113 / 162
第七章 帰郷
第113話 誤解
しおりを挟む
「バッカッ! お前! 人前でコウメの名前出すんじゃねぇよ!」
混乱で訳の分からないツッコミを入れてきたダイスに説教をする。
いや、そんな事を言う資格が無いのは分かっているけどな。
俺でも同じ立場なら確実に同じツッコミを入れていたと思うしよ。
しかし、表通りじゃない迷路状に入り組んだこの住宅地とは言え、昨日の時の様な夜中と違って、朝食時の今じゃ人通りはそれなりにある。
元の世界風に言うなら出勤時刻と被ってるって事だしよ。
ただでさえ、レイチェルの家のご近所なんだ。
コウメの母親なんて事を大声で叫んだら、イコール『準聖女』様ってモロバレじゃねぇか。
『準聖女』が男と朝帰りなんて、教会最大のゴシップを喧伝するんじゃねぇよってんだ。
「す、すみません。つい。……アレ? 周りはこっち見てない? あっそうか! 先生いつの間に?」
「お前がコウメの名を挙げた瞬間だ。位相変位と認識疎外が間に合って良かったぜ。じゃなきゃ、今頃やじうまやら新聞記者達の餌食になってる所だったぞ」
「すみません、うぅぅ」
俺の言葉に申し訳無さそうにしているダイス。
元はと言えば俺が心配掛けた所為ってのは分かっているが、俺にも反論して良い権利は有るぞ。
なんたって朝帰りは朝帰りだけど、決してレイチェルとの間に疚しい事なんてのは無かったんだからよ。
そんな誤解を招く言い方するんじゃねぇよ! ……ちくしょうめっ!
「安心しなよ、ダイス。ショウタの奴ったら夜通し酒に付き合うとか言っておきながらすぐ寝ちまってね、そのまま放って帰るのも薄情だし、起きるまで付き添ってやっていたのさ。まぁ二十年間の疲れが出たんだろうね。朝まで! ぐっすりと! 気持ち良さそう! に寝ていたからねぇ」
レイチェルがくすくすと笑いながらダイスに昨日の事を説明した。
実際にその通りなのだが、どこか俺に対して責めて来ているような棘を感じるのは気の所為だろうか?
反論や口答えすると、『レイチェルゥ~』の件を言われそうなので止めておこう。
「あぁ~、はいはい。ふぅ~ん。そうなんですか。いやいや、なるほど~」
ダイスが、その瞳からハイライトが消えた様な目をしながら、少しにやけた顔で俺を見てそう言ってきた。
な、なんだこの態度?
もしかして、レイチェルの言葉を信じてねぇのか?
……いや、この感じそうじゃねぇ。
この顔は『女性に恥をかかせるお子ちゃま野郎』と思っている顔だ!!
「ダダダダイス! 違う! 違うぞ! 俺は場の流れに流される事のない硬派な漢なだけだ!」
「えぇ、そうですね。凄い硬派ですよ。はい。尊敬しちゃうなぁ~」
ダイスは同じ顔をして感情を置いてきた様な抑揚の無い声でそう言った。
隣でレイチェルは腹を抱えて笑ってやがる。
「だから違うって!」
「ははは、冗談ですって先生。ただ、先生も案外ちょろい人だなぁって……」
「ちょろくないっつーーの!!」
いや、自分で否定しておきながら、自分でもそう思ってるんだけどよ。
二十年前のあの事件から昨日までずっと殺すと思ってきた相手なんだ。
それが何も無かったとは言え、一緒のベッド寝てのんびり他愛の無い話をしながら朝帰りなんて、そんな未来が来る事を想像すら出来なかった。
……それこそ『いや、』だな。
情けねぇ話だが、これは心の奥ではずっと夢見てきた未来だぜ。
そんな情けねぇ自分が許せなくて、否定に否定を重ねて生きてきたんだ。
まぁ、だからと言って元鞘に戻るなんてのは考えちゃいねぇがな。
それはまた別の話だ。
それだけ二十年の月日は、お互いの距離をそう易々と手が届く場所には置いてくれちゃ居ねぇ。
それも俺の勇気でどうにかなるんだろうが、俺はすぐ逃げ出す臆病者だからよ。
……やっぱり『女性に恥をかかせるお子ちゃま野郎』なんだろうさ。
「けど、安心しましたよ。先生のその顔。いつも辛そうに見えていましたが、今ではそれが消えています。本当に、本当に良かった……」
ダイスは急に声を落とすと、噛締めるようにそう言った。
その目には薄っすらと涙も浮かんでいた。
それだけ俺の事を心配していたのだろう。
俺の過去を知ってからのダイスは、以前の様に憧れの存在に接する態度と言うより、どこか俺の事を支え一緒に歩んでくれようとしている様だ。
俺の事を普通の人間と同じ様に悩みも怒りも悲しみもする一人の人間だと認識してくれたんだろう。
俺の知らない所でも、今回の様に俺の為に頑張ってくれているようだしな。
頼りにしてるんだぜ?
