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EXTRA フランチェスカのUNLUCKY DAY

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「ふわぁ……」

 眠い目を擦りながらフランチェスカは半身を起こして伸びをひとつ。

「ん~っ! 珍しいこともあるわね。あたしが目覚ましが鳴る前に起きるなんて……」

 寝ぼけまなこで目覚まし時計を見る。時刻は5:00だ。だが……

「……?」

 おかしいと思い、目覚まし時計を手に取る。耳に当てるとコチコチという音がしない。おまけに針も動いてなかった。

「なによこれ! 壊れてるじゃないの! そんな手荒に扱った覚えないんだけど!?」

 スマホを見るともう掃除の時間だ。
 目覚まし時計をがちゃんと荒々しく置くと素早くパジャマを脱いで修道服スカプラリオに袖を通す。
 
「ああもう!」
 
 洗面台の鏡で髪を整え、その上にヴェールを被れば見習いシスターとしての身支度は完了だ。
 ホウキと雑巾とバケツを手に礼拝堂に入るとすぐに掃除を始める。
 いつもならイヤホンで音楽を聞くが、今日はそんな余裕はない。

「よし! ざっとこんなもんね!」

 あらかた拭き掃除を終え、手で汗を拭う。

「さ、急いで朝ご飯食べないと……」

 くるりと踵を返した拍子にバケツを倒して水をこぼしてしまう。

もう!コニョ! 最悪!ファタル!

 それでもなんとか拭き終え、キッチン兼ダイニングに戻って朝食の支度に取りかかる。もっとも時間がないのでトーストで焼いたパンと牛乳だけだが。
 テレビを付ける。ニュース番組で報道が終わったところだ。

「では、次はムーンライト伽絇夜かぐや先生による星座占いコーナーです」
 
 妖しげな雰囲気の部屋に場面が切り替わる。それらしい衣装に身を包んだ占い師が水晶に手をかざし、囁くように占う。

「星はあなたのその日の運勢を教えてくれます。見えてきました……」

 ドラムロールとともに運勢第1位の星座が表示される。1位はいて座だ。次いでランキング順に星座とそれぞれのラッキーアイテムが表示されていく。

 ラッキーアイテムって……そんなのどうやって決めてんのよ。

 11位まで表示されると、さっきまでのファンファーレとは打って変わっておどろおどろしい音楽に切り替わった。同時に場面が占い師の部屋に戻る。

「さて今日のアンラッキーな星座は……おひつじ座です!」
「ふーん」

 4月生まれのフランチェスカが興味なさそうにトーストをかじる。

「そんなあなたのラッキーアイテムは、ネズミです!」
 
 『今日も良い一日を』のテロップが流れ、占いコーナーの終了を告げる。

「ばっかみたい。いちいちそんなの気にしてられますかっての」

 テレビを消して皿を流しへ運ぼうとした時、足の小指がペキッと音を立ててテーブルの足に激突した。

「だあぉおおおおっ!!」

 キッチン兼ダイニングに見習いシスターの叫びが木霊する。

 †††

「はぁ……とことんツイてないわね……」

 昼食を終え、スーパーから出たフランチェスカが溜息をひとつ。

「今朝の説教での寄付金は少ないわ、タイムセールで目当ての商品が目の前でかっさられるわ……」

 ふぅっと深い溜息をつきながらエコバッグをかけ直してとぼとぼ歩く。

「こう見えてもあたしシスターなんですけど? しかも世間が羨む美少女にこんな仕打ち、マジあり得ないんですけど!?」

 ぶつぶつこぼしているといつの間にか商店街のアーケードを抜けて、教会は目の前だ。

「あら?」

 教会の側面の壁に何かが描かれている。今朝はなかったはずだ。
 近づいてみると、落書きされていた。
 おまけにネズミの絵である。それがフランチェスカを苛立たせた。

「ちょっと! 神聖な教会の壁に落書きするなんて! とんだ罰当たりがいたものね!」

 自分のことは棚にあげてこれでもかと悪態をつく。
 礼拝堂に入ってすぐにバケツとタワシを持って出て来た。
 水に浸けたタワシでゴシゴシと落書きを落とす。幸いまだ乾いていないのですぐに落ちた。
 
「怒られるのあたしなんだからね!」
 
 怒りをぶつけるかのようにタワシを動かすと落書きは跡形もなくなった。

「これでよしと。清々したわ!」

 あはははと高笑いしながら道具を持って礼拝堂へ。

 †††

 夕方の説教を終え、風呂から上がったフランチェスカはアイスクリームを手にしてテレビを点ける。
 ニュースキャスターが原稿を読み上げているところだ。
 
「――次はちまたを騒がせているストリートアーティスト、ビンクシーについてです」

 画面が切り替わって、くだんのアーティストの作品が流れる。いずれも社会を風刺した絵画が特徴だ。

「ビンクシーは一切が謎に包まれた正体不明で神出鬼没のアーティストですが、彼の作品の特徴のひとつとして、ネズミをモチーフにした作品が数多くあります」

 パッとネズミの絵の映像が。その絵にフランチェスカは釘付けになる。見覚えのある絵だ。

「ウソ……」

 間違いなく教会の壁に描かれた落書きと同じタッチの絵が目の前で流れている。
 だが、その落書きはもうない。当然だ。フランチェスカが消してしまったのだから。

「ビンクシー氏の絵の価値は高騰しており、最低でも二千万円はくだらないとされています」

 カチャンとスプーンの落ちる音。
 次にフランチェスカがテーブルに突っ伏し、嗚咽する。

「ひっぐ……えうっ、う、占い信じときゃよかったよぉおおお!!」

 †††

 数日後の早朝、ベッドから起きた安藤は朝食の席につく。
 テレビをつけるとちょうど星座占いコーナーの時間だ。
 少ししてから安藤のスマホが鳴った。

「もしもし? あ、フランチェスカさんおはようございます。はい、はい……え? ブランドもののバッグ持ってないかって?」
「お願い! なんでも良いのよ!」
「なんでまたいきなり……」
「あたしを助けるためだと思って! ねぇ聞いてる!? ちょっと、切るんじゃないわよ! まって、お願いします! お願い! なんでもするからぁあああー!」

 フランチェスカとの通話を切るなか、テレビではおひつじ座のラッキーアイテムはブランドものバッグですと紹介されていた。
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