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本編
33.5 敏腕女性刑事誕生計画 2
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リーブルは意外と楽な方法で入れた。と、思った。
「まさかお金を少し多めに出した程度で入れるなんてね……思ってたよりも楽勝だったわ」
エントランスを抜けて階段を降った先に広がるナイトクラブの中は、固定された巨大照明と宙に浮かぶ小型照明によって外観からは想像もつかない程に非日常的な空間を演出している。
そこでは最近流行りの女性4人組バンド【チャトゥルアミタ】の新曲が爆音で流され、日頃の鬱憤を晴らす為に集まった人々で埋め尽くされていた。
リーブルが派手なフォックスファーコートの前を開けると、都会の夜に相応しいスパンコールとグリッターが組み合わされ、キラキラと細かい輝きを放つ紫紺色のドレスが顕になった。彼女が纏うそのドレスは、太腿の横に深いスリットが入り、また彼女の豊満な胸元が際立つ様に大きなゆとりが設けられていた。
一瞬でナイトクラブ中の男性から熱い視線を集めたリーブルは、一先ず酒を注文するべく広い店内にいくつかあるうちの比較的人が少ない左奥にあるバーカウンターを選び、そこへ向かった。
「ひゅ~! 姉ちゃん最高だな!」
「おお! こりゃジェニファー・ベックマンもビックリだな~おい!」
「そこの綺麗な貴女、僕とお酒を嗜みませんか」
自分の肢体に欲望に満ちた視線を向けてくる男、 有名な女優の名前を出して声をかけてくる男、一見すると紳士然としているが下心が透けて見える男、その他も含めた一切を無視して、リーブルはバーカウンターへと辿り着いた。
「スカしたとこも最高だぜ~! ひゅあ~!」
「なんだよ。さ、別のジェニファーはいないかなぁ……」
「チッ、お高く止まりやがって」
袖にされた男達は次々に捨て台詞を残し、他の女性を求めて人混みに消えて行った。
「まったく男ってやつは……」
などとリーブルは思ったが、どうやら違う類の視線も集めているらしい。
「嫉妬ってイヤね……なんて、さすがに自惚れ過ぎか」
自分よりモテる女性に対する女性の視線というのは……と、そこまで考えが至ったところでリーブルはその先を考えるのを止め、顔の半分を金属の仮面のような魔器で覆ったバーテンダーに酒を注文した。
「ネスペルガーデンをハーフパイントでちょうだい」
「へぇ……」
「あら、もしかして置いて無いの?」
「いえ、ではこちらに手を……ありがとうございます」
ナイトクラブでは慣例の1杯毎にしなければならない会計をさっと済ませ、リーブルは酒が出てくるのを待った。
「ほう。なかなかコアなもん飲むじゃないか」
「ええ、このビールが一番好きで……え?」
いつの間に座っていたのだろうか、気が付けばリーブルの横の席には2mを超える大男が座っていた。
大男は少し驚いたリーブルの方などチラとも見ずに持っていたロックグラスの中身を一気に煽った。
空になったロックグラスを置いて、リーブルが頼んだ酒を持ってきたバーテンダーに返すと、バーテンダーはそれを1つ頷いて受け取り、暗号化キーが付いた高級ボトルが列ぶ棚に向かった。
「そいつにエーテルハイを混ぜるのが最高なんだ」
「フフッ、面白い冗談ね。そんなもの飲んだら普通に死んでしまうわよ」
「そうか、まあそうだな」
エーテルハイというのは魔動車などに用いられる希少なオイルのことだ。魔粒子の循環効率を高め、エンジンを長持ちさせる効果がある。従来品のオイルとは一線を画した代物だ。
リーブルはもしそんなものを飲める人間がいるとしたら、詳しいことまでは知らないが、遺伝子操作を施し、臓器や血管を始め全身に手を加えなければならないだろう。と、思い横目にだが、大男の姿を観察した。
そこからわかったのは高性能視覚調節器が特徴的な横顔と、半分顕になった重機を思わせるような太い前腕だ。
前腕には指先まで走る生体電極と、無数の見たことも無い文字のようなタトゥーが彫られていた。
大男がさっき言っていたエーテルハイを混ぜて飲めるのも、あながち嘘ではないのかも知れない。
