神のおもちゃのラグナロク 〜おっさんになった転生者は、のんびり暮らす夢を見る。~

やすぴこ

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第七章 帰郷

第127話 別れの挨拶

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「おいおい、もう行っちまうってのか?」

 着いた早々魔法陣の中央で準備体操をし出した俺に先輩が少し呆れた様子でそう言ってきた。
 その声で周りの奴等も俺の様子に気が付いて集まってくる。
 何人かは俺達の分の野営用テントを準備していたし、皆俺がすぐに旅立つとは思っていなかったようだ。
 まぁ、俺としてもこんな強行軍の後なんだ、ゆっくりしたいのは山々なんだが、このメンバー的にあまり長居をするのはマズイだろ。
 それに失敗した時のリカバリや、そもそも『世界の穴』が俺の勘違いだったって時の事を考えると、早ければ早い程良いに決まってる。

「あぁ、こう言うのは早ければ早いほど良いんだよ。おーいコウメもこっち来い」

 俺は少し離れた所で辺りをキョロキョロと物珍しそうに見回しているコウメに声を掛ける。
 そりゃ前回来た時とは全く様子が違っちまってるから、辺りが気になっても仕方がねぇよな。
 俺の声が聞こえたコウメは、俺が置いて行くぞと言った事に焦って必死な形相で走ってくる。

「あ~あ、本当は俺も行きたかったんですけどね~」

「まぁ、そう言うなってダイス。無事に言って帰って来れたら今度は連れてってやるからよ。それまで絶対に試そうとするなよ? 移動中何が起こるか分からねぇしな」

「分かってますって、コウメちゃんみたいに精霊を纏えませんし、生身では危険って言う事は承知してますよ。まずはそのトカゲが生きてるかの実験の結果で試すように言われてますしね」

「そうそう。だから今回は大人しくな」

 ダイスが言っているトカゲの実験ってのは、ヴァレンさんが言い出した事だ。
 実はあの魔法陣に関しては王都で試してみたんだ。
 『世界の穴』の上じゃなくてもあの魔法陣だけで移動出来るんじゃないかってな。
 まぁ、『ゲート』の呪文に関しては内緒にして、『母さんがこの魔法陣を書いているのを見た』って嘘の昔話を交えて行ってみたら、ならば試してみようってなったんだ。
 先輩やヴァレンさんは『二人のケンオウ』の一人『賢王 テレス』が描いていたのなら、もしやこれが『世界の穴』自身なのかもと色めき立っていた。
 まぁその際『なんで賢王が、テラの書いたこの絵本に書かれている魔法陣を知っているんだ?』って言う疑問の言葉が出てきて焦ったが、咄嗟の俺の『この大陸の出身だからじゃね?』と言う言葉で皆が納得した。
 全部俺がこの『世界の穴』のからくりに気付く為に神が用意したギミックなんて言えねぇもんな。

 だが結果は、そんな事は全く無く俺が皆の前であの恥ずかしい呪文を唱えて恥かいただけに終わったんだ。
 魔法陣自体発動する様子もなかった。
 その時の皆の落胆といったらなかったぜ。
 俺が母さんが描いていた魔法陣って言っちまったもんだから期待値が上がってたのも有るがよ。
 もしかしたらこれも俺に恥をかかせる罠だったのかもな、くそったれめ! 

 それを踏まえて色々と考察した結論としたんだが、やはり『世界の穴』=『城食いの出現地点』の場所がキーとなっているのだろうと言う事になった。
 んで、俺が保険としてジョン達に魔法陣を書かせたんだ。
 皆からは期待を裏切られたせいで少しばかり白い目で見られたけどな。
 『お前の記憶違いじゃないか?』とか言われてよ、くそったれめ!
 ここまで全てが俺に恥をかかせる為の罠って線も残っているが、さすがにこれだけの必然的状況証拠が有るから、その可能性は無いと信じたいぜ。

 とは言えだ、今回いきなり人間を連れていくってのはさすがにアレなので、まず他の小動物を連れていく事になった。
 それがダイスの言ったトカゲって訳だ。
 こいつが無事生きていたら人間でも大丈夫じゃねぇかってな。

