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トラヴェエ王太子の責務と恋
■宰相の目論見
しおりを挟むお茶の支度が整い給仕がカップに紅茶を注ぐと、よっぽど喉が渇いていたのだろう、アイリーンはカップに注がれたお茶を手に取り、口に運んだ。
ふうふうしている姿が可愛らしい。
おおよそ貴族の令嬢らしからぬ行動だが、そういった仕種ですら、私には気を許して貰えているようでうれしく感じるのは、彼女への想いの成せる業だと思う。
私は足を組み頬杖をつき、暫し可愛いアイリーンを愛でる。
私の視線に気付いたアイリーンは気恥ずかしそうに視線を落とし、今度はちびちびと紅茶を飲み始めた。
愛おしさが溢れ思わず頬が緩む。その様子をいつまでも見ていたい気持ちは山々なのだが、これではなかなか用事とやらを聞き出すことが出来ないので、単刀直入に話を切り出した。
「それで?ジュストの用事とやらは何だったのかな?」
できるだけ優しい声で問いかけると、アイリーンはおずおずと話し始めた。
「えっと…10日後にいらっしゃる、外国のお客様のお相手を頼まれました。来月の生誕祭の来賓の方だそうで…」
生誕祭の来賓?わざわざアイリーンが相手?
今までと勝手が違う対応に戸惑いを感じると、ひとつの疑問が湧きあがった。
まさか!アイリーンに縁談か?
王太子の生誕祭の来賓の多くは他国の王族か高位貴族で、王族であれば王太子か王子がほとんどだ。
アイリーンも年頃である。縁談話の一つや二つあってもおかしくはないし、この国の宰相の娘で公爵令嬢…他国の王族に嫁ぐ可能性は充分にありえる。
ましてや、私にハイデリガの王女との縁談が持ち上がっている今、私の気持ちを知っている父上と宰相であればこの機会に手を回してもおかしくはない。
そう考えるとサーッと血の気が引き、握りしめた拳が震えた。
そんな事は絶対に許さない。
アイリーンは私のものだ。誰にも渡さない。
激しい嫉妬心に駆られ、次の瞬間には自分でも吃驚する程恐ろしく冷え冷えとした声でアイリーンに問いかけていた。
「ふぅん。その相手は、男?」
俺からの威圧にアイリーンは一瞬ビクリと身体を強ばらせたが、それをすぐに解くとゆるゆると首を振り否定した。
男ではない……
私はアイリーンの相手が男ではないことに、心底ホッとした。
が、アイリーンの次の言葉は再び私を奈落の底へと突き落とすものだった。
「いえ……私がお相手するのはハイデリガの王女殿下…です」
なんという事だろうか。ジュストがわざわざアイリーンを呼び出した用件とは、あろうことか、私の婚約者殿の接待を彼女に依頼するためだったのだ。
私の婚約内定の件はまだ一部の側近と関係者しか知らないはずだが、この件でアイリーンも関係者になり、私の婚約内定が伝わったかもしれないと私は絶望的な気持ちになった。
しかも、王女の来訪は10日後だと?!急過ぎる!
まさかそんなに早いとは思わなかった私は愕然とする。
あの宰相のことだ、今までのように私が理由を付けて断る事を危惧してわざと情報を与えなかったのだろう。私は宰相の目論見を理解をすると力なく嘆息した。
でも、聞きたいことはまだある。
この話をアイリーンが断るという事は出来ないが…
もしも……
もしもだ、私の婚約を少しでも嫌だと思ってくれていたら……
その時はアイリーンはきっと役目を断るに違いない。
まだ彼女に決定的な事は言われていない事をいい事に、彼女の回答が私の望むものであればと私は淡い期待をかけて問いかけた。
「そうか……それで…リーナはその話引き受けたの?」
「はい、断る理由も無いですし…」
受けたのか……
私は舌打ちしそうになるのを堪え、平静を装った。
そんな私の気持ちを知ってか知らずしてか、アイリーンは言葉を続けた。
「でも、何故今回の訪問は王女殿下なのでしょう?前回までは王太子殿下が訪問されていたと思うのですが……」
なんと彼女は王女の来訪目的を知らされていなかったと言うのだ。
私はそのアイリーンの言葉に心の中で快哉を叫んだ。しかし、未だ一抹の不安が残った私は不思議そうに首を傾げる彼女をじっと見つめた。
私の視線に恥ずかしそうにアイリーンは目を逸らしたが、その瞳に嘘はなかった。
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