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城田くんのキモチ
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ある日、事件が起きた。
寮の共用冷蔵庫が謎の飲料で埋め尽くされていた。
セロファンが剥がされたペットボトルに、スポーツ飲料のような白い液体が入っている。
それが冷蔵庫に大量に入れられていた。
「誰のものか」と騒ぎになったが、誰も心当たりがなく、持ち主は不明であった。
「邪魔過ぎるやろ、このペットボトル」と、金髪坊主の中尾くんもブチ切れている。
このペットボトルは3階のみならず、すべての階の冷蔵庫に入れられていることが判明した。
3階のメンバーで集まり、この怪事件について話し合っていると、2階の住民が息を切らせながら飛び込んできて、こう言った。
「犯人は城田くんらしいで」
それを聞いて、僕らは「あの城田くんならやりかねない」と納得した。
城田くんについて語るとき、僕はとても不安になる。
なぜなら、なんというか、彼は触れてはいけないレベルのアブナイ人だからだ……。
坊主頭に、焦点の定まらない完全にイった目で、常に不敵な笑いを顔に浮かべ、不気味なオーラを纏っていた。
寮長や寮母もノイローゼになるほどに、数々のやらかしエピソードを持っていた。
「窓から変な奴が覗いているから防犯カメラをつけろ」と夜中に訳の分からないことを言ったりして寮長を叩き起こすなど、奇行は数知れない。
ところで、僕と城田くんとのファーストコンタクトは寮の風呂であった。
僕がひとり、風呂で「めっちゃ気持ちいいわぁ」とビバノンしていると、なにやら人影が近づいてくる。
「川野くんか高山かな」と油断していたら、果たしてそれは城田くんであった。
ニヤニヤとした気色の悪い表情で僕の横に来て、いきなり話しかけてきた。
まさか話しかけられると思っていなかったため、不意を衝かれた僕は、危うく風呂に沈みそうになる。
「きみさぁ、IQを上げる方法知ってる?」
「IQ?あげる?いや、知らないです……えっと……大丈夫です」
不意打ちだったため、逃げる暇がなかった。「しまった」と思ったがもう遅い。
空間を削り取る能力を持っているのか、一瞬のうちに僕の隣を陣取った。
その距離がめちゃくちゃ近い。
裸の男二人が風呂で取る距離ではない。
完全にロックオンされている。
もうほとんど彼の顔が真横になる。
「頼むから離れてくれ」と、思わず呟きそうになる。
元々、結構ヤバい人だという噂を聞いていたので、僕は生きた心地がしなかった。
というか、この寮にはアブナイ奴が何人いるというのか。
「IQをあげるには、こうやるんだよ」と言って、彼は両手の指の先を合わせ、人差し指が相互にあたらないように回転させた。
そのスピードたるや、常人では絶対に不可能なほどに速い。
目をひんむきながら、おもいっきり指をグルグルと回している。
最初は冗談を言っているのかとも思ったが、彼の必死の形相を見てマジなのだと悟った。
「マジか、勘弁してくれ」と僕もマジである。
しかし、城田くんはなかなか指の運動を止める気配がない。
というか、さっきよりスピードがアップしていて、オーバーヒートし、今にも指から煙でも出そうな勢いである。
僕はまるで猟犬に睨まれピクリとも動けない鴨のような心境であった。
「たのむ、たのむ……」と神よ仏よと、祈るしかなかった。
その時、誰かがガラガラと戸を開け、風呂に入ってきた。
城田くんの意識が一瞬、そちらに向かった。
僕はその隙を見て、「今や!」と脱兎のごとく風呂から逃げ出した。
またある時、城田くんは学校でもゴキゲンに飛ばしていた。
席の一番前に陣取り、授業中にいきなりビニール袋を手に取り口に当て、スーハースーハーとやり出したのである。
心の底から驚いた。
先生は完全にフリーズしていたが、城田くんはお構いなしである。
あの完全にイッている目でビニール袋をスーハーとやり出したらシャレにならないではないか。
後に聞くところによると「二酸化炭素を吸い込むことで、より脳が活性化する」ということらしかった。
という訳で、そんな城田くんの普段からのパンチの効いた言動を皆、多かれ少なかれ体験していたので、今回の件も妙に納得がいった。
城田くんの仕業であることを聞いた中尾くんは、ペットボトルを全て持って城田くんのいる地下に猛然と走っていったが、その後のことはわからない。
寮の2大巨頭のバトルに興味はあったが、火傷する恐れがあったため、深入りしないことにした。
この寮では「好奇心」こそが最大の敵である。
それが命取りになることを僕を含め、皆が身をもって学んでいた。
なお、後ほど聞くところによるとあの怪しい飲み物は「普段頑張っている皆に気持ちよくなってもらおうと思って」という城田くんなりの気遣いらしかった。
気持ちはありがたいが、全く意味がわからない。
そして、中身は一体なんだったのか。それは誰もわからない。
しかし、ここでは理解できないことは山ほどあり、一々気にしていられない。
皆、そういう不思議な出来事に耐性もできてきている。
想像力の外側があることを僕を含め、皆が身をもって学んでいた。
