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七章 不可逆属性異種ロマンス
BACKLUSH AGAINST
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「そういったことを言っていたわ。仕事の一環だって」
シェリスの瞳は半ばまつ毛に隠れて翳っていた。
「だと思った。この宿舎でメイドが兵士に秘密の奉仕をしていることを軍は認めていないが目を瞑ってる。規律にガチガチに縛られた兵士たちにも息抜きが必要なんだと。でないと暴動が起きてしまうからね」
アッシュは努めて明るく言った。
何でもないことだ、と目の前にいる愛すべき人と、自分自身に言い聞かせるように。
「それに、メイドたちもまんざらでもない。若い兵士とそういう関係になることは彼女たちにとっても何らかのステータスだと感じているようだよ」
彼が阿片窟で暮らしていた頃は、理不尽で不条理なことが当たり前のようにに起こっていた。
この宿舎では、若いメイドは身体を使って相応の金を稼ぎ、若い兵士は征服欲が満たされ、士気が上がる。
アッシュにとっては、ギブアンドテイクの成立した公正な取引に思えた。
が、シェリスの瞳は翳ったままだ。
彼女の顔に浮かぶ、言葉で言い表せない何か感情的な意志のようなものに不安を覚えながら、アッシュは言い足した。
「彼女たちも、そして兵士たちもみんな若さを楽しんでいるだけさ。なにも特別なことなんてないよ」
「それってどんな感じなの?」
シェリスは重ねた両手を胸に押し付けながら訊いた。
「それ? それっていうのは?」
「その、若さを楽しむということ」
「それは……」
シェリスの不安や困惑の意味がわかりかけてきたアッシュだったが確信が持てず、自分の馬鹿げた考えを鵜呑みにすべきかどうか決めかねていた。
「シェリス、君って……」
――いや、まさか。
――そんことあり得ない。
――二十六歳だと言っていたじゃないか。
「アッシュ、あなたも楽しんだの?」
「……何度かは」
即答したことを後悔したが、後の祭り。
シェリスは見るからにショックを受けていた。
「違うんだ、シェリス。動揺させてしまってごめん。ただ、ここのメイドは兵士の身の回りの世話だけじゃなく、あっちの世話もするということを言いたかっただけなんだ」
「わかったわ」
「いや、わかってない」
「わかったわ!」
シェリスは自分の語気の強さに驚き、顎に添えられたアッシュの手を払うように顔をそむけた。
アッシュは自分の馬鹿げた考えが、実は当たっていて、しかも全然馬鹿げていないことに気づき、溜めていた息を吐くように自然と笑顔になった。
「心配させてごめん。ぼくが考え無しだった。もうしないよ。絶対に。誓ってしない。だからシェリス、言って。君の口から聞きたい」
細く開けた窓から入る一条の月明かりが、シェリスの横顔を青白く照らしている。
アッシュはシェリスの震える唇を見つめた。
「アッシュがたとえ“若さを楽しむ”だけだとしても、若い娘たちとそんな関係を持つなんて、そんなのイヤ。そんなこと考えただけで……」
シェリスはともすれば涙の雫が頬を伝うのを止めるように何度か瞬きをした。
アッシュはそんな彼女の姿にえもいわれぬ愛おしさを感じた。
「どうしよう、シェリス。ぼくは素面だけど、正気じゃいられないくらい君が欲しいよ。君は琳琅珠玉の人だ。お願いだよ。怖がらないでくれるね?」
そう言うと、彼女の顔を両手で包み、激しくキスした。
優しくしなくちゃ、と思えば思うほど、逆のことをしてしまう。
彼は唇を離すと、おでこにキスをして喉にもキスを浴びせた。
「これじゃあどっちが歳上だかわからないわ」
「歳は関係ないって言ったろ」
アッシュはシェリスの髪の中に息を吹き込むように囁くと、彼女を抱いて立ち上がった。
