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第三章 降臨
第46話 非常事態
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「よし、想定通りに式は進んでいるな。後はあの質問が来るのを待つだけだ」
俺達の作戦は単純だ。
まずは質疑応答で『女神に認められし聖女か?』等の最終確認をされるのを待つ。
そして、その言葉にメアリは否定の言葉を大司祭に申し上げ、そして神に奇跡の感謝と周囲に勘違いさせた事への謝罪の言葉を声高に叫びながら祈る仕草をするのが合図だ。
それに合わせて俺が、光の柱やら荘厳そうな曲やらのなんか神々しい効果が発動するだけの魔法を広場の周りに設置してある魔法陣から一斉に起動させる。
そして会場が混乱に陥った頃合を見て、祭壇下に設置した特製の魔法陣の出番だ。
それは、他の魔法陣とは違い、教会の女神像を元にして作り上げたこの世界の唯一神である女神クーデリアの姿を空中に投影させると言う特製の魔法陣だ。
なんせ他の自動再生の効果とは異なり、周囲の状況に合わせて動いたり喋ったりと、事細やかに色々操作する必要がある為、少々複雑な構築式を組まねばならず、設置はほぼ徹夜作業となった。
魔法陣の設置と言えば、普通の場合は地面に直接魔法陣を描く必要が有るのだが、俺の場合は女媧との戦いでも行った通り、魔力を込めた足で適当に歩くだけで設置出来る。
とは言え、複数の魔法を同時に発動させて偽女神を演出させる規模の物は簡単にはいかない。
いや、実際は人の目が無ければ作業自体は直ぐに終わるのだが、式の前夜なんてそれこそ準備の最終追い込みで夜中でも人がごった返してやがるもんだから、設営を手伝う振りしながらの魔法陣構築はとても骨が折れる作業だった。
と言うか、これだけ大掛かりな式典の筈なのに準備期間が短過ぎるんだよ!
王子の話では既にメアリは候補として教会に認知されていた様だし、その頃から準備が始まっていたんだろうが、奇跡発動から八日後って急ぎすぎだ。
どれだけ、教会関係者は聖女誕生を待ち侘びていやがったんだ?
まぁそんな感じで、ご登場して頂いた偽女神様がメアリの謝罪の言葉に『汝を許す』と一言喋らせた上で『メアリは聖女じゃない』と宣言させて周囲を納得させる。
とまぁ、これが俺達の立てた『聖女返上作戦』の大まかな内容だ。
単純だけども、こんな魔法を使える奴はこの世界中何処を探しても俺しか居ねぇし、こんな使い方を想像出来る奴も魔法オタクのメアリくらいのものだ。
この教会の司祭達も光の柱で騙されてたし、誰も気付く奴は居ない筈だろう。
何とも罰当たりで馬鹿げた事だが、この世界の人間相手じゃこれ以上効果的な事は無ぇだろ。
神が仕掛けた罠を、神の名を騙って覆してやるぜ。
『汝は、女神の声を聞き、そして認められし聖女なるか?』
おっ? 問題の質問だな。
さて、上手くやれよメアリ。
『いいえ、違います! 私は先日女神の恩寵を受けましたが、声は聞いておりません。あれはあの時あの場、この街全ての方達の祈りの声で発現した奇跡であり、たまたま私が祭壇の前で治癒を行っていた場所に重なっていただけであります』
おぉ、メアリの奴、中々堂に入った演技じゃねぇか。
メアリの言葉に周りが動揺している。
『な、それは真か? し、しかし……』
『本当です。 あの時起きた奇跡は私だけではありません。この街の司祭様とシスター様にもその恩寵は発現されました』
大司祭は、この街の司祭達に目を向けた。
司祭達は『そう言えば』と言う仕草でコクコクと頷いてる。
それは俺が施した浄化と治癒のヤツだな。
メアリ、上手い事言うじゃないか。
これなら奇跡が自分だけじゃなく、あの教会の治癒師全員に恩寵が授けられたと言えるだろう。
あの場の皆も司祭達のはしゃぎ様は見てるしな。
『で、では汝は聖女ではないと?』
『はい、私などか聖女などとおこがましいと何度も申し上げておりましたが、聞き入れて頂けず……』
周囲から『そう言えば』と言う様なメアリの声に同調する声が上がりだした。
