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第1話 濡れ衣を着せられる令嬢
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「シルヴィア・ディミトゥール、お前との婚約は破棄させてもらう!」
ルース・ハルツハイム第二王子殿下の突然の言葉が舞踏夜会に響き渡ると、楽団の演奏と優雅なざわめきもがぴたりと止んだ。優雅な香水の香りと豪華絢爛なシャンデリアの光が揺れるなか、押し黙った緊張が広々とした会場に染みこんでいく。
私は静かに深緑色の眼を細め、ルース殿下を見つめた。彼には呆れてしまっているが、できるだけ顔には出さないようにしている。
「突然なにをおっしゃるのかと思えば……。そんなこと国王陛下がお許しになるとでもお思いなのですか?」
ルース殿下ったら、最近懇意になさっている令嬢がおできになりましたものね。ほんと、浮気男って質が悪いわ。
でも彼と私との婚約は王命。国王陛下が定めた取り決めなのですから、そう簡単には覆らないわよ?
「ぐっ……!」
ルース殿下の顔が紅潮し、その青い瞳は怒りと動揺が滲んだ。
苦しそうにぎゅっと胸元を握りしめる彼の指が、小刻みに震えている。
「お、お前。犯人のくせに国王陛下の権力の衣を着るとは小賢しい奴め……!」
別に国王陛下の権力なんか着てないわよ、私は事実を申し上げたのみですわ。それより――。
「は? 犯人? 私が?」
――ここは王宮にある、大きくて豪華な広間。
私は瞳の色に合わせた深緑色のドレスを着て、歓談する人々のなかに溶け込んでいるつもりだった。だがこともあろうに第二王子殿下がこんな発言をしたものだから、私の努力など無に帰してしまっている。
周囲の貴族たちがようやく驚愕から立ち直り、興味を持って私をチラチラと覗き見し始めていた。
「婚約破棄……?」「犯人ってどういうこと?」
ああ……。パーティー会場で婚約破棄なんかしたものだから、皆様当惑しちゃってるわね。
私は軽く肩をすくめてみせた。
「殿下。私、なにか罪を犯しましたでしょうか? 図書館の本はちゃんと貸出期限内に返しましたけれど」
「そんな浅いことではない!」
そこそこ美形のハルツハイム王国第二王子――金髪碧眼のルース殿下が、青い瞳を憎々しげに歪ませて私を睨んでくる。
「お前は大変なことをしでかしたではないか、まさに王命であるお前との婚約を破棄するに値するような大事件をな!」
「そうですわぁ、大事件大事件、大事件なのですぅ~!」
いつの間にか殿下の腕にしなを作って抱きついていたピンク髪男爵令嬢が、はしゃぎながらにこにこ笑顔でまくし立てている。
彼女はルース殿下が最近懇意にされている浮気相手、男爵令嬢ルミナ・ランバーズだ。
でも、ねぇ。いくらなんだって婚約者である私の前でこんなベッタリするのはどうなのかしらね。
私は軽く咳払いをした。
「ルミナ様、ごきげんよう。パーティーを楽しんでいらっしゃるようで何よりですわ。でも、仮にも殿下の婚約者である私の眼の前でそのような態度をとるのはいかがなものでしょうか。秘する恋をお楽しみになりたいのでしたら、もう少し節度のある行動をされてはいかがです?」
「きゃー!」
ルミナ様はわざとらしく声をあげた。見た感じ、この状況を楽しんでいるとしか思えないような底抜けの笑顔である。
「こわいですぅ! 伯爵令嬢様に睨まれちゃいましたぁ」
「別に睨んでなどおりません」
そりゃ確かに目つきが鋭いとはよくいわれるけど……別にルミナ様を睨んだりはしていないわよ。ただ呆れてるだけだわ。
