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第21話 Sorella dell'apprendista in Italia④
しおりを挟む同期の見習いシスター、アンナの勤める教会は丘の上に位置している。
その教会は石造りでかなりの年代が経っており、円い屋根が特徴的だ。
「10世紀ごろかしら? ビザンチン様式ね」
「さすがです。お姉様!」
ぱちぱちとアンナが拍手。
礼拝堂の中へ入ると小さな村の教会だけあってこじんまりとした内部だ。
正面の壁には十字架、左右には長方形の窓から夕陽が差し込んでタイルの床に淡い光を灯す。
あたしのいる教会に似てるわね……。
昔ながらの旧いシャンデリアがさがった天井を見上げると、モザイクや大理石の張り石が張り巡らされていた。これもビザンチン様式の特徴である。
礼拝堂を出て教会の裏へとまわると、そこは海が見渡せた。
遠くにはメッシーナ海峡をはさんでシチリア島が見える。
「景色はいいんだけどねぇ……」
問題はアンナのシスターとしての務めだ。
「で、アンナ。もうすぐミサがあるんでしょ? お手並み拝見させてもらうわよ」
「は、はい。お姉様」
「だからそのお姉様ってのやめてってば」
「だって……私にとって、お姉様はお姉様ですから……」
きゅっと手を握って胸に添える。
「神学校の時に、庭に巣から落ちた雛をもとの場所に帰してあげようと木から落ちた私を、お姉様が受け止めてくれた……」
「そういえばあったわね、そんなこと」
「だから私……お姉様のようになりたい……」
ふ、とフランチェスカが微笑み、アンナのヴェールを被った頭をくしゃくしゃ撫でる。
「人には向き不向きってのがあるのよ。あたしのマネをしてもダメ。ちゃんと自分らしさを出さないとね」
「はい……」
「さ、そろそろミサが始まるわよ」
†††
ぞろぞろと教会へ村人たちが入ってくる。ほとんどが年配者だ。もっとも若者たちは町へ出稼ぎに行ってしまうのだが。
長椅子がまばらに埋まると、アンナが祭壇にて挨拶を交わす。緊張のためか顔は強ばり、所作も落ち着かなげの彼女をフランチェスカは最後部の席で見守る。
「こ、こんばんは……ええと、今日はヨハネ黙示録第3章の話を……」
生来の引っ込み思案な彼女の説教はたどたどしく、噛んだり、言い間違いが多かった。
そのためか参拝者の何人かはあくびをもらしている。
同期のグダグダな説教にはフランチェスカも思わず額に手を当てるほどだ。
思ってたよりヒドいじゃないの……こうなったら、あたしが代わりに……。
席を立とうとした時、参拝者のひとりが声を大にした。
「嬢ちゃん! そんなのいいから賛美歌歌ってくれよ!」
男の要望を皮切りに周りからも賛同の声があがる。
「は、はい。わかりました……」
アンナがすぅーっと息を吸って深呼吸してから吐く。
そして彼女の口から賛美歌が紡がれはじめた。
メゾソプラノの力強い歌声が狭い礼拝堂のなかで響き渡る。その歌声に参拝者たちは聞き惚れていた。
もちろんフランチェスカも例外ではない。
やがて賛美歌が終わりに近づくと、歌声もだんだんと低くなっていき、余韻を残すのみとなった。
そっか……この村のみんなは彼女の歌を聴きに来てるんだ……。
拍手のあとに参拝者たちがぞろぞろと家路についたあと、フランチェスカがアンナのもとへと来る。
「スゴいじゃない! まさか、あんたにあんな才能があったなんて」
「歌は子どもの頃から好きだったから……神学校では満員で聖歌隊に入れなかったし……」
「もったいないわよ。せっかく良い歌声してるんだし」
「はい……でも歌がうまいだけじゃシスターは務まらなくて……」としゅんとなる。
「確かにね……でも、もっと大々的にアピールすべきよ。この教会にあんたみたいな良い歌声をしているシスターがいるって」
アンナの両肩に手を添える。
「あたしにまかせて。絶対にあんたも、この教会も救ってみせるわよ」
†††
「とは言ったものの、いったいどうすれば……」
宿屋に戻ったフランチェスカは、1階のオスタリアにてテーブルに肩肘をつきながらあれこれ思慮する。
「お疲れさん。お悩みのようだね?」
コックがエスプレッソをテーブルに置く。
「サービスですよ」
「グラッツェ。ねぇ、あの教会なんで閉めちゃうわけ? 参拝者もいるんでしょ?」
コックが椅子に腰かける。
「お客さん。この村はねぇ、年寄りが多いうえに若いもんはすぐ都会に行っちまうんで……おまけに字が読めないひとも多いんでさ」
「だからみんな教会で説教を聞きに行くわけね」
「それだけじゃねぇ。この村もだんだん人が少なくなってきて、それでもう教会を閉めることになったんで……」
なるほど。でも肝心のシスターがあれじゃあね……。
「なんとかならないの? ほかの教会に保護を求めるとか……」
「いやぁ、それも見込みはねぇんで……ここ以外にも教会はいっぱいあるんで、もう取り壊すしかねぇとか」
「八方ふさがりね……」
はふぅとテーブルに突っ伏す。
「おい! カルロ! さぼるんじゃない!」
「すんません旦那様! ただいま!」
カルロが慌てて厨房へと戻る。
ふぅっと溜息をつきながらエスプレッソに口をつけると、苦味がたちまち口内に広がる。
でも、やるしかないわよね……!
そう決意をあらためるとエスプレッソをいっきに喉に流しこんだ。
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