『皆様! 申し訳ありません! 私は聖女様ではなく、女神様の一下僕でしかありません。折角この様な場を設けて頂きましたが期待に添える事が出来ません。皆様への謝罪の言葉と共に、あの時女神様が起こして頂いた皆様の祈りの奇跡に対して、私からの感謝の祈りを捧げたいと思います』
メアリの言葉は十四歳の少女から発せられた言葉とは思えない程の迫力を持ち、周囲の者達に有無を言わさない空気を醸し出していた。
メアリが両手を胸の前で重ね合わせ祈る姿勢を取ると、それにつられてその場に居る観客のみならず、王様や大司祭までもが後に続き祈りの姿勢を取った。
「すげぇな……。さすが王家の血を引くメアリだ。その言葉だけで皆を納得させやがった。う~ん、俺必要無ぇんじゃねぇの?」
とは言え、ダメ押しは必要だろう。
かなりの費用を掛けてこの場が設けられたんだ。
今は場の空気に流されていても後で文句を言ってくる奴が出て来てもおかしくない。
「じゃあ、行きますか。インヴォーグ!」
魔法陣に魔力を通し、広場に設置した効果だけの発動魔法を次々に起動させた。
広場一面に光の柱と何か凄そうな効果音、それに元の世界にいる頃に見た映画で流れていた荘厳そうな賛美歌を再現した曲で満たされる。
皆はその奇跡とも思える光景に言葉を失っていた。
この光景はカラクリを知っているメアリや王子達達でさえ、周囲の皆と同じ顔をして、目の前に発動している俺の魔法に見惚れているようだ。
《ヘェ~スゴイスゴイ》
「そうだろ? でもこれで終わりじゃねぇさ」
俺は最終兵器である女神様ご降臨用の魔法陣の起動に取り掛かった。
それにより広場に厳かな女性の声が響き渡る。
『皆の者! この者の言葉は真実である。我は女神クーデリア。先の奇跡はこの街の者全ての願いにより、我が与えた物である』
その言葉と共に祭壇下の魔法陣から光の柱が立ち上り、その中心に女性の姿が浮かび上がる。
その姿はこの世界の住人なら誰でも一度は見た事の有る、この世界を司る女神の像に瓜二つの姿。
今まさにこの広場に居る全ての者が、伝説の中で語られる女神降臨の奇跡を目の当たりにしている。
まぁ、俺の魔法なんだがな。
《ア~、コレハチョットマズイカモ》
「え? なんでだ?」
俺の問い掛けを遮る様に、聞き耳の魔法陣から大司祭の言葉が響いてきた。
『違う! これは女神の御業じゃない! 何者かによる神を騙る悪魔の所業だ!』
「なっ! 何を言い出すんだ、こいつは?」
聞き耳の魔法陣から聞こえて来た大司祭の言葉に俺は絶句した。
窓から下を見ると、大司祭が祭壇の女神を指差しているのが見えた。
「なんでバレた? もしかして事前に計画が漏れていたのか?」
《チガウチガウ。アアミエテモ、カレハダイシサイヨ? ホカノモノトハチガッテ、カミノチカラヲカンジルコトガデキルノヨ》
「なんだよそれ? 聞いてねぇぞ?」
くそ! なんて事だ! 神の力を感じるだ?
大司祭がそんな力を持ってるなんざ想定外だ。
このままじゃ、神を騙った者としてメアリに矛先が行くのが目に見えるじゃねぇか。
「クソっ! どうする? どうしたらいい?」
幾ら考えてもこの非常事態を収めるいい案が浮かばない。
なんならここから飛び出してメアリを連れて何処かに逃げるか?
《ソンナニアノコガダイジナノ?》
「あぁ!」
《ヤケチャウナ》
「そんなんじゃないって! あいつは世話になった人の娘なんだ。それに俺の所為でこんな目に合ってるんだよ!」
そうだ、俺の所為だなんだ。
俺がメアリに全部押し付けちまったんだ。
ここからでもメアリが狼狽えてる姿が見える。
チラチラとこちらを見る目に涙が浮かんでるのが見えた。
ダメだ! すぐに助けに行かなければ!
俺は窓から身を出し、飛び降りようと枠に足を掛けた。
身体ブーストを掛けたら、ここから飛び降りても大丈夫な筈だ。
《ショウガナイナァ。タスケテアゲル。セッカクマタアエタトオモッタノニ。モウサヨナラカァ~》
背後の声がそう言った。
「なっ!」
俺は慌てて振り返る。
しかし、そこには誰も居なかった。
いや、そう言う事じゃない。
俺は今ナニと喋っていたんだ?
