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灯りがついている方向から遠ざかるように、水を吸った重い足を慎重に動かす。
王宮の地下に位置する水路は水源から溢れた水を都市部に流す為に緩い坂道になっており、下水の水路とは全く別の位置にある。
ガレスが向かうべきは何処かの井戸か、外の水路へ流れ出ている出入り口だ。
闇の中では方向など簡単に見失ってしまう。
一体自分は真っ直ぐ進んでいるのか、どれくらい元の場所から離れたのか、ガレスが一歩水中に踏み込むと水が跳ねた音が闇の中に広がった。
静寂に反響する二人の息遣いと流れる水の音が四方から聴こえてくる。
「…ぃ……」
それらにかき消されてしまいそうな小さな声が、水が飲みたいとガレスの耳元で微かに呟いた。
酷く弱々しい声色は懇願に近く、もしかしたら限界まで我慢していたのかも知れない。
周りの気配を探るように耳を澄ませてから水の中に片膝をつき、セオドアを背からおろして横抱きにする。
あまり触れられるのも辛いだろうと思うが、暗闇の中で手探りに水筒を取り外して蓋を開けるとセオドアの手に持たせた。
「飲めそうですか?」
「ぅん、……」
飲みやすいように手を添えたまま、急かさないよう子供がゆっくりと水を飲み下すのを待つ。
はあはあとガレスの腕の中で小さな身体が浅く呼吸を繰り返した。
触れている場所から壊れてしまうのではないか、とそう感じる。
あの炎の中にいて生きていた事が奇跡に近い。
ガレスの手はこれまで幾つもの命を奪ってきた。
それは自分を守る為の刃だ。
躊躇もなく人を殺し自身を守る事が、結果として自分の立場や領地防衛の役に立っていたに過ぎない。
「ぅ……」
息を殺した子供の気配に、声を上げて泣く事を堪えているのかも知れないが暗闇の中ではガレスにはセオドアの表情までは分からなかった。
治癒の術が使えれば、もっと早く自分が城に駆けつけていれば、痛みを怪我を代われるものなら代わりたい。
そんな出来もしない願望をいだいたところで、いますべき事は立ち上がり前に進む事だ。
「少し揺れますが、暫し我慢なさってください」
「……ん」
短く返事を返したセオドアに、抱き上げた姿勢では辛いだろうと華奢な身体を背に背負い直す。
セオドアの呼吸の音が聞こえている。
それが聞こえている限り希望は失われていない、諦める訳にはいかない。
月明かりすら届かない黒に塗り潰された世界で壁に再び手をつき、もがくように前へと足を踏み出した。
つま先で地面を探りながら、のろのろと前に進んでいく。
どのくらい歩いたのか片膝の服の水分が乾きはじめた頃、ガレスの手が触れていた壁を失って空をきった。
出口などは相変わらず見えないが、冷や汗が背を伝う。
迷っている時間はない。
そう力んだせいか注意深く前進したつもりが、何歩か進んだところで段差か何かに足を取られる。
転ぶ寸前に辛うじて体勢を崩した身体を前のめりに倒すと、バシャリと水飛沫をあげて片手と膝を水の中に沈めた。
擦ったような痛みが膝と掌に走る。
そんな事よりも、その衝撃が背にも伝わってしまっただろうと子供が気掛かりになり、ガレスは即座に背の辺りを振り返った。
子供の方は眠っていたのか、瞬くようにして瞼を開いた若葉色の瞳と目が合う。
そこに痛みの色がないことに安心すると、はたと見えている事に遅れて気がついた。
光源を視線だけを動かして探すと、セオドアの服の内側にあるのだろう精霊の護符が形がわかるくらいに強く青みがかった色に光っている。
『あの子のことを宜しく頼んだぞ』
王太子の言葉がガレスの脳裏に蘇る。
その時、一匹の獅子が二人の前に立っていた。
護符と同じような青みを帯びた光を放ちながら獅子がセオドアに近付く。
この世のものとは思えない光景と牙を見せた獅子に、反射的にガレスが子供を庇うとベリっと乾いた音を発して護符がセオドアから離れた。
その瞬間に身体を熱風が包み込む。
何事かとガレスが熱源であろう背中を振り返れば、セオドアの片側の瞳が燃えていた。
