消しゴムくん、旅に出る

泉蒼

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第十一章 夜の教室

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ここは、夜の四年生三組の教室。
 ぼくたちは、なんとか野良猫から逃げきることができました。
いつもとはちがう、まっ暗な教室で、じっと身をひそめています。
 ふだんはクラスのみんなでにぎやかな教室も、いまは誰もいません。
 ランドセルを入れる棚の一段目に、腰をかけたぼくは、
「シーンとしてるね。夜の教室って、いつもと様子がちがうんだね」
教室のゆかで、三角座りをするピン子とジョーに声をかけました。
「ま、夜だからな。にしても、おれはもうクタクタで、力がでねえ」
「じつはあたしね、いちどだけ小太郎くんに忘れられて、机の引き出しで一夜を過ごしたことがあるのよ。あのときは、心細くて怖かったなぁ……まったく、どうしてあたしを忘れるかなぁ、小太郎くんめ!」
 辺りは暗いけど、ピン子が笑顔でしゃべっていることは、想像がつきました。
 けれど、ぼくの胸はまだドキドキしています。
(桜の木から落下して、野良猫に追いかけられて……いまは、夜の教室にいるんだ)
 片目の鈴子に追いかけられたときは、もうダメだと、なんども思いました。
ぼくは一日をふりかえって、あらためて気がついたことがあります。
 ぼくの冒険は、想像していた冒険とはまるでちがっていて、外の世界はわくわくするけれど、やっぱり危険な場所だったのです。
(ほんとうなら、いまごろ家で、ケイタくんの漫画をながめているんだろうなぁ)
それがいまは、自分でも想像していなかった場所へとたどりついているのです。
一番気になるのは、やっぱり体の大きなあの猫です。
「ねえピン子。片目の鈴子は、教室までは追ってこないよね?」
「だいじょうぶよ。野良猫には、縄張り意識っていうのがあって、鈴子は校庭を自分の居場所にしているのよ。だからきっと、教室までは追ってこないと思うわ」
「縄張り意識か……そうなんだ、よかった……あ、あれ? ジョー、どこに行くの?」
 クタクタだと言っていたジョーは、いつのまにか立ち上がって、ランドセルを入れる棚の二段目にいました。
「なにか探してるの?」
上の段から、ガソゴソとなにかを探す音がしています。
「おっ、あった!」
ジョーの明るい声が聞こえたとたん、
ピカっ――――ピカピカっ!
 教室のゆかに、大きな円形の白い光が浮かびあがったのです。
「うわっ、明るくなった!」
 ぼくは、一段目の棚から飛び降りて、ピン子のとなりに走りました。
「電灯だぁ」
「ジョー、ナイスだわ」
 ランドセルを入れる棚の二段目から、目をほそめてしまうほどのまぶしい光線が、ぼくとピン子を照らしています。
「がっはは! どうだ、LEDライトの明かりはすげえだろっ? うちのサクラが、ここに置いていたのを思い出してな。まえに、ランドセルにこのライトをつけていたんだが、キーホルダーが壊れちまったようで、置きっぱなしにしていたんだよ」
 ジョーはライトを転がして、二段目の棚のふち辺りに設置しました。
「おれは高いところも苦手だが、暗いのも苦手だ」
 そう言って、ジョーが両手で棚にぶら下がると、
「よっ、とっ、おお、ひぃっ」
悲鳴をまじえつつ、教室のゆかに着地しました。
「ふぃ~。あいかわらず棚からゆかに着地するときが、いちばんドキドキするぜ。おっ、でもさっきとは比べ物になんねえほど、教室が明るくなったな、がっはは!」
「明かりがあるだけで、ぜんっぜん気分がちがうわねぇ……あ~っ、極楽~」
 ピン子はにっこり笑って、ゆかで大の字になりました。
「ほっとすると、ぼくもなんだか、眠たくなってきたよ……ふわあ」
 ゆかに寝転がったピン子を見ていると、あくびが出てしまいました。
「うふふ、つかれたでしょ? きょうは、ゴーにとって、はじめての経験ばかりだったものね」
「冒険がめじろ押しで、頭も心も、パンクしそうだよ」
目をこすると、ぼくはまた大きなあくびをしました。
「ふわあ~、もうダメだ」
するとジョーが、ランドセルを入れる棚の一段目を指さし、
「ゴー、あっちは明るいから、棚のなかでゆっくり寝てこいよ!」
 ぼくに、小太郎くんのランドセル棚で休めと言ってくれたのです。
「朝になったら、怖かったことなんか忘れて、すっかり元気になってるぜ」
「うん、そうだね」
ぼくは言われるがまま、一段目のまっ暗い棚に進みました。
歩くたびに、まぶたが重たくなって、ウトウトしてきます。
「……ああ、極楽だ。このまま、いくらでも眠れそうだよ」
ぼくは、棚の一段目で、あおむけになって寝転びました。
「ゴー、また明日ね」
「ゆっくり寝ろよ!」
「うん。ピン子とジョー、今日はありがとう。ぼくさきに寝るね……おやすみなさい」
「おやすみ~」
 ふたりの声が聞こえたとたん、ぼくは、ふかいふかい眠りへと導かれていきました。
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