「取り乱さないでね。あと、大きな声もダメだよ。ぼくたち二人のことを世界中に知らしめたいけど、この宿舎にいる貪欲な連中には知られたくない」
二人は、糊の利いた真っ白なシーツへ倒れ込んだ。
白いブラウスの胸の前できつく握りしめている両手を片方ずつ外し、掌にキスをして、親指の付け根の膨らみを軽く噛んだ。
アッシュの身体の下で木の葉のように震えるシェリスは、掌から伝わる舌の甘い感覚に思わず声を漏らした。
シェリスの頬は青白い月明かりに照らされていても尚、朱に染まって見えた。
彼女の吐息を漏らすまいと唇と唇を重ね合わせながら、アッシュは焦ったいほどゆっくりとブラウスのボタンを外した。
露わになった白くて丸い乳房を愛撫されると、シェリスはシーツを強く掴んでのけ反った。
「着ているものをすっかり脱がせてもいいね?」
シェリスがおずおずと頷いたのを確認し、アッシュは滑るような手の動きで彼女を裸にした。
膝をついてかがみ込み顔や喉にキスをしながら、「シェリス、君は生まれたままの姿でぼくの下にいるんだよ……」と囁いた。
彼がうつむきピンクの蕾を口に含むとシェリスは堪らず大きな声でうめいた。
彼が顔を上げ、軽く口を覆うほど大きな声で。
「シェリス。隣の部屋に聞こえてしまう」
欲望に駆られながらアッシュが微笑んだ。
「このままじゃ死んじゃうわ」
シェリスは喘ぐように言った。
「死ぬもんか。天国にいるような気分にはなるけどね。君の全てを感じたい。ぼくに任せて」
アッシュはシェリスを挟んで膝立ちになると、自身も服を脱ぎ捨て裸になった。
「だめよ。できないわ」
彼を見たシェリスは驚きに目をみはり、肘を付いて後退りした。
「どこへ行くの?」
慌てる彼女にアッシュは満面の笑みを向けると、「大丈夫だよ」と言って脚を掴んだ。
「知恵ある神はすべてがあるべくして働くようにぼくらを作ったんだ」
アッシュは上に重なると、欲望も露わにシェリスを見つめた。
「ああ、アッシュ……」
「脚を開いて。ぼくのために」
シェリスはアッシュの全身から発する見たこともない欲情に戸惑いながらもそれを自身の中に深く包み込みたいと強く思う自分に驚いていた。
ゆっくりと脚を開く。
アッシュは指先で滑らかに弧を描くように彼女の太腿を撫で上げながら、シェリスを抱えるように首に腕を回した。
お互いの息が荒くなる。
ぎりぎりまで引かれた弓の弦のように欲望が限界に達している。
弦が弾かれたらどうなるのか、途中の二人にはまだわからなかった。
「もっと大きく。ぼくのために。ぼくのためだけに開くんだ。さあ……」
シェリスはアッシュの耳元に顔を埋めながら従った。
「ああ……だめ……」
「だめ? いや、君のここはだめじゃなさそうだよ」
アッシュの指が触れると、シェリスは身体をこわばらせた。
「そっと撫でているだけだよ。これを感じるかい?」
シェリスは瞳を閉じてうめいた。
彼の指が上下に、丸く円を描くように羽根のように動くたびに小さく痙攣する。
アッシュは彼女の頬に唇を寄せると、うめくように吐息を吐いた。
「どんどん溢れてくるよ。感じてるんだね。もう……爆発しそうだ……。一秒も待てない。今すぐに君とひとつになりたい」
シェリスは首を左右に振りながら「だめ、だめ、だめ」、と呟いた。
アッシュは唐突に手の動きを止めると唇も離し、彼自身も離れた。
「だめ!」
シェリスは半ばパニックになってアッシュの頭を両手で掴むと「やめないで!」、と叫んで抱き寄せた。
「しぃ! 静かに。大丈夫だよ。やめないさ。どうしてやめられる?」
アッシュは落ち着かせるように笑顔で額を合わせると、ブラウンの潤んだ大きな瞳を覗き込んだ。
「君はもうぼくを受け入れる準備ができている。ぼくに触れて。君の手で……」
シェリスは両手を伸ばして彼を掴んだ。
熱を持った彼を感じるのは大きなショックだった。
どんな風に触れていいのかわからずに、シェリスは彼をぎこちない手つきで撫で続けた。
アッシュは荒い息づかいで呟いた。