まるでそこから炎が吹き出すように、焚き火の火に似たそれが燃焼している。
それをはたいて消し止めようとしたガレスの指が火に触れるが熱くはない。
ピタリと動きを止めたガレスを見て、セオドアは終始不思議そうな顔をしていた。
顔を不用意に触ってしまったことを誤魔化すように、指先で子供の頬の辺りを撫でてから離す。
少し照れたような様子で甘えるように子供が笑った。
「兄上のオルンガトゥニだ………」
セオドアの呟きにもう一度ガレスは青い獅子を見た。
護符を咥えたオルンガトゥニがついて来いとでも言うように二人を振り返ってから、闇の中を音も無く進んで行く。
それを見つめていたセオドアが眠たそうに、重くなった瞼を閉じたようだ。
閉じられた子供の瞼からは、炎がなお吹き出し続けている。
獅子の足がついた場所が水面であるのだと、揺らぐ波紋の広がりが蛍火のような残像を広げながら消えていくさまを見ながらそう思った。
先を歩きながら二人を待つ獅子の背中を追いかける。
ガレスの足が獅子の踏んだ辺りをなぞるように、慎重に水の中を進行していくと不思議な事に普通の地面を歩くような感覚を覚えた。
セオドアから獅子は何故、王太子の精霊の守護の祈りを取り上げたのだろう。
子供の瞳から何かの力が吹き出している事を考えると、仮説としては精霊の力に関係している可能性が高い。
先程まで苦し気だったセオドアの呼吸がいまは落ち着いたものになっている。
王太子の守護がなんらかの形で反転しているとすれば辻褄は合うが、確証はない。
魔石なら、水の魔石と風の魔石は相殺の効果がある。
この地に降り立った水の精霊の話は有名だ。
第一王子アレックスに加護を与えた青い獅子は、いまや国を守護する象徴にもなっていた。
ガレスもまさか本物の精霊というものを目にするとは思っていなかったが……
セオドアの片方の瞳が、仮に精霊眼だとして王太子の加護の力が良くない方向に作用しているから離した。
そう結論を導くのは簡単だ。
良いように判断すればガレスも気が楽になる。
どうしたものかと考えるのはやめて、ガレスは背中にいる大切な人をしっかりと背負い直した。
滝のような水音が近くで大きく響いてくる。
獅子の後ろに続いて随分と経つと、辺りの音の反響が変わった。
地下水路の狭い通路から少し開けたような場所に出る。
水が外に流れていっているのか、貯水槽の鉄格子に仕切られた水面の先に月が浮かんでいた。
獅子が止まり、ガレスも足を止める。
背中のセオドアも目を覚ましたようだ。
首を大きく縦に振った獅子が守護の札を水面に放って投げ捨てた。
「兄上の護符がっ……、あにうえ!」
「セオドア殿下!」
ガレスの背から飛び降りた子供が自ら水へと身を投げた。
それが見えなくなる前にガレスも水へと飛び込む。
水中でセオドアの身体を掴んで引き寄せると水の流れる力には抗わず、一旦身を任せ水面に顔を出すことに集中する。
セオドアを先に水からあげるようにして、ガレスも水中から顔を出し息を吸った。
自分の背後から水が外の明りを反射させながら吹き出している。
あそこから落ちて来たのだろう。
滝の周辺だけは明るいが、灯りもない水底は暗く恐怖が背筋を駆け登りそうになった。
水中でも水分により張り付いた布越しに伝わるセオドアの暖かさが、ガレスの狼狽する心を沈める。
水の流れに押されて二人の身体は少しずつ流されていた。
「ご無事で良かった」
ガレスの手がセオドアの前髪を避けて目元を優しく拭う。
子供が何度か瞬きを繰り返し水で霞んだ視界を回復させたのか、ガレスと視線を合わせると申し訳なさそうに眉を下げた。
「傷は痛みませんか?」
「………ごめんなさい」
「あれは獅子が悪い、殿下のせいではございませんよ」
「そんな事はない。俺のせいだガレス、ごめんなさい」
怪我が痛むはずだ。
だというのに泣きそうな顔で謝らないでほしい。
「その護符は私が預かっていても宜しいでしょうか?」
「………わかった。俺はあまり泳ぐのが得意ではないから、世話をかけてしまうな」
ガレスが護符の札を受け取ると、やはりセオドアの片方の瞳が燃えていた。
