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第21話 Sorella dell'apprendista in Italia⑥
しおりを挟むイタリア カラブリア州の県都、レッジョ・ディ・カラブリアの一角にあるネットカフェにて、アンジローこと安藤との通話を終えたフランチェスカはパソコンにラインをインストールして彼女のIDとパスワードを入力してログインする。
すると新たに1名のフレンド登録があった。マウスを動かしてクリック。
安藤の兄、一朗だ。
ビデオ通話をクリック、パソコンのカメラを調節して顔が見えるようにする。
するとタイミングを同じくして、相手の顔が現れた。
年は20代後半で眼鏡をかけ、短髪を横になでつけている。心なしか緊張しているようだ。
「は、初めまして」
「ハーイ、一郎さん。顔を見るのはこれが初めてですね。クリスマスの時(第8話参照)はありがとうございました」
「いえ、お役に立てたのなら嬉しいです。それで、なにか力を貸してほしいとか……」
「ええ。可能かどうかはわからないけど、映像クリエイターであるあなたの力を貸してほしいの」
「まかせてください! それでどんな事でしょう?」
「ありがとう、一郎さん。実は……」
計画を打ち明けると、一郎の顔がみるみる強ばった。
「ちょ、ちょっと待ってください! それ本気ですか? 短期間でやれって……しかもそこイタリアですよね?」
「もちろん無理を言っているのは承知してます。でも、あなたにしか頼めないの……」
「し、しかし……ほかにも案件を抱えていて……」
画面の向こうで安藤の兄が頭を抱える。
「一郎さん」
呼ばれた一郎が頭を上げる。
「おねがい……」
胸の前で手を組み、閉じた目蓋からつぅっと一筋の涙がこぼれる。
それはさながら聖女のようであった。そして一郎のハートを射止めるのにそう時間はかからなかった。
「わかりました! やってみましょう!」
一朗の力強い声にフランチェスカの顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとう! 一郎さん!」
「いえ、困っている女性をほうってはおけませんから……そこに電機屋はありますか? 必要なものを揃えないといけないので」
フランチェスカがすばやく必要な機材をメモに取る。
†††
10分後、ネットカフェから出てきたフランチェスカは待たせておいたタクシーに乗り込む。
「おまたせ! 次は電機屋よ。このあたりにあるかしら?」
「それならマリオの店が一番ですぜ!」
電機屋のマリオの店はすぐ近くにあった。
中古から最新のモデルのパソコンが並んだショーウィンドウの店に入ると、小柄で小太りの鼻の下にヒゲを生やした中年の男が出てきた。
その後ろのカウンターでは長身で細身の男が居眠りしている。
「へい、らっしゃい! なにをお求めでしょうか? 当店ではなんでも揃ってますよ! もちろん日本製もありますぜ!」
「これをひととおり揃えてほしいの」
ネットカフェで書いたメモを渡す。受け取ったマリオが老眼鏡をかけ、ふむふむと頷き、最後までくると眼鏡を外した。
「お嬢さん! これをすべて揃えろと!? たしかに揃えられるものはありますが、最後のやつは……」
「このあたりではあなたの店が一番だと聞いたわ」
「そ、それはそうですが……でもさすがにこればかりは取り寄せになりますぜ。それこそひと月はかかるかどうか……」
「お願い。あたしの友だちの一生がかかってるの……!」
フランチェスカが事のいきさつを説明すると、マリオが涙ぐんで鼻をすする。
「そういうことでしたら……やりましょう! このマリオ、一世一代の仕事をしてみますぜ!」
くるりとカウンターのほうへ向く。
「おい、ルイジ! さっさと起きねぇか!」
「ふぁいっ。なんだい? にいさん」
「なんだいじゃねぇ! とっとと仕事にかかれ! お姫さまを救うんだよ!」
男って、単純ね……。
そう思いながらフランチェスカはタクシーへ戻る。目指すは村の教会だ。
†††
「お姉様、これはいったい……?」
「あんたと、この教会のためにやってるのよ。えーと……窓と窓のあいだの幅が2.5メートルね」
フランチェスカがメジャーで測り、アンナがそれをノートに書き留める。
「お姉様、ほんとうに大丈夫なのでしょうか……? ここが閉鎖されるまで時間が……」
「なるようにしかならないわよ。シスターなら奇跡を信じなさい。窓の高さが1.6メートル、幅が40センチ」
「はい……でも……」
脚立からすとんとフランチェスカが降りたつ。
「いい? アンナ。奇跡は待っているだけじゃ来ないわ。自分で起こして、掴みにいくものなの」
「……はい!」
「ん、よろしい。じゃ続けるわよ」
†††
宿屋の部屋に戻ったフランチェスカは机の上のノートパソコンを開く。マリオの店で購入したものだ。
インストールしておいたラインを開く。ルーターを接続してあるのでネット回線が快適に使えるのがありがたい。
さっそく一郎に教会で測った数字を報告する。ありとあらゆる高さや幅、奥行きと隅から隅まで測り尽くした数字を打ち込む。
最後に送信をクリック。
これでよし……! あとは奇跡が起きるのを待つしかないわね。
翌日の昼過ぎ。教会へ参拝に行こうとした村人の男が扉を開けようとする。だが、固く閉ざされていた。
「……?」
閉鎖されるにはまだ早いはず……。
おかしいなと思った村人が横に回って窓から礼拝堂を眺める。
そこには祭壇の前でアンナが腕を動かしながら歌っている。
そして入り口の前ではフランチェスカが三脚のビデオカメラでその姿を収めている。
なんだ、こりゃ……?
†††
「俺ゃ、たしかに見たんだ。シスターが歌ったり踊ってるのをよ。それをもうひとりのシスターがビデオで撮ってんのよ」
村にたったひとつの酒場にて、男が身振り手振りで話す。
「いってぇありゃなんだってんだろな」
「もうすぐ教会が閉められるってのに、なにやってんだか……」
「よそ者の考えることはわかんねぇよ」
そう言った村人がぐびりとビールを喉に流し込む。
「もうおしまいさ。この村にゃなーんにもねぇし、観光に来るヤツはよほどの物好きでしかねぇよ」
「……だな。くそっ! 呑まなきゃやってらんねぇ! おやじ、もう一杯だ!」
どれもこれも全部あのよそ者のシスターのせいだ!
そう心の中で悪態をつきながらビールを呷る。
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