だがルース殿下は怯えたように頷いたのだった。
「ああ、怖いよなルミナ。シルヴィアは怖いんだよ。あれは鷹の目……、獲物を狙う猛禽類の目だ。白銀の髪をしているから、まさに白鷲――」
「殿下? これ以上失礼なことおっしゃり続けるようでしたら、いくら殿下といえども正式な抗議をさせていただきましてよ?」
だが殿下は私の言葉など無視し、ルミナ様に向かってそれはそれは頼もしげな笑顔で頷いたのだった。
「ルミナよ、安心せよ。お前のことはこの俺が必ず守ってやるぞ!」
「殿下かっこいー!」
ルミナ様は喜色を浮かべて殿下の腕にしがみつく。豊満な胸が殿下の腕でひしゃげて、殿下は一瞬鼻の下を伸ばしかけたがすぐに顔を引き締めた。でも口元がにやけている。
なにこれ……。
私は思わず額に手を当てて目を閉じる。まったく。何見せられてるのよ、私は。
「で? 私が犯人という話はどうなりました? あなた方のおもしろ茶番よりそちらのほうが気になりますわ」
「ふん、白々しい。バレているのだぞシルヴィア、お前がルミナにしたことはな!」
「私、ルミナ様とはほとんど面識がありませんけど。そんな私がいったいなにをしたというのです?」
彼女とは、一度だけ挨拶を交わしたことがあるだけだった。
三ヶ月ほど前にルース殿下にお会いした折、殿下の横にぴったりくっついたから挨拶せざるを得なかったのだ。
そのときは、ピンク色のドレスを着ている彼女を見て、ああピンクだわね、ピンクがお好きなのかしら――と、そんな当たり前の感想を持ったに過ぎなかったのだが。
あとで、あれはルース殿下に取り入ろうとしているランバーズ男爵家の令嬢だとの噂を耳にしても、特に何も思わなかった。
まさか殿下が、婚約者のいる男性にすり寄ってくる令嬢を本気にするとは思わなかったのだ。
思えばそれがよくなかった。きちんとルース殿下とルミナ様に注意をすればよかった。
ルース殿下には、婚約者がいる身でほかの女性にちょっかい掛けるものではありませんよ、と。ルミナ様には、婚約者がいる男性を狙うのでしたらもっと影で動くことですわね、とね。
だが、次の瞬間、予想もしないルース殿下の言葉に私は我が耳を疑ってしまった。
「お前、ルミナを殺そうとしたそうではないか!」
「は?」
え? なに言ってるの、この人?
ルース殿下の言葉に会場全体も凍り付いている。
殿下は思わずポカンとしてしまった私を、ビシッと指差した。
「探偵令嬢のくせに犯人とはどういう了見をしている! このっ、ほんとは真犯人系探偵め!」
「は?」
真犯人系探偵……、確かにそういう探偵もいるけれど。でもそれって禁じ手よ。私はあまり好きじゃない。
じゃ、なくて。
え? ――犯人? 私が? なんの? ああ、ルミナ様を殺そうとした……って、なにそれ?
ルース・ハルツハイム第二王子殿下の突然の言葉が舞踏夜会に響き渡ると、楽団の演奏と優雅なざわめきもがぴたりと止んだ。優雅な香水の香りと豪華絢爛なシャンデリアの光が揺れるなか、押し黙った緊張が広々とした会場に染みこんでいく。
私は静かに深緑色の眼を細め、ルース殿下を見つめた。彼には呆れてしまっているが、できるだけ顔には出さないようにしている。
「突然なにをおっしゃるのかと思えば……。そんなこと国王陛下がお許しになるとでもお思いなのですか?」
ルース殿下ったら、最近懇意になさっている令嬢がおできになりましたものね。ほんと、浮気男って質が悪いわ。
でも彼と私との婚約は王命。国王陛下が定めた取り決めなのですから、そう簡単には覆らないわよ?