札は無くさないように服の内側に押し込んでおく。
「たぶんこの辺りで外の水路へ水を流している筈でしょうから、もう少しだけ潜りますよ」
「がんばる………」
「そうして頂けると助かります」
セオドアの手を取って強く握る。
二人同時に水の中へ潜ると水を吸った服が重く、意図せず水の流れに全身が引っ張られた。
滑るように流されていく。
セオドアの身体の方がガレスよりも軽い為に水流に煽られている。
抱き寄せたは良いが、このまま流されて沈み溺死するのではないか?と言う思考がガレスの頭を支配した。
耳元に心臓が移動してしまったかのように、自身の心音が酷く近くで聞こえる。
落ち着こうと無意識に子供を抱えていない方の手を腰の剣に掛けると、水中の鈍い視界に光が見えた。
咄嗟に鞘を縦にして激しい清流に流されながらも、水路が少し狭まる寸前の角に辛うじて引っ掛かる。
出口である水面は上に向かって筒状の壁に囲まれた先にあった。
淡い光がそこから水流の流れが激しい下の方が繋がっている水路に向かって差し込んでいる。
井戸の底が水路により繋がっているのだろう。
悠長にそんなことを思考していたせいかガレスの口から息が空気が泡となって逃げる。
掴んでいたセオドアを流れが比較的緩やかな水面の方向へ押し上げた。
流れが急になっているのはこの水底の水が逃げている出口付近のみだ。
やや乱暴に押し出すと子供が力なく水面の方に向かって浮いていくのを確認し、鞘を下げている方のベルトを手早く外す。
自由になったガレス自身の体も水流から逃げ出すつもりで、壁を蹴ろうと足を掛けた場所が悪かった。
鞘と壁の間に靴が引っ掛かる。
外そうと焦り藻掻くが、びくともしない。
意識が遠くなりそうになったガレスの視線の先で紅く炎が燃えている。
それは生きようとする光だ。
ガレスが守るべき尊いひかりそのものが自分を呼んでいる。
なりふりなど構っていられるか、とガレスが靴も無理矢理脱ぎ捨てて素足で壁を蹴った勢いのまま水面に泳ぎ出た。
王宮の地下に位置する水路は水源から溢れた水を都市部に流す為に緩い坂道になっており、下水の水路とは全く別の位置にある。
ガレスが向かうべきは何処かの井戸か、外の水路へ流れ出ている出入り口だ。
闇の中では方向など簡単に見失ってしまう。
一体自分は真っ直ぐ進んでいるのか、どれくらい元の場所から離れたのか、ガレスが一歩水中に踏み込むと水が跳ねた音が闇の中に広がった。
静寂に反響する二人の息遣いと流れる水の音が四方から聴こえてくる。
「…ぃ……」
それらにかき消されてしまいそうな小さな声が、水が飲みたいとガレスの耳元で微かに呟いた。
酷く弱々しい声色は懇願に近く、もしかしたら限界まで我慢していたのかも知れない。
周りの気配を探るように耳を澄ませてから水の中に片膝をつき、セオドアを背からおろして横抱きにする。
あまり触れられるのも辛いだろうと思うが、暗闇の中で手探りに水筒を取り外して蓋を開けるとセオドアの手に持たせた。
「飲めそうですか?」
「ぅん、……」
飲みやすいように手を添えたまま、急かさないよう子供がゆっくりと水を飲み下すのを待つ。
はあはあとガレスの腕の中で小さな身体が浅く呼吸を繰り返した。
触れている場所から壊れてしまうのではないか、とそう感じる。
あの炎の中にいて生きていた事が奇跡に近い。
ガレスの手はこれまで幾つもの命を奪ってきた。
それは自分を守る為の刃だ。
躊躇もなく人を殺し自身を守る事が、結果として自分の立場や領地防衛の役に立っていたに過ぎない。
「ぅ……」
息を殺した子供の気配に、声を上げて泣く事を堪えているのかも知れないが暗闇の中ではガレスにはセオドアの表情までは分からなかった。
治癒の術が使えれば、もっと早く自分が城に駆けつけていれば、痛みを怪我を代われるものなら代わりたい。
そんな出来もしない願望をいだいたところで、いますべき事は立ち上がり前に進む事だ。
「少し揺れますが、暫し我慢なさってください」
「……ん」
短く返事を返したセオドアに、抱き上げた姿勢では辛いだろうと華奢な身体を背に背負い直す。
セオドアの呼吸の音が聞こえている。
