしつけてくれている。

「幸せだな」

辺境伯が呟いた。

「ええ、本当に」

リディアは、辺境伯の手を握った。

「あなたに出会えて、本当に良かった」
「俺も、お前に出会えて良かった」

二人は口づけを交わした。

遠くから、城の鐘が鳴る。平和な音。幸せな音。

「これからも、ずっと一緒だ」
「はい、ずっと」

リディアは、これまでの人生を思い返した。

追放され、絶望した日々。辺境での出会い。戦い。そして、愛。

全てが、この幸せに繋がっていた。

もし、あの時追放されていなかったら。もし、辺境に来ていなかったら。もし、辺境伯に出会っていなかったら。

今の幸せは、なかった。

「ありがとう」

リディアは、全てに感謝した。

「全てに、ありがとう」

辺境伯は、リディアを抱きしめた。

月が、二人を優しく照らしていた。

これから先も、きっと色々なことがあるだろう。喜びも、悲しみも、困難も。

でも、二人なら乗り越えられる。愛する人と、愛する娘と共に。

【完】
感想 5

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みんなの感想(5件)

ひろパパ
2026.02.05 ひろパパ
ネタバレ含む
解除
太真
2026.02.05 太真

完結おめでとうございます🎉楽しく拝読しました😃。

解除
太真
2026.02.04 太真
ネタバレ含む
解除

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