桜色の思いで

木葉風子

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翌日
ベッドに寝て点滴をする
何気なく窓を見た
三階からだと
桜の木が見下ろせる
花壇の花は少しづつ
芽をだして茶色い土に
緑が映えている
誰もいない中庭
雀だろうか小鳥の声
だけが賑やかだ

❨あの人
今日はいないのかなぁ❩

そんなことを考えていた
ガチャリとドアが開き
神谷医師が入って来た

「どう?具合は…
熱は下がってる
みたいだけどね」

昨日までは39℃あった熱
今日は37℃まで下がった

私の場合
普通の人より
免疫力が弱いので
少しの熱や菌には
要注意なんだって…

❨自分ではすっかり
元気なつもりなのに❩

「不満そうね」

「だって…」

「死ぬかもしれない
病気したんだから
神経質になるのは当然よ」

「うん…」

「あと三十分位かかるわね」

残りの点滴を確認した

「退屈ね」

「うん…」

「でもね
この部屋は特等席よ」

「えっ?」

「この窓からは
中庭見えるでしょ
今はまだ茶色の枝
ばかりだけど
もう少ししたら中庭が
ピンクに染まるから
凄く綺麗よ!」

「あっという間に咲いて
あっという間に散る」

昨日の彼の言葉を思いだす

「ねぇ、先生」

おもわず神谷を見る

❨先生とあの人
知り合いなの?❩

喉の奥まで出かかった言葉を
ゴクッと飲み込んだ

「何?詩織ちゃん」

「あの…ううん、
何でもない」

「そう…?
じゃああと少し
おとなしくしててね」

そう言って部屋を
出ていった神谷

❨どうしてこんなに
気になるんだろう…

昨日、中庭で少し
話しただけなのに❩

なんだかわからない
奇妙な思いに戸惑う詩織

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