見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る

通りすがりの冒険者

文字の大きさ
57 / 161

第22話 BORN THIS WAY⑤

しおりを挟む

「おまたせ! 待った?」

 演奏を終えてライブハウスから出てフランチェスカと合流するなり、すみれはそう言った。

「ううん。でもすごかった! あんなの初めて!」
「ありがとー! ねぇ、もうすこし付きあってくれない?」

 答える前にすみれが「いいから!」と手を引っ張る。

「おい、すみれ! そのカワイイ子は誰だよ?」

 バンドメンバーらしき男が聞く。

「あたしの妹分さ!」
「紹介してくれよ」
「やなこった!」

 べーっと舌を出しながら中指を立てる。
 次にフランチェスカに向き直って「さ、いこ!」と引っ張っていく。

 †††

 すみれの家、正確にはアパートだが、ドアを開けてその一室にフランチェスカを招き入れる。
 六畳一間といった典型的なアパートの部屋だ。入って右側にベッド、左には衣装掛けのほかにラックが。
 ラックにはCDがずらりと並んでいる。
 
「狭いけど、ゆっくりしてね」
「は、はい」

 畳のうえにちょこんと座ると、すみれは冷蔵庫のなかを漁っているところだ。

「ねーウーロン茶でいい?」
「あ、お構いなく……」
「そんなカタくしないでいいからさ」
 
 ペットボトルからコップへ注いでフランチェスカに渡す。自分は缶ビールだ。
 ぷしゅっと開け、そのままひと息にごくごくと飲む。
 
「かーっ! ライブ後の一杯サイコー!」

 缶を持ったまま、からからと窓を開ける。ひやりとした風が心地良い。
 テーブルから灰皿を取ると、窓枠に腰かけてタバコに火を。
 そして外に向けてふーっと一服。メンソール独特の爽やかな香りが鼻腔びくうを刺激する。
 
「シスターの前でタバコ吸うのって、なんか背徳的……」
「別にシスターの前でタバコも酒も禁じられてませんよ? というかまだ見習いなんで」
 
 ふふっとすみれが笑う。
 フランチェスカが部屋の隅に目をやったので、そっちを見る。そこにはアコギが。

「こないだ弾いてたものですよね?」
「うん。最初はアコギから初めてて、次第にエレキも弾くようになったけどね」
「へぇ……」
 
 ふと疑問に思ったことを口にする。

「あの、どうしてライブに誘ってくれたんですか?」
「んー? そりゃともだちだから、かな……?」
「え?」

 トントンと灰を落とす。

「なんつーか、いつもひとりで路上ライブ見に来てくれてたから……で、あ、この子あたしと同じなんだなって」
「同じ?」
「スペインからたったひとりで、ここに来たんでしょ? あたしも似たような境遇だし……親にミュージシャンになりたいって言ったら、ケンカになって、最終的には家を飛び出したってワケ」

 ふーっと煙を吐く。

「だからかな、なんか他人だと思えなくてね……」
「私は……シスターに、なりたくないです。先祖代々続いているからというだけで、無理やりやらされて……」
 
 すみれがキョトンとする。

「そうなの?」
「はい、なのでいつか口実を見つけて、やめるつもりです」
「ふーん……あたしとは正反対だね。ま、これ以上は聞かないけど」

 しばしの沈黙。その静寂を破ったのはすみれのほうだった。

「もうこんな時間だし、今夜は泊まっていかない?」
「……ふぇっ!?」
「いいじゃん? もう友だち同士なんだから。そうと決まったらお風呂一緒にはいろ!」

 なにがそうと決まったらなのか、有無を言わさず、気づけばフランチェスカは湯船にすみれと一緒に浸かっていた。

「あーいい湯。狭くて悪いけどさ」
「や、べつにそんなことは……」

 狭いアパートの狭い浴室の湯船でフランチェスカは恥ずかしそうにもじもじする。
 そのあどけない仕草しぐさを見て、すみれは猫のように「んふふー」と笑う。
 手をわきわきさせ、フランチェスカの背中越しにふたつの膨らみを揉む。

「ひゃいっ!?」
「あたしより年下のくせに、こんなけしからんおっぱいしおって! なまいきー」

 狭い湯船では逃げ場はない。

「ちょっ、すみちゃん! くすぐったいって! あははは!」

 きゃいきゃいと風呂場で女ふたりの声が響く。
 風呂から上がると、すみれがフランチェスカにジャージを手渡す。パジャマ代わりだそうだ。
 ひとつのベッドにふたり並んで横になる。窮屈きゅうくつではあるが、フランチェスカは逆に居心地の良さを感じていた。

「すみちゃんはいつから音楽を?」
「んー……高校一年くらいかな? その時はアコギ弾いてたけどね。んでもって三年の時に初めてロックフェス行ったときヴォーカルが女のひとで、それがカッコよくてさ」

 気づけばエレキを購入して、それ以来ロックにハマったのだそうな。

「エレキもいいけど、アコギが一番好きかな。路上ライブで止められることも少ないし」

 すみれがくるりとフランチェスカのほうを向く。

「あたしね、夢があるの。笑わない?」
「どんな夢?」
「世界的なミュージシャンになること。ありきたりかもしんないけど」
「ううん。すごくいいと思う」
「それでね、世界中をソロで飛び回るの。アコギ1本でね」

 好きなアーティストのひとりが無名だったとき、ギターを片手に路上ライブで演奏しながら日銭を稼いで世界中を回ったのだそうだ。

「あたしの話はこれでおしまい。あんたの夢は?」
「私は……シスターになりたくないけど、なにになりたいかって聞かれると、わかんない……」
「ん、フラっちはまだ若いからさ、今はまだそれでいいと思うよ」

 年上のあたしが言うんだから間違いないと言ったので、フランチェスカは思わず吹き出したので、「笑うなっての」と頬をつねられた。

「それじゃおやすみ。フラっち」
「うん、おやすみ……」

 程なくしてすみれが寝息を立てる。ライブで疲れていたのだろう。

「……すみちゃんはカッコいいと思うよ」

 そうぽつりとつぶやくと、眠くなってきたので目を閉じた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...