115 / 161
第34話 REMEMBER ME④
しおりを挟む喫茶店を出て最寄りの駅に入り、電車で20分ほど揺られると安藤の兄、一郎の住むマンションの近くの駅に着いた。
「これ、映像クリエイターの仕事とはかけ離れてるような気がするんですけどね……」
そう言いながらも慣れた手つきで写真をスキャナーの読み取り面にセットし、蓋を閉じる。
パソコンを操作してアプリを開き、ホーム画面上にウィンドウが現れる。
ウィンドウにはスキャナーで読み取った写真が表示された。マウスを動かしてさらに操作する一郎の無駄のない所作をフランチェスカ、次郎、そしてジョゼの三人が見守る。
「よし、これで読み取り完了と」
「OK。じゃあここ拡大して」
フランチェスカが指さした先には電柱に設置されたカーブミラーだ。一朗がその部分をドラッグして『拡大』をクリック。
このままだと画像が荒いので、補正をかけていき、だんだんとハッキリとした映像が露わになる。
「ミラーになにか写ってるわ」
「向かいの電柱ですね。なにかプレートみたいなのが……」
さらに拡大。地名らしき名前と番号が見えてきた。
「これはなにかしら?」
「電柱番号のプレートですね。これでどこかがわかりますよ!」
『反転』をクリック。プレートの鏡文字が反転する。
メモを取って、インターネットを開いて検索エンジンに『電柱番号検索』を入力。
メモを取った番号を試しに入力すると果たして電柱のある住所が出た。
「出ましたよ! この写真の場所は墨田区みたいですね」
住所をメモに書いて見習いシスターに手渡す。
「ジョゼさん、家のある場所がわかりましたわ!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「さっそく行きましょ! あ、そうだ」
くるりと踵を返すと一郎の頬にキスを。
「ありがとう! あなたは素敵よ!」
たちまち一郎がへにゃっと相好を崩す。
「ジョゼさん行きましょう」
「気をつけてください」
玄関へ向かうフランチェスカとジョゼを安藤が見送る。
「次郎」
「なに? にいちゃん」
「フランチェスカさんに付いてってやれ」
彼女にキスされたことで気をよくした一郎がグッと親指を立てる。むろん弟がイラッとしたのは言うまでもない。
「お、俺も行きますよ!」と次郎が慌てて後を追う。
†††
マンションの最寄り駅から5つめの駅で降り、そこから乗り換える。
「この住所だと、この駅が一番近いわね」と見習いシスターがメモを片手にスマホを見ながらうなずく。
「もうすぐ……もうすぐなんですね」
ブラジルから来たバイオリニストが膝の上に載せたケースを撫でる。
程なくして目的地の駅に着いた。改札を出て階段をあがると遠くにスカイツリーが見えた。
「えーと……ここから歩いて5分てとこね」
スマホのマップを確認して「あっちだわ」と指さす。
墨田区にあるその町は昔ながらの建物がところどころに残っている下町だ。
木造家屋とコンクリートの建築物が林立するなかを三人は歩く。
「あの角を曲がるみたい」
「じゃ、もうすぐなんですね」と安藤。
ふたりがジョゼのほうを見る。彼がうなずいたので、ふたりもうなずく。
いざ、恩人の家へ――
くるりと曲がった先には、だが写真で見た建物は見当たらなかった。代わりにマンションがあるだけだ。
「ふ、フランチェスカさん、ここなんですか?」
「確かにここよ。取り壊されたんだわ……」
ふたりがスマホのマップを確認するなか、ジョゼはふらりとマンションのほうへ歩く。まるで恩人の面影を探すかのように。
「ここに、彼が立っていたんですね……」
マンションのエントランスの床を見下ろす。当然のことながらそれで手がかりがつかめるはずもない。
フランチェスカと安藤は彼の寂しげな背中を見つめるだけだ。やがてジョゼが顔を上げる。
「残念ですが、彼のいた場所に来れただけでも充分です。お手間を取らせました……」
ホテルに戻ります、とエントランスを出たとき、買い物帰りらしき婦人とぶつかりそうになった。年はジョゼと同じく60代と言ったところだろうか。
「あ、すみません!」とポルトガル語で詫びる。
言葉はわからなくとも意味は通じたようで女性は「いえ、お気になさらずに」と手を振る。
そのまま女性はマンションの隣の家へと歩く。マンションとは対照的に昔ながらの木造住宅だ。
「あ、あのすみません!」
そう声をかけたのは安藤だ。
「はい?」
「突然ですみません。このマンションが建てられる前に住んでいた人を探しているんです。もしかしたらお隣さんなら、なにか知っているかもしれないと思いまして……」
「ここに住んでいたひと……」
手を顎に当てて考えを巡らせる。
「タカトリという名前です。鳥の鷹で鷹取です」と横から見習いシスター。
「鷹取さん……?」
少し考えてから「ああ! 鷹取さんね!」と声を上げる。
「知っているんですね!?」と安藤。
「鷹取さんのことなら、母が詳しいはずですよ」
どうぞ上がってくださいと三人を家に招く。
†††
「確かに三郎ちゃんだわ。懐かしいわぁ」
かつて隣に住んでいた鷹取を知る老婆は写真を手に感慨にふける。そして写真をジョゼに返す。
「確かに鷹取さんは以前、隣に住んでいました」
居間の和室にて卓を挟んで三人にそう言う。
「なにか事情がおありのようですが、よろしければお聞かせ願えませんか?」
「はい。実は……」
フランチェスカがこれまでの経緯を話す。話し終えると老婆は目頭の涙を拭う。
「そんなことが……でも三郎ちゃんらしいわ。向こうで子どもをこんな立派に育てて……」
「彼は私にとっては父親のような存在でした」
フランチェスカの通訳を聞いたジョゼも涙ぐむ。
「でもごめんなさい。三郎ちゃんが今どこにいるかはわからないの。生きているのかどうかも……奥さんを亡くしてからすっかり元気がなくなってしまってねぇ」
「そうでしたか……」
ありがとうございますとジョゼが礼を言い、三人同時にぺこりと頭を下げる。
席を立とうした時、老婆が「ああ、そういえば」となにかを思い出したように声をあげた。
「三郎ちゃんには息子さんがいたわね。彼ならなにか知ってるかもしれませんわ。晴恵、年賀状あったわよね? 取ってきてくれる?」
しばらくして娘の晴恵が一枚の年賀状を持ってやってきた。
「毎年送ってくれるんですよ」と差し出した年賀状には三郎の息子の家族写真が。そして当然、住所と電話番号の記載がある。
「息子さんに電話をかけてきますね」と晴恵が電話をかけるべく席を立った。
「三郎ちゃんに会えるといいですね」
「ありがとう……ありがとうございます!」
ぷっつりと切れてしまった手がかりの先に新たな手がかりを手に入れ、ジョゼは目に涙を浮かべて何度も礼を述べる。
襖が開いて晴恵が「お会いになるそうですよ」とにこりと微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる