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第24話 ありがたい忠告
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「ええと……、君は巫貴妃様の世話女官の亮家麗を知っているよな?」
世臣さんは慎重にそう言った。
あくまでも男装している私たちを別人として扱ってくれる、ということなのだろう。
「はいっ、あの、わた……いえ、よく存じ上げておりますぅ……」
家麗さんがあやうく自己紹介してしまうところだった。
男装して後宮を抜け出してきているから、自分だ、とはいえないのよね、今は……。
「では、君を後宮関係者の少年と見込んでひとつ伝言を頼みたいのだが、いいかな」
「はい、も、もちろんですわ」
と、家麗さんは頷いた。
「……今夜、君の主人は身ぎれいにしておいたほうがいい、と亮家麗に伝えてほしい」
「ふぁっ、ふぁっ!?」
家麗さんの声がまた一段と裏返った。しかも顔も真っ赤になっている。
「いや、なにぶん後宮が開かれて依頼初めてのことになるからな。準備するものも多いだろうと思ってな……」
「……そ、それってあの、そういう……?」
「ああ。君も世話女官なら知っているだろう? いろいろと頑張るんだぞ……と、亮家麗に伝えていただけるとありがたい」
うろたえまくる家麗さんに、世臣さんは優しく微笑んでみせた。
「私の直感はよく当たるんだ。龍帝陛下に失礼があってはいけないので……、一応、話を通しておこうかと思ってね」
「そ、そうでございますか……!」
世臣さんは家麗さんの言葉を聞いて満足げに微笑むと、私に向き直った。
「……では、自分はこれで失礼いたします」
「ええ、じゃあね。雇い主によろしく。こっちの伝言くれぐれも忘れないでよ」
「はい、かしこまりました」
「あっ、あのっ」
くるりと背を向け去って行こうとする世臣さんに、家麗さんが真っ赤な顔で声を掛けた。
「ん? なにかな?」
「あ、ありが……」
そこまで言って、彼女は口をつぐんだ。そして、ちょこんと小さく膝を折り曲げる礼をした。
「ありがとうございます、世臣様!」
世臣さんは一瞬目を丸くしたけれど、すぐに優しげに笑って去っていったのだった。
……なんか、すごいデキる人なのかも。そんなふうに思わせる去り方だった。
で、その場に残された私と家麗さんは……。
「どっ、どうしましょうどうしましょうっ」
「え? なにが?」
さっきから何を動揺してるのかしらね、この人は?
「えっとですね。今宵、巫貴妃様に龍帝陛下のお渡りがあるかもしれないと。そうあの方はおっしゃっておいでなのですわっ」
「は!? なにそれ!?」
……お渡りって、夜伽のことよね!?
って、ちょっと待って。
後宮を嗅ぎ回るを人を見つけたら龍帝が夜伽しにくるですって!?
これって、雇い主が龍帝陛下だって答え合わせみたいなものじゃないの!
「こっちは明日、龍帝陛下に伺候するのよ? 明日よ、明日。一晩も待てないっていうの? 今までさんざん放っておいたくせになんなのよ、急にがっつきすぎでしょ」
どんな心境の変化があったのかは知らないけどさ。いくらなんでも急展開が過ぎない?
男装した私のこと捜させてたみたいだし、そのことと何か関係があるのかしらね……。
「おおおおお落ち着ついてください、巫貴妃様。後宮に入ったのです、いつ何時そのようなことがあってもおかしくないのですわっ!!!」
家麗さんが面白いくらいわたわたしてる。男装してるのに『巫貴妃様』とか言っちゃってるし……。
「家麗さんこそ落ち着いて。私は大丈夫だから」
最初こそびっくりしたけど、もう落ち着いたわ。
……それが目的でここに来たのだしね。お渡りを利用して暗殺するまでよ!
でも本当に来るの?
「す、すみません。わたしがしっかりしないといけないのに取り乱してしまい……。急いで後宮に戻りましょう!」
「ええ、そうね」
いろいろ作戦練らないとね。暗殺のための短刀の隠し場所とか、立ち回りとか。
「わたしだって後宮女官ですわ、夜伽についての教育は受けております。おそばにおりますわよ、巫貴妃様。もしもの時はわたしがお助け致しますから遠慮なく申しつけてくださいませっ!」
「そ、そう。ありがとう……」
家麗さんが近くにいる……? それはそれで困るわね。暗殺の邪魔になる。なんとかして遠ざけないと……。
「それでは早速参りましょうか。準備することは多いですわよっ!」
「ええ……、そうね」
ふぅ、と息を吸い込む。いつのまにか心臓がドキドキしていた。
そういえば、明日のために謁見の間たる太龍殿を見に行くってことだったけど……それどころじゃなくなってしまったわね。
落ち着くのよ、私。
ようやく巡って来た機会よ、ヘマなんかせずに必ず仕留めるのよ!
