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本編
4 主任研究者耐久度測定計画
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IMRO第3試験棟。ここでは総勢300名程の研究員が、昼夜を問わずDEの研究や、それに関係する様々な試験を行っている。
DE研究チームの目的は唯一つ、別次元の発見である。
第3試験棟4~5Fを専有するA試験室から、1Fにある管理室に通信が入った。
「こちら試験室、こちら試験室、試験番号146、いつでも開始できます。管理者応答願います」
試験室にいるクロムからの通信が入り、管理室の大モニターでその様子を眺めながらティエラが応答する。
「あ~こちら管理者、こちら管理者、大型魔粒子核への魔粒子供給量安定確認、魔回廊安定確認、試験番号146、開始する。各研究員は持ち場を離れるな」
けたたましく試験開始を知らせるサイレンが鳴り響き、多くの研究員が各自の持ち場に着いてその時に備えた。
「こちら魔器動作試験士、こちら魔器動作試験士、増幅装置安定、試験番号146、火属性魔法による空間歪曲試験、開始します」
先程ベルハルトと調整していた黒い鎧、安全装置と呼ばれるそれに、更に保護パーツを足した物に全身を包んだクロムが、試験を開始した。
今回の試験番号146は、極小の一点に対し、増幅装置で集約した高出力の火属性魔法を行使することによって次元を歪ませ、その結果を観測することを目的とした試験である。
「こちら魔回廊技士、こちら魔回廊技士、回廊内安定しています」
幾度も手を変え品を変え、天才同士が頭を捻り、会議の度に名案と言えるような試験内容が浮かんだのも、試験回数にして50を超えたあたりまでだ。
1属性での次元歪曲、発見、発掘、を目指すのもこの試験が最後であった。
クロムは1人試験室内で、火属性魔器の出力をひたすらに上げ続けた。
試験開始から数十分が経過した。断熱性能に非常に優れた安全装置だが、それでも中の温度は真夏程度には暑くなっていた。
「こちら管理者、こちら管理者、大型魔粒子封印核の状態を報告せよ。こちらで熱量の増大を確認、モニター上では摂氏3000度を超えている。問題無いか、応答せよ」
「……はい……ちらは……」
どうやら通信に異常が起きているようだ。それにいち早く気付いたベルヒルトが割って入った。
「……通信乱入失礼、こちら魔機械整備技士班長のベルハルトだ。試験の即刻中止を要請する。試験室整備士からもたった今警告を受けた。室内の精霊銀壁が溶融を始めているらしい。このままでは安全装置を着用していてもクロムが持たない、即刻中止してくれ」
「ベルハルト……わかった。要請を受諾した。試験番号146、中止だ。皆急げ、クロムを助けろ」
「確かにこれじゃ、温度が上がり過ぎてダメだな。魔回廊を強制切断する。【GC】、安定化プログラムを開始してくれ」
[理解しました。IMRO研究員No.5324、カイン・シュヴァルツ本人の声紋及び魔粒子波長を確認、命令を実行します]
その日146回目を数えた試験が失敗し、研究員は皆落胆の色が隠せずに帰路についた。
「やっぱダメだったわね~」
「データは取れた、クロムも無事だった。言うこと無しだ」
「……あんただけよそんなこと言ってんの。みんなの顔見たでしょ?」
「落胆……だったな」
ティエラとエドワードは飲食禁止の管理者室で老舗インスタントコーヒーメーカー、サウスウィンダムのマグカップに大量生産の缶コーヒーを注いで飲んでいた。
これは気分だけでも味わうことは人間として大切なこと、という数百年来人類が重んじてきた理念である。と、信じられている。
「まあでも、実際GCがいなかったらちょっとヤバかったかもね」
「ああ、そうだな」
「……エド、あんた本当にそう思ってんの? 既に帰りたそうじゃない」
「ああ、そうだな」
「はぁ、もう……帰りましょ、怒る気も失せてきたわ」
「試験はしばらく無しか?」
「もうアプローチから変えなきゃダメね。試験棟の設備で出来ることも限界があるし……まあ、明日考えてみましょ」
「明日は休みだ」
「じゃあ来・週!」
試みは何度繰り返そうとも厳密には無駄ではない、しかし、時には発想そのものを変えなければならないこともある。
「しばらくは会議ね」
「ああ、ではまたな。ケムが待っている」
「あんたは犬じゃなくて娘さんとうまくやりなさいよ」
「……大きなお世話だ。帰るぞ」
最後に第3試験棟を出たティエラは、眩しそうに空を見上げた。この日の陽光調整機が生み出す夕陽は、焼ける様な緋色であった。
✡✡✡✡✡✡
『――人類の進歩は正に忍耐の連続である。最も忍耐強い者だけが成果を勝ち取れる。
とは詭弁だ。忍耐強さは研究という大きな括りでは糧となるだろうが、どこまでいっても最後に必要なのは運と閃きである』