ということで、この事件もすんなりと消化されてしまい、いつもの日常がすぐに戻ってきた。
寮の共用冷蔵庫が謎の飲料で埋め尽くされていた。
セロファンが剥がされたペットボトルに、スポーツ飲料のような白い液体が入っている。
それが冷蔵庫に大量に入れられていた。
「誰のものか」と騒ぎになったが、誰も心当たりがなく、持ち主は不明であった。
「邪魔過ぎるやろ、このペットボトル」と、金髪坊主の中尾くんもブチ切れている。
このペットボトルは3階のみならず、すべての階の冷蔵庫に入れられていることが判明した。
3階のメンバーで集まり、この怪事件について話し合っていると、2階の住民が息を切らせながら飛び込んできて、こう言った。
「犯人は城田くんらしいで」
それを聞いて、僕らは「あの城田くんならやりかねない」と納得した。
城田くんについて語るとき、僕はとても不安になる。
なぜなら、なんというか、彼は触れてはいけないレベルのアブナイ人だからだ……。
坊主頭に、焦点の定まらない完全にイった目で、常に不敵な笑いを顔に浮かべ、不気味なオーラを纏っていた。
寮長や寮母もノイローゼになるほどに、数々のやらかしエピソードを持っていた。
「窓から変な奴が覗いているから防犯カメラをつけろ」と夜中に訳の分からないことを言ったりして寮長を叩き起こすなど、奇行は数知れない。
ところで、僕と城田くんとのファーストコンタクトは寮の風呂であった。
僕がひとり、風呂で「めっちゃ気持ちいいわぁ」とビバノンしていると、なにやら人影が近づいてくる。
「川野くんか高山かな」と油断していたら、果たしてそれは城田くんであった。
ニヤニヤとした気色の悪い表情で僕の横に来て、いきなり話しかけてきた。
まさか話しかけられると思っていなかったため、不意を衝かれた僕は、危うく風呂に沈みそうになる。
「きみさぁ、IQを上げる方法知ってる?」
「IQ?あげる?いや、知らないです……えっと……大丈夫です」
不意打ちだったため、逃げる暇がなかった。「しまった」と思ったがもう遅い。
空間を削り取る能力を持っているのか、一瞬のうちに僕の隣を陣取った。
その距離がめちゃくちゃ近い。
裸の男二人が風呂で取る距離ではない。
完全にロックオンされている。
もうほとんど彼の顔が真横になる。
「頼むから離れてくれ」と、思わず呟きそうになる。
元々、結構ヤバい人だという噂を聞いていたので、僕は生きた心地がしなかった。
というか、この寮にはアブナイ奴が何人いるというのか。
「IQをあげるには、こうやるんだよ」と言って、彼は両手の指の先を合わせ、人差し指が相互にあたらないように回転させた。
そのスピードたるや、常人では絶対に不可能なほどに速い。
目をひんむきながら、おもいっきり指をグルグルと回している。
最初は冗談を言っているのかとも思ったが、彼の必死の形相を見てマジなのだと悟った。
「マジか、勘弁してくれ」と僕もマジである。
しかし、城田くんはなかなか指の運動を止める気配がない。
というか、さっきよりスピードがアップしていて、オーバーヒートし、今にも指から煙でも出そうな勢いである。
僕はまるで猟犬に睨まれピクリとも動けない鴨のような心境であった。
「たのむ、たのむ……」と神よ仏よと、祈るしかなかった。
その時、誰かがガラガラと戸を開け、風呂に入ってきた。
城田くんの意識が一瞬、そちらに向かった。
僕はその隙を見て、「今や!」と脱兎のごとく風呂から逃げ出した。
またある時、城田くんは学校でもゴキゲンに飛ばしていた。
席の一番前に陣取り、授業中にいきなりビニール袋を手に取り口に当て、スーハースーハーとやり出したのである。
心の底から驚いた。
先生は完全にフリーズしていたが、城田くんはお構いなしである。
あの完全にイッている目でビニール袋をスーハーとやり出したらシャレにならないではないか。
後に聞くところによると「二酸化炭素を吸い込むことで、より脳が活性化する」ということらしかった。
という訳で、そんな城田くんの普段からのパンチの効いた言動を皆、多かれ少なかれ体験していたので、今回の件も妙に納得がいった。
城田くんの仕業であることを聞いた中尾くんは、ペットボトルを全て持って城田くんのいる地下に猛然と走っていったが、その後のことはわからない。
寮の2大巨頭のバトルに興味はあったが、火傷する恐れがあったため、深入りしないことにした。
この寮では「好奇心」こそが最大の敵である。
それが命取りになることを僕を含め、皆が身をもって学んでいた。
なお、後ほど聞くところによるとあの怪しい飲み物は「普段頑張っている皆に気持ちよくなってもらおうと思って」という城田くんなりの気遣いらしかった。
気持ちはありがたいが、全く意味がわからない。
そして、中身は一体なんだったのか。それは誰もわからない。
しかし、ここでは理解できないことは山ほどあり、一々気にしていられない。
皆、そういう不思議な出来事に耐性もできてきている。
想像力の外側があることを僕を含め、皆が身をもって学んでいた。
ということで、この事件もすんなりと消化されてしまい、いつもの日常がすぐに戻ってきた。
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