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1. Black Sheep
10-3.
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「あァ? ジョン?」
舌打ちの音に耳聡く反応したジャネットが、舌打ちを返しながら彼に振り返る。ジョンは彼女を見ずに顎で敵を指す。
「ボケッとしてんじゃねえよ。さっさと銃を抜け」
彼の言う通り、一時の危機は退けたが、まだ彼らの前に敵は立っているのだ。
「ギ、ギ……。ホームズ……か」
束ねた尾をバラし、元に戻しながら悪魔が呻いた。今度は、それを聞いたジョンが「あァ?」と凶悪な声を上げる。
「僕をその姓で呼ぶんじゃねえ――よッ!」
ジョンは声を出すと共に跳び出した。前動作を見せない唐突な突進に、悪魔は反応が遅れた。ジョンはそのまま敵の足を払うと首を掴み、床へ押し倒した。
「ジャネット!」
ジョンが叫び、空いた右手を掲げた。ジャネットはそれを見た直後、抜いた拳銃をその手に向けて投げた。
ジョンの意図を察した悪魔が尾を操るがしかし、遅かった。宙を飛ぶ拳銃を捉える事は出来ず、それを握ったジョンに眉間へと銃口を押し当てられた。
「動くな。聞かれた事だけに答えろ」
ジョンは悪魔の眼前で撃鉄を起こす。悪魔は息を飲み、大人しく頷くしかなかった。
「お前はずっとこの人形の中にいたのか? 前に憑いてた奴とは別者か?」
「ソうだ。前にいた奴は知らない」
短期間で同じ肉体に悪魔が宿る……。ジョンはそんな話を聞いた事がなかった。
「お前の狙いはメアリーか? なんであの子を狙う」
ジョンの問いに、悪魔はくぐもった笑みを浮かべる。
「そいつは『特異点』ダ。そいつが俺達ヲ呼び寄せる……」
「トクイテン? なんだそれは」
問いながら、ジョンは自分の中で必死にその言葉を探すが、やはり初耳だった。嫌な響きしか感じないその言葉に、ジョンは強烈な反感を覚えた。
悪魔は笑う。不吉を孕んで悪魔は笑う。ジョンは更に強く銃口を悪魔に押し付けた。しかし、尚も悪魔は笑い続ける。
「俺達ニとってのこの世界へノ『窓』だよ。それを頼リに俺達はコッチに辿り着ケる……!」
「そんな訳があるか。フザけて――」
言い掛けて、ジョンは思い出す。レストレード警部と共にホワイトチャペルを捜査していた際に尋ねた男の言葉を。
――「ここで血腥い事件がある時、大体『ブラッディ・エンジェル』が傍に居るモンだ」、「おかしな自殺が多かった」、「あいつが入った途端、誰かが狂い始める」。
「……『ブラッディ・エンジェル』……」
もし「エンジェル」が子供で、あの少年の下に身を寄せていたとしたら? 「エンジェル」が呼び寄せた不幸が、少年の家族を襲ったら? その復讐の為に力を求め、それに答えた悪魔がいるとしたら? あの魔人が少年の声に答えたのだとしたら? 魔人の目的が、初めから「エンジェル」だとしたら? 「エンジェル」の正体が『特異点』――、「メアリー」なのだとしたら?
確証はない、ただの直感だ。しかし、ジョンは点と点が線で繋がった気がした。
『特異点』。「ブラッディ・エンジェル」。メアリー。ジャック・ザ・リッパー。「ママ」。悪魔憑きの「人形」。それらについて、自分達は何も知らない。
「――一体何を企んでやがる、てめえらは……!」
「クッハ!」ジョンが歯を食い縛って吐き出した言葉に、悪魔はとうとう吹き出した。「何も知ラない、何も知らナい! 哀れだナあ、お前ラは。あの方のお考えが、お前達にハ分かるマい!」
笑う。笑う。笑う。悪魔の笑い声を受けるジョンの中で不快感が爆発したその時、悪魔が動きを止めた。
その途端、「人形」の至る所から黒い泥のようなモノが溢れ出た。ボタボタと音を立ててそれは床を這い回り、そのまま吸い込まれるようにして消えていった。
ジョンは半ば呆然としたまま、「人形」の首を掴んで床に押さえ付けていた。しばらく経ってから、舌打ちをして立ち上がった。
「ジョン……?」
どうしたのと問うジャネットへジョンは顔を向けず、忌々し気に床に転がる人形を睨む。
「逃げられた。地獄にトンボ返りだよ」
苛立ちを散らすように強く息を吐き、ジョンはジャネットに近寄り、撃鉄を戻した拳銃を彼女に手渡した。そして――、メアリーへ振り返った。
「メアリー、『ブラッディ・エンジェル』ってのは、君だな?」
彼の瞳の中に感慨はなかった。憐れみも、憎しみも、怒りも。「何故」とも「どうして」とも問う事はなかった。
ただ――それを受け止めるメアリーにとってはそうではなかった。責められている、攻められている。この大人は、既に「私」の事を知っている。
メアリーはいっそ諦めたように小さく笑い、自分を抱き締めるジャネットから離れた。
「お兄ちゃんも、私を……そう呼ぶんだね」
「メアリー……」
「でも本当に、私は何もしてないよ」
その微笑みは、まるで殉教者のようで。
命の答えを追い、辿り着いた「覚者」。
