ブレザーを脱ぎ捨てたら

ゆん

文字の大きさ
8 / 30

コーヒー

しおりを挟む
あれから先生の家に週に2,3度行くようになった。絵を描いてる最中だと「今日はだめ。帰れ」って追い返されたりもしたけど、そうじゃなければ上げてくれた。

お土産で何度か失敗した。一番ひどかったのはビールは無理だからってケーキとコーヒーの粉を持ってった時のこと。


「先生、コーヒーメーカーどこですか?」

「んなもん、あるわけねえだろ」

「え、じゃあコーヒーはどうやって飲むんですか」

「インスタントだよ」


インスタントコーヒーを見たことがなかった俺は、先生に瓶の中身を見せられた時、同じ粉なら溶けんじゃねえかなって思って、持ってきた粉に湯をかけてぐるぐるかきまぜた。

だってすごく美味しい豆を挽いてもらったから先生に飲んでもらいたくて……でも、挽いた粉が湯に溶けないって、やっちまってから気づいた。

そりゃそうだ。コーヒーメーカーで淹れた時、ちゃんとカスが出てるじゃん……

どうしようどうしよう、と思ってカップから必死ですくい取ってたら、様子を見に来た先生が大笑いしてさ……


「いや~有り得ねぇ~!」


そう言って俺の手からカップを持ってった。


「先生……粉がいっぱいですけど」

「もったいねえじゃん。まぁ、飲めんだろ」


でも結局、唇に付くしジャリジャリするし飲めたもんじゃなくて、俺は無理やり先生の手からカップを奪った。


「すみません。インスタント入れます」


流しに失敗作を捨てて、インスタントコーヒーの瓶に書いてある作り方をじろじろ睨む。


「ティースプーン山盛り2杯から2杯半……2杯なのか2杯半なのかはっきりしろよ……山盛りってどんだけだよ。どのくらいの山?」


悩んでも分かんなくて、結局すくい取れるぎりぎりの山にしてカップに入れた。


「150ミリリットルのお湯を注ぐ……150ってどのくらい……わっかんねぇ……」


そんな俺の目に流しの隅に置かれた空のペットボトルが映った。


「お、これ500ミリリットルだよな。ってことは……先生!物差しとマジックください」


奥の部屋の先生が、はぁ?って呟いて、何やってんのってこっちに来て……


「150ミリリットルを量りたいんです。ここにちょうどペットボトルがあるので……」


そうやって説明してる途中で、また先生は爆笑して……もう、すっげぇ不本意で……









「まぁ、しょうがないよね……?ほら、急にはさ」


久し振りに瑞希と出掛けた日曜日。

瑞希がステキだよ、という人気のカフェでクロックフレンチを一緒に食って……セットについてたコーヒーがなかなかうまくて、それで先生との一件を思い出して話したわけなんだけど……


「なんかさぁ……先生といると、俺、なんもできねぇやつみたいですっげぇヤダ」

「まぁまぁ。いいじゃん!そうやって一個ずつ覚えていけばいいわけだし!」

「まあな~……そうだけど……先生は呆れてるだろうなってさ……」

「いやいや、案外カワイイって思ってるんだって!」


瑞希はフォークを軽く振りながら茶目っ気たっぷりに笑う。


「カワイイなんて、やだよ。俺、先生に……なんつーか、もっとちゃんと相手して貰いたいっていうか……なんかいっつも軽くあしらわれてるからさぁ……」


そのせいだ。コーヒーをブラックで飲むようになったのは。飲めない訳じゃないけど、ほんとはラテが好きなのに。ラテって……つまりはコーヒー牛乳じゃん。なんか、子どもっぽいだろ……


「でもさ。それは仕方ないよ。だって10コ違うんだもん。俺らで言ったら小1の子ってことでしょ?」

「うっ……そうやって例えたらすげぇな……」

「そりゃ寂しいときもあるよね、ガキ扱いしてって。でも………年の差だけは、どーしようもない。一生追い付けないんだもん」


瑞希は小さくふ、とため息をついて、テーブルに飾られたミニひまわりの一輪挿しに目をやった。

なんかさ。そこに妙なリアリティーを感じたんだ。俺に共感してる、その深さっつーか……


「あ、もしかしてお前も年上の……憧れてる人がいんの?」


ほぼ、返事は「うん、実はそうなんだー」ってのを想定してた。そしたら…瑞希のやつ、えっ…いやっ……えっと……って、なんかいきなりしどろもどろになってさ。


「え、え、なにその反応……ええっ!も、もしかして!!年上の彼女!?」

「いや……はは…あの……まぁ……そう、かな」

「なんだよーー!いつから!?ひでえよ、教えろよーー!!」


瑞希のやつ、しまったなぁって顔しててさ……地味に傷つく。教えてくれてもいいじゃんって。

何でもかんでも話して欲しい訳じゃないけど……でも瑞希の初めての彼女のはず。中学の時はいなかったって言ってたから。結構言いたいもんなんじゃねえの?それとも他のやつには言ってんのかな……


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

FBI連邦捜査官: The guard FBI連邦捜査官シリーズ Ⅲ

蒼月さわ
BL
脅迫状が届いたニューヨーク市長を護衛するためFBIから派遣された3人の捜査官たちの活躍を書いた表題作他、表向きは犬猿の仲、けれど裏では極秘に付きあっているクールで美形な金髪碧眼のエリート系×ジョーク好きな男前のセクシィ天然イタリア系の二人を中心とした本編「FBI連邦捜査官シリーズ」の番外編や登場人物たちの短いエピソードなど。 以前にアルファさんで連載していたアメリカを舞台に事件を捜査する連邦捜査官たちの物語です。 表紙イラストは長月京子様です。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...