でも、龍帝のやつ本当に来るのかしらね? 世臣さんがいってるだけなんだけど……。
世臣さんは慎重にそう言った。
あくまでも男装している私たちを別人として扱ってくれる、ということなのだろう。
「はいっ、あの、わた……いえ、よく存じ上げておりますぅ……」
家麗さんがあやうく自己紹介してしまうところだった。
男装して後宮を抜け出してきているから、自分だ、とはいえないのよね、今は……。
「では、君を後宮関係者の少年と見込んでひとつ伝言を頼みたいのだが、いいかな」
「はい、も、もちろんですわ」
と、家麗さんは頷いた。
「……今夜、君の主人は身ぎれいにしておいたほうがいい、と亮家麗に伝えてほしい」
「ふぁっ、ふぁっ!?」
家麗さんの声がまた一段と裏返った。しかも顔も真っ赤になっている。
「いや、なにぶん後宮が開かれて依頼初めてのことになるからな。準備するものも多いだろうと思ってな……」
「……そ、それってあの、そういう……?」
「ああ。君も世話女官なら知っているだろう? いろいろと頑張るんだぞ……と、亮家麗に伝えていただけるとありがたい」
うろたえまくる家麗さんに、世臣さんは優しく微笑んでみせた。
「私の直感はよく当たるんだ。龍帝陛下に失礼があってはいけないので……、一応、話を通しておこうかと思ってね」
「そ、そうでございますか……!」
世臣さんは家麗さんの言葉を聞いて満足げに微笑むと、私に向き直った。
「……では、自分はこれで失礼いたします」
「ええ、じゃあね。雇い主によろしく。こっちの伝言くれぐれも忘れないでよ」
「はい、かしこまりました」
「あっ、あのっ」
くるりと背を向け去って行こうとする世臣さんに、家麗さんが真っ赤な顔で声を掛けた。
「ん? なにかな?」
「あ、ありが……」
そこまで言って、彼女は口をつぐんだ。そして、ちょこんと小さく膝を折り曲げる礼をした。
「ありがとうございます、世臣様!」
世臣さんは一瞬目を丸くしたけれど、すぐに優しげに笑って去っていったのだった。
……なんか、すごいデキる人なのかも。そんなふうに思わせる去り方だった。
で、その場に残された私と家麗さんは……。
「どっ、どうしましょうどうしましょうっ」
「え? なにが?」
さっきから何を動揺してるのかしらね、この人は?
「えっとですね。今宵、巫貴妃様に龍帝陛下のお渡りがあるかもしれないと。そうあの方はおっしゃっておいでなのですわっ」
「は!? なにそれ!?」
……お渡りって、夜伽のことよね!?
って、ちょっと待って。
後宮を嗅ぎ回るを人を見つけたら龍帝が夜伽しにくるですって!?
これって、雇い主が龍帝陛下だって答え合わせみたいなものじゃないの!
「こっちは明日、龍帝陛下に伺候するのよ? 明日よ、明日。一晩も待てないっていうの? 今までさんざん放っておいたくせになんなのよ、急にがっつきすぎでしょ」
どんな心境の変化があったのかは知らないけどさ。いくらなんでも急展開が過ぎない?
男装した私のこと捜させてたみたいだし、そのことと何か関係があるのかしらね……。
「おおおおお落ち着ついてください、巫貴妃様。後宮に入ったのです、いつ何時そのようなことがあってもおかしくないのですわっ!!!」
家麗さんが面白いくらいわたわたしてる。男装してるのに『巫貴妃様』とか言っちゃってるし……。
「家麗さんこそ落ち着いて。私は大丈夫だから」
最初こそびっくりしたけど、もう落ち着いたわ。
……それが目的でここに来たのだしね。お渡りを利用して暗殺するまでよ!
でも本当に来るの?
「す、すみません。わたしがしっかりしないといけないのに取り乱してしまい……。急いで後宮に戻りましょう!」
「ええ、そうね」
いろいろ作戦練らないとね。暗殺のための短刀の隠し場所とか、立ち回りとか。
「わたしだって後宮女官ですわ、夜伽についての教育は受けております。おそばにおりますわよ、巫貴妃様。もしもの時はわたしがお助け致しますから遠慮なく申しつけてくださいませっ!」
「そ、そう。ありがとう……」
家麗さんが近くにいる……? それはそれで困るわね。暗殺の邪魔になる。なんとかして遠ざけないと……。
「それでは早速参りましょうか。準備することは多いですわよっ!」
「ええ……、そうね」
ふぅ、と息を吸い込む。いつのまにか心臓がドキドキしていた。
そういえば、明日のために謁見の間たる太龍殿を見に行くってことだったけど……それどころじゃなくなってしまったわね。
落ち着くのよ、私。
ようやく巡って来た機会よ、ヘマなんかせずに必ず仕留めるのよ!
でも、龍帝のやつ本当に来るのかしらね? 世臣さんがいってるだけなんだけど……。
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