何度部屋の中を見回しても誰かが居た痕跡は何も感じられなかった。
今起こった事に、思考が追いつかない。
メアリの非常事態に、今のナニかの声。
なんだ? なんなんだよ一体!
いや、それより今はメアリの事が先決だ!
俺は改めて窓から下を見た。
大司祭はメアリの方を振り向いた。
どうやら問題の標的をメアリに向けようとしている様だ。
ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!
何か、ここから発動出来る魔法は無いか?
そうだ! 浄化の魔法を周囲にかけたら聖なる波動で誤魔化せないか?
いや、それも『神の力』ではないので、奴の神の力を感じると言う力によって見破られるかも知れねぇ。
「やっぱりメアリを連れて逃げるしか無ぇのか……。すまん王子にフォーセリアさん。それに先輩達も」
そう言って俺が窓から飛び降りようとしたその時、広場に発動していた全ての俺の魔法が消えた。
「は? な、なんだ? 俺の魔法が……」
今の今まで目の前で繰り広げられていた光の柱も、荘厳な音楽も、女神の幻影も、全て、全て、全て消えてしまった。
ただ消えただけじゃねぇ、設置してある魔法陣の痕跡さえ全て最初から無かったかの様に何も感じない。
それは広場だけじゃなく、部屋の中に引っ張って来ていた魔法陣も同じく消え失せていた。
俺は解除なんかしていない。
パニックで集中力が切れたとしても、女神の幻影以外の自動再生される魔法達は数時間分の魔力をチャージ済みだ。
何より、魔力切れだとしても魔法陣まで消える訳が無ぇ。
幾ら魔力で構築した魔法陣と言え、俺が気合を入れて設置したんだ。
それを一瞬で痕跡すら残さず全て消す芸当なんて、俺自身でも難しい。
特に混乱している今じゃ不可能だ。
一体誰の仕業だ?
そんな発狂しそうなパニックの中、突然周囲から光が消えた。
そう、時間はいまだ正午過ぎ。
今の今まで太陽が煌々と辺りを照らしていた真っ昼間だった筈。
しかし、世界は闇に包まれた。
俺達の作戦は単純だ。
まずは質疑応答で『女神に認められし聖女か?』等の最終確認をされるのを待つ。
そして、その言葉にメアリは否定の言葉を大司祭に申し上げ、そして神に奇跡の感謝と周囲に勘違いさせた事への謝罪の言葉を声高に叫びながら祈る仕草をするのが合図だ。
それに合わせて俺が、光の柱やら荘厳そうな曲やらのなんか神々しい効果が発動するだけの魔法を広場の周りに設置してある魔法陣から一斉に起動させる。
そして会場が混乱に陥った頃合を見て、祭壇下に設置した特製の魔法陣の出番だ。
それは、他の魔法陣とは違い、教会の女神像を元にして作り上げたこの世界の唯一神である女神クーデリアの姿を空中に投影させると言う特製の魔法陣だ。
なんせ他の自動再生の効果とは異なり、周囲の状況に合わせて動いたり喋ったりと、事細やかに色々操作する必要がある為、少々複雑な構築式を組まねばならず、設置はほぼ徹夜作業となった。
魔法陣の設置と言えば、普通の場合は地面に直接魔法陣を描く必要が有るのだが、俺の場合は女媧との戦いでも行った通り、魔力を込めた足で適当に歩くだけで設置出来る。
とは言え、複数の魔法を同時に発動させて偽女神を演出させる規模の物は簡単にはいかない。
いや、実際は人の目が無ければ作業自体は直ぐに終わるのだが、式の前夜なんてそれこそ準備の最終追い込みで夜中でも人がごった返してやがるもんだから、設営を手伝う振りしながらの魔法陣構築はとても骨が折れる作業だった。
と言うか、これだけ大掛かりな式典の筈なのに準備期間が短過ぎるんだよ!
王子の話では既にメアリは候補として教会に認知されていた様だし、その頃から準備が始まっていたんだろうが、奇跡発動から八日後って急ぎすぎだ。
どれだけ、教会関係者は聖女誕生を待ち侘びていやがったんだ?
