珈琲いかがですか?

木葉風子

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時の秘密 奏の真実 中編①

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喫茶「古時計」
ただいまお休み中
「なるほど、それで
暫く休みなんだな」
ガランとした店内
カウンターに座り
目の前にいる時に
話しかけるおやじさん

「でも、双葉ちゃん
いるじゃないか」
カウンターの横に立つ
双葉を見て言った
「私、暫くここに“居候”
なんですよね」
「居候…ね、じゃあ
奏と一緒だな」
「一緒って…奏さんは
この店の従業員でしょ」

「だからといって
ここに住む必要ないだろ
それに最初は時の両親が
いたからな、確か奏は
近くの古いアパートに
いたからな…」

「時さんのご両親…?」

「ここはうちの親の店
今でも大家はうちの親
まぁ、タダで借りれて
助かってるよ」
「そうだったんですか
じゃあ、いつ頃からお店
やってらしたんですか?」
「中学生の頃だよ
この建物自体は古いよ」

「奏さんとは
いつ頃からの知り合い?」
「そうだな、中学より前
ここに来てから1~2年は
会ってなかったな…」
「じゃあ、小さい頃は
よく知ってたんですか?
中学時代に会ってないって
どうしてなんですか?」
矢継ぎ早に聞く双葉
それには何も答えず
珈琲の準備をする時

「昔のことは関係ない
大切なのは今だから」
カウンターに座る
おやじさんが時の
代わりに答えた
「おじさんも二人のこと
よく知ってるんですか?」
今度は彼に聞いた
「そうだな
たとえ知ってるとしても
二人が言わないなら
他人が言うことじゃない
…だろ」
そう言われて
黙ってしまう双葉

「別に隠すほどの
ことじゃないよ」
いつの間にか来ていた奏
おやじさんを真っ直ぐに
見て言う
「俺も時も
気にしてないさ」
今度は時を見て言った
「はい、どうぞ」
おやじさんの前に
珈琲を置く時
奏を見て頷いた
ような気がした

「あっ、すいません
別に無理に二人のことを
知りたいなんてひとつも
思ってません」
気まずそうな様子で
二人を見た双葉
「とか言いながら人の
過去を探るような仕事
してんだけどな…」
戯けた表情で言う奏

「さてっ…と、時
もうすぐ出かけるからな」
カウンターの中の時に
そう言った
「遅くなるのか?」
「さぁ、どうだろうね
デートだから
遅くなるかもね」

「デート…?」

「そう、
遠野朝美さんとね」

「えっ…?」

「じゃあ、レディに
失礼の泣いように
着替えなきゃあな!」

「珈琲、飲むぐらいの
時間はあるだろ」
そう言って
カウンターに置く時
「じゃあ、いただくよ」
そしておやじさんの
隣に座った

「あの…朝美さんと会って
何を話すの?」
「さあ…何を話そうかな
何せ、初デートだからね」

そんな奏を不安そうに
見る双葉
素知らぬ顔で珈琲を飲み
席を立つ奏
「じゃあ、おやじさん
失礼します」
隣に座る彼に言った

「くれぐれもレディに
失礼のないようにな」
「ご心配なく
女性の扱いはあなたより
慣れてますから」
それだけ言って店の奥へ
消えていった




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