「まるでマンガに出てくる全身サイボーグ手術を施した悪役みたいね」
リーブルは念の為大男の挙動に警戒しつつも、店内の様子を窺うのに丁度良いと思い、大男との会話を続けることにした。
「そうか、まあそう言われない事もない」
リーブルは大男の見た目からは想像も出来ないとっつき易さのあまり、正直が過ぎる感想を言ってしまったことに慌てた。
が、大男はそんなことぐらいでは自分を怒らせるのは不可能で、日常の一部に過ぎないとでも言うように話を続けた。
「と、サンスクリット語が珍しいか」
「あ、ええ……それ、サンスクリット語なのね」
「ああ、ちょっと縁があってな」
「そうなの? そっち系の顔立ちには……て、ごめんなさい」
リーブルは言葉のアクセントや皮膚の色で要らぬ推測しようとしたことを謝罪した。彼女はどうにも下心というものを感じさせない男には心を開き易いようだ。
「なに、色々と気にするな。この腕には忘れちゃいけないもんを彫ってんのさ……」
そう言って少し顔を上げた大男は、高性能視覚調節器越しだというのにどういう訳か、昔の出来事を思い出し、遠くを見ているように見えた。
「……おう、悪いな。やっぱりサブワンはストレートに限る」
「飲み切らないでくださいよ。貴重なんですから」
「フッ、まあそう堅いことを言うな。酒は飲まれてこそ、だ」
「多くの人に、ね」
「よく口の回るヤツだよ。お前は」
「仕事ですので、それではごゆっくり」
途中で大男の酒を持ってきたバーテンダーとのやり取りから察するに、この大男はナイトクラブにそれなりに通っていることが窺えた。
口達者なバーテンダーへの返答に、こんな店でゆっくりやってられるかよ。と、大男の方から聞こえてきたが、リーブルは大男が飲んでいる酒の方に注目した。
「凄いもの飲んでるのね」
「ほう……この酒がなんだかわかるのか」
「確かニガヨモギ……だっけ? の、お酒でしょ」
「ああ、そうだ。大昔にとある学者も好んでこいつを飲んでたらしい、まあ本当かどうかはわからないがな」
「ふ~ん、そんな話があるのね……って」
こんなことしてる場合じゃない。と、リーブルが本来の目的を思い出したところで、大男から耳を疑うような発言が飛び出した。
「……タイジは俺が捕る。あんたらは余計な事をせず、すっ込んでな」
「な! どうしてそれを!」
「おいおい、騒がしい店だからといって油断はするな」
リーブルは大男から刑事として当然とも言える注意を受け、即座に周囲を窺った。
「とりあえずは大丈夫だ。だが、本当に気を付けろ。こちとら正念場なんだ」
「あなた……何者なの」
「…………」
隣り合って座るリーブルと大男の間に、2人にしかわからない剣呑な空気が一気に広がり、一触即発の様相となった――。しかし、大男はすぐにその空気を引っ込めた。
「……まあ、同業ならいいだろう。不自然に見えないように耳を貸せ…………俺はジンダイジ。東日本のいわゆる特務だ」
「ジンダイジ……特務……それに東日本て……」
リーブルは喫茶店を出る前に確かにヒラツカがその名を呼んでいたことを思い出した。それと同時に考えたのは、タイジに同行していたのはこんな大男だっただろうか――ということだ。
ジンダイジに対する疑問は際限なく湧いてきた。だが、続く彼の言葉にリーブルはそんな場合ではないことを知らされた。
「落ち着いて聞け、表じゃヒラツカ達が面倒なことになってやがる。だがいいか、ここで絶対に騒ぐな。堪えるんだ」
「なん……! ……コタロウ、センギョウ君」
リーブルは突然見知らぬ男から発された緊急事態に、店の外へ全速力で走り出したい衝動を抑え、辛うじて平静を装い続けた。
「それでいい……プロだろ」
「……聞きたいことが山ほどあるけど、あなたの方が今の状況とここの事情にも詳しそうね」
「そういうことだ。……よし、この後俺の部隊を動かす。もう少し待て、動いたら身を隠せ」
「…………わかったわ。でも、私もただ成り行きを見守るだけなんてまっぴらごめんよ。勝手にやらせてもらうわ。あいつは……あの男だけは絶対に……」
ジンダイジと名乗った男は、初めてリーブルの方へ顔を向けた。
「そうか……お前もなのか」
「え?」
