【完結】わがまま婚約者を断捨離したいと思います〜馬鹿な子ほど可愛いとは申しますが、我慢の限界です!〜

As-me.com

文字の大きさ
15 / 25

15。 そして、変化する

しおりを挟む
  ハルベルト殿下の待つ部屋へ向かいながら途中で鏡を見つけ、空を駆けるのに邪魔になるからと髪を後ろで結んでいたのを思い出し慌ててそれをほどきました。

 あまりお転婆だと思われたら恥ずかしいですものね。それでなくても幼い頃から知っているハルベルト殿下にはルドルフと一緒に庭を駆け回ってるところや、芝生に寝転んだりしてるのを目撃されているのですから余計にですわ。

 鏡を見ると、ハルベルト殿下が綺麗だと言ってくれた蜂蜜色の髪がふわりと揺れます。

「お嬢様、ハルベルト殿下がお待ちですよ」

 部屋の前では私を待っていただろうアンナが声をかけてきました。ハルベルト殿下と会うときはいつもアンナが後ろに控えてくれているので待機していてくれたようですね。



 私は深呼吸をして息を整えると、ゆっくりと客間の扉を開けます。す窓辺に立ち外を見ていたハルベルト殿下が振り向きいつもの穏やかな笑みを見せてくれました。

「カタストロフ公爵令嬢、お邪魔しております」

「お待たせしてしまって申し訳ございません、ハルベルト殿下」

 お詫びを口にしながらも、内心は今の服装をなんて思われてるかとドキドキしていました。とんでもないお転婆だと言われたら……ちょっと立ち直れないかもしれません。

「とんでもない、急に赴いたのは僕ですから。……今日の服装はいつもと雰囲気が違いますね。その装いもとても似合っていますよ」

 にっこりと微笑みながらそう言われてホッとしました。

「ありがとうございます、ハルベルト殿下。それで、本日はどうなされたんですか?あ、お茶が冷めていますわね!アンナ、新しいお茶を……」

 ホッとしたのと同時になんだか恥ずかしさが込み上げてきてしまい、誤魔化すために本題に入りながらアンナにお茶を淹れてもらいます。

 だって、ハルベルト殿下が私を見る目がいつもよりにこやかな気がするんですもの。絶対この格好も“お転婆な妹”だと思われてますわよね。

「ええ、実は頼まれていた例の件が整いましたので報告に参りました。出来るだけ早くお知らせしようと思いまして」

「え!もうですか?すごいです!あ、もしかしてなにかご無理をさせてしまったのでは……」

 こんなことを頼める相手がハルベルト殿下しかいなかったとはいえ、けっこう大がかりな事をお願いしてしまいましたのよね。それをこんなに早くこなしてしまわれるなんて、負担をお掛けしてしまったかもしれません。

 座ったばかりのソファから思わず身を乗り出した私でしたが、ハルベルト殿下はにっこりと微笑み腕のみを伸ばすと私の頭をそっと優しく撫でました。

「心配には及びませんよ」

「は、はい……」

 いつもの優しい仕草でしたが、なぜかその時はちょっとだけ違和感を感じてしまいました。

 頭を撫でられて乗り出した体をソファへと戻した私でしたが、なぜか急に距離を感じてしまったのです。こんなの、今まで気にしたことなんかなかったのに……。

 まるでこれ以上近づいてはいけないと、止められたように感じてしまったのですわ。

 そう思うとハルベルト殿下は決して私の名前をセレーネとは呼ばないし、触れるのは頭を撫でる時だけ。いつも一定の距離を保っていてそれ以上は絶対に私に近寄りません。


 そういえば、最後にハルベルト殿下に「セレーネ」と呼んで頂いたのはいつだったかしら……?


「どうかされましたか?」

「えっ、いえ、なんでもありませんわ!」

 私ったら、何を今さら気にしているのかしら?ハルベルト殿下は私のお願いのために頑張って下さったのに今はこんなこと気にしている場合ではありませんわ。

 そして今さらですが、よく考えればオスカー殿下との婚約が破棄されればもうハルベルト殿下とは義兄妹にはなれませんし……これからは他人になってしまうのですもの。今までより距離を取られるのは仕方ないのかもしれません。


 つまりそれは、もう“妹”のようには思ってもらえないということーーーー。



「では、こちらが報告書です。ご要望通りに我が国の領地から外れた無人島で、この島の所有国から買い取りました。“空の流通便”として有名な神獣の島になるとわかると相手国は大喜びでしたよ。開拓の方も順調で、相手国から人員をお借りできたので報酬は最初に言われてた通りに――――」

 そう言って報告書から顔をあげたハルベルト殿下が私を見て目を見開いていました。まるで信じられないものを見てとても驚いているかのようです。そんな表情、初めて見ましたわ……。

「あなたは……なぜ、そんな顔をーーーーセ「ご歓談中申し訳ございません!王家から取り急ぎお嬢様に王城に来ていただきたいと使者の方が来ていまして!屋敷に乗り込んできそうな勢いなんです!」っ」

 ハルベルト殿下が少し震えた声でなにかを呟いた気がしました。しかしそれは部屋の扉がノックされたかと思ったら慌てて入ってきた使用人の言葉にかき消されてしまいました。


「え?王家って……」

 その言葉に振り向こうとした途端アンナが私の顔に冷たいおしぼりをかぶせてきます。

「あ、アンナ、なにを」

「失礼いたしました、お嬢様。ですが、酷いお顔をされていましたので」

 酷い顔?私が?