「ああ……シェリス。ぼくがどれほど君を欲しがっているかわかるかい? 君なしでは生きられない。愛してるんだ」
シェリスの瞳は半ばまつ毛に隠れて翳っていた。
「だと思った。この宿舎でメイドが兵士に秘密の奉仕をしていることを軍は認めていないが目を瞑ってる。規律にガチガチに縛られた兵士たちにも息抜きが必要なんだと。でないと暴動が起きてしまうからね」
アッシュは努めて明るく言った。
何でもないことだ、と目の前にいる愛すべき人と、自分自身に言い聞かせるように。
「それに、メイドたちもまんざらでもない。若い兵士とそういう関係になることは彼女たちにとっても何らかのステータスだと感じているようだよ」
彼が阿片窟で暮らしていた頃は、理不尽で不条理なことが当たり前のようにに起こっていた。
この宿舎では、若いメイドは身体を使って相応の金を稼ぎ、若い兵士は征服欲が満たされ、士気が上がる。
アッシュにとっては、ギブアンドテイクの成立した公正な取引に思えた。
が、シェリスの瞳は翳ったままだ。
彼女の顔に浮かぶ、言葉で言い表せない何か感情的な意志のようなものに不安を覚えながら、アッシュは言い足した。
「彼女たちも、そして兵士たちもみんな若さを楽しんでいるだけさ。なにも特別なことなんてないよ」
「それってどんな感じなの?」
シェリスは重ねた両手を胸に押し付けながら訊いた。
「それ? それっていうのは?」
「その、若さを楽しむということ」
「それは……」
シェリスの不安や困惑の意味がわかりかけてきたアッシュだったが確信が持てず、自分の馬鹿げた考えを鵜呑みにすべきかどうか決めかねていた。
「シェリス、君って……」
――いや、まさか。
――そんことあり得ない。
――二十六歳だと言っていたじゃないか。
「アッシュ、あなたも楽しんだの?」
「……何度かは」
即答したことを後悔したが、後の祭り。
シェリスは見るからにショックを受けていた。
「違うんだ、シェリス。動揺させてしまってごめん。ただ、ここのメイドは兵士の身の回りの世話だけじゃなく、あっちの世話もするということを言いたかっただけなんだ」
「わかったわ」
「いや、わかってない」
「わかったわ!」
シェリスは自分の語気の強さに驚き、顎に添えられたアッシュの手を払うように顔をそむけた。
アッシュは自分の馬鹿げた考えが、実は当たっていて、しかも全然馬鹿げていないことに気づき、溜めていた息を吐くように自然と笑顔になった。
「心配させてごめん。ぼくが考え無しだった。もうしないよ。絶対に。誓ってしない。だからシェリス、言って。君の口から聞きたい」
細く開けた窓から入る一条の月明かりが、シェリスの横顔を青白く照らしている。
アッシュはシェリスの震える唇を見つめた。
「アッシュがたとえ“若さを楽しむ”だけだとしても、若い娘たちとそんな関係を持つなんて、そんなのイヤ。そんなこと考えただけで……」
シェリスはともすれば涙の雫が頬を伝うのを止めるように何度か瞬きをした。
アッシュはそんな彼女の姿にえもいわれぬ愛おしさを感じた。
「どうしよう、シェリス。ぼくは素面だけど、正気じゃいられないくらい君が欲しいよ。君は琳琅珠玉の人だ。お願いだよ。怖がらないでくれるね?」
そう言うと、彼女の顔を両手で包み、激しくキスした。
優しくしなくちゃ、と思えば思うほど、逆のことをしてしまう。
彼は唇を離すと、おでこにキスをして喉にもキスを浴びせた。
「これじゃあどっちが歳上だかわからないわ」
「歳は関係ないって言ったろ」
アッシュはシェリスの髪の中に息を吹き込むように囁くと、彼女を抱いて立ち上がった。
「取り乱さないでね。あと、大きな声もダメだよ。ぼくたち二人のことを世界中に知らしめたいけど、この宿舎にいる貪欲な連中には知られたくない」
二人は、糊の利いた真っ白なシーツへ倒れ込んだ。
白いブラウスの胸の前できつく握りしめている両手を片方ずつ外し、掌にキスをして、親指の付け根の膨らみを軽く噛んだ。
