異世界ではじめて奪われました

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episode29

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「はじめまして!ハルト・キリュウです。本日はお招き頂きありがとうございます!」

「お初にお目にかかります。妻のメルエルと申します。本日はご足労頂き誠にありがとうございます。お会い出来ること、とても楽しみにしておりました」

今日はザジの家に昼食をお呼ばれしている。
お呼ばれと言っても罰なので半強制的だ。
奥さんは翡翠色の髪と瞳でとても可愛らしい人だった。
「急な申し出にも関わらずご快諾頂きありがとうございます」
「いえ、夫の罰は妻である私の罰でもあります。もっとも、これを罰と言うには軽すぎる気も致しますが」

にっこりと笑う姿はとてもかわいく、見ているとほっこりした気持ちになる。
「ザジ、よくメルエルさんと結婚できたね」
「おい、それはどういう意味だ」
「いやぁ、こんな筋肉バカにこんな良い奥さん勿体ないなと思って」
「ほぉ?喧嘩を売ってるわけだな?よし買うぞ」

ムキムキな腕でベッドロックをされた。
「無理無理無理!秒で負けるから!」
「ふふっ、ザジとは幼馴染みなんです。さあ、こちらへどうぞ。子供達も紹介させて下さい」
少し奥へ行くとベビーベッドで寝ている子と積み木のようなおもちゃで遊んでいる子がいた。

「長男のザイルと長女のメイファです」
積み木で遊んでいる青髪と翡翠の瞳の子が長男で2歳になるザイル。ベッドですやすやと寝ている翡翠色の髪を持つ長女で6ヶ月になるメイファ。
メイファの目の色は閉じられていて見えないが髪と同じ翡翠色だそうだ。

「2人ともお母さんに似てなんて可愛いんだ!」
ほっぺももちもちでずっと触っていたくなる。
「それには激しく同意だ」
「メロメロだね、ザジ」
「当たり前だろ?」
「子供達に夢中なのもいいですがお食事が冷めてしまいますよ?」

良い匂いが部屋中に広がっておりお腹はぺこぺこだ。
種類豊富な食事がテーブルを敷き詰めていた。
「わぁ!すごい!こんなにたくさん。.....大変だったんじゃないですか?」
「いいえ、楽しみでつい張り切ってしまいました」
めちゃくちゃいい人....!
多少のお世辞はあるのだろうがそう言ってもらえるのは素直に嬉しい。

「ありがとうございます!頂きます!」
手を合わせるとメルエルさんは興味深く見つめた。
「ザジから聞いておりましたが本当に手を合わせるのですね」
「はい。この場合には作って頂いたメルエルさんにも感謝を込めて」
にっこり笑うと驚いたような表情になる。

あれ、なんか変なこと言っただろうか?
「.......本当に綺麗な方なのですね」
「はい?」
「おい、俺の嫁を誘惑するな」
「し、してないよ!?」
夫婦の仲に亀裂でも入ったらと慌てたがザジは笑っていた。

「すみません、貴族でそのような事を仰る方は初めてだったので」
あ、ただびっくりしただけってことかな?
良かったー。ちょっと焦っちゃったじゃん!
「貴族のことはよく知りませんけど庶民の間では普通ですよ?」

貴族の人は作って貰って当然的な感じなのかな?
まぁ、貴族は縦社会だって言うしねぇ。
そんな事を考えながら手近にある料理をぱくりと口に運ぶ。
うまっ。
「これめちゃくちゃ美味しいです....ね....?」
顔を上げると、ザジも驚いた表情をしていることが不安になり語尾が疑問形になってしまった。

え、もしかしてまだ食べちゃいけなかったとか!?
「.....お前、貴族じゃないのか?」
神妙な面持ちで言われたが食べたことに対してではないことにホッとした。
「違うよ?」
てか俺のどこをどう見たら貴族に見えるんすか。

安心して他の料理にも口をつける。
「......そのことレクス様とレオン様はご存じなのか?」
「俺が貴族じゃないこと?」
「そうだ」
「うーん、どうだったかな....?」
直接的なことは言っていないような気がする。
「お2人以外には貴族じゃないことは伏せておけ」

