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1. Black Sheep
17-2.
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「さて、それでは本題に入ろう」
椅子を引き、レストレードがそこに座った。四人もそれに倣って席に着いた。メアリーはジャネットに促され、彼女の膝の上に落ち着いた。
「メアリーから事件のあらましは聞いた。ホワイトチャペルの残酷な現状については、私も心苦しい。しかしその話をし出すと、長くなるだろうから、今は外す。
娼婦、労働管理者、そして「人形」を殺したのは『ジャック』という少年。
そう差し向けたのは、大悪魔『ベルゼブブ』と『ジャス・モアティ』なる人物。
彼らはジャックの家族を取り込み、ホワイトチャペルで悪魔が憑依可能な『人形』を量産しようとしていた。その材料となる遺体を、メアリー達は運んでいた。その見返りとして、住居と食糧を提供していた」
レストレードが確認するように目を向けたので、ジョンは頷いて答え、
「僕が確認した悪魔憑きの『人形』は三体。女性と男性の『人形』は、恐らく警察が回収したでしょうが――」そう言ってレストレードを見る。彼は小さく頷いた。「もう一体の女性型が、ヴィクターの下にある筈だ」
「そちらも後日、警察に提出しますよ。おっと、持ち主の許可を取らなければならないね」
ヴィクターが声を上げる。ジョンはその人形の持ち主の住所を告げると、レストレードが自分達で確認を取る旨を口にした。
「ベルゼブブは地獄へと追い返したが、もう一方のジャスは行方知れず。君達も姿は確認していないのだろう?」
レストレードはジョンとジャネットに問う。二人は暗い顔で頷いた。
「ジャスは人形技師の筈ですが、恐らく無免許で無認可です。そして、最後まで姿を現さなかった」ジョンは机を指で叩きながら、「大悪魔と繋がりを持っている以上、魔人である可能性もある。……ですが、ベルゼブブが追い詰められても助けには来なかった。忠誠心がないのか、それとも物理的に距離が遠かったのか……」
「……ジャスについては、引き続き警戒する必要があるな」
レストレードの言葉に、ジョンは歯噛みした。自分の詰めの甘さを指差されている気がしたのだ。
この事件の最も深い闇は、『「人形」に悪魔が取り憑く』というところだ。コレがもし悪魔達に広まったら、技師さえ用意すれば、彼らは自分達の居場所を簡単に作れ、市街地を動き回る事が出来るのだ。しかし「人形」の量産について、ベルゼブブ自身が「安定供給にはまだほど遠い。まだまだ研鑽の余地がある」と語っていた。その言葉を信じれば、まだ猶予はあると言う事か。
「……ふうん?」ヴィクターが興味深そうに口の中で呟く。「あの『プログラム』でも、まだ研鑽の余地があると言うのか……。面白いねェ……」
ヴィクターの声に気付いたのは、ジュネだけだった。不審そうに彼の横顔を見詰めるが、レストレードが再び話し始めたので、慌てて視線を戻した。
「切り裂きジャック事件は、あくまでも娼婦や労働管理者達への連続殺人が主題だ。殺人という行為を行った者、すなわちジャック・ザ・リッパーの正体は、メアリーの家族であるジャック――で、間違いないのだろうね?」
その言葉に、部屋の中が沈黙した。レストレードも口調は窺うようなものになっていた。
ジョンは横眼でメアリーを見た。彼女は眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情をして俯いていた。
ハァと溜め息をついてから、ジョンはレストレードに視線を戻した。
「ジャックで間違いないですよ。悪魔のチカラを受け取ったジャックが、そのチカラで犯行に及んだ。遺体はバラバラにされていたと言いますが、あいつはそれだけ被害者達を恨んでいる。……あいつは家族を殺された復讐心から、殺人に及んだ」
ジャックは人を殺した。それは紛れもない、取り繕う事の出来ない事実だった。
「理由はどうあれ、人が人を殺す事は罪深い。警察としては、なんとしても彼を逮捕しなければならないが――」レストレードはまたメアリーをチラリと窺う。「しかし彼もジャス同様、その行方は知れないままだ」
「……今更ですけれど、コレ、事件が解決したと言っていいんでしょうか」
恐る恐るそう口にしたジャネットに、全員が苦笑を浮かべた。
「まあしかし、ジョン達の活躍で、切り裂きジャック事件の被害者が、もう増えないのは確かだ。それは僥倖ぎょうこうだと言っていいだろう」
あいつの復讐自体は警察に発覚した時点で既に終了していた筈だ。僕らが介入しようとしまいと、被害者の数は変わらなかっただろう。……改めて見直しても、僕がこの事件を解決したという手柄などどこにあるのだろう。ジョンが重いため息をついて頭を抱えた時、
