異世界立志伝 ー邪神の使徒になり幼女達と広めて行くー

無為式

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一輪の花

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 激闘が終わり、赤巾党の本拠地である古城へと帰還した一行。

 最強の「武」として覚醒した呂布でしたが、長年の奴隷生活と度重なる『狂化』の反動は凄まじく、彼はしばしの養生を命じられました。

 古城の奥まった一角にある静かな中庭。

 そこには、かつて「実験体」として、そして「獣」としてしか扱われてこなかった呂布が、一人静かに横たわっていました。

 方天画戟は傍らに置かれ、その猛々しい気配は影を潜めています。

「……呂布様、お加減はいかがですか?」

 鈴を転がすような声と共に、一人の少女が歩み寄ってきました。メイド長のロゼです。

 彼女は小さな籠を抱え、呂布の傷を癒やすための薬草と食事を持ってきました。

 呂布はロゼの頭のピンクの薔薇を見た瞬間、意識の底に沈んでいた古い記憶が、鮮烈な色彩を伴って蘇るのを感じました。

 それは、彼がまだオーガの里の奴隷として、名前すら持たずに繋がれていた頃のこと。

 彼が預けられていた里の長老には、風が吹けば折れてしまいそうなほど儚げな娘がいました。

 奴隷である彼は常に監視され、満足な食事すら与えられませんでした。

 娘は彼を不憫に思い、食べ物を運ぼうとしましたが、見張りの兵士たちがそれを許しません。

『ごめんなさい……食べ物はあげられないけれど。せめて、これだけでも』

 娘は監視の目を盗み、里に咲く小さな桃色の花を、泥に汚れた彼の手に握らせてくれました。

 空腹は癒えずとも、その花の温かさと娘の微笑みだけが、地獄のような日々の中で呂布が唯一触れた「人間としての情愛」だったのです。

 しかし、その娘もやがて帝国の武官のもとへ、政略結婚の道具として嫁いでいきました。

 彼女が里を去る日、呂布はただ遠くから、豪華な馬車に揺られていく彼女の背中を、虚ろな目で見送るしかありませんでした。

「……呂布様?」

 ロゼの声に、呂布は現実へと引き戻されました。

 目の前にいるロゼの姿が、かつて自分に光をくれたあの娘の面影と重なり「……あ、ああ。すまない、少し……昔のことを思い出していた」

 呂布は大きな手を伸ばし、溢れそうになった涙を乱暴に拭いました。

 かつての彼は、差し出された花を受け取ることしかできない無力な奴隷でした。

 しかし今は、その手に方天画戟があり、自分を「呂布」と呼び、価値を認めてくれる主と仲間がいます。

 ロゼは呂布の様子を察し、頭に咲くピンクの薔薇を優しく揺らしました。

 ドライアドである彼女には、植物を通じて相手の心の波立ちが伝わってくるのです。

「……そのお方は、きっと今もどこかで、呂布様が自由になられたことを願っていますよ」

 ロゼは籠から、ほかほかと湯気の立つ料理を取り出しました。

 それはバエルがポイントで交換した、最高級の肉料理と新鮮な野菜のスープ。

 かつての呂布が、飢えの中で夢にまで見た「温かな食事」でした。

「さあ、まずは体力をつけなくては、バエル様も、呂布様が戦場に戻られるのを心待ちにしています」

 呂布は、差し出されたスプーンを不器用な手で受け取り、一口運びました。

 喉を通る温かさが、狂化の後遺症で荒んでいた内臓と心に、静かに染み渡っていきます。

「……美味いな。……ロゼ殿、私は今まで、奪うためにしかこの手を使ってこなかった。だが、主(あるじ)に名を貰い、貴女に癒やされた。……この手は、もう二度と、あの娘(こ)のように優しい者を悲しませるためには使わぬ」

 呂布のその言葉に、中庭の木々がザワザワと祝福するように揺れました。


 その様子を、少し離れた廊下から軍師ゾウエンが瓢箪の酒を煽りながら眺めていました。その隣には、バエルも静かに立っています。

「カカッ! 若、見てみい。あの狂える武神が、ドライアドの小娘の前では赤子のようじゃ。……心を失った獣に『情』が戻ったとき、それは真に無敵の将となる」

「……そのようですね。ですが先生、あまりゆっくりもさせていられません」

 バエルは手にした報告書を見つめました。そこには、逃げ帰ったオズマが帝国で動いている様子が記されていました。

「……帝国の討伐軍が動き出しました。総司令官は、若き新鋭の武官。……名はカイン。どうやら、かつて呂布がいた里から娘を妻に迎えた男のようですよ」

 バエルの冷徹な瞳が、中庭で花を見つめる呂布に向けられました。

「因縁ですね。……呂布が、自らの過去と決着をつける刻(とき)が来た、しかし......」

「時が足りないですな」

「帝国と戦うには、戦力が足りない。南蛮を統一しましょう」

「我らの南にある、ドワーフ洞窟街と西にあるエルフの大森林ですな」

「その2つを併合するために時がいる」

「では、爺がラン殿に策を与えましょう、それで帝国を止めまする」
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