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一章 嘘と真実

特別授業は嘘の香り

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 浮島先生が特別授業予告をしてから三日後。

 学年全体の話題は、やはり特別授業がメインとなっていた。いつ説明されるのか?どんな特別授業をするのか?と言った話題が、この三日間で途絶えること無く行き交っていたのだ。

 そしてようやく、終礼時に浮島先生は特別授業について話し始める。

「君たちの一回目に行う特別授業は~!」

 ドゥルルルルと口で、発表時に聞く効果音を出してから宣言した。

「……です!」

 クラスメイトたちはザワザワとし始め、憶測が行き交う。題名を聞いただけでは想像がつかないな……分かる事と言えば、騙し合いの様な感じだろうか?

 そして、対象はクラスメイト同士になる筈だ。だとすれば……ポイントに差をつける為の特別授業になるとうい事か?と、予想するのもいいが、実際の内容を聞かなければ思考損というものだ。

 周囲の騒めきが収まると同時に、浮島先生はについての詳細を話す。

「これは一対一で行われる、言わば心理戦の様なものかな。相手に嘘か真実かを見分けさせ、そして騙す。とても簡単な特別授業になっているね」

 とても簡単な…この言葉が説明としての簡単なのか、それとも……もしそうならば、この時点で特別授業が始まっているという事になるから除外だな。ただ、次の説明次第では準備行動がガラリと変わってくるかもしれない。

「ざっくりとした説明なんだけど、ターン制で行われるトーク型心理戦になっていて、自分のターンになれば相手の質問を受けてそれに答える。そして、答えた内容が嘘なのか真実なのかを見分けて答える、という内容になっています!」

 なるほど、大体は掴めたな。その嘘か真実かを見分けて、その正誤でポイントの移動が起きるわけか。だが、一発目の特別授業というイベントで、こんな疑心暗鬼になるような事をして良いのか?

 ……あの学園長がならばやりそうだ。しかし、何も考え無しにこんな、クラスを分裂させるような事をするというわけでもあるまい。もし、本当に分裂させるならば時期を考えるはずだからな。

 と、大凡おおよその考えが終了したところで、先生が補足を入れる。

は、今日から本番までの一週間と少しだからね。これで分かったと思うけど、別に無理な対戦を強いる訳では無いんだよ……ルールに準じていれば、何をしても大丈夫!……以上かな、それじゃあ解散~」

 これか……分裂をさせない手が隠れているルールは、ここにあるのか。ルール上ならばという、ルール上のルール、ってやつだな。どのゲームでもルールは定められているが、それでも行動するのには行う手が殆ど無いのである。

 例えばジャンケンでは、グー・チョキ・パーと決まった形で決まった勝負があるけれど、それがルールとして、そのルールに準じていればと言われた所で、相手の指を全て切り落とす他、結局は他にする事は何も無いだろう。

 だが、このルール上のルールならば、行う手が幾つも出てくるのだ。そういったシステムを考えたのが学園長ならば、あの人はこの先の特別授業も、かなり高度の心理戦になる可能性が非常に高いだろうな。

「……楽君」

 俺の背後から小さな声が聞こえてきた。チラリと見れば、窓の外を眺めている藤宮の姿があり、向こうもチラッと俺を見る。俺と話している事を避けている辺り、朝の藤宮とはを感じ取った。

「嘘と真実……どう思うかな?」
「どう思う、とは?」

 まぁ、こいつ藤宮が何を言うのかは大体予想がつく。

「全員がプラスで…」
「無理だな」

 その愚かな考えをバッサリと切り捨てる。別に意地悪で切り捨てた訳では無く、そんな事は不可能なのだ……ある一種の解決策を除けばだが。

 不可能を可能にする事は出来ないのである。新聞等でそう言った見出しが偶にあるのだが、不可能を可能にしたのではなく、可能だった事を単に成し遂げた、それだけの事なのだ。不可能は文字通りポッシブルでは無く、インポッシブルなだけの話である。この事実は覆らない。だから……

「……お前の望む展開ではないかもしれないが、クラスが平等で終わる方法は…少なからず存在する」
「本当に!?」

 食いつくか、こういう所は朝の藤宮を見ているようだな。

「だが、それはお前の動き次第だな」
「え、私?」
「…あぁ」

 準備期間から特別授業当日まで、こいつがしっかりと行動すれば可能な内容だ。そう、俺と藤宮がする事は、可能性がある作戦を成し遂げるだけに過ぎない。もし出来なかったなら、この作戦は不可能だったってだけだ。

 と、勝手に話を展開する前に思考を一旦捨て置き、藤宮に一言だけ残しておく……この一言が準備の合図にもなる。

「お前が望むなら、クラスを一つに……しないとな」

 俺は立ち上がって教室から出て行った。クラス内では、準備について作戦会議のようなものが始まっており、誰も帰らずに話していたが、俺が教室を出たことにより少しだけ注目を引いたようだ。

 俺の予想通りならこのまま、俺と同じ様に教室を出ようとする奴らがいるだろう。そして……

「~~~~~」

 教室から少し大きめの、少し怒りに近い声が上がった。これで、準備が始まったな。

 俺は帰宅する前に、屋上へと足を向けた。
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