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木葉風子

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正月の成人式③

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みんなの中にいる
ケンにいちゃん
金髪ロン毛に赤いピアス
今、目の前にいる健とは
真逆な容姿だ

「私、どうしても
ケンにいちゃんに会いたくて
ある人に探してもらったの」

「何、それ…
どういうことなの?」

「会いたい人を探してくれる
探偵がいるのよ
私が紹介したのよ」

声の主である双葉に
目を向ける

「探偵…?」

「“捜しや”
人探しの名人なのよ」

「探偵だって、なんだか
ドラマみたいだね」
「その探偵って犯人探し
とかするのかなぁ…」
面白おかしく言う中高生達
「こら、おまえら
真面目な話してるんだから
静かにしろ!」
怒鳴られビクッとする
「怒らないの、みんな
びっくりしてるでしょ!」
「ああ、ゴメン悪かったよ
でさ、ケンにいちゃんは
見つかったのか?」

そう言われて
健の方を見る萌
小さく頷く健を見て
おもむろに喋りだす

「探しやの探偵さんが
最初に見つけてくれたのは
サンタのおじさんなのよ」
懐かしむように遠くを
見ながら言う
「えっ、
サンタのおじさんって
おじさんはもういないのに」
誰かが寂しそうに言った
「おじさんが誰なのかが
わかったのよ
  三田健九郎
それがおじさんの名前よ
おじさんのこと知ってる人
にも会えていろいろと
教えてもらったわ」
「おじさんって
どんな人だったの?」
みんなが萌に聞く

「おじさんはね、やっぱり
サンタクロースだったのよ」

「意味、わかんないよ」

すると奥にいた健が席を立ち
中、高生達が座っている所に
来て彼らの頭を一人一人
撫でて喋りだす

「つまりさ、誰に対しても
変わらない態度ってことだ」

「だから、なんで
あんたが言うんだよ」

「同じ名前のよしみ、かな」

「えっ?」

頭を撫でられた子供達が
健の顔をじっと見る

「タケルって漢字は
おじさんの名前の健と
同じ字だからね」

「同じ漢字?」

「そう、だから
間違えられたんだよ」
苦笑いで言う健

その言葉に一斉に健を見た

「えっ…」
「あの、まさか?」

一瞬、静かになる室内
そして、歓声があがる

「うそー」
「ほんとに…」

「ケン兄ちゃん!?」

萌と六人以外が全員で言った

「人って驚くとほんとに
目を丸くするんだわ」
双葉が関心して
みんなを眺める
なぜだか誰も喋らない
黙ったまま健を囲みだした

「おまえら、何だよ?
何だかきみわるいなぁ」

ジロジロと健を見廻す
「まだ信じられないかぁ」
大きくため息をつく健
「仕方ないわよ
見た目は別人だもんね」
クスクス笑いながら言う萌

「はい、これを見たら
みんな納得するわよ」
健の手に先ほど持ってきた
小さな箱を手渡した
「これを見たら
思いだしてくれるかな…」
そう言うと箱を開け
何かを取り出した
そして手のひらに乗せ
ギュッと握りしめる

「えっ、何があるの?」

誰かがそう言った
みんながザワザワとしだした
握っていた指を開く
その手のひらには…

「あー!」
「それって…」

「赤いピアス!」

声を揃えてみんなが言った
その声と同時に健を見つめる

「うわー!」
「ケン兄ちゃーん!」

今まで怪訝な顔だったのに
何もなかったかのように
健にまとわりつく
まるで昔に戻ったようだ

「おい、こら、おまえら
さっきまでは知らん顔
してたくせにさ!」
そう言いながらも
嬉しそうな健

「ねぇ、ピアスしないの?」
健の手から奪い
彼の目の前に差しだす
「一応、社会人としての
身だしなみがあるからね」
「そうか、社長さんだもんな
チャラいと信用されないんだ」
あんなに反発していた彼が
一番嬉しそうに言う

「まぁ、格好なんかどうでも
仕事ができれば
何も言われないんだけど
東京に戻ったときはほんとに
何も出来なかったからな」
ポツリと言った




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