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すべきこと
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すぐには返事も出来ない。そこまで言われなきゃ分かんなかった自分も、あの日の自分も……もう、消し去りたいくらい恥ずかしくて……瑞希にさえ見せる顔がなくて、俺はテーブルに肘をついて両手で顔を覆った。
「はぁ……マジかよ……」
先生を助けたい、喜ばせたいって考えるあまりの短絡的で軽率な行動……先生があれほど怒った理由がやっと分かって……分かれば分かるほどサイテーだった。
自分が絶対ああはなりたくないって思ってる親やその周りの大人たちと同じことをしたんだってことがショックで、情けなくて……しかも瑞希にまでそれを晒してさ……軽蔑してんじゃないかって、怖くて瑞希の顔を見れなかった。
そしたら……笑みを含んだ声が俺を呼んだ。
「しーちゃん。しーちゃんはそのまんまの気持ちでおち先生に謝ったらいいと思うよ。きっと分かってくれるよ」
静かで低い、包容力のある響きに励まされるようにそっと顔を上げると、瑞希の大きな黒目が店内の照明を反射してきらきら光ってた。
俺はそれを受け止めきれずにまた俯く。だってどの面さげて会いに行く?きっとドアすら開けてもらえない。
先生は俺にはもう会いたくないだろうってことが明確な理由を持って分かって、前よりももっと胸が苦しい……
賑やかな店内のざわめきが、俺と瑞希のいるテーブルを避ける様に流れてく。俺は、詰まったようになった胸の塊を吐き出すようにため息をついて、俯いたまままた窓の外に目をやった。
駅への出入りはさっきよりも増えてる。みんな、どこかに向かってる。俺は────
「俺……謝りに行く……」
静かに決意して言った。会うのが怖いけど……このまま謝らずに済ませることはやっぱり出来ない。
だって……やり方は間違ったけど、先生を助けたいって気持ちは本当だったんだ。
「うん、それがいいと思うよ」
瑞希が静かに背中を押してくれる。俺に冷たかった先生。本気で怒ってた先生。自分の道をたった一人で歩いてる先生は、決められたレールの上であがいてる俺からしたらもう、本当にかっこよくて……だからこそ、そんな先生を侮辱した自分の失言を放置したままには出来なかった。
「あのぉ……暁高の方ですよね?隣いいですかぁ?」
そわそわした様子の女の子3人組が声をかけて来たのに俺が返事をする前に、「ごめんね!もう出るんだ」と瑞希は立ち上がって、「しーちゃん、行こ」と言ってさっさと歩き出した。
改札をくぐった後、瑞希が突然「で?どっちなの?」と言いながら首をかしげてにこって笑って……なんの事か分からずに俺も同じように首を傾げた。
「どっちなの、って何が?」
「だから、おち先生の家」
「えっ…と…先生の家は俺んちと同じ方面だけど……っておい、なんでお前までそっちに行くの」
俺と瑞希の家は反対方向でいつもならここで別れるのに、瑞希が俺の乗る電車のホームの方へ歩き出したから、慌てて腕を掴んだ。
「謝りに行くんでしょ?」
「えっい、今から!?」
「そうそう、善は急げだよ! しーちゃんは色々考えすぎない方がいいの。今の、ぐじゃぐじゃ~なまま、正直な気持ちを話した方がぜぇったい上手くいくから!」
俺が掴んでた瑞希の腕が、ぐるりと逆に俺の腕を掴んでぐいぐい引っ張って歩き出す。
「待って、そんな、心の準備が……し、下書きがいるって!俺……このまんまじゃうまく言えない!」
「うまく言わなくていいの!ふふ、なに下書きって……スピーチじゃないんだから」
瑞希は容赦なくずんずん進んで、来た電車にさっさと乗り込んだ。
快速急行は夕闇迫る街並みを突っ切って走る。レールを滑る感覚とリズミカルに足裏に伝わるカタンカタンという継ぎ目の音。車内は帰宅ラッシュのちょっと手前のむうっとする混み具合。
そんな中……俺は事態を把握しきれずに呆然としてた。ついさっき、話したとこだ。瑞希に。で、今……先生の所に向かってる。
「なんでだ。どうしてこうなった……」
誰に言うともなく言うと、「ほらほら、余計な事考えないの」と笑った瑞希が出入り口のガラスに顔を近づけて目の両脇を手で覆うようにして外を見てる。
「大丈夫だよ、さすがに家までは付いてかないから。しーちゃんが行くのを見届けたら、俺は先に帰るね」
「先生……いないかもしれないだろ……」
