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本編
2 主任研究者発狂計画
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IMRO中央棟から延びる長い通路には、1つの硬質な足音が響いていた。いや、これも正確に言えば、硬質な足音と騒ぐ女の声だ。
「ねぇ……エド、ちゃんと戻るからもう降ろしてくれない?」
「この間はそう言って降りた瞬間に走って逃げたな」
おおよそ研究者とは思えない体格の男性、エドワードは、自分の上司でもあるティエラの習性を極めて熟知していた。
エドワードは肩の上で騒ぐ彼女を、少々持ち辛い形状の大きな研究資材でも運ぶように、時折担ぎ直しては、特別大事は無いといった雰囲気で整然と歩き続けた。
「逃げないから! 放して、放してよもう!」
よく喋る荷物だ。エドワードはそう思いながらもエスカレートする騒がしさに、面倒臭そうな様子を隠しもせずに返答した。
「無理だ。せめて第3試験棟に着くまでは絶対に降ろさん」
ティエラは既に仕事へ戻る気にはなっていた。しかし、今すぐ降ろして欲しいのには別の理由があったのだ。
「ねぇ、エド聞いて! 絶対見えてんのよ! 誰かに見られたらどうすんのよ!」
ティエラの苦情は仕方がない。エドワードは平均的な男性よりもだいぶ上背がある。よって肩の位置も高い、高いということは、高いということだ。
エドワードは一度足を止め、荷物から発されるどうでもいい苦情の処理方法を考える。
ティエラの容姿は確かに美麗な部類だが、年齢で言えば決して若くは無いし、そもそもここは研究をする為の施設だ。なのに何故いつもスカートなど選ぶのか、大体こうして担ぐのだっていったい何度目だと思っているんだ。とはさすがに言えないので、彼なりに気を遣い――先程に倍する面倒臭さを込め――ため息ながらに対処した。
「はぁ……大丈夫だ。お前のスカートの中なんぞ誰も見やしない、安心しろ」
「な、あんたそれ、どういう意味よ!」
エドワードが極力頑張った迂遠な言い回し、気遣いは見事に失敗した。というよりも彼の場合は気遣いが絶望的にできない、が正しいが。
「おい、もう暴れるな。あと大声を出すな」
誰にとって幸いか、2人は結局誰にもすれ違うことなく中央棟メインホールの喫茶スペースから第3試験棟前まで辿り着いた。
恐らく受付などの一部の人間には、確実にティエラの声が聞こえていただろうが、事件性は無いと判断されたらしい。
「……仕方がない、ここまで来れば大丈夫だろう。降ろしてやる」
「あ・り・が・と・う・!」
「ああ。これで今晩もケムと遊んでやれる時間の目処がついた」
「エド! ったく、あんたふざけんじゃないわよ! 私のスカートの中が誰かに見られるよりも犬の方が大事だっての!!」
エドワードはもはや何度目になるかわからないため息をまた1つ吐き、考えるまでもないと言わんばかりに答えた。
「ケムは可愛い……が、ティエラ、お前は可愛気がまったくない、比べるまでもないだろう。違うか?」
「はぁ!? あんたいつか覚えてなさいよ! 誰があんたのボスか絶対思い知らせてやるから!!」
エドワードは自分の上司の発言に対し、心底呆れながら答えた。
「なら仕事をさっさと終わらせてくれ、それがボスの務めだ」
「あぁんもう! ぃやああああああ! 腹立つぅぅうううう!」
ティエラの沸点は簡単に限界を迎え、狂気じみた怒声をあげて爆発した。
「ねぇ……エド、ちゃんと戻るからもう降ろしてくれない?」
「この間はそう言って降りた瞬間に走って逃げたな」
おおよそ研究者とは思えない体格の男性、エドワードは、自分の上司でもあるティエラの習性を極めて熟知していた。
エドワードは肩の上で騒ぐ彼女を、少々持ち辛い形状の大きな研究資材でも運ぶように、時折担ぎ直しては、特別大事は無いといった雰囲気で整然と歩き続けた。
「逃げないから! 放して、放してよもう!」
よく喋る荷物だ。エドワードはそう思いながらもエスカレートする騒がしさに、面倒臭そうな様子を隠しもせずに返答した。
「無理だ。せめて第3試験棟に着くまでは絶対に降ろさん」
ティエラは既に仕事へ戻る気にはなっていた。しかし、今すぐ降ろして欲しいのには別の理由があったのだ。
「ねぇ、エド聞いて! 絶対見えてんのよ! 誰かに見られたらどうすんのよ!」
ティエラの苦情は仕方がない。エドワードは平均的な男性よりもだいぶ上背がある。よって肩の位置も高い、高いということは、高いということだ。
エドワードは一度足を止め、荷物から発されるどうでもいい苦情の処理方法を考える。
ティエラの容姿は確かに美麗な部類だが、年齢で言えば決して若くは無いし、そもそもここは研究をする為の施設だ。なのに何故いつもスカートなど選ぶのか、大体こうして担ぐのだっていったい何度目だと思っているんだ。とはさすがに言えないので、彼なりに気を遣い――先程に倍する面倒臭さを込め――ため息ながらに対処した。
「はぁ……大丈夫だ。お前のスカートの中なんぞ誰も見やしない、安心しろ」
「な、あんたそれ、どういう意味よ!」
エドワードが極力頑張った迂遠な言い回し、気遣いは見事に失敗した。というよりも彼の場合は気遣いが絶望的にできない、が正しいが。
「おい、もう暴れるな。あと大声を出すな」
誰にとって幸いか、2人は結局誰にもすれ違うことなく中央棟メインホールの喫茶スペースから第3試験棟前まで辿り着いた。
恐らく受付などの一部の人間には、確実にティエラの声が聞こえていただろうが、事件性は無いと判断されたらしい。
「……仕方がない、ここまで来れば大丈夫だろう。降ろしてやる」
「あ・り・が・と・う・!」
「ああ。これで今晩もケムと遊んでやれる時間の目処がついた」
「エド! ったく、あんたふざけんじゃないわよ! 私のスカートの中が誰かに見られるよりも犬の方が大事だっての!!」
エドワードはもはや何度目になるかわからないため息をまた1つ吐き、考えるまでもないと言わんばかりに答えた。
「ケムは可愛い……が、ティエラ、お前は可愛気がまったくない、比べるまでもないだろう。違うか?」
「はぁ!? あんたいつか覚えてなさいよ! 誰があんたのボスか絶対思い知らせてやるから!!」
エドワードは自分の上司の発言に対し、心底呆れながら答えた。
「なら仕事をさっさと終わらせてくれ、それがボスの務めだ」
「あぁんもう! ぃやああああああ! 腹立つぅぅうううう!」
ティエラの沸点は簡単に限界を迎え、狂気じみた怒声をあげて爆発した。
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