見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る

通りすがりの冒険者

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第20話 SWEET&BETTER

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 聖ミカエル教会の隣に位置する住居のキッチン兼ダイニングにて、ぱちぱちと電卓を叩く音。
 はじき出された数字をノートに記入して純利益を求める。

「……はぁ、厳しいなぁ……」

 そう言うなりフランチェスカはノートの上に突っ伏す。
 信者からの寄付金を計上していたのだが、はっきり言って厳しいと言わざるを得ない。と言ってもふつうに生活出来るだけの余裕はあるのだが……。

「こんなんじゃ新作のゲーム買えないじゃない……」

 はふぅ……と溜息をついて再び突っ伏す。
 ふと時計を見るとスーパーのタイムセールの時間が迫っていたので、エコバッグを提げて外に出る。

 †††

「はぁ……野菜や乳製品が値上がりするなんてホントついてないわね……」
 
 スーパーから出たフランチェスカがそうぼやきながらとぼとぼと歩く。

 この分じゃ、かなり切りつめないと……

「ん?」

 数メートル先にふたりの少年が談話しながら歩くのが見えた。
 少年のひとりが口になにかくわえている。白く細長いそれはまさに……

「ちょっと! ダメじゃない! まだ子どもなのにタバコなんて吸っちゃ!」

 フランチェスカが少年たちに詰めよる。
 ふたりの少年はきょとんとお互いの顔を見やり、そして大笑いする。

「ねーちゃん、知らないの? これタバコじゃないんだぜ」
「え?」
「おねーちゃんもたべてみる?」
 
 タバコらしきものを咥えた少年が「はい」と小箱を差し出す。

「これどう見たってタバコだけど……」

 小箱から一本つまんで鼻に近づける。すんすんと匂いを嗅ぐと甘い香りがした。

 「たべてみて!」と少年たちにうながされ、ぱくりとかじると、ココアの味が口内に広がる。

甘いドゥルセ……!」
 
 スペイン語はわからなくても彼女のほころんだ顔で少年たちが「だろ?」と笑う。

「おねーちゃん、外国人だから日本のお菓子ってあんま食べたことないんだろ?」
「俺がお店おしえてやるよ!」

 ついてきて! と子どもたちに手を引かれてやってきたのは商店街のアーケードの裏側に位置する古い町並みだ。

「……こんなところにお菓子屋さんがあるの?」
「ここだよ!」
「え? ここって……」

 着いたのは古い木造の、店というよりは一軒家だ。軒先に様々な菓子やおもちゃが並んでいる。いわゆる昔ながらの駄菓子屋だ。

「おばちゃーん、お客さんだよー」
 
 常連らしい少年が奥にいる店主に声をかける。

「あーい、いらっしゃい。おや、外人さんかね?」

 店主の老婆がのそりと出てきてぺこりと挨拶。そして小箱を差し出す。

「ここに好きなものを入れてね」
「あ、はい」

 フランチェスカがきょろきょろとあたりを見回す。
 小さなラムネ瓶のなかに白い菓子が入ったもの、赤いパッケージが目を引く酢昆布、青、黄、ピンクと色とりどりのチューブ、少年たちがさっき食べていたタバコのような菓子の小箱もあった。

 すごい……日本ってこんなにお菓子があるんだ……。

 ふと気になったものを手にしてみる。トンカツの写真のパッケージだ。

「トンカツのお菓子? こんなのまであるんだ……って、え!?」

 少年たちのほうを向く。

「ねぇ、これ間違いじゃないわよね? 300円じゃないの?」
「ううん30円だよ!」
ありえない!ウナ レチェ!

 だが、それもどれもこれもアベレージで50円以内で買えるものだ。
 テリヤキ味、サラミ味、コーン味、たこ焼き味とレパートリーが豊富なスナック菓子にいたっては1本10円である。

「うちは子どものお客さんが多いからねぇ」

 老婆がにこりと微笑む。
 
 信じられない……! こんなに安いなんて……ここぞまさに天国パライソだわ! 