 そうそうダイスが言っていた言葉に有ったコウメが精霊を纏えるってのは、俺がコウメ呼んだ理由と同じだ。
 アメリア王国へ向かうのは俺とトカゲだけじゃない。
 コウメもそのメンバーとなっている。
 本当は連れていくつもりじゃなかったんだが、今王都の大神殿で神官共の目を逸らす為に残って貰ってるレイチェルの言葉で渋々コウメの同行を了承した。

 幾ら王からの親書が有ると言えども、友好国でもねぇ遥か海の彼方にある国からの使者が、こんな怪しいおっさんなんかじゃ信用してくれる筈も無く、親書は取り上げられて中身を検分されちまうだろうってな。
 中身は俺の事や魔族の事なんかが書かれている訳だし、メイガス以外の奴等に見られるのは出来れば避けてぇ。
 しかし、勇者が使者として来たのなら話は別なんだと。
 間違いなくノーパスで信用されて直接メイガスに親書を渡せるだろって言われると、確かにまぁ返す言葉が見付からねぇや。

 一応反論として『俺以外の奴が転移に耐えられる保障は無ぇぞ』とは言ったんだが、『絵本の呪文には精霊の架け橋って言葉が出てくるし、勇者は精霊を纏えるんだから大丈夫でしょ。それにあんたなら何が有っても守ってくれるって信じてるわ』だってよ。
 確かに勇者の紋章にそれが出来るかどうか質問したら『可能』って回答だった。
 それでも渋る俺にレイチェルは追い討ちで『もし何かあっても、あの時の私の様に娘を守ってあげて』なんて言われちまったらやるしかねぇよ。
 どうやって守るか知らねぇが、まぁ何が有っても守ってみせるさ。
 今度こそあの時望んだレイチェルの手未来を掴む為にな。


「しかし急ぎすぎと思うが? あの強行軍を終えて休む間も無いではないか。もっとしっかりと休息を取らないと何かあった時に十分動けんぞ?」

 バルトが呆れた顔で俺を嗜めて来た。
 なんか尤もで立派な事を言っているが、お前ただ単に折角の結婚旅行が終わるのが嫌なだけだろ?
 王子だってのに、率先してテントを楽しそうに組み立ててたしな。
 俺が行った後に野宿を楽しんでくれ……と言いたい所だが、そう言うわけにもいかねぇんだよ。

「あのな、王子であるお前があまり城を空けてると目立つんだよ。本来この神殿の再封印の儀には教会も噛んでる所為で、王族が勝手に調査に向かうってのは色々と勘繰られる可能性が高い。だからレイチェルが残って誤魔化すために動いてくれてんだ。バルト、俺の正体がバレねぇ様に守ってくれるんだろ?」

「むむむ。確かに教会の奴等に知られると未来の弟が教会の象徴として奪われるやも知れんか……う~む。仕方ないな」

 俺の説明で我に返ったバルトが肩をがっくり落として溜息をつく。
 元々見付かりたくねぇ俺のわがままを、お前達の都合に転嫁させる真似してすまん。
 ずっと王族として生きて来て今回みてぇな自由な冒険なんて今まで出来なかったんだ。
 森でのはしゃぎっぷりも仕方ねぇよ。
 それになんと言っても先輩なんて言う、この国の跡取り息子だった癖に逃げ出して自由気ままな冒険者になった奴が一緒なんだしな。
 本来なら今お前が先輩の立場だったって事も有り得るんだからよ。

「まぁ、今回俺が無事に帰って来る事が出来たら、何の目的も無い冒険の旅にこっそり連れ出してやるよ。ただし一泊二日でな」

「プッ、なんだそれは。いや、うん、そうだな。期待させて頂くとしようか。それよりも『帰って来る事が出来たら』ではないぞ。絶対に無事に帰って来るのだ」

「あぁ、分かってるっての。コウメ? 準備は良いか」

「大丈夫なのだ!!」


        ◇◆◇


「じゃ、先輩。王都に残ってるヴァレンさんやメアリによろしく言っといてくれ。あとレイチェルにもな」

「あぁ、分かった。伝えとくぞ」

 出発準備も整い、俺とコウメは『世界の穴』の中心地である魔法陣の中に入り、皆に暫しの別れの挨拶をする。
 しかし、メアリの奴と言えば、コウメが同行するって知ったらゴネたゴネた。
 『私も一緒について行くですのーーー!!』ってな。
 元から俺が遠くに行く時は一緒に連れてけって言ってたし、俺が心配な気持ちは分からんでもないが、女神様直々の命令で教会から庇護されている身だからな。
 さすがに連れて行く訳にはいかねぇよ。
 長期間居場所不明ってなっちまったら教会は信者全員使って世界中を探し出そうとするだろ。
 そう説明したら賢いメアリは何とか分かってはくれたが、コウメに『抜け駆けはダメですの』とか注意してやがったんで盛大に吹いちまったぜ。
 いくらなんで元カノの娘、しかも一桁に手を出すかっての!!

「あ~先輩。あと、……そのなんだ」

「どうしたんだショウタ?」

 俺が言葉を言い淀んでいると先輩が不思議そうな顔して聞いてきた。
 もう一人よろしく言っとかねぇとダメな奴を思い出しちまった俺はなんだか恥ずかしくてうまく言葉に出来ねぇ。
 ついこの前まで全くそんな気持ちはなかったってのによ。

「あぁ~、あのさ。嬢ちゃん……いや、アンリには俺は無事に帰ってくるから心配するなって伝えといてくれ」

 そう嬢ちゃんの事だ。
 俺の秘密を知っておきながらずっと黙ってくれていた嬢ちゃん。
 俺が少しでもやる気になるようにハッパを掛けてくれてたんだ。
 その嬢ちゃんの想いを俺は最近になってようやく知る事が出来た。
 自分の鈍さが嫌になるぜ。
 いや、俺も惚れているって訳じゃねぇよ。
 嬢ちゃんの事は好きだが、それは何も恋愛の好きじゃねぇっての。
 そう、あれだ。
 ずっと面倒見て来た娘とか姪っ子とかそう言う身内の親愛の情だ。
 うん、そうそう。

「はっはっは。分かった分かった。ちゃんと伝えておくぞ。いやはや、お前が娘を意識してくれてると分かって安心したぞ。なんだか最近お前を狙うライバルが多くて焦ってたからな」

「そんなんと違うっての!! 年が違い過ぎるだろ!!」

 くそっ! 先輩め!
 俺が顔真っ赤にして否定してる様をニヤニヤした顔で見てやがる。
 いくら成長が二十八歳で止まってるからと、言ってそれでも嬢ちゃんとは一回りは年が離れてるから恋愛とか有り得ねぇっての!

「あ~、我が可愛い妹には挨拶はないのか?」

 先輩のニヤニヤ顔に対して拗ねているとバルトが少しばかり憮然とした感じに言って来た。
 どうやら俺が自分の妹に挨拶しねぇ事に拗ねてるようだ。
 あ~姫さんね。
 そう言えば姫さんは結構余裕だったな。
 俺があっちの大陸に行くって時も、それにコウメが一緒に同行するって知った時も、ただ『お帰りをお待ちしておりますわ』だけだった。
 これは俺が帰って来る事を信じてるって奴かね?
 だから俺の無事を祈り、何も言わずに送り出した。
 まるで嬢ちゃんみたいだ。
 これがあの意地悪でわがままな『踊らずの姫君』だとはな。
 まともになったのは俺の教育の賜物って言いてぇ処だが、想い人は俺以外でお願いしたかったぜ。

「あぁ、マリアンヌにも無事に帰ると伝えてくれ」

「ん? マリアンヌだけか? イザベラとアイリーンへの言葉は?」

「イザベラ……に、え? ア、アイ? 誰だそれ?」

「何を言っている。晩餐会で紹介したであろう。上の妹と真ん中の妹の事だ」

「ちょっ! だから二人は関係無ぇーっての!!」

 ったく、隙を見て押し付けようとして来やがる。
 困った奴らだぜ。
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