人類の罪を背負い、消えた「彼の人」。
神から言葉を賜り、伝えた「預言者」。
何か大切なモノを守る。――ただそれだけの為に、彼女は嘘を重ねてきた。
舌打ちの音に耳聡く反応したジャネットが、舌打ちを返しながら彼に振り返る。ジョンは彼女を見ずに顎で敵を指す。
「ボケッとしてんじゃねえよ。さっさと銃を抜け」
彼の言う通り、一時の危機は退けたが、まだ彼らの前に敵は立っているのだ。
「ギ、ギ……。ホームズ……か」
束ねた尾をバラし、元に戻しながら悪魔が呻いた。今度は、それを聞いたジョンが「あァ?」と凶悪な声を上げる。
「僕をその姓で呼ぶんじゃねえ――よッ!」
ジョンは声を出すと共に跳び出した。前動作を見せない唐突な突進に、悪魔は反応が遅れた。ジョンはそのまま敵の足を払うと首を掴み、床へ押し倒した。
「ジャネット!」
ジョンが叫び、空いた右手を掲げた。ジャネットはそれを見た直後、抜いた拳銃をその手に向けて投げた。
ジョンの意図を察した悪魔が尾を操るがしかし、遅かった。宙を飛ぶ拳銃を捉える事は出来ず、それを握ったジョンに眉間へと銃口を押し当てられた。
「動くな。聞かれた事だけに答えろ」
ジョンは悪魔の眼前で撃鉄を起こす。悪魔は息を飲み、大人しく頷くしかなかった。
「お前はずっとこの人形の中にいたのか? 前に憑いてた奴とは別者か?」
「ソうだ。前にいた奴は知らない」
短期間で同じ肉体に悪魔が宿る……。ジョンはそんな話を聞いた事がなかった。
「お前の狙いはメアリーか? なんであの子を狙う」
ジョンの問いに、悪魔はくぐもった笑みを浮かべる。
「そいつは『特異点』ダ。そいつが俺達ヲ呼び寄せる……」
「トクイテン? なんだそれは」
問いながら、ジョンは自分の中で必死にその言葉を探すが、やはり初耳だった。嫌な響きしか感じないその言葉に、ジョンは強烈な反感を覚えた。
悪魔は笑う。不吉を孕んで悪魔は笑う。ジョンは更に強く銃口を悪魔に押し付けた。しかし、尚も悪魔は笑い続ける。
「俺達ニとってのこの世界へノ『窓』だよ。それを頼リに俺達はコッチに辿り着ケる……!」
「そんな訳があるか。フザけて――」
言い掛けて、ジョンは思い出す。レストレード警部と共にホワイトチャペルを捜査していた際に尋ねた男の言葉を。
――「ここで血腥い事件がある時、大体『ブラッディ・エンジェル』が傍に居るモンだ」、「おかしな自殺が多かった」、「あいつが入った途端、誰かが狂い始める」。
「……『ブラッディ・エンジェル』……」
もし「エンジェル」が子供で、あの少年の下に身を寄せていたとしたら? 「エンジェル」が呼び寄せた不幸が、少年の家族を襲ったら? その復讐の為に力を求め、それに答えた悪魔がいるとしたら? あの魔人が少年の声に答えたのだとしたら? 魔人の目的が、初めから「エンジェル」だとしたら? 「エンジェル」の正体が『特異点』――、「メアリー」なのだとしたら?
確証はない、ただの直感だ。しかし、ジョンは点と点が線で繋がった気がした。
『特異点』。「ブラッディ・エンジェル」。メアリー。ジャック・ザ・リッパー。「ママ」。悪魔憑きの「人形」。それらについて、自分達は何も知らない。
「――一体何を企んでやがる、てめえらは……!」
「クッハ!」ジョンが歯を食い縛って吐き出した言葉に、悪魔はとうとう吹き出した。「何も知ラない、何も知らナい! 哀れだナあ、お前ラは。あの方のお考えが、お前達にハ分かるマい!」
笑う。笑う。笑う。悪魔の笑い声を受けるジョンの中で不快感が爆発したその時、悪魔が動きを止めた。
その途端、「人形」の至る所から黒い泥のようなモノが溢れ出た。ボタボタと音を立ててそれは床を這い回り、そのまま吸い込まれるようにして消えていった。
ジョンは半ば呆然としたまま、「人形」の首を掴んで床に押さえ付けていた。しばらく経ってから、舌打ちをして立ち上がった。
「ジョン……?」
どうしたのと問うジャネットへジョンは顔を向けず、忌々し気に床に転がる人形を睨む。
「逃げられた。地獄にトンボ返りだよ」
苛立ちを散らすように強く息を吐き、ジョンはジャネットに近寄り、撃鉄を戻した拳銃を彼女に手渡した。そして――、メアリーへ振り返った。
「メアリー、『ブラッディ・エンジェル』ってのは、君だな?」
彼の瞳の中に感慨はなかった。憐れみも、憎しみも、怒りも。「何故」とも「どうして」とも問う事はなかった。
ただ――それを受け止めるメアリーにとってはそうではなかった。責められている、攻められている。この大人は、既に「私」の事を知っている。
メアリーはいっそ諦めたように小さく笑い、自分を抱き締めるジャネットから離れた。
「お兄ちゃんも、私を……そう呼ぶんだね」
「メアリー……」
「でも本当に、私は何もしてないよ」
その微笑みは、まるで殉教者のようで。
命の答えを追い、辿り着いた「覚者」。
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