「すまん。心配掛けちまってよ。もう大丈夫だ。ありがとうよ」
その言葉で更なる涙を流すダイスの肩を優しく叩く。
横で俺のやり取りをとても嬉しそうな顔で見ているレイチェルの目にも涙が浮かんでいた。
「今度は、良い仲間に出会えたみたいだね」
声を震わせながらレイチェルが言った。
「あぁ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「けど、何も無かったって言うのは安心しましたよ」
落ち着いた俺達はコウメが待っているであろうレイチェルの家に向かった。
ダイスが家を出る時はまだ寝ていたらしい。
そんな道すがらダイスはそんな事を言ってきた。
「当たり前だろ? 『準聖女』様と何か有りでもしたら大騒動だぜ。今度はマジで教会から刺客が送られるかもしれねぇよ」
……俺が寝たから何もなかっただけで、起きてたら雰囲気に呑まれちまっていた可能性が高いから偉そうな事は言えねぇけど。
それに朝だって、あの時マスターが帰って来なかったら確実にヤバかったと思うしよ。
ただ、そんな噂が立ちゃ身辺調査とかで俺の正体がバレる可能性が高いから、本当に助かったかもしれねぇや。
「あたしは別に気にしないんだけどねぇ」
「だからそう言う事を言うんじゃねぇっての!」
あっけらかんととんでもない事を言うレイチェルにツッコンだ。
愛していた旦那の事を考えてやれ!
まぁ、前の旦那の話を俺の前でする事に対して、遠慮して言ってるだけだろうけどな。
九割はからかっている気もするが。
「いえ、そう言う意味じゃなくて、アンリちゃんが聞いたら大変だろうなって……」
「ん? 何で嬢ちゃんが出て来るんだ?」
俺の言葉にダイスが驚愕な顔をしている。
なんか今日一番の驚き顔なんだが。
「いや、そりゃアンリちゃん先生の事……」
あぁ、俺の事を好きとかどうかって言う話か。
ははははっ、それは無ぇっての。
「まぁ、多少好いてくれているようだが、あくまで保護者としてだろうし、恐らくこの事を話しても『ああ、そうですか。良かったですね』ってもんだよ」
出発の際とか、その前日のキスとか、何か思わせ振りな態度を取られて年甲斐も無くドキドキしちまったけど、良く考えりゃ二周り上のおっさんなんて恋愛対象に入る訳無ぇよ。
「おやおや~? なんだか穏やかじゃない話じゃないかぁ。詳しく聞きたいね~」
「な、なんだよ穏やかじゃないって」
急にレイチェルが笑顔を浮かべながら話に入って来た。
笑顔なんだが、身体から闘気が立ち上っている様に見える。
むっちゃ怖い。
まるで昨日の俺の激怒みてぇに、その身体から魔力が溢れ出して周辺を焼き払いそうだ。
あれか? 嫉妬か? 何か誤解しているようだからちゃんと説明してやるか。
「あのな、何勘違いしてるか知らねぇが、嬢ちゃんってのはガーランド先輩の娘さんの事だよ。小さい頃から面倒見てたから懐いてるだけだっての」
「ふ~ん」
この眼は信じてねぇな。
じゃあ、とっておきの情報を教えてやろうじゃないか。
「それに、嬢ちゃんは好きな奴が、ちゃんと居るみてぇなんだぜ」
「えぇ! 本当ですか? いつの間に」
またもやダイスが驚いてやがる。
いつの間にって……。
おいおい、嬢ちゃんも今年十四歳でこの世界じゃ成人なんだ、いつまでも子供じゃ無ぇっての。