「ジャックは……、どうなるの?」
メアリーだった。部屋の視線が、彼女へ集まった。
椅子を引き、レストレードがそこに座った。四人もそれに倣って席に着いた。メアリーはジャネットに促され、彼女の膝の上に落ち着いた。
「メアリーから事件のあらましは聞いた。ホワイトチャペルの残酷な現状については、私も心苦しい。しかしその話をし出すと、長くなるだろうから、今は外す。
娼婦、労働管理者、そして「人形」を殺したのは『ジャック』という少年。
そう差し向けたのは、大悪魔『ベルゼブブ』と『ジャス・モアティ』なる人物。
彼らはジャックの家族を取り込み、ホワイトチャペルで悪魔が憑依可能な『人形』を量産しようとしていた。その材料となる遺体を、メアリー達は運んでいた。その見返りとして、住居と食糧を提供していた」
レストレードが確認するように目を向けたので、ジョンは頷いて答え、
「僕が確認した悪魔憑きの『人形』は三体。女性と男性の『人形』は、恐らく警察が回収したでしょうが――」そう言ってレストレードを見る。彼は小さく頷いた。「もう一体の女性型が、ヴィクターの下にある筈だ」
「そちらも後日、警察に提出しますよ。おっと、持ち主の許可を取らなければならないね」
ヴィクターが声を上げる。ジョンはその人形の持ち主の住所を告げると、レストレードが自分達で確認を取る旨を口にした。
「ベルゼブブは地獄へと追い返したが、もう一方のジャスは行方知れず。君達も姿は確認していないのだろう?」
レストレードはジョンとジャネットに問う。二人は暗い顔で頷いた。
「ジャスは人形技師の筈ですが、恐らく無免許で無認可です。そして、最後まで姿を現さなかった」ジョンは机を指で叩きながら、「大悪魔と繋がりを持っている以上、魔人である可能性もある。……ですが、ベルゼブブが追い詰められても助けには来なかった。忠誠心がないのか、それとも物理的に距離が遠かったのか……」
「……ジャスについては、引き続き警戒する必要があるな」
レストレードの言葉に、ジョンは歯噛みした。自分の詰めの甘さを指差されている気がしたのだ。
この事件の最も深い闇は、『「人形」に悪魔が取り憑く』というところだ。コレがもし悪魔達に広まったら、技師さえ用意すれば、彼らは自分達の居場所を簡単に作れ、市街地を動き回る事が出来るのだ。しかし「人形」の量産について、ベルゼブブ自身が「安定供給にはまだほど遠い。まだまだ研鑽の余地がある」と語っていた。その言葉を信じれば、まだ猶予はあると言う事か。
「……ふうん?」ヴィクターが興味深そうに口の中で呟く。「あの『プログラム』でも、まだ研鑽の余地があると言うのか……。面白いねェ……」
ヴィクターの声に気付いたのは、ジュネだけだった。不審そうに彼の横顔を見詰めるが、レストレードが再び話し始めたので、慌てて視線を戻した。
「切り裂きジャック事件は、あくまでも娼婦や労働管理者達への連続殺人が主題だ。殺人という行為を行った者、すなわちジャック・ザ・リッパーの正体は、メアリーの家族であるジャック――で、間違いないのだろうね?」
その言葉に、部屋の中が沈黙した。レストレードも口調は窺うようなものになっていた。
ジョンは横眼でメアリーを見た。彼女は眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情をして俯いていた。
ハァと溜め息をついてから、ジョンはレストレードに視線を戻した。
「ジャックで間違いないですよ。悪魔のチカラを受け取ったジャックが、そのチカラで犯行に及んだ。遺体はバラバラにされていたと言いますが、あいつはそれだけ被害者達を恨んでいる。……あいつは家族を殺された復讐心から、殺人に及んだ」
ジャックは人を殺した。それは紛れもない、取り繕う事の出来ない事実だった。
「理由はどうあれ、人が人を殺す事は罪深い。警察としては、なんとしても彼を逮捕しなければならないが――」レストレードはまたメアリーをチラリと窺う。「しかし彼もジャス同様、その行方は知れないままだ」
「……今更ですけれど、コレ、事件が解決したと言っていいんでしょうか」
恐る恐るそう口にしたジャネットに、全員が苦笑を浮かべた。
「まあしかし、ジョン達の活躍で、切り裂きジャック事件の被害者が、もう増えないのは確かだ。それは僥倖ぎょうこうだと言っていいだろう」
あいつの復讐自体は警察に発覚した時点で既に終了していた筈だ。僕らが介入しようとしまいと、被害者の数は変わらなかっただろう。……改めて見直しても、僕がこの事件を解決したという手柄などどこにあるのだろう。ジョンが重いため息をついて頭を抱えた時、
「ジャックは……、どうなるの?」
メアリーだった。部屋の視線が、彼女へ集まった。
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