「どうして?」
「厄介なことになるよりいいだろ」
「.....もしかして庶民は貴族の人とは仲良くしちゃダメとか?」
「いや、駄目じゃない。それに竜青ウチは平民出身のやつもいるから比較的差別はない」

比較的、ということは少なからず差別はあるのだろう。
「だが結婚となったら話は別だ。反対する貴族も多いだろう」
「.....結婚?誰と?」
ん?急になんの話?
「誰とってお前....レクス様と恋仲だろ?」

レクスとこいなか....?.....恋仲!?
意味を理解した途端顔がボッと熱くなる。
「な、な.....」
なんで知ってるの!?とは続けられず口をぱくぱくさせるだけとなった。
「レクス様はほとんどご自分の側に人を置かないからな。ましてや寄宿舎に人を置いたことなんざ聞いたことがない」

なにそれ!じゃあほとんどみんな知ってるってこと!?
恥ずかしすぎる!
羞恥に悶えているとメルエルさんがクスクスと笑った。
「貴族のことはあまりお気になさらずともよろしいのでは?どこから見ても貴族にしか見えませんし」
「まぁ、俺たちも貴族だと思ってたしな....」

「え、俺貴族に見えるの?」
ようやくみんな食事を再開した。
「ああ、平民には見えんな」
「ええ。容姿や服装もそうですが教養もありますし」
「教養なんて大層なものありませんが....」
服はレクス様様だな。

「平民はほとんど敬語なんぞ話さん。話せたとしても片方にだけ敬語で話すなんて器用なことはできん」
「へー。そうなんだ。学校では教えないの?」
「魔力が一定量なきゃ学校には通えないからな」
「えっ」
「だが魔力量は殆どが遺伝で決まるから平民が学校に通えることはあまりない」

「なるほどねぇ....」
完全な格差社会だ。
それが悪いとは言わないが随分と貴族に都合のいい世界だな。
「あ、そういえば竜黒の団長さん貴族じゃないって言ってたけど、レクスと騎士学校の同期ってことは魔力量多いんだね」

「....会ったのか?」
「うん。今度レクスの学生時代の話聞かせてもらう約束もした!」
「はぁ!?」
「楽しみだなぁ」
出してもらっていたお酒のコップを傾ける。

「お前もしかして1人で会うつもりか?」
「んなわけないじゃん。その時はザジかロジーに頼むつもりだよ?」
「それならいいが....」
「ハルトさんはレクス様のこと、とてもお好きなのですね」

突然そんな事を言われ危うくお酒を噴き出すところだった。
「な、なに言ってるんですか、メルエルさんっ」
「あら?違いましたか?お顔が真っ赤ですけれど」
クスクスと笑うメルエルさん。
ザジ....、あなたの奥さんSっ気ありません....?

「そ、そんなことより!お2人は!えと、結婚に至った経緯とか!」
「ふふっ、私達は子供の頃から結婚することが決まっていたので、残念ながら面白い経緯などはありませんよ?」
「子供の頃からですか?」
「ええ。貴族ではほとんどが政略結婚ですので」

あ、政略結婚か.....。
小さい頃から婚約者がいるとか想像もできない。
「まぁ、俺らみたいな下級貴族はそこまで絶対的なもんじゃないけどな」
「それじゃあ拒否もできるの?」
「ああ。自分より上の階級だと難しいが俺らのところは親同士仲良くて子供同士が結婚してくれたらいいなってだけの理由で決められたもんだし」

嫌々じゃないならよかった。
まあ想い合ってる感じではあったけど。
「メルエルさんはザジのどこを好きになったんですか?」
「おい、なに聞いてんだよ」
「いいじゃーん。ザジ聞いたことあるの?」
「いや、ないが....」

うーん、と少し悩んで答えてくれた。
「強いて言えば優しいところでしょうか」
「強いて言えば...!!」
やばい。ツボった。
「くくっ....!」
「よーし、やっぱり喧嘩売ってんだな。表出ろ」
「ふっ、....っ、....ちがっ」

楽しい時間はあっという間に過ぎた。
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