5 / 60
4話
しおりを挟む
「神野さん!あいつが下位式神しか使役できない事知ってて、なんで現場になんかよこすんです!」
現場は危険だって、神野さんもわかっているだろうに。
署に戻って捲し立てると、神野さんは首を横に傾げた。
「あいつ....?」
しまった。心の中であの野郎とか散々悪態をついていたから、うっかりそのまま言ってしまった。
「あー、いえ。......警部のことです」
「ああ。随分仲良くなったみたいでよかったよ」
「よくありません!」
「まあまあ、仕事は片付いたんだろう?」
「だからそういう問題じゃなくて....!」
その後も、現場は無理だと何度も言ったが、のらりくらりとかわされた。
クソッ...!こんのタヌキ親父が...!
「姫崎さーん、上司に雑用任せるってどういう神経してんすか」
椅子の背もたれに体を預け、少しだらしない格好でへらへらと笑いながら影山が言った。
「うるせえな。向こうがやりたいって言ったんだよ」
「えー、雑用なんてやりたい人います?姫崎さんが押し付けたんじゃないんですか?」
んなわけあるか!.....いや、待てよ。最後のは押し付けた事になるんじゃないか....?
去り際のやり取りを思い出して言葉に詰まる。それを見た影山がやっぱりー、と呆れたように呟いた。
「....適材適所だろ」
「まー、そうですけどー。あんまりいじめないでくださいね?」
「あ?いじめてなんてねーよ」
「ならなんでそんな不機嫌なんですかー。しかも一人で帰ってくるし」
さっきから痛いところを突いてくる。
「....お前、やけに肩持つな」
「そういうわけじゃないですけど...。でもあの人キャリアなのに横柄じゃないし、ノンキャリアにも敬語でキャリアっぽくないじゃないですか」
「.....最初だけだろ」
「まー、そうかもしれませんけど。でもせっかくこんなとこに来てくれたんですから仲良くしましょうよ」
「こんなとこってお前....」
影山の言っていることはわかる。だが、わかるからといって納得できるかどうかは別である。自分でも大人気ないとは思っているが、最初に喧嘩を売ってきたのは向こうだ。向こうにそんな気はなかったかもしれないが。
「お前だって年下の使えない、それも上司が付いてみろ。人の事言えなくなるぞ」
「あー、それはどんまいとしか言いようがないっすね!」
わはは、と笑う影山を殴りたくなったがぐっと堪える。どの道俺に拒否権はないし、喚いたところで何も変わらない。
やり場のない苛立ちを、ため息をついてなんとか逃す。今日何度目のため息だろうか。やっと人手が増えたというのに、いい事などひとつもない。
「ところで、肝心の幽霊についての報告だけまだないんですけど?」
「.....今しようと思ってたとこだよ」
腹に一撃くらった事や、二人で話がしたいと言われた事、自分が狙われているかもしれない、という事以外は全て話した。
「今回は随分話のできる幽霊だったんすね」
全て話し終えた後に、影山が感心したように言った。神野さんは腕を組んで少し険しい表情をしている。
「ああ。みんなそうなら楽なんだけどな...」
「噂、というのが気になるね。独自のコミュニティでもあるのかもしれない」
「だとしたら厄介ですねー。特定は無理でしょうけど、一応幽霊が集まれそうなところ探してみます」
そう言って影山はカタカタとキーボードを叩き始めた。
影山の言う通り、特定は難しいだろう。というのも、幽霊は監視カメラなどの映像に映らないのだ。深夜ともなれば、人目に付かない場所などいくらでもある。
何をしているかさっぱりわからないが、影山が最後にエンターキーをタンッと叩くと、パソコンの画面に地図が表示され、赤い点がぶわっと広がった。どうやらこれが候補地らしい。
案の定、数えきれないほどの場所が赤く染まり、密集して点ではなくなっているところも多々ある。この場所を全て見回るのは無理だ。人手不足なのもあるが、場所を変えられてしまえば意味がない。
「さすがに多すぎるね....。一応頭には置いておこう。影山くんは皆んなに共有しといてくれる?」
「了解でーす」
影山は、再びパソコンをカタカタと操作しながら続けて言った。
「ってか、綺麗な人っていう噂も姫崎さんのことなんじゃないんすか?今回の幽霊だって姫崎さん目当てだったんでしょ?」
何で知ってるんだ、と言いかけてやめた。このことを知っているのは俺以外にあいつしかいない。
余計な事まで報告しやがって、と心の中で舌打ちをする。
「んなわけねえだろ。綺麗な奴なんて他にいくらでもいるし。第一抽象的すぎる」
「まぁそうですけど....。でも一応一人で出歩かない方がいいですよ?」
「余計なお世話だ。お前も俺を弱いと思ってんのか?」
「いやいや、そういう意味じゃないですって。っていうかもってことは警部にそういうこと言われたんですか?」
暗にそんなことで怒っているのか、と言われているようできまりが悪く、視線を逸らす。
でも自分より弱い奴にそんなこと言われたら誰だって腹立つだろ。
何も言わない俺を見て、影山はぶっ!と吹き出した。お前、さすがにそれは失礼じゃないか?
