常世のシャッテンシュピール ～自己否定王子とうそつき魔法少女～【前編】

１章 影の巣くう遺跡

１． 考古学研究所アジール支部所属、ナイアス・アキツィーズ（２3）

　虎太郎コタロウもスピカも、フォローの言葉を探しあぐねている。

「あっ、あの……！」

　なんとかしなきゃ、リーダーなんだから……！
　いたたまれずナイアスが口を開こうとした、そのとき。
　磨弧マコのキツネがするどく鳴いて駆けだし、炎のからだをひらめかせて、闇にひそむなにかを焼き祓はらった。

　ハッと、みなが緊張した顔をあげる。
　ぶきみに沈黙する洞窟のような、堕ヲチ水ミヅに沈みつつあるアキツ間ま。
　地下から絶えず這はいあがり、アキツ間を侵食する、その黒い波の上に。
　暗い堕チ水から湧いたシャドウの群れが、陽炎かげろうのようにゆらゆらとただよう……。

　あらてのシャドウが湧いてきた。

　虎太郎がハンマーをかまえて、かん高い声でナイアスを呼ばう。

「なっちゃん！　けっきょく、どうするの！？」

　スピカも、磨弧も、フレアも……みな、硬い、あるいは不安げな表情で、ナイアスの指示を待っている。

「……！」

　脚にからみつく堕チ水の、そのうるさい水音のなかに、導学院時代の先生・クラスメイトから受けつづけた否定の言葉を聞いた気がした。
　ナイアスは激しく首をふって、その不安をふり払う。
　昔のことなんか、思い出しているばあいじゃない。ちゃんとしないと……！
　顔をあげ、ナイアスは決然という。

「虎太郎とスピカは、シャドウがシャッテンヴァンデに進化しないよう、磨弧の炎のキツネと協力して、このアキツ間でシャドウたちをひきつけていて！　ぼくと磨弧とフレアさんで、サスラ樋ひに向かいます！」
「……わかった。全力は尽くす」