だが、ジンダイジの声は唐突に切り替わった不安と期待を煽るような可笑しな音楽と、中央ステージ上に現れたギラギラとした趣味の悪いタキシードを着た男が突如始めたアナウンスによって掻き消された。
「さ~て、今宵も欲望に満ち満ちた最高の時間をお過ごしの紳士淑女の皆様方! なんと! ななななんとぉ~~~!! 本日来てくださった皆様には! このナイトクラブを経営するオーナー様より、特別なショーのプレゼントがございます!」
「「うおおおおおおおお!!」」
「「キャアアアアアアア!!」」
ジンダイジはタキシード男を見るなり露骨に口元を歪ませた。
リーブルは表でヒラツカ達が面倒に巻き込まれていると言った時でも、まだどこか余裕のある空気を保っていたジンダイジの様子が明らかに変わったことにより、一気に緊張感が高まるのを感じた。
「門番だ……クソッ、やられた」
「ドヴァーラ……何? なんなのそれ?」
「おいおい、まさか知らないのか? 使徒の上にいる奴等だ……あの野郎の側近中の側近共だよ」
「そんな……私に知らないことがあるなんて――」
今まで散々調べ尽くしてきたはずなのに、新しい情報がこの土壇場に来て出てくるなんて……と、思ったのも束の間――。
リーブルはスポットライトに照らされたタキシードの男が、こちらを見てニヤニヤと笑っているのをハッキリと確かめた。
「クカカカカカカ! ……お~っとっとっと~、こ~れはいけませんね~」
タキシードの男が蝶ネクタイに触れ、ブツブツと何かを囁いた。そして次の瞬間――。
――ドサドサ、ドサドサドサドサッ
ナイトクラブ中の人間が次々と意識を失い、その場に倒れた。
「ナ~イスコントロール! クカカカカカカ!!」
タキシードの男が何をしたのか不明だが、リーブルとジンダイジは即座に戦闘態勢に入った。
「あんた、戦えるのか」
「ええ、それなりにはね」
「自分の身ぐらいは頼んだぞ。子守りはごめんだ」
「ふん、あなたこそね」
スポットライトの向きが替わり、リーブルとジンダイジを照らし出した。それと同時にステージ上の男が再びアナウンスを始める。
「よ~こそいらっしゃいましたお二方、まずは前座と参りましょう。ではぁ……ショータイムぅぅ~! スタートぉぉおお!!」
「まさかお金を少し多めに出した程度で入れるなんてね……思ってたよりも楽勝だったわ」
エントランスを抜けて階段を降った先に広がるナイトクラブの中は、固定された巨大照明と宙に浮かぶ小型照明によって外観からは想像もつかない程に非日常的な空間を演出している。
そこでは最近流行りの女性4人組バンド【チャトゥルアミタ】の新曲が爆音で流され、日頃の鬱憤を晴らす為に集まった人々で埋め尽くされていた。
リーブルが派手なフォックスファーコートの前を開けると、都会の夜に相応しいスパンコールとグリッターが組み合わされ、キラキラと細かい輝きを放つ紫紺色のドレスが顕になった。彼女が纏うそのドレスは、太腿の横に深いスリットが入り、また彼女の豊満な胸元が際立つ様に大きなゆとりが設けられていた。
一瞬でナイトクラブ中の男性から熱い視線を集めたリーブルは、一先ず酒を注文するべく広い店内にいくつかあるうちの比較的人が少ない左奥にあるバーカウンターを選び、そこへ向かった。
「ひゅ~! 姉ちゃん最高だな!」
「おお! こりゃジェニファー・ベックマンもビックリだな~おい!」
「そこの綺麗な貴女、僕とお酒を嗜みませんか」
自分の肢体に欲望に満ちた視線を向けてくる男、 有名な女優の名前を出して声をかけてくる男、一見すると紳士然としているが下心が透けて見える男、その他も含めた一切を無視して、リーブルはバーカウンターへと辿り着いた。
「スカしたとこも最高だぜ~! ひゅあ~!」
「なんだよ。さ、別のジェニファーはいないかなぁ……」
「チッ、お高く止まりやがって」
袖にされた男達は次々に捨て台詞を残し、他の女性を求めて人混みに消えて行った。
「まったく男ってやつは……」
などとリーブルは思ったが、どうやら違う類の視線も集めているらしい。
「嫉妬ってイヤね……なんて、さすがに自惚れ過ぎか」
自分よりモテる女性に対する女性の視線というのは……と、そこまで考えが至ったところでリーブルはその先を考えるのを止め、顔の半分を金属の仮面のような魔器で覆ったバーテンダーに酒を注文した。
