珈琲いかがですか?

木葉風子

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満弥の出生

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「ことの起こりは龍谷家の
新年パーティなの…」
向かい合わせに座る四人
双葉が話しだす
「今年は“特別なパーティ”になるはずだったのよ…」
そう言うと小さなため息をついた
「特別って?」
奏が聞く
満弥は黙ったまま

「龍谷家では二十歳のパーティでお披露目するのよ」
「お披露目ね
さすが金持ちだよな!」
皮肉っぽく奏が言う

「でも、今年は叔父さんが
許可しなかったから」
心配そうに満弥を見る双葉
「でも、どうしてだ?」
奏が訊ねる
ためらいがちに満弥が口を開いた

「叔父さんが言ったんだ
 『お前は龍谷家とは関わりのなりい人間』だって!」


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満弥と双葉の叔父 龍谷計弥
 (りゅうこくかずや)
「ドラゴンズカンパニー」 
社長、父親から引き継いた会社を
一流企業に育てた
双葉の母 鹿野一実
 (かの ひとみ)    
龍谷家の長女、 父親の浩介は
「ドラゴンズカンパニー」元社員
恋愛結婚ののち独立して雑貨店を夫婦でやっている

満弥の父 仁弥(じんや)
「ドラゴンズカンパニー」
専務、母の杏子(きょうこ) 
一実と杏子は同級生で親友    
=============

「関係ないって、君の父親は確か龍谷家の次男なんだろ?
息子の君が関係ないなんて
どうしてなんだ?」
満弥に訊ねる奏
「僕は、あの家の前に捨てられていたんだよ…」
ポツリと囁くように言った

「えっ…?」

おもわず満弥を見た時と奏
「君は知ってたのか?」
黙ったまま首を横に振り寂しそうな顔を奏に向けた満弥
「そんなの関係ないわよ!」
双葉が大きな声をだす
「だって、おじさんもおばさんも満弥のことほんとの子どもとして
育ててきたじゃない!」
怒ったような表情で見つめる双葉
「わかってるよ
でも、僕は…自分が誰なのかを
知りたいんだ!」
強い口調で言い返す
興奮気味になった満弥と双葉
二人を宥めるように間に入る奏

「つまりは君の本当の親を探せばいいんだな?」

いままで黙っていた時が冷静な声で言った、そして二人を見る
二人も時を見た
「あなたが捜しやの探偵さんね」
双葉の問いかけにも無愛想な表情のままで頷く時
少し不安気に彼を見た双葉
「ほんとに
探してくれるんですよね?」
満弥が念を押して聞いた

「悪いなぁ
こいつ愛想ないんだよな!」
奏が満面の笑みで言う
「それに比べてあなたはずいぶん軽い気がするけど!」
奏を睨む双葉
「俺は別に軽くないさ
こいつが人一倍無愛想な
だけだからさ!」
そう言って双葉にウインクする

「でも、こいつは信頼できるから
任してくれよな」
真面目な顔になり言った

その日の夜
閉店した店の二階
遅めの夕食を終えた時と奏
「これが依頼の内容だよ」
奏に手渡された依頼書に目を通す
「そんなに難しい
案件じゃないけど…」
ホッとため息をつく奏

「でっ、どうする?
このぐらいなら俺一人で
大丈夫だけど…
でもさぁ、その家の前に捨てられていたってことは龍谷家に関係ある子供なんじゃあ…」
そう言って時に目を向ける奏
彼の視線を反らす時
珈琲の湯気が揺らめいている

「彼が龍谷の誰かと関係あるなら社長自ら関わりない人間だなんて云わないはずだよなぁ…」
独り言のように言う奏
「とにかく、俺が調べるからさ」
依頼書を手に取り自室へ戻った奏

一人残された時
無表情が少し哀しみを秘めた
表情に変わった
冷めた珈琲を口に含み
飲んだ珈琲カップを
テーブルに置きため息をつく
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