それが聞こえている限り希望は失われていない、諦める訳にはいかない。
月明かりすら届かない黒に塗り潰された世界で壁に再び手をつき、もがくように前へと足を踏み出した。
つま先で地面を探りながら、のろのろと前に進んでいく。
どのくらい歩いたのか片膝の服の水分が乾きはじめた頃、ガレスの手が触れていた壁を失って空をきった。
出口などは相変わらず見えないが、冷や汗が背を伝う。
迷っている時間はない。
そう力んだせいか注意深く前進したつもりが、何歩か進んだところで段差か何かに足を取られる。
転ぶ寸前に辛うじて体勢を崩した身体を前のめりに倒すと、バシャリと水飛沫をあげて片手と膝を水の中に沈めた。
擦ったような痛みが膝と掌に走る。
そんな事よりも、その衝撃が背にも伝わってしまっただろうと子供が気掛かりになり、ガレスは即座に背の辺りを振り返った。
子供の方は眠っていたのか、瞬くようにして瞼を開いた若葉色の瞳と目が合う。
そこに痛みの色がないことに安心すると、はたと見えている事に遅れて気がついた。
光源を視線だけを動かして探すと、セオドアの服の内側にあるのだろう精霊の護符が形がわかるくらいに強く青みがかった色に光っている。
『あの子のことを宜しく頼んだぞ』
王太子の言葉がガレスの脳裏に蘇る。
その時、一匹の獅子が二人の前に立っていた。
護符と同じような青みを帯びた光を放ちながら獅子がセオドアに近付く。
この世のものとは思えない光景と牙を見せた獅子に、反射的にガレスが子供を庇うとベリっと乾いた音を発して護符がセオドアから離れた。
その瞬間に身体を熱風が包み込む。
何事かとガレスが熱源であろう背中を振り返れば、セオドアの片側の瞳が燃えていた。
まるでそこから炎が吹き出すように、焚き火の火に似たそれが燃焼している。
それをはたいて消し止めようとしたガレスの指が火に触れるが熱くはない。
ピタリと動きを止めたガレスを見て、セオドアは終始不思議そうな顔をしていた。
顔を不用意に触ってしまったことを誤魔化すように、指先で子供の頬の辺りを撫でてから離す。
少し照れたような様子で甘えるように子供が笑った。
「兄上のオルンガトゥニだ………」
セオドアの呟きにもう一度ガレスは青い獅子を見た。
護符を咥えたオルンガトゥニがついて来いとでも言うように二人を振り返ってから、闇の中を音も無く進んで行く。
それを見つめていたセオドアが眠たそうに、重くなった瞼を閉じたようだ。
閉じられた子供の瞼からは、炎がなお吹き出し続けている。
獅子の足がついた場所が水面であるのだと、揺らぐ波紋の広がりが蛍火のような残像を広げながら消えていくさまを見ながらそう思った。
先を歩きながら二人を待つ獅子の背中を追いかける。
ガレスの足が獅子の踏んだ辺りをなぞるように、慎重に水の中を進行していくと不思議な事に普通の地面を歩くような感覚を覚えた。
セオドアから獅子は何故、王太子の精霊の守護の祈りを取り上げたのだろう。
子供の瞳から何かの力が吹き出している事を考えると、仮説としては精霊の力に関係している可能性が高い。
先程まで苦し気だったセオドアの呼吸がいまは落ち着いたものになっている。
王太子の守護がなんらかの形で反転しているとすれば辻褄は合うが、確証はない。
魔石なら、水の魔石と風の魔石は相殺の効果がある。
この地に降り立った水の精霊の話は有名だ。
第一王子アレックスに加護を与えた青い獅子は、いまや国を守護する象徴にもなっていた。
ガレスもまさか本物の精霊というものを目にするとは思っていなかったが……
セオドアの片方の瞳が、仮に精霊眼だとして王太子の加護の力が良くない方向に作用しているから離した。
そう結論を導くのは簡単だ。
良いように判断すればガレスも気が楽になる。
どうしたものかと考えるのはやめて、ガレスは背中にいる大切な人をしっかりと背負い直した。
滝のような水音が近くで大きく響いてくる。
獅子の後ろに続いて随分と経つと、辺りの音の反響が変わった。
地下水路の狭い通路から少し開けたような場所に出る。
