お嬢様と執事~グリモワールと契約の悪魔~

As-me.com

文字の大きさ
1 / 12

しおりを挟む
    その昔、この世には“グリモワール魔導書”が存在した。グリモワールはとてつもない力を秘めていて持ち主を選ぶと言う。

   そのグリモワールにはとある悪魔が封印されているともーーーー。






***







「婚約破棄されたですって?」

「……えぇ、なんでも真実の愛を見つけたんだそうよ。ついでに私がいつの間にかそのお相手……なんとかって言う男爵令嬢を虐めていたらしくて、未来の王子妃を虐めた罪で断罪されて国外追放にすると言い渡されたわ」

    疲れた表情で深いため息をついたのは、私の大切なお嬢様である。

    なんといっても私のお嬢様は完璧だ。

    ほのかに甘い香りのするミルクティー色のふわりと長い艶やかな髪も、蜂蜜色をしたミステリアスな瞳も、熟れた果実のような魅惑の唇も。

    どれをとっても美しく可愛らしい。

    この国を支える三大公爵のひとつであるグレイシス公爵家の一人娘であるお嬢様……アリスティア・グレイシス公爵令嬢は私が執事としてお仕えし育て上げた完璧な令嬢であった。

    私はと言えば、黒髪と黒目の平凡な普通の執事ですけれどね。たまに見知らぬご令嬢に挨拶代わりに微笑めばそれを見て気絶するようですが……私の目にはお嬢様しか見えませんので。

    そんな完璧お嬢様の婚約者はこの国の第2王子のはずです。見た目だけの阿保の化身ですが、やはりただのノータリンだったようですね。

「……その王子はちゃんと物事を考える能力が欠けているのでは?」

「お花畑なら咲いてらっしゃったわ」

    グレイシス公爵家の令嬢を国外追放?それもどこぞの男爵令嬢を虐めた罪で?まずこのお嬢様がそのような虐めなど行うはずもありません。

     
    なぜって……お嬢様がその男爵令嬢とやらを本当に邪魔な存在に思っていたなら、虐めどころか今頃消し炭になっているのですから。

「その男爵令嬢が元気に生きていて、王子にすがっている時点でお嬢様が何もなされていないとわかりそうなものですが……グレイシス公爵家の力を使えばそんな不届きな娘のいる男爵家などすぐに潰せます」

「それがわからないからお花畑王子なのよ。だいたいあの令嬢の顔も今日初めて見たし、名前もよくわからないのよね。それに学園内で陰湿な虐めがあったって言うんだけれど私は飛び級してとっくに卒業しているのに……いつ私が彼女を虐めている現場を見たというのかしら?」

「お嬢様が王子より1年も早くご卒業なされた事を知らないのでは?」

「……どうやら脳内のお花畑の花は腐っているようね」

    大きなため息をつき、お嬢様が私に視線を向けます。そして「どうする?」と首を傾げました。

「もうそろそろ、この遊びも飽きてきたわ。例え冤罪でも罪を擦り付けられて鬱陶しいし……あなたはどうなの?」

    お嬢様の蜂蜜色の瞳が見開かれ、大きく開いた瞳孔が血の色に染まったのだった。













「ーーーーグリモワールよ、我に従え」

    私がそう呟き片手を上にあげると、そこには赤い背表紙に人には読む事の出来ない文字が金色で書かれている本が姿を現す。その本のページをめくり口を開いた。

「グレイシス公爵家にかけた暗示を解き、この国からも“アリスティア・グレイシス”の存在を無かったことにーーーー。さて、では我々も姿を消しましょうか。ね、アリスティア」

    赤く輝く本……伝説の魔導書グリモワールを閉じると、目の前にいたミルクティー色の髪をした少女の姿はすでに無く代わりに紅い髪とルビー色の瞳をした少女が跪いている。

『おおせのままに、ご主人様マスター。それにしても“お嬢様と執事ごっこ”は楽しかったですか?』

「もちろん、楽しかったよ。でも、せっかくアリスティアを理想の令嬢に育て上げたのにあの王子のせいで台無しだ。僕も執事してるの楽しかったのになぁ」

ご主人様マスター、口調が元に戻っていますよ』

「あれは執事モードだったからだよ。あぁ……姿も戻っちゃった」

    黒髪黒目の大人な雰囲気を纏った執事。それがアリスティアの執事の姿だったのだが……グリモワールの輝きが収まる頃には背は低くなり、幼げな顔立ちをした銀髪と青い瞳の少年の姿へと変貌していた。

「大人な僕も格好よかっただろう?」

    イタズラっぽくニヤリと笑えば、アリスティアもクスッと頬を緩める。

『えぇ、素敵でしたよ。ご主人様マスター。でも、出来れば次の遊びは私を“お嬢様”にするのは止めてください。5年もご主人様マスターに偉そうな口調で話さなければいけないなんて拷問です。……私はあなた様に捕らえられた悪魔なのですから』

    困ったように肩を竦めるアリスティアに「ごめん」と返事をする。でも、たまにはいつもと違う設定の遊びがしたかったんだから仕方がない。

    もう少し“お嬢様と執事ごっこ”を続けたかったけれど、そろそろ潮時かな。あの王子がアリスティアの機嫌を損なわなければ少しくらいこの国に恩恵を与えても良かったんだけど……僕のアリスティアを馬鹿にしたんだからそれ相応の償いはさせてやるさ。

    例えば城の半分が……特に王子の私室が突然の災害に見舞われて跡形もなく潰れたとしても……文句は言わないでよね?







    伝説の魔導書グリモワール。それはとてつもない力を秘めている。自分の意思で持ち主を選ぶグリモワールにひとたび選ばれれば不老不死の呪いにかかってしまうのだ。

    だがその代わりに永遠の時間を共に生きる悪魔をひとり手に入れられる。それが紅い悪魔……アリスティアであった。

    最初は古ぼけ薄汚れた本であったグリモワールだが、持ち主を見つけその力を奮う度に傷ひとつない美しい本へと変貌していく。

    グリモワールの持ち主と捕らえられた悪魔がいつ解放されるのか。それは、グリモワールしか知らないのだった。だが……。






「さぁ、次はどうしようか?アリスティア」

『もちろん、あなた様の望みのままに』


    アリスティアのいつもと変わらぬ返事に嬉しそうに笑顔を返す少年を、美しき紅い悪魔が秘めた熱を込めた瞳で見ている事はグリモワールでも知らないかもしれない。









しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

殿下は私を追放して男爵家の庶子をお妃にするそうです……正気で言ってます?

重田いの
恋愛
ベアトリーチェは男爵庶子と結婚したいトンマーゾ殿下に婚約破棄されるが、当然、そんな暴挙を貴族社会が許すわけないのだった。 気軽に読める短編です。 流産描写があるので気をつけてください。

処理中です...