「いなかったらいなかった時だよ」
なんというか……普段は穏やかで一切そういう所を出さない瑞希が見せる、有無を言わさない強引さがすべて俺のためなんだって思うと、すげぇじーんと来たって言うか、なんていいヤツだろうって……
だから……覚悟を決めた。今から、先生に謝りに行く。たとえ……先生が許してくれなくても……
「はぁ……マジかよ……」
先生を助けたい、喜ばせたいって考えるあまりの短絡的で軽率な行動……先生があれほど怒った理由がやっと分かって……分かれば分かるほどサイテーだった。
自分が絶対ああはなりたくないって思ってる親やその周りの大人たちと同じことをしたんだってことがショックで、情けなくて……しかも瑞希にまでそれを晒してさ……軽蔑してんじゃないかって、怖くて瑞希の顔を見れなかった。
そしたら……笑みを含んだ声が俺を呼んだ。
「しーちゃん。しーちゃんはそのまんまの気持ちでおち先生に謝ったらいいと思うよ。きっと分かってくれるよ」
静かで低い、包容力のある響きに励まされるようにそっと顔を上げると、瑞希の大きな黒目が店内の照明を反射してきらきら光ってた。
俺はそれを受け止めきれずにまた俯く。だってどの面さげて会いに行く?きっとドアすら開けてもらえない。
先生は俺にはもう会いたくないだろうってことが明確な理由を持って分かって、前よりももっと胸が苦しい……
賑やかな店内のざわめきが、俺と瑞希のいるテーブルを避ける様に流れてく。俺は、詰まったようになった胸の塊を吐き出すようにため息をついて、俯いたまままた窓の外に目をやった。
駅への出入りはさっきよりも増えてる。みんな、どこかに向かってる。俺は────
「俺……謝りに行く……」
静かに決意して言った。会うのが怖いけど……このまま謝らずに済ませることはやっぱり出来ない。
だって……やり方は間違ったけど、先生を助けたいって気持ちは本当だったんだ。
「うん、それがいいと思うよ」
瑞希が静かに背中を押してくれる。俺に冷たかった先生。本気で怒ってた先生。自分の道をたった一人で歩いてる先生は、決められたレールの上であがいてる俺からしたらもう、本当にかっこよくて……だからこそ、そんな先生を侮辱した自分の失言を放置したままには出来なかった。
「あのぉ……暁高の方ですよね?隣いいですかぁ?」
そわそわした様子の女の子3人組が声をかけて来たのに俺が返事をする前に、「ごめんね!もう出るんだ」と瑞希は立ち上がって、「しーちゃん、行こ」と言ってさっさと歩き出した。
改札をくぐった後、瑞希が突然「で?どっちなの?」と言いながら首をかしげてにこって笑って……なんの事か分からずに俺も同じように首を傾げた。
「どっちなの、って何が?」
「だから、おち先生の家」
「えっ…と…先生の家は俺んちと同じ方面だけど……っておい、なんでお前までそっちに行くの」
俺と瑞希の家は反対方向でいつもならここで別れるのに、瑞希が俺の乗る電車のホームの方へ歩き出したから、慌てて腕を掴んだ。
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「そうそう、善は急げだよ! しーちゃんは色々考えすぎない方がいいの。今の、ぐじゃぐじゃ~なまま、正直な気持ちを話した方がぜぇったい上手くいくから!」
俺が掴んでた瑞希の腕が、ぐるりと逆に俺の腕を掴んでぐいぐい引っ張って歩き出す。
「待って、そんな、心の準備が……し、下書きがいるって!俺……このまんまじゃうまく言えない!」
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瑞希は容赦なくずんずん進んで、来た電車にさっさと乗り込んだ。
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「大丈夫だよ、さすがに家までは付いてかないから。しーちゃんが行くのを見届けたら、俺は先に帰るね」
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なんというか……普段は穏やかで一切そういう所を出さない瑞希が見せる、有無を言わさない強引さがすべて俺のためなんだって思うと、すげぇじーんと来たって言うか、なんていいヤツだろうって……
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