アッシュの身体の下で木の葉のように震えるシェリスは、掌から伝わる舌の甘い感覚に思わず声を漏らした。
シェリスの頬は青白い月明かりに照らされていても尚、朱に染まって見えた。
彼女の吐息を漏らすまいと唇と唇を重ね合わせながら、アッシュは焦ったいほどゆっくりとブラウスのボタンを外した。
露わになった白くて丸い乳房を愛撫されると、シェリスはシーツを強く掴んでのけ反った。
「着ているものをすっかり脱がせてもいいね?」
シェリスがおずおずと頷いたのを確認し、アッシュは滑るような手の動きで彼女を裸にした。
膝をついてかがみ込み顔や喉にキスをしながら、「シェリス、君は生まれたままの姿でぼくの下にいるんだよ……」と囁いた。
彼がうつむきピンクの蕾を口に含むとシェリスは堪らず大きな声でうめいた。
彼が顔を上げ、軽く口を覆うほど大きな声で。
「シェリス。隣の部屋に聞こえてしまう」
欲望に駆られながらアッシュが微笑んだ。
「このままじゃ死んじゃうわ」
シェリスは喘ぐように言った。
「死ぬもんか。天国にいるような気分にはなるけどね。君の全てを感じたい。ぼくに任せて」
アッシュはシェリスを挟んで膝立ちになると、自身も服を脱ぎ捨て裸になった。
「だめよ。できないわ」
彼を見たシェリスは驚きに目をみはり、肘を付いて後退りした。
「どこへ行くの?」
慌てる彼女にアッシュは満面の笑みを向けると、「大丈夫だよ」と言って脚を掴んだ。
「知恵ある神はすべてがあるべくして働くようにぼくらを作ったんだ」
アッシュは上に重なると、欲望も露わにシェリスを見つめた。
「ああ、アッシュ……」
「脚を開いて。ぼくのために」
シェリスはアッシュの全身から発する見たこともない欲情に戸惑いながらもそれを自身の中に深く包み込みたいと強く思う自分に驚いていた。
ゆっくりと脚を開く。
アッシュは指先で滑らかに弧を描くように彼女の太腿を撫で上げながら、シェリスを抱えるように首に腕を回した。
お互いの息が荒くなる。
ぎりぎりまで引かれた弓の弦のように欲望が限界に達している。
弦が弾かれたらどうなるのか、途中の二人にはまだわからなかった。
「もっと大きく。ぼくのために。ぼくのためだけに開くんだ。さあ……」
シェリスはアッシュの耳元に顔を埋めながら従った。
「ああ……だめ……」
「だめ? いや、君のここはだめじゃなさそうだよ」
アッシュの指が触れると、シェリスは身体をこわばらせた。
「そっと撫でているだけだよ。これを感じるかい?」
シェリスは瞳を閉じてうめいた。
彼の指が上下に、丸く円を描くように羽根のように動くたびに小さく痙攣する。
アッシュは彼女の頬に唇を寄せると、うめくように吐息を吐いた。
「どんどん溢れてくるよ。感じてるんだね。もう……爆発しそうだ……。一秒も待てない。今すぐに君とひとつになりたい」
シェリスは首を左右に振りながら「だめ、だめ、だめ」、と呟いた。
アッシュは唐突に手の動きを止めると唇も離し、彼自身も離れた。
「だめ!」
シェリスは半ばパニックになってアッシュの頭を両手で掴むと「やめないで!」、と叫んで抱き寄せた。
「しぃ! 静かに。大丈夫だよ。やめないさ。どうしてやめられる?」
アッシュは落ち着かせるように笑顔で額を合わせると、ブラウンの潤んだ大きな瞳を覗き込んだ。
「君はもうぼくを受け入れる準備ができている。ぼくに触れて。君の手で……」
シェリスは両手を伸ばして彼を掴んだ。
熱を持った彼を感じるのは大きなショックだった。
どんな風に触れていいのかわからずに、シェリスは彼をぎこちない手つきで撫で続けた。
アッシュは荒い息づかいで呟いた。
「ああ……シェリス。ぼくがどれほど君を欲しがっているかわかるかい? 君なしでは生きられない。愛してるんだ」
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