猫たちの挽歌(ばんか)

木葉風子

文字の大きさ
上 下
4 / 6

ボス猫の住処

しおりを挟む
「ここが奴の住処なんだ」
塀の上から一軒の家を眺める
「おとなしく家猫に収まる奴
じゃないよな!」
誰もいないか確認して
塀の上から下へ降りるミド
家の方へちかづいていく

「ワン ワン ワン!」

隣の柴犬が鳴きだした
犬の方へ近づくミド
小屋から出て彼を見る柴犬
「僕のこと怖くないのか?」
「どうしてさ?」
「だって猫よりは犬の方が
大きくて強いからさ」
「どこが?俺たちの方が
よっぽど自由だけどな!」
「確かにね!」
鎖に絆がれている犬と
自由に走り廻る猫

「君に聞きたいことがある」
彼に質問するミド
「いったい何が聞きたいの?」
「隣の猫のことだけど…」
「彼がどうかしたのかい?」
「イヤ!ただね
おとなしく飼われてるような
奴じゃないと思うんだけど」
暫く考え込みミドを見る柴犬

「それはね…あの家の
女の子の為だよ」
「女の子…?」
おもわず聞き返すミド
「彼がいなくなると女の子が
寂しがるからね」
隣の家の二階を見る柴犬
「寂しがるって…」
「病院から帰って来て
いなかったら泣いちゃうよ
女の子にとっては彼は唯一の
友達だからさ」
「病院?」
柴犬を見る緑の瞳
「うん、ほとんど病院なんだ
たまにしか帰ってこない…」
「そうなんだ…」
「あまり良くないみたい…」
寂しげな顔になる柴犬
「それであいつは…」
「彼がどうかしたの?」
ミドに聞く柴犬
「イヤ、何でもないよ
ありがとう」
犬小屋の上から塀へと
飛び移るミド

公園に戻って来た三匹
「ミド、いないね」
ため息をつくアオ
「夜には戻って来るさ」
毅然と言い切るチャー
「僕もそう思うよ」
優しくアオを見つめるクロ
「うん、わかってるよ」

太陽はまだ空の真上
朝の緊張がほぐれて
眠っているアオ
隣で見守っているクロ
「どうする気なの?」
「えっ!?」
チャーがクロに問いただす
「もし、アオがここに居たい
っていったらさ」
「だから、自由にすれば…」
「オレが聞きたいのは
クロの本心だよ」
真剣な瞳でクロを見つめる
「チャー」

「俺も、是非ききたいね!」
何処からか戻って来たミド
クロを睨みつける
「僕は…」
答えようとしないクロ
「それがおまえの答え…か」
納得した表情のミド
わからいという表情のチャー
アオの寝顔を見つめるクロ
「あいつも今のおまえと
同じかもね」
クロを見てニヤリと笑うミド
「あいつ?」
二匹が彼を見た
「ボス猫だよ」

「あいつのこと
しらべてたんだ!」
チャーがミドに訊ねる
「僕と同じって…?」
クロがミドを睨む
「大好きな女の子と一緒に
居たいからなんだ」
「それがどうしてクロと
一緒なんだよ?」
疑問を言うチャー
「誰だって好きな奴と
一緒に居たいだろ!」
「うん。そうだね!」
はにかんだ顔のチャー
相変わらず寝ているアオ

たとえどんな厳しい環境でも
自分のことを認めてくれたら
それだけで、生きていける

「フニァーあ~」
アオが目を覚ます
「よく寝られるなぁ」
呆れた表情のミド
寝ぼけ眼の先に彼を見つける
「戻って来たの!」
ミドにまとわりつくアオ
「こら、アオ、やめろ」
はしゃぎ廻る
しおりを挟む

処理中です...