「そうだわ!」

 なにをひらめいたか、すぐさま気になったものを次々と箱に入れていく。
 こんもりと駄菓子でいっぱいになったところでお会計だ。

「あらーずいぶん買ったねぇ……しめて1500円だね」

 こんなに大量に買っても破格の値段にフランチェスカがふたたび驚く。

「まいどあり! いっぱい買ってくれたからくじ引きできるよ」

 三角形のくじを引いて中を開く。

「25番だね」

 老婆がよいしょっと腰をあげて、壁に掛かった台紙から同じ番号の景品を取り出す。

「はい。おめでとう。スーパーボールね」
「あ、ありがとうございます」

 受け取った景品をしばし見てから、少年たちに手渡す。

「あげる。このお店教えてくれたお礼よ」
「ありがとう! おねえちゃん!」
 
 †††

 自宅に戻ってキッチン兼ダイニングにて、フランチェスカは買ってきた駄菓子をテーブルにあける。
 そして小悪魔的な笑みをにやりと浮かべる。
 たこ焼き味とテリヤキ味のスナック菓子を袋のまま粉々に砕いてボウルに入れて卵と一緒に混ぜ、フライパンで焼けばお好み焼きの完成。
 次いでカツを(実際は魚肉)電子レンジで温めてご飯の上にかけてさらにソースをかければカツ丼の完成だ。
 いつも作る食事より食費はかなり抑えられているだろう。
 食前の祈りを捧げてからお好み焼きをぱくりとむ。

「んー美味しい!デリシオーソ!
 
 カツ丼も本物に近い味だ。文句なしの美味。

 これで食費を抑えればゲームが買える……! うまくいけば月に新作が1本、ううん2本は買えるわ!

「あたしってば天才! おーっほほほほ!」

 キッチン兼ダイニングにてフランチェスカの高笑いが響く。

 †††

「おばちゃんまた来たわよ!」
「はいよ。ここんとこ毎日くるねぇ」

 それからというものフランチェスカはほぼ毎日駄菓子屋で食材(?)を仕入れてはスマホでレシピを見ながら調理して食べるという生活が続いた。
 この日の朝もかりかりに焼けたトーストに梅味のジャムをぱくりとかじる。

「うん。意外とイケるわね」

 そろそろあと少しでゲーム代が貯まるころね……なんのゲームにしようかな?
 格ゲー? サバイバルホラーも悪くないし……

「迷うなぁ」
 
 ヨーグルトに似た菓子の容器の蓋をあけて口に運ぶ。
 冷凍庫にはくじ付きのアイスキャンデーが常備されている。当たりが出ればもう一本もらえるものだ。
 朝昼晩一本食べているので当たりが出る確率は高い。そのたびに駄菓子屋に行って交換するのだ。
 ヨーグルトが無くなると冷凍庫を開けてどれにしようかと悩む。

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な? か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り……」
 
 ぴたりと止まったアイスを取り出してさっそくかじる。残念ながらハズレだ。

「ハズレかぁ。まぁでもこれだけあれば……」

 その時、奥歯がズキンと痛んだ。

「いっ……!?」
 
 沁みるような痛みが伴う激痛に、フランチェスカは堪らず頬を押さえる。
 洗面所へ行って鏡を見る。頬がすこし腫れていた。

 †††

「あーこりゃ虫歯だね。甘いものばっか取ってるとそうなるよ」
 
 歯科医が歯科用ミラーで覗きながら言う。

「それじゃ歯をすこーし削るからね? 痛いと思ったら手をあげてね」
 
 口を開けたままフランチェスカがこくこくと頷く。

「はーい、じゃいくよー」

 ドリルがモーター音を響かせながら回転し、キュイイイと音を立てて歯が削られていく。

 あ、ムリだわ。これ。

 フランチェスカが手をあげようとした時だ。

 「ちょっと邪魔。いまいいところなんだから」と上げた手を下ろす。
 
 はぁ!?

 ドリルが容赦なく虫歯を削り、フランチェスカが堪らず悲鳴をあげる。

 なんであたしがこんな目にぃいイイイ!? 


 “神はおのおのの行いに従ってお報いになる”
    (ガラテヤの信徒への手紙第6章7節)
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