ちゃんと大きくなって行くもんだ。
「あぁ、そうだぜ。あとこいつは内緒だけどな、実はメアリもそいつの事が好きらしいんだ。絶対言うなよ。俺が言ったのバレると二人に殺される」
「な、な! メアリって、アンリちゃんの幼馴染の聖女候補だったメアリ嬢の事ですか? し、知らなかった……。で、その人は誰なんですか?」
嬢ちゃんの好きな奴がメアリの好きな奴と同じって事にも驚いているようだ。
その相手に興味津々って感じだな。
そりゃ、二人から好かれる幸運野郎の事を知りたくなるのは当たり前か。
と言っても、俺も誰かまでは知らねぇんだけどよ。
最初はダイスかと思ったが、ホテルのカフェでの態度じゃ違うみてぇだった。
「すまねぇ、誰かまでは知らねぇや。二人は恋のライバルって言っているのを聞いたんだ。あと残念だったな、ダイス。お前じゃねぇのは確認済みだ」
「いや、それ普通に困りますから。しかし、知らなかったなぁ。その腕のお守りしてるからてっきり……」
「お守り?」
急にレイチェルがお守りと言う言葉にピクリと反応した。
何だ? このお守りがどうしたんだよ。
ギルドでも周りの奴等が冷やかしてきていたが。
「それって、もしかして『還願の守り』の事かい?」
「そうですよ。先生が旅立つ時に本人から付けて貰ったって……」
「なんだよ、二人共。その『還願の守り』って?」
「知らないのかい? あぁ、あたしん時は一緒に旅してたんだから『還願』も何も無かったんだけどさ。あんた誰も知らない様な事知っている割にはこう言う事には疎いねぇ」
「うるせぇっての」
何か同じ事、先輩にも最近言われたぜ。
でも、言ってみればこれが龍舌草茶みてぇなこの世界独自の文化って奴なのかもな。
神がシナリオにぶち込んで来た『旅する猫』と違ってよ。
「しかし、最近の若い子はこのおまじないを友達感覚でやるようになったのかね? あたしん頃は一大決心みたいな物だったってのに」
「時代の流れですかねぇ。俺の時も彼女にして貰いましたけど、友達感覚でされてたとか思うと凹みますね。けどおかしいなぁ~?」
ダイスは首を傾げながら俺を見ている。
ん~、なんか今までの話を総合すると生きて返って来て欲しい人に贈るおまじないみたいな物か?
んで、昔は恋人に贈っていたと。
元の世界でもバレンタインデーとか昔は愛の告白ってだけだったらしいのに、俺の時は義理チョコ所か友達間で贈り合う友チョコとか普通だったし、若い奴等はおまじないとかをファッション感覚で楽しむんだろうさ。
しかし龍舌草茶と良い、生きて返って来い的な文化が旺盛なのは、なんだかんだと言って一歩街を出ればそれなりに死と隣り合わせな世界だからなのかね?
「でも、そう言うもんじゃねぇか? それに嬢ちゃん達が好きな奴って、チコリーも好きらしいぜ。やっぱり俺の製薬知識が目当てだったんだなあいつ」
「えぇーー!! チコリーも? そんな馬鹿な……」
「んんん? おやおや、また別の女の名前が出てきたよ? ダイス、ちょっと来な」
レイチェルがチコリーの名前に反応して、またもや怪しげな闘気を話しつつダイスを呼んだ。
その闘気にさすがのダイスも脅えつつ近付いて行く。
「そのチコリーって子の事聞かせてくれるかい?」
「え? えぇ、あのですね。ごにょごにょ……」
おいおい、俺の目の前でコソコソ内緒話を始めやがったぞ?
途中ちらちらと俺の事を見てやがるけど何だってんだよ。
「しかし、誰だか知らねぇが、そいつモテモテだな。多分先輩や王子に知られたら殺されるかもしれねぇ。おい、ダイス。お前も誰か分かったらそいつを守ってやってくれ」
「「じぃぃぃぃーーー」」
俺の言葉にコソコソ話していた二人が振り返りジト目、と言うより何か哀れな物を見る様な目で俺を見て来る。
「ど、どうしたんだよ。二人共」
「「はぁぁぁ~」」
二人は揃って大きな溜息を付いた。
お前等も息ピッタリだな。
「あ~、そう言えばこう言う奴だったよ。不憫だねぇ~」
「コウメちゃんもですね~」
「あぁ、少し考えちまうよ」
二人共しみじみと頷きあいながら何か喋っているが、確実に俺をディスってるのだけは分かる。
「な、なんだよ。おい、お前ら、ちょっと待てって。俺を置いてくなっての」
二人はやれやれのジェスチャーしたまま、俺の事を無視して二人で歩き出した。
混乱で訳の分からないツッコミを入れてきたダイスに説教をする。
いや、そんな事を言う資格が無いのは分かっているけどな。
俺でも同じ立場なら確実に同じツッコミを入れていたと思うしよ。
しかし、表通りじゃない迷路状に入り組んだこの住宅地とは言え、昨日の時の様な夜中と違って、朝食時の今じゃ人通りはそれなりにある。
元の世界風に言うなら出勤時刻と被ってるって事だしよ。
ただでさえ、レイチェルの家のご近所なんだ。
コウメの母親なんて事を大声で叫んだら、イコール『準聖女』様ってモロバレじゃねぇか。
『準聖女』が男と朝帰りなんて、教会最大のゴシップを喧伝するんじゃねぇよってんだ。
「す、すみません。つい。……アレ? 周りはこっち見てない? あっそうか! 先生いつの間に?」
「お前がコウメの名を挙げた瞬間だ。位相変位と認識疎外が間に合って良かったぜ。じゃなきゃ、今頃やじうまやら新聞記者達の餌食になってる所だったぞ」
「すみません、うぅぅ」
俺の言葉に申し訳無さそうにしているダイス。
元はと言えば俺が心配掛けた所為ってのは分かっているが、俺にも反論して良い権利は有るぞ。
なんたって朝帰りは朝帰りだけど、決してレイチェルとの間に疚しい事なんてのは無かったんだからよ。
そんな誤解を招く言い方するんじゃねぇよ! ……ちくしょうめっ!
「安心しなよ、ダイス。ショウタの奴ったら夜通し酒に付き合うとか言っておきながらすぐ寝ちまってね、そのまま放って帰るのも薄情だし、起きるまで付き添ってやっていたのさ。まぁ二十年間の疲れが出たんだろうね。朝まで! ぐっすりと! 気持ち良さそう! に寝ていたからねぇ」
レイチェルがくすくすと笑いながらダイスに昨日の事を説明した。
実際にその通りなのだが、どこか俺に対して責めて来ているような棘を感じるのは気の所為だろうか?
反論や口答えすると、『レイチェルゥ~』の件を言われそうなので止めておこう。
「あぁ~、はいはい。ふぅ~ん。そうなんですか。いやいや、なるほど~」
ダイスが、その瞳からハイライトが消えた様な目をしながら、少しにやけた顔で俺を見てそう言ってきた。
な、なんだこの態度?
もしかして、レイチェルの言葉を信じてねぇのか?
……いや、この感じそうじゃねぇ。
この顔は『女性に恥をかかせるお子ちゃま野郎』と思っている顔だ!!
「ダダダダイス! 違う! 違うぞ! 俺は場の流れに流される事のない硬派な漢なだけだ!」
「えぇ、そうですね。凄い硬派ですよ。はい。尊敬しちゃうなぁ~」
ダイスは同じ顔をして感情を置いてきた様な抑揚の無い声でそう言った。
隣でレイチェルは腹を抱えて笑ってやがる。
「だから違うって!」
「ははは、冗談ですって先生。ただ、先生も案外ちょろい人だなぁって……」
「ちょろくないっつーーの!!」
いや、自分で否定しておきながら、自分でもそう思ってるんだけどよ。
二十年前のあの事件から昨日までずっと殺すと思ってきた相手なんだ。
それが何も無かったとは言え、一緒のベッド寝てのんびり他愛の無い話をしながら朝帰りなんて、そんな未来が来る事を想像すら出来なかった。
……それこそ『いや、』だな。
情けねぇ話だが、これは心の奥ではずっと夢見てきた未来だぜ。
そんな情けねぇ自分が許せなくて、否定に否定を重ねて生きてきたんだ。
まぁ、だからと言って元鞘に戻るなんてのは考えちゃいねぇがな。
それはまた別の話だ。
それだけ二十年の月日は、お互いの距離をそう易々と手が届く場所には置いてくれちゃ居ねぇ。
それも俺の勇気でどうにかなるんだろうが、俺はすぐ逃げ出す臆病者だからよ。
……やっぱり『女性に恥をかかせるお子ちゃま野郎』なんだろうさ。
「けど、安心しましたよ。先生のその顔。いつも辛そうに見えていましたが、今ではそれが消えています。本当に、本当に良かった……」
ダイスは急に声を落とすと、噛締めるようにそう言った。
その目には薄っすらと涙も浮かんでいた。
それだけ俺の事を心配していたのだろう。
俺の過去を知ってからのダイスは、以前の様に憧れの存在に接する態度と言うより、どこか俺の事を支え一緒に歩んでくれようとしている様だ。
俺の事を普通の人間と同じ様に悩みも怒りも悲しみもする一人の人間だと認識してくれたんだろう。
俺の知らない所でも、今回の様に俺の為に頑張ってくれているようだしな。
頼りにしてるんだぜ?