まぁそんな感じで、ご登場して頂いた偽女神様がメアリの謝罪の言葉に『汝を許す』と一言喋らせた上で『メアリは聖女じゃない』と宣言させて周囲を納得させる。
とまぁ、これが俺達の立てた『聖女返上作戦』の大まかな内容だ。
単純だけども、こんな魔法を使える奴はこの世界中何処を探しても俺しか居ねぇし、こんな使い方を想像出来る奴も魔法オタクのメアリくらいのものだ。
この教会の司祭達も光の柱で騙されてたし、誰も気付く奴は居ない筈だろう。
何とも罰当たりで馬鹿げた事だが、この世界の人間相手じゃこれ以上効果的な事は無ぇだろ。
神が仕掛けた罠を、神の名を騙って覆してやるぜ。
『汝は、女神の声を聞き、そして認められし聖女なるか?』
おっ? 問題の質問だな。
さて、上手くやれよメアリ。
『いいえ、違います! 私は先日女神の恩寵を受けましたが、声は聞いておりません。あれはあの時あの場、この街全ての方達の祈りの声で発現した奇跡であり、たまたま私が祭壇の前で治癒を行っていた場所に重なっていただけであります』
おぉ、メアリの奴、中々堂に入った演技じゃねぇか。
メアリの言葉に周りが動揺している。
『な、それは真か? し、しかし……』
『本当です。 あの時起きた奇跡は私だけではありません。この街の司祭様とシスター様にもその恩寵は発現されました』
大司祭は、この街の司祭達に目を向けた。
司祭達は『そう言えば』と言う仕草でコクコクと頷いてる。
それは俺が施した浄化と治癒のヤツだな。
メアリ、上手い事言うじゃないか。
これなら奇跡が自分だけじゃなく、あの教会の治癒師全員に恩寵が授けられたと言えるだろう。
あの場の皆も司祭達のはしゃぎ様は見てるしな。
『で、では汝は聖女ではないと?』
『はい、私などか聖女などとおこがましいと何度も申し上げておりましたが、聞き入れて頂けず……』
周囲から『そう言えば』と言う様なメアリの声に同調する声が上がりだした。
『皆様! 申し訳ありません! 私は聖女様ではなく、女神様の一下僕でしかありません。折角この様な場を設けて頂きましたが期待に添える事が出来ません。皆様への謝罪の言葉と共に、あの時女神様が起こして頂いた皆様の祈りの奇跡に対して、私からの感謝の祈りを捧げたいと思います』
メアリの言葉は十四歳の少女から発せられた言葉とは思えない程の迫力を持ち、周囲の者達に有無を言わさない空気を醸し出していた。
メアリが両手を胸の前で重ね合わせ祈る姿勢を取ると、それにつられてその場に居る観客のみならず、王様や大司祭までもが後に続き祈りの姿勢を取った。
「すげぇな……。さすが王家の血を引くメアリだ。その言葉だけで皆を納得させやがった。う~ん、俺必要無ぇんじゃねぇの?」
とは言え、ダメ押しは必要だろう。
かなりの費用を掛けてこの場が設けられたんだ。
今は場の空気に流されていても後で文句を言ってくる奴が出て来てもおかしくない。
「じゃあ、行きますか。インヴォーグ!」
魔法陣に魔力を通し、広場に設置した効果だけの発動魔法を次々に起動させた。
広場一面に光の柱と何か凄そうな効果音、それに元の世界にいる頃に見た映画で流れていた荘厳そうな賛美歌を再現した曲で満たされる。
皆はその奇跡とも思える光景に言葉を失っていた。
この光景はカラクリを知っているメアリや王子達達でさえ、周囲の皆と同じ顔をして、目の前に発動している俺の魔法に見惚れているようだ。
《ヘェ~スゴイスゴイ》
「そうだろ? でもこれで終わりじゃねぇさ」
俺は最終兵器である女神様ご降臨用の魔法陣の起動に取り掛かった。
それにより広場に厳かな女性の声が響き渡る。
『皆の者! この者の言葉は真実である。我は女神クーデリア。先の奇跡はこの街の者全ての願いにより、我が与えた物である』
その言葉と共に祭壇下の魔法陣から光の柱が立ち上り、その中心に女性の姿が浮かび上がる。
その姿はこの世界の住人なら誰でも一度は見た事の有る、この世界を司る女神の像に瓜二つの姿。
今まさにこの広場に居る全ての者が、伝説の中で語られる女神降臨の奇跡を目の当たりにしている。
まぁ、俺の魔法なんだがな。
《ア~、コレハチョットマズイカモ》
「え? なんでだ?」
俺の問い掛けを遮る様に、聞き耳の魔法陣から大司祭の言葉が響いてきた。
『違う! これは女神の御業じゃない! 何者かによる神を騙る悪魔の所業だ!』
「なっ! 何を言い出すんだ、こいつは?」
聞き耳の魔法陣から聞こえて来た大司祭の言葉に俺は絶句した。
窓から下を見ると、大司祭が祭壇の女神を指差しているのが見えた。
「なんでバレた? もしかして事前に計画が漏れていたのか?」
《チガウチガウ。アアミエテモ、カレハダイシサイヨ? ホカノモノトハチガッテ、カミノチカラヲカンジルコトガデキルノヨ》
「なんだよそれ? 聞いてねぇぞ?」
くそ! なんて事だ! 神の力を感じるだ?