「姫崎さんが強い事は知ってますよ?でも真面目な話、万が一ってこともあるじゃないですか。俺だったら完全足手纏いですけど、警部ならよくないですか?本人もボディーガードやりたいって言ってたし」
普段はおちゃらけているのに、たまにこうやって真面目な話をしだす。声のトーンでも本気で心配していることが伝わってきて、少し複雑だ。しかもなんで佐原ならいいんだ。
「下位式神しか使役できないんだぞ?どう考えても足手纏いだろ」
「幽霊相手には姫崎さんの方が強いと思いますけど、人間相手なら多分姫崎さんより強いですよ」
なんだって?
聞き捨てならない発言に、つい顔が険しくなる。影山はまたパソコンに向かうと去年の警察柔道大会の結果を表示させた。
その、優勝者の欄には「佐原壱」の文字が。
「は!?嘘だろ!?」
「いやー、キャリアでも出る人いるんですねー」
恐らく、異例だろう。いたとしてもかなり少ないはずだ。ましてや優勝なんて。
神野さんも「面白い子だねー」とくすくす笑っている。
影山が動画を再生させると、決勝戦の様子が映し出された。見た目では相手の方が明らかにガタイが良い。階級は同じだが、その中でもお互いギリギリなのだろう。相手は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
"始め"という言葉で同時に動き、奥襟を掴もうとしてくる手を退けながら積極的に攻めている。相手から笑顔は消えていた。
なかなか技をかけさせてもらえなくて焦ったのか、相手が強引に脚をかけて投げようとしたがびくともせず、逆にその脚を掬われた。
ばん!と背中を床に叩きつけるように投げ飛ばし、見事な大外返で一本だ。
体幹がしっかりしていることもさることながら、ずば抜けて眼が良い。
相手の重心がどこに乗っているかが見えているので、次の行動がある程度予測できるのだ。
奥歯をギリ、と噛み締める。
敵わない、と思ってしまった。
無駄のない動きやブレない体、それに加えてあの鋭い観察眼。身長の事を抜きにしても敵いそうにない。
「これなら足手纏いにはならないんじゃない?」
「........そう、ですね」
認めたくはないが、確かにこれなら例え幽霊が相手だとしても、自分の身くらいは守れるだろう。
動画を丁度見終えたところで佐原が戻ってきた。
「ただ今戻りました」
「あ、お疲れ様でーす!今みんなで警部の勇姿を見てたとこです!」
影山が手を振って、パソコンの画面を佐原の方へ向けた。
「勇姿....?あー...って、えっ!?動画まで...!?それはちょっと恥ずかしいんですけど...」
「えー、かっこよかったですよ?ね、姫崎さん」
俺に振るなよ!
内心毒付いたが、時すでに遅し。佐原は期待のこもった瞳でこちらを見つめてくる。何かしら言わないといけない雰囲気になってしまった。
ぐっ....。
「...........まぁ、良かったんじゃないんですか」
なんとか言葉を絞り出すと、目に見えて嬉しそうな顔をするもんだから視線をそっと外す。
なぜこうも俺の言葉に一喜一憂するのか。かなり冷たく当たっている自覚があるからこそ余計だ。
遅れてやってきた罪悪感を打ち消したくて、何か他に情報がないか聞こうと口を開いた時、神野さんに先を越された。
「警部、戻られて早々申し訳ないのですが、姫崎くんの病院に付き添ってやってくれませんか?」
「は!?」
突然何を!
「えっ!姫崎さん、行ってなかったんですか!?」
その言葉で、それも報告したのか、と舌打ちが漏れそうになった。
「俺は別に怪我なんて——」
「なら、お腹見せて」
「っ、」
「怪我してないなら見せれるよね?」
有無を言わせない物言いに、少し反抗したが結局圧に負けてワイシャツを捲った。
「っ!?」
「うわっ、痛そー」
青紫に変色した腹を見て、佐原は息を飲み、影山が声を上げる。見た目は少しアレだが、言うほどの痛みはない。骨も折れてはなさそうだし、病院に行くほどの怪我ではないのに。
「見た目ほど酷くはないですよ。骨も折れてませんし大丈夫です」
「駄目。もしかしたら内臓傷ついてるかもしれないから行ってきなさい」
まるで子供に言い聞かせるