こもれ日の森

木葉風子

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オオカミ谷の四季

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春 出会い

シルバーのたて髪
グリーンの瞳をもった
オオカミ
仲間をつくらず
いつも ひとりぼっち

母親を亡くした
キツネの子

彼らの出会いは
大きな木の下
親を亡くした
キツネの子と
ひとりぼっちの
オオカミ

ある日の雪の朝
なごり雪が残る木の下
冷たくなった母ギツネ
お腹をすかして鳴く
キツネの子

オオカミは
キツネの子を
家に連れて
帰りました

夏 ふれあい

やんちゃざかりの
キツネの子
一時もじっと
していません

森の中を
あっちへ行ったり
そっちへ行ったり…

オオカミは心配で
たまりません
森には危険が
いっぱい!

そんなある日
空が薄暗くなっても
帰ってこない
オオカミは森の中を
探し回る
どんどん日が
暮れていきます

川に落ちたのか
森の奥で迷子に
なったのか
それとも…
誰かに食われたか

  キィー
あの声は……!
慌てて走りだす

そこには
オオカミの群れに
囲まれたキツネの子
群れの中に割って入る
オオカミ

群れのボスと
にらみ合う
冷たく光る
グリーンの瞳
鋭く光る瞳の力に
逃げだすオオカミたち

もう大丈夫だよ
彼を見て安心する
キツネの子
優しい瞳で見つめる
オオカミ

まるでほんとの
親子のような
オオカミとキツネの子

秋 仲間

オオカミ谷にいる
たくさんのオオカミ
誰ともふれあえない彼
他の仲間から
つけられた名前が

ーひとりぼっちー

ても、気にもしない
なのに、気になる
キツネの子

冗談じゃない!
どうして
おまえのことが…

どうして
こんなめに
合わなきゃ
いけないんだ!

でも、甘えてくる
キツネの子
とうしてだか
優しく抱きしめる

ある日
散歩中のこと
森の外れの川むこう
何かがいる
おもわず見つめる
キツネの子

彼が見たのは
キツネの親子
彼の側にいる
オオカミを見て
急いで逃げる
母ギツネ
でも、子ギツネは
オオカミの側にいる
キツネと見つめ合う

そう キツネの子は
いまでは立派なキツネ
彼にとって
初めて見た仲間
でも
母ギツネと一緒に
逃げていった

ーあれはいったい誰?ー

初めて見た自分と
同じ姿をした仲間

冬 別れ

あれ以来、あのキツネの
ことばかり考える
それを見つめる
オオカミ
彼にはわかっていた

いつまでも一緒に
いられるわけがない
もう 子離れのときが
近づいている

わかってるさ…

寂しげに瞳を閉じる
オオカミ

あの日以来
森の外れに来るキツネ

…なぜだろう

自分と同じ姿をした親子
大きくなるにつけ
彼とは違うんだって

でも いつまでも
一緒にいられる
そう思ってたけど…

でも 違うのかも
きっと自分は
あの親子の仲間

他にも
いるんだろうか?

そして家に
帰ってきたけれど
遠くの空を寂しげに
見つめるキツネ
その様子を見るオオカミ

翌朝
森の外れに来る
いきなりキツネに
襲いかかるオオカミ
驚いて逃げるキツネ

彼は執拗に追いかける
そして 
オオカミ谷の外れまで
来てしまった
どうして
追いかけられるのか
とまどいながら走る

ーどうしてー

ーあたりまえだ!
おまえは餌なんだー

ーうそだ!ー

ーいいか!
俺はオオカミ
おまえはキツネ
喰うか 喰われるか
そんな関係なんだ!

ここはオオカミ谷
おまえなんかが
いる所じゃない!
さっさと
仲間の所へ帰れ!ー

そう言うとオオカミは
森へ帰って行った

  ケーン

キツネは大きい声で
何度も叫びました
けれども一度も
振り向くことなく
森の中へ消えてしまった
オオカミ

ひとりぼっちになった
キツネ
ふと森の外れを見る
あの親子のキツネ
そして親子の
後をついていく

遠くから
そして徐々に
近くへ

やがて影は三つに
重なり消えていく

また昔に戻っただけさ
ひとりぼっちのオオカミ
彼はひとり
でも ひとりだけど
でも彼は
ひとりぼっちじゃない

 
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