「ぐっ……!」
ルース殿下の顔が紅潮し、その青い瞳は怒りと動揺が滲んだ。
苦しそうにぎゅっと胸元を握りしめる彼の指が、小刻みに震えている。
「お、お前。犯人のくせに国王陛下の権力の衣を着るとは小賢しい奴め……!」
別に国王陛下の権力なんか着てないわよ、私は事実を申し上げたのみですわ。それより――。
「は? 犯人? 私が?」
――ここは王宮にある、大きくて豪華な広間。
私は瞳の色に合わせた深緑色のドレスを着て、歓談する人々のなかに溶け込んでいるつもりだった。だがこともあろうに第二王子殿下がこんな発言をしたものだから、私の努力など無に帰してしまっている。
周囲の貴族たちがようやく驚愕から立ち直り、興味を持って私をチラチラと覗き見し始めていた。
「婚約破棄……?」「犯人ってどういうこと?」
ああ……。パーティー会場で婚約破棄なんかしたものだから、皆様当惑しちゃってるわね。
私は軽く肩をすくめてみせた。
「殿下。私、なにか罪を犯しましたでしょうか? 図書館の本はちゃんと貸出期限内に返しましたけれど」
「そんな浅いことではない!」
そこそこ美形のハルツハイム王国第二王子――金髪碧眼のルース殿下が、青い瞳を憎々しげに歪ませて私を睨んでくる。
「お前は大変なことをしでかしたではないか、まさに王命であるお前との婚約を破棄するに値するような大事件をな!」
「そうですわぁ、大事件大事件、大事件なのですぅ~!」
いつの間にか殿下の腕にしなを作って抱きついていたピンク髪男爵令嬢が、はしゃぎながらにこにこ笑顔でまくし立てている。
彼女はルース殿下が最近懇意にされている浮気相手、男爵令嬢ルミナ・ランバーズだ。
でも、ねぇ。いくらなんだって婚約者である私の前でこんなベッタリするのはどうなのかしらね。
私は軽く咳払いをした。
「ルミナ様、ごきげんよう。パーティーを楽しんでいらっしゃるようで何よりですわ。でも、仮にも殿下の婚約者である私の眼の前でそのような態度をとるのはいかがなものでしょうか。秘する恋をお楽しみになりたいのでしたら、もう少し節度のある行動をされてはいかがです?」
「きゃー!」
ルミナ様はわざとらしく声をあげた。見た感じ、この状況を楽しんでいるとしか思えないような底抜けの笑顔である。
「こわいですぅ! 伯爵令嬢様に睨まれちゃいましたぁ」
「別に睨んでなどおりません」
そりゃ確かに目つきが鋭いとはよくいわれるけど……別にルミナ様を睨んだりはしていないわよ。ただ呆れてるだけだわ。
だがルース殿下は怯えたように頷いたのだった。
「ああ、怖いよなルミナ。シルヴィアは怖いんだよ。あれは鷹の目……、獲物を狙う猛禽類の目だ。白銀の髪をしているから、まさに白鷲――」
「殿下? これ以上失礼なことおっしゃり続けるようでしたら、いくら殿下といえども正式な抗議をさせていただきましてよ?」
だが殿下は私の言葉など無視し、ルミナ様に向かってそれはそれは頼もしげな笑顔で頷いたのだった。
「ルミナよ、安心せよ。お前のことはこの俺が必ず守ってやるぞ!」
「殿下かっこいー!」
ルミナ様は喜色を浮かべて殿下の腕にしがみつく。豊満な胸が殿下の腕でひしゃげて、殿下は一瞬鼻の下を伸ばしかけたがすぐに顔を引き締めた。でも口元がにやけている。
なにこれ……。
私は思わず額に手を当てて目を閉じる。まったく。何見せられてるのよ、私は。
「で? 私が犯人という話はどうなりました? あなた方のおもしろ茶番よりそちらのほうが気になりますわ」
「ふん、白々しい。バレているのだぞシルヴィア、お前がルミナにしたことはな!」
「私、ルミナ様とはほとんど面識がありませんけど。そんな私がいったいなにをしたというのです?」
彼女とは、一度だけ挨拶を交わしたことがあるだけだった。
三ヶ月ほど前にルース殿下にお会いした折、殿下の横にぴったりくっついたから挨拶せざるを得なかったのだ。
そのときは、ピンク色のドレスを着ている彼女を見て、ああピンクだわね、ピンクがお好きなのかしら――と、そんな当たり前の感想を持ったに過ぎなかったのだが。
あとで、あれはルース殿下に取り入ろうとしているランバーズ男爵家の令嬢だとの噂を耳にしても、特に何も思わなかった。
まさか殿下が、婚約者のいる男性にすり寄ってくる令嬢を本気にするとは思わなかったのだ。
思えばそれがよくなかった。きちんとルース殿下とルミナ様に注意をすればよかった。
ルース殿下には、婚約者がいる身でほかの女性にちょっかい掛けるものではありませんよ、と。ルミナ様には、婚約者がいる男性を狙うのでしたらもっと影で動くことですわね、とね。
だが、次の瞬間、予想もしないルース殿下の言葉に私は我が耳を疑ってしまった。
「お前、ルミナを殺そうとしたそうではないか!」
「は?」
え? なに言ってるの、この人?
ルース殿下の言葉に会場全体も凍り付いている。
殿下は思わずポカンとしてしまった私を、ビシッと指差した。
「探偵令嬢のくせに犯人とはどういう了見をしている! このっ、ほんとは真犯人系探偵め!」
「は?」
真犯人系探偵……、確かにそういう探偵もいるけれど。でもそれって禁じ手よ。私はあまり好きじゃない。
じゃ、なくて。
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