「ネスペルガーデンをハーフパイントでちょうだい」
「へぇ……」
「あら、もしかして置いて無いの?」
「いえ、ではこちらに手を……ありがとうございます」
ナイトクラブでは慣例の1杯毎にしなければならない会計をさっと済ませ、リーブルは酒が出てくるのを待った。
「ほう。なかなかコアなもん飲むじゃないか」
「ええ、このビールが一番好きで……え?」
いつの間に座っていたのだろうか、気が付けばリーブルの横の席には2mを超える大男が座っていた。
大男は少し驚いたリーブルの方などチラとも見ずに持っていたロックグラスの中身を一気に煽った。
空になったロックグラスを置いて、リーブルが頼んだ酒を持ってきたバーテンダーに返すと、バーテンダーはそれを1つ頷いて受け取り、暗号化キーが付いた高級ボトルが列ぶ棚に向かった。
「そいつにエーテルハイを混ぜるのが最高なんだ」
「フフッ、面白い冗談ね。そんなもの飲んだら普通に死んでしまうわよ」
「そうか、まあそうだな」
エーテルハイというのは魔動車などに用いられる希少なオイルのことだ。魔粒子の循環効率を高め、エンジンを長持ちさせる効果がある。従来品のオイルとは一線を画した代物だ。
リーブルはもしそんなものを飲める人間がいるとしたら、詳しいことまでは知らないが、遺伝子操作を施し、臓器や血管を始め全身に手を加えなければならないだろう。と、思い横目にだが、大男の姿を観察した。
そこからわかったのは高性能視覚調節器が特徴的な横顔と、半分顕になった重機を思わせるような太い前腕だ。
前腕には指先まで走る生体電極と、無数の見たことも無い文字のようなタトゥーが彫られていた。
大男がさっき言っていたエーテルハイを混ぜて飲めるのも、あながち嘘ではないのかも知れない。
「まるでマンガに出てくる全身サイボーグ手術を施した悪役みたいね」
リーブルは念の為大男の挙動に警戒しつつも、店内の様子を窺うのに丁度良いと思い、大男との会話を続けることにした。
「そうか、まあそう言われない事もない」
リーブルは大男の見た目からは想像も出来ないとっつき易さのあまり、正直が過ぎる感想を言ってしまったことに慌てた。
が、大男はそんなことぐらいでは自分を怒らせるのは不可能で、日常の一部に過ぎないとでも言うように話を続けた。
「と、サンスクリット語が珍しいか」
「あ、ええ……それ、サンスクリット語なのね」
「ああ、ちょっと縁があってな」
「そうなの? そっち系の顔立ちには……て、ごめんなさい」
リーブルは言葉のアクセントや皮膚の色で要らぬ推測しようとしたことを謝罪した。彼女はどうにも下心というものを感じさせない男には心を開き易いようだ。
「なに、色々と気にするな。この腕には忘れちゃいけないもんを彫ってんのさ……」
そう言って少し顔を上げた大男は、高性能視覚調節器越しだというのにどういう訳か、昔の出来事を思い出し、遠くを見ているように見えた。
「……おう、悪いな。やっぱりサブワンはストレートに限る」
「飲み切らないでくださいよ。貴重なんですから」
「フッ、まあそう堅いことを言うな。酒は飲まれてこそ、だ」
「多くの人に、ね」
「よく口の回るヤツだよ。お前は」
「仕事ですので、それではごゆっくり」
途中で大男の酒を持ってきたバーテンダーとのやり取りから察するに、この大男はナイトクラブにそれなりに通っていることが窺えた。
口達者なバーテンダーへの返答に、こんな店でゆっくりやってられるかよ。と、大男の方から聞こえてきたが、リーブルは大男が飲んでいる酒の方に注目した。
「凄いもの飲んでるのね」
「ほう……この酒がなんだかわかるのか」
「確かニガヨモギ……だっけ? の、お酒でしょ」
「ああ、そうだ。大昔にとある学者も好んでこいつを飲んでたらしい、まあ本当かどうかはわからないがな」
「ふ~ん、そんな話があるのね……って」
こんなことしてる場合じゃない。と、リーブルが本来の目的を思い出したところで、大男から耳を疑うような発言が飛び出した。
「……タイジは俺が捕る。あんたらは余計な事をせず、すっ込んでな」
「な! どうしてそれを!」
「おいおい、騒がしい店だからといって油断はするな」
リーブルは大男から刑事として当然とも言える注意を受け、即座に周囲を窺った。
「とりあえずは大丈夫だ。だが、本当に気を付けろ。こちとら正念場なんだ」
「あなた……何者なの」
「…………」
隣り合って座るリーブルと大男の間に、2人にしかわからない剣呑な空気が一気に広がり、一触即発の様相となった――。しかし、大男はすぐにその空気を引っ込めた。
「……まあ、同業ならいいだろう。不自然に見えないように耳を貸せ…………俺はジンダイジ。東日本のいわゆる特務だ」
「ジンダイジ……特務……それに東日本て……」
リーブルは喫茶店を出る前に確かにヒラツカがその名を呼んでいたことを思い出した。それと同時に考えたのは、タイジに同行していたのはこんな大男だっただろうか――ということだ。
ジンダイジに対する疑問は際限なく湧いてきた。だが、続く彼の言葉にリーブルはそんな場合ではないことを知らされた。
「落ち着いて聞け、表じゃヒラツカ達が面倒なことになってやがる。だがいいか、ここで絶対に騒ぐな。堪えるんだ」
「なん……! ……コタロウ、センギョウ君」
リーブルは突然見知らぬ男から発された緊急事態に、店の外へ全速力で走り出したい衝動を抑え、辛うじて平静を装い続けた。
「それでいい……プロだろ」
「……聞きたいことが山ほどあるけど、あなたの方が今の状況とここの事情にも詳しそうね」
「そういうことだ。……よし、この後俺の部隊を動かす。もう少し待て、動いたら身を隠せ」
「…………わかったわ。でも、私もただ成り行きを見守るだけなんてまっぴらごめんよ。勝手にやらせてもらうわ。あいつは……あの男だけは絶対に……」
ジンダイジと名乗った男は、初めてリーブルの方へ顔を向けた。
「そうか……お前もなのか」
「え?」
だが、ジンダイジの声は唐突に切り替わった不安と期待を煽るような可笑しな音楽と、中央ステージ上に現れたギラギラとした趣味の悪いタキシードを着た男が突如始めたアナウンスによって掻き消された。
「さ~て、今宵も欲望に満ち満ちた最高の時間をお過ごしの紳士淑女の皆様方! なんと! ななななんとぉ~~~!! 本日来てくださった皆様には! このナイトクラブを経営するオーナー様より、特別なショーのプレゼントがございます!」
「「うおおおおおおおお!!」」
「「キャアアアアアアア!!」」
ジンダイジはタキシード男を見るなり露骨に口元を歪ませた。
リーブルは表でヒラツカ達が面倒に巻き込まれていると言った時でも、まだどこか余裕のある空気を保っていたジンダイジの様子が明らかに変わったことにより、一気に緊張感が高まるのを感じた。
「門番だ……クソッ、やられた」
「ドヴァーラ……何? なんなのそれ?」
「おいおい、まさか知らないのか? 使徒の上にいる奴等だ……あの野郎の側近中の側近共だよ」
「そんな……私に知らないことがあるなんて――」
今まで散々調べ尽くしてきたはずなのに、新しい情報がこの土壇場に来て出てくるなんて……と、思ったのも束の間――。
リーブルはスポットライトに照らされたタキシードの男が、こちらを見てニヤニヤと笑っているのをハッキリと確かめた。
「クカカカカカカ! ……お~っとっとっと~、こ~れはいけませんね~」
タキシードの男が蝶ネクタイに触れ、ブツブツと何かを囁いた。そして次の瞬間――。
――ドサドサ、ドサドサドサドサッ
ナイトクラブ中の人間が次々と意識を失い、その場に倒れた。
「ナ~イスコントロール! クカカカカカカ!!」
タキシードの男が何をしたのか不明だが、リーブルとジンダイジは即座に戦闘態勢に入った。
「あんた、戦えるのか」
「ええ、それなりにはね」
「自分の身ぐらいは頼んだぞ。子守りはごめんだ」
「ふん、あなたこそね」
スポットライトの向きが替わり、リーブルとジンダイジを照らし出した。それと同時にステージ上の男が再びアナウンスを始める。
「よ~こそいらっしゃいましたお二方、まずは前座と参りましょう。ではぁ……ショータイムぅぅ~! スタートぉぉおお!!」
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