「すまん。心配掛けちまってよ。もう大丈夫だ。ありがとうよ」
その言葉で更なる涙を流すダイスの肩を優しく叩く。
横で俺のやり取りをとても嬉しそうな顔で見ているレイチェルの目にも涙が浮かんでいた。
「今度は、良い仲間に出会えたみたいだね」
声を震わせながらレイチェルが言った。
「あぁ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「けど、何も無かったって言うのは安心しましたよ」
落ち着いた俺達はコウメが待っているであろうレイチェルの家に向かった。
ダイスが家を出る時はまだ寝ていたらしい。
そんな道すがらダイスはそんな事を言ってきた。
「当たり前だろ? 『準聖女』様と何か有りでもしたら大騒動だぜ。今度はマジで教会から刺客が送られるかもしれねぇよ」
……俺が寝たから何もなかっただけで、起きてたら雰囲気に呑まれちまっていた可能性が高いから偉そうな事は言えねぇけど。
それに朝だって、あの時マスターが帰って来なかったら確実にヤバかったと思うしよ。
ただ、そんな噂が立ちゃ身辺調査とかで俺の正体がバレる可能性が高いから、本当に助かったかもしれねぇや。
「あたしは別に気にしないんだけどねぇ」
「だからそう言う事を言うんじゃねぇっての!」
あっけらかんととんでもない事を言うレイチェルにツッコンだ。
愛していた旦那の事を考えてやれ!
まぁ、前の旦那の話を俺の前でする事に対して、遠慮して言ってるだけだろうけどな。
九割はからかっている気もするが。
「いえ、そう言う意味じゃなくて、アンリちゃんが聞いたら大変だろうなって……」
「ん? 何で嬢ちゃんが出て来るんだ?」
俺の言葉にダイスが驚愕な顔をしている。
なんか今日一番の驚き顔なんだが。
「いや、そりゃアンリちゃん先生の事……」
あぁ、俺の事を好きとかどうかって言う話か。
ははははっ、それは無ぇっての。
「まぁ、多少好いてくれているようだが、あくまで保護者としてだろうし、恐らくこの事を話しても『ああ、そうですか。良かったですね』ってもんだよ」
出発の際とか、その前日のキスとか、何か思わせ振りな態度を取られて年甲斐も無くドキドキしちまったけど、良く考えりゃ二周り上のおっさんなんて恋愛対象に入る訳無ぇよ。
「おやおや~? なんだか穏やかじゃない話じゃないかぁ。詳しく聞きたいね~」
「な、なんだよ穏やかじゃないって」
急にレイチェルが笑顔を浮かべながら話に入って来た。
笑顔なんだが、身体から闘気が立ち上っている様に見える。
むっちゃ怖い。
まるで昨日の俺の激怒みてぇに、その身体から魔力が溢れ出して周辺を焼き払いそうだ。
あれか? 嫉妬か? 何か誤解しているようだからちゃんと説明してやるか。
「あのな、何勘違いしてるか知らねぇが、嬢ちゃんってのはガーランド先輩の娘さんの事だよ。小さい頃から面倒見てたから懐いてるだけだっての」
「ふ~ん」
この眼は信じてねぇな。
じゃあ、とっておきの情報を教えてやろうじゃないか。
「それに、嬢ちゃんは好きな奴が、ちゃんと居るみてぇなんだぜ」
「えぇ! 本当ですか? いつの間に」
またもやダイスが驚いてやがる。
いつの間にって……。
おいおい、嬢ちゃんも今年十四歳でこの世界じゃ成人なんだ、いつまでも子供じゃ無ぇっての。
ちゃんと大きくなって行くもんだ。
「あぁ、そうだぜ。あとこいつは内緒だけどな、実はメアリもそいつの事が好きらしいんだ。絶対言うなよ。俺が言ったのバレると二人に殺される」
「な、な! メアリって、アンリちゃんの幼馴染の聖女候補だったメアリ嬢の事ですか? し、知らなかった……。で、その人は誰なんですか?」
嬢ちゃんの好きな奴がメアリの好きな奴と同じって事にも驚いているようだ。
その相手に興味津々って感じだな。
そりゃ、二人から好かれる幸運野郎の事を知りたくなるのは当たり前か。
と言っても、俺も誰かまでは知らねぇんだけどよ。
最初はダイスかと思ったが、ホテルのカフェでの態度じゃ違うみてぇだった。
「すまねぇ、誰かまでは知らねぇや。二人は恋のライバルって言っているのを聞いたんだ。あと残念だったな、ダイス。お前じゃねぇのは確認済みだ」
「いや、それ普通に困りますから。しかし、知らなかったなぁ。その腕のお守りしてるからてっきり……」
「お守り?」
急にレイチェルがお守りと言う言葉にピクリと反応した。
何だ? このお守りがどうしたんだよ。
ギルドでも周りの奴等が冷やかしてきていたが。
「それって、もしかして『還願の守り』の事かい?」