科学誌ヴァーハイト、ベルヒルト・ラスティンスタインのインタビュー記事より抜粋
DE研究チームの目的は唯一つ、別次元の発見である。
第3試験棟4~5Fを専有するA試験室から、1Fにある管理室に通信が入った。
「こちら試験室、こちら試験室、試験番号146、いつでも開始できます。管理者応答願います」
試験室にいるクロムからの通信が入り、管理室の大モニターでその様子を眺めながらティエラが応答する。
「あ~こちら管理者、こちら管理者、大型魔粒子核への魔粒子供給量安定確認、魔回廊安定確認、試験番号146、開始する。各研究員は持ち場を離れるな」
けたたましく試験開始を知らせるサイレンが鳴り響き、多くの研究員が各自の持ち場に着いてその時に備えた。
「こちら魔器動作試験士、こちら魔器動作試験士、増幅装置安定、試験番号146、火属性魔法による空間歪曲試験、開始します」
先程ベルハルトと調整していた黒い鎧、安全装置と呼ばれるそれに、更に保護パーツを足した物に全身を包んだクロムが、試験を開始した。
今回の試験番号146は、極小の一点に対し、増幅装置で集約した高出力の火属性魔法を行使することによって次元を歪ませ、その結果を観測することを目的とした試験である。
「こちら魔回廊技士、こちら魔回廊技士、回廊内安定しています」
幾度も手を変え品を変え、天才同士が頭を捻り、会議の度に名案と言えるような試験内容が浮かんだのも、試験回数にして50を超えたあたりまでだ。
1属性での次元歪曲、発見、発掘、を目指すのもこの試験が最後であった。
クロムは1人試験室内で、火属性魔器の出力をひたすらに上げ続けた。
試験開始から数十分が経過した。断熱性能に非常に優れた安全装置だが、それでも中の温度は真夏程度には暑くなっていた。
「こちら管理者、こちら管理者、大型魔粒子封印核の状態を報告せよ。こちらで熱量の増大を確認、モニター上では摂氏3000度を超えている。問題無いか、応答せよ」
「……はい……ちらは……」
どうやら通信に異常が起きているようだ。それにいち早く気付いたベルヒルトが割って入った。
「……通信乱入失礼、こちら魔機械整備技士班長のベルハルトだ。試験の即刻中止を要請する。試験室整備士からもたった今警告を受けた。室内の精霊銀壁が溶融を始めているらしい。このままでは安全装置を着用していてもクロムが持たない、即刻中止してくれ」
「ベルハルト……わかった。要請を受諾した。試験番号146、中止だ。皆急げ、クロムを助けろ」
「確かにこれじゃ、温度が上がり過ぎてダメだな。魔回廊を強制切断する。【GC】、安定化プログラムを開始してくれ」
[理解しました。IMRO研究員No.5324、カイン・シュヴァルツ本人の声紋及び魔粒子波長を確認、命令を実行します]
その日146回目を数えた試験が失敗し、研究員は皆落胆の色が隠せずに帰路についた。
「やっぱダメだったわね~」
「データは取れた、クロムも無事だった。言うこと無しだ」
「……あんただけよそんなこと言ってんの。みんなの顔見たでしょ?」
「落胆……だったな」
ティエラとエドワードは飲食禁止の管理者室で老舗インスタントコーヒーメーカー、サウスウィンダムのマグカップに大量生産の缶コーヒーを注いで飲んでいた。
これは気分だけでも味わうことは人間として大切なこと、という数百年来人類が重んじてきた理念である。と、信じられている。
「まあでも、実際GCがいなかったらちょっとヤバかったかもね」
「ああ、そうだな」
「……エド、あんた本当にそう思ってんの? 既に帰りたそうじゃない」
「ああ、そうだな」
「はぁ、もう……帰りましょ、怒る気も失せてきたわ」
「試験はしばらく無しか?」
「もうアプローチから変えなきゃダメね。試験棟の設備で出来ることも限界があるし……まあ、明日考えてみましょ」
「明日は休みだ」
「じゃあ来・週!」
試みは何度繰り返そうとも厳密には無駄ではない、しかし、時には発想そのものを変えなければならないこともある。
「しばらくは会議ね」
「ああ、ではまたな。ケムが待っている」
「あんたは犬じゃなくて娘さんとうまくやりなさいよ」
「……大きなお世話だ。帰るぞ」
最後に第3試験棟を出たティエラは、眩しそうに空を見上げた。この日の陽光調整機が生み出す夕陽は、焼ける様な緋色であった。
✡✡✡✡✡✡
『――人類の進歩は正に忍耐の連続である。最も忍耐強い者だけが成果を勝ち取れる。
とは詭弁だ。忍耐強さは研究という大きな括りでは糧となるだろうが、どこまでいっても最後に必要なのは運と閃きである』
科学誌ヴァーハイト、ベルヒルト・ラスティンスタインのインタビュー記事より抜粋
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