「王家にはお嬢様の支度が整い次第参りますとお伝え下さい「でも、使者の方がお連れすると待っていますが」第二王子殿下が付き添って下さいますので逃げたりしません。王城でお待ち下さいと伝えて下さい。お願いしてもよろしいですか?殿下」

「もちろん。僕が責任持ってお連れすると父上に伝えるようにその使者に言って下さい」

「か、畏まりました!」

 使用人が踵を返す音を聞きながら私はおしぼりで顔を覆ったまま呆然としていました。

「では、お嬢様はお召し替えを。さすがにその服装で王城に参るわけにはいきませんので。第二王子殿下はこのままお待ち下さい。さ、行きますよお嬢様」

 そのままアンナに連れられ着替えるために自室に向かいます。だんだん冷静になってきた私はおしぼりを顔から離せなくなりそうでした。

 ハルベルト殿下があんなに驚いて声が震えるほどの酷い顔って、私ったらどんな顔をしてましたの?!

「アンナ、き、きき、聞きたいこ「本当にお聞きになりたいですか?」やっぱり聞きたくないわ!」

 まさか、ハルベルト殿下とはもう赤の他人になってしまうんだって気付いたからって、ハルベルト殿下が怯えるほど酷い顔をしてたなんて自分でもびっくりです。そんなに恐い顔をしてたのね……。

「さぁ、まずはお顔を洗ってください。ドレスを選んで参ります」

 冷たい水で顔を洗い、鏡を見ますがそこにはいつもの私の顔があるだけ。淑女としての微笑みだって、ほらすぐにできますわ。

 それなのに、ハルベルト殿下の前ではいつも変な事ばかりしてしまいます。もう“妹”にもなれないこんな私じゃ、ハルベルト殿下に距離を置かれても仕方ないわね……。

「大丈夫ですか?お嬢様」

「……大丈夫よ。王城に呼ばれたってことは、オスカー殿下との婚約破棄についてに決まってるわ。王命だろうとなんだろうと絶対に破棄してルドルフを守るわよ!」

 ハルベルト殿下に義兄になって頂けないのは残念だけれど、これ以上嫌われなければ例え他人でもお茶友達ではいてくれるはずです。それに別に名前を呼ばれなくても、頭を撫でる以外に触れてもらえなくても、一緒にお茶をしながらあの微笑みを見せてくださるだけでじゅうぶんですもの!

「ハルベルト殿下のおかげでルドルフを守る切り札が間に合いましたわ。さぁ、断捨離してスッキリするわよ!」

 気合いを入れる私を見てアンナが「やっぱり、お嬢様は元気な方がお嬢様らしいですね」と珍しく口角を上げていました。それってやっぱり、お転婆ってことなのかしら?
















***





 セレーネを待つ間、ハルベルトは窓から空を眺めながら深いため息をついていた。

「…………」

 ハルベルト付きの従者は声をかけることもなくただ黙って主人を見守っている。ハルベルトと同じく見てしまったセレーネのあの顔にこのいつも穏やかな主人がどれだけ動揺したかが手に取るようにわかってしまったからだ。それだけに心中を察して黙っているしかなかった。幼い頃から見守っていたからこそ、ハルベルトがどれだけ複雑な立場かをよく知っている。この主人の幸せを願ってはいるが、では無理なことも。


 セレーネの、ハルベルトの事を見つめるその一瞬に見せたその顔は悲しそうながらもいつもの無邪気な少女とは違う初めて見せる大人びた表情で……そんな顔を見てしまったハルベルトは動揺してしまい、どうすればいいかわからないでいた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

本当に、貴女は彼と王妃の座が欲しいのですか?

もにゃむ
ファンタジー
侯爵令嬢のオリビアは、生まれた瞬間から第一王子である王太子の婚約者だった。 政略ではあったが、二人の間には信頼と親愛があり、お互いを大切にしている、とオリビアは信じていた。 王子妃教育を終えたオリビアは、王城に移り住んで王妃教育を受け始めた。 王妃教育で用意された大量の教材の中のある一冊の教本を読んだオリビアは、婚約者である第一王子との関係に疑問を抱き始める。 オリビアの心が揺れ始めたとき、異世界から聖女が召喚された。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

砂の揺籠

哀川アルマ
ファンタジー
 ハーブロート公爵家の愛人の子、レイラ・ハーブロート公爵令嬢は、典型的な我儘令嬢でどうしようもないと噂される。  義母も相当な放蕩な女で、苦労している姉のシローヌ・ハーブロート公爵令嬢に同情の声が寄せられ、ハーブロート公爵の名声は地に落ちつつあった。  王太子妃の開いたお茶会でも暴れるレイラだが…? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  初の投稿です。  楽しんでいただければ幸いです。

処理中です...