水が外に流れていっているのか、貯水槽の鉄格子に仕切られた水面の先に月が浮かんでいた。
獅子が止まり、ガレスも足を止める。
背中のセオドアも目を覚ましたようだ。
首を大きく縦に振った獅子が守護の札を水面に放って投げ捨てた。
「兄上の護符がっ……、あにうえ!」
「セオドア殿下!」
ガレスの背から飛び降りた子供が自ら水へと身を投げた。
それが見えなくなる前にガレスも水へと飛び込む。
水中でセオドアの身体を掴んで引き寄せると水の流れる力には抗わず、一旦身を任せ水面に顔を出すことに集中する。
セオドアを先に水からあげるようにして、ガレスも水中から顔を出し息を吸った。
自分の背後から水が外の明りを反射させながら吹き出している。
あそこから落ちて来たのだろう。
滝の周辺だけは明るいが、灯りもない水底は暗く恐怖が背筋を駆け登りそうになった。
水中でも水分により張り付いた布越しに伝わるセオドアの暖かさが、ガレスの狼狽する心を沈める。
水の流れに押されて二人の身体は少しずつ流されていた。
「ご無事で良かった」
ガレスの手がセオドアの前髪を避けて目元を優しく拭う。
子供が何度か瞬きを繰り返し水で霞んだ視界を回復させたのか、ガレスと視線を合わせると申し訳なさそうに眉を下げた。
「傷は痛みませんか?」
「………ごめんなさい」
「あれは獅子が悪い、殿下のせいではございませんよ」
「そんな事はない。俺のせいだガレス、ごめんなさい」
怪我が痛むはずだ。
だというのに泣きそうな顔で謝らないでほしい。
「その護符は私が預かっていても宜しいでしょうか?」
「………わかった。俺はあまり泳ぐのが得意ではないから、世話をかけてしまうな」
ガレスが護符の札を受け取ると、やはりセオドアの片方の瞳が燃えていた。
札は無くさないように服の内側に押し込んでおく。
「たぶんこの辺りで外の水路へ水を流している筈でしょうから、もう少しだけ潜りますよ」
「がんばる………」
「そうして頂けると助かります」
セオドアの手を取って強く握る。
二人同時に水の中へ潜ると水を吸った服が重く、意図せず水の流れに全身が引っ張られた。
滑るように流されていく。
セオドアの身体の方がガレスよりも軽い為に水流に煽られている。
抱き寄せたは良いが、このまま流されて沈み溺死するのではないか?と言う思考がガレスの頭を支配した。
耳元に心臓が移動してしまったかのように、自身の心音が酷く近くで聞こえる。
落ち着こうと無意識に子供を抱えていない方の手を腰の剣に掛けると、水中の鈍い視界に光が見えた。
咄嗟に鞘を縦にして激しい清流に流されながらも、水路が少し狭まる寸前の角に辛うじて引っ掛かる。
出口である水面は上に向かって筒状の壁に囲まれた先にあった。
淡い光がそこから水流の流れが激しい下の方が繋がっている水路に向かって差し込んでいる。
井戸の底が水路により繋がっているのだろう。
悠長にそんなことを思考していたせいかガレスの口から息が空気が泡となって逃げる。
掴んでいたセオドアを流れが比較的緩やかな水面の方向へ押し上げた。
流れが急になっているのはこの水底の水が逃げている出口付近のみだ。
やや乱暴に押し出すと子供が力なく水面の方に向かって浮いていくのを確認し、鞘を下げている方のベルトを手早く外す。
自由になったガレス自身の体も水流から逃げ出すつもりで、壁を蹴ろうと足を掛けた場所が悪かった。
鞘と壁の間に靴が引っ掛かる。
外そうと焦り藻掻くが、びくともしない。
意識が遠くなりそうになったガレスの視線の先で紅く炎が燃えている。
それは生きようとする光だ。
ガレスが守るべき尊いひかりそのものが自分を呼んでいる。
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二人の出会いも明かされるのかなと気になります!
続き楽しみにしています!!
読んでくださりありがとうございます
感想頂けてとても嬉しいです…!
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メッセージくださりありがとうございました