「そうですよ。先生が旅立つ時に本人から付けて貰ったって……」
「なんだよ、二人共。その『還願の守り』って?」
「知らないのかい? あぁ、あたしん時は一緒に旅してたんだから『還願』も何も無かったんだけどさ。あんた誰も知らない様な事知っている割にはこう言う事には疎いねぇ」
「うるせぇっての」
何か同じ事、先輩にも最近言われたぜ。
でも、言ってみればこれが龍舌草茶みてぇなこの世界独自の文化って奴なのかもな。
神がシナリオにぶち込んで来た『旅する猫』と違ってよ。
「しかし、最近の若い子はこのおまじないを友達感覚でやるようになったのかね? あたしん頃は一大決心みたいな物だったってのに」
「時代の流れですかねぇ。俺の時も彼女にして貰いましたけど、友達感覚でされてたとか思うと凹みますね。けどおかしいなぁ~?」
ダイスは首を傾げながら俺を見ている。
ん~、なんか今までの話を総合すると生きて返って来て欲しい人に贈るおまじないみたいな物か?
んで、昔は恋人に贈っていたと。
元の世界でもバレンタインデーとか昔は愛の告白ってだけだったらしいのに、俺の時は義理チョコ所か友達間で贈り合う友チョコとか普通だったし、若い奴等はおまじないとかをファッション感覚で楽しむんだろうさ。
しかし龍舌草茶と良い、生きて返って来い的な文化が旺盛なのは、なんだかんだと言って一歩街を出ればそれなりに死と隣り合わせな世界だからなのかね?
「でも、そう言うもんじゃねぇか? それに嬢ちゃん達が好きな奴って、チコリーも好きらしいぜ。やっぱり俺の製薬知識が目当てだったんだなあいつ」
「えぇーー!! チコリーも? そんな馬鹿な……」
「んんん? おやおや、また別の女の名前が出てきたよ? ダイス、ちょっと来な」
レイチェルがチコリーの名前に反応して、またもや怪しげな闘気を話しつつダイスを呼んだ。
その闘気にさすがのダイスも脅えつつ近付いて行く。
「そのチコリーって子の事聞かせてくれるかい?」
「え? えぇ、あのですね。ごにょごにょ……」
おいおい、俺の目の前でコソコソ内緒話を始めやがったぞ?
途中ちらちらと俺の事を見てやがるけど何だってんだよ。
「しかし、誰だか知らねぇが、そいつモテモテだな。多分先輩や王子に知られたら殺されるかもしれねぇ。おい、ダイス。お前も誰か分かったらそいつを守ってやってくれ」
「「じぃぃぃぃーーー」」
俺の言葉にコソコソ話していた二人が振り返りジト目、と言うより何か哀れな物を見る様な目で俺を見て来る。
「ど、どうしたんだよ。二人共」
「「はぁぁぁ~」」
二人は揃って大きな溜息を付いた。
お前等も息ピッタリだな。
「あ~、そう言えばこう言う奴だったよ。不憫だねぇ~」
「コウメちゃんもですね~」
「あぁ、少し考えちまうよ」
二人共しみじみと頷きあいながら何か喋っているが、確実に俺をディスってるのだけは分かる。
「な、なんだよ。おい、お前ら、ちょっと待てって。俺を置いてくなっての」
二人はやれやれのジェスチャーしたまま、俺の事を無視して二人で歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ
よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。
剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。
しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。
それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。
「期待外れだ」
「国の恥晒しめ」
掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。 だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。
『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』
彼だけが気づいた真実。
それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。
これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。
【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる