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序章
1 吸血鬼の王
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異様に薄暗く長い廊下に足音が聞こえる。カツカツと反響するその音は、赤い絨毯越しにもかかわらず鳴り響き、足音を生み出す靴が非常に硬質な素材で造られていることを窺わせる。
蔦状の植物が這う大きな窓ガラスが、一瞬雷光に照らされ、窓ガラスの前に立った硬質な足音の発生源が外を見て独り言ちた。
「これは激しく降るな」
低い男の声だ。その時、少しの時間差を空けて雷鳴がゴロゴロと轟き、それに驚いた数十羽の烏が飛び立つ鳴き声が響いた。
「さて、今宵の嵐は何を運ぶ……」
「バラン様、バラン様」
今度は素っ頓狂な程に高い声だ。どこからか聞こえる高い声は、低い声の主をバランと呼んだ。
「ふむ。エゼルか、何用だ」
「侵入者! 侵入者!」
「侵入者だと……フフフ、何百年振りだろうな」
この口振りからすると、どうやら低い声の主は定命の者では無いらしい。
「300年! 300年!」
「エゼル、侵入者は何者だ。種族は」
「只人の娘! 只人の娘!」
「ほう……久々の来訪が只人の娘とはな。面白い」
窓ガラスが再び雷光に照らされ、低い声の主の顔が顕になった。低い声の主の瞳は紅く、ブロンドの髪は丁寧に撫でつけられたオールバック、顔は血の気が引いた蒼白だが中性的で美しくまるで高名な画家に描かれた1枚の絵画に出てくる貴人の様だ。だが、その口元には恐ろしく鋭い牙があった。服装は仕立ての良い真黒なスラックスに襟元まで走る細く紅いステッチが際立つフロックコート、そのコートの内には染み1つない真白なシャツに真紅のベスト、胸元には薔薇の中心にこれまた真紅の宝石が嵌め込まれた黄金のブローチが輝き、足元はつま先から指の大きさに沿って斜めに施された菱形のパッチワークが見事な革靴が映えた。
そんな贅の凝らされた服と装飾品を纏った吸血鬼は、ついぞ笑いを堪えきれず、その美しくも低い不思議な声で来訪者の歓迎を口にした。
「フッフッフッ……この吸血鬼の始祖であり最強の王、バランの居城へようこそ。フハハハハハ!」
「ようこそ! ようこそ!」
雷鳴と雨音に混ざった笑い声は、薄暗い廊下にしばらくこだまし続けた。
蔦状の植物が這う大きな窓ガラスが、一瞬雷光に照らされ、窓ガラスの前に立った硬質な足音の発生源が外を見て独り言ちた。
「これは激しく降るな」
低い男の声だ。その時、少しの時間差を空けて雷鳴がゴロゴロと轟き、それに驚いた数十羽の烏が飛び立つ鳴き声が響いた。
「さて、今宵の嵐は何を運ぶ……」
「バラン様、バラン様」
今度は素っ頓狂な程に高い声だ。どこからか聞こえる高い声は、低い声の主をバランと呼んだ。
「ふむ。エゼルか、何用だ」
「侵入者! 侵入者!」
「侵入者だと……フフフ、何百年振りだろうな」
この口振りからすると、どうやら低い声の主は定命の者では無いらしい。
「300年! 300年!」
「エゼル、侵入者は何者だ。種族は」
「只人の娘! 只人の娘!」
「ほう……久々の来訪が只人の娘とはな。面白い」
窓ガラスが再び雷光に照らされ、低い声の主の顔が顕になった。低い声の主の瞳は紅く、ブロンドの髪は丁寧に撫でつけられたオールバック、顔は血の気が引いた蒼白だが中性的で美しくまるで高名な画家に描かれた1枚の絵画に出てくる貴人の様だ。だが、その口元には恐ろしく鋭い牙があった。服装は仕立ての良い真黒なスラックスに襟元まで走る細く紅いステッチが際立つフロックコート、そのコートの内には染み1つない真白なシャツに真紅のベスト、胸元には薔薇の中心にこれまた真紅の宝石が嵌め込まれた黄金のブローチが輝き、足元はつま先から指の大きさに沿って斜めに施された菱形のパッチワークが見事な革靴が映えた。
そんな贅の凝らされた服と装飾品を纏った吸血鬼は、ついぞ笑いを堪えきれず、その美しくも低い不思議な声で来訪者の歓迎を口にした。
「フッフッフッ……この吸血鬼の始祖であり最強の王、バランの居城へようこそ。フハハハハハ!」
「ようこそ! ようこそ!」
雷鳴と雨音に混ざった笑い声は、薄暗い廊下にしばらくこだまし続けた。
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