大司祭がそんな力を持ってるなんざ想定外だ。
このままじゃ、神を騙った者としてメアリに矛先が行くのが目に見えるじゃねぇか。
「クソっ! どうする? どうしたらいい?」
幾ら考えてもこの非常事態を収めるいい案が浮かばない。
なんならここから飛び出してメアリを連れて何処かに逃げるか?
《ソンナニアノコガダイジナノ?》
「あぁ!」
《ヤケチャウナ》
「そんなんじゃないって! あいつは世話になった人の娘なんだ。それに俺の所為でこんな目に合ってるんだよ!」
そうだ、俺の所為だなんだ。
俺がメアリに全部押し付けちまったんだ。
ここからでもメアリが狼狽えてる姿が見える。
チラチラとこちらを見る目に涙が浮かんでるのが見えた。
ダメだ! すぐに助けに行かなければ!
俺は窓から身を出し、飛び降りようと枠に足を掛けた。
身体ブーストを掛けたら、ここから飛び降りても大丈夫な筈だ。
《ショウガナイナァ。タスケテアゲル。セッカクマタアエタトオモッタノニ。モウサヨナラカァ~》
背後の声がそう言った。
「なっ!」
俺は慌てて振り返る。
しかし、そこには誰も居なかった。
いや、そう言う事じゃない。
俺は今ナニと喋っていたんだ?
何度部屋の中を見回しても誰かが居た痕跡は何も感じられなかった。
今起こった事に、思考が追いつかない。
メアリの非常事態に、今のナニかの声。
なんだ? なんなんだよ一体!
いや、それより今はメアリの事が先決だ!
俺は改めて窓から下を見た。
大司祭はメアリの方を振り向いた。
どうやら問題の標的をメアリに向けようとしている様だ。
ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!
何か、ここから発動出来る魔法は無いか?
そうだ! 浄化の魔法を周囲にかけたら聖なる波動で誤魔化せないか?
いや、それも『神の力』ではないので、奴の神の力を感じると言う力によって見破られるかも知れねぇ。
「やっぱりメアリを連れて逃げるしか無ぇのか……。すまん王子にフォーセリアさん。それに先輩達も」
そう言って俺が窓から飛び降りようとしたその時、広場に発動していた全ての俺の魔法が消えた。
「は? な、なんだ? 俺の魔法が……」
今の今まで目の前で繰り広げられていた光の柱も、荘厳な音楽も、女神の幻影も、全て、全て、全て消えてしまった。
ただ消えただけじゃねぇ、設置してある魔法陣の痕跡さえ全て最初から無かったかの様に何も感じない。
それは広場だけじゃなく、部屋の中に引っ張って来ていた魔法陣も同じく消え失せていた。
俺は解除なんかしていない。
パニックで集中力が切れたとしても、女神の幻影以外の自動再生される魔法達は数時間分の魔力をチャージ済みだ。
何より、魔力切れだとしても魔法陣まで消える訳が無ぇ。
幾ら魔力で構築した魔法陣と言え、俺が気合を入れて設置したんだ。
それを一瞬で痕跡すら残さず全て消す芸当なんて、俺自身でも難しい。
特に混乱している今じゃ不可能だ。
一体誰の仕業だ?
そんな発狂しそうなパニックの中、突然周囲から光が消えた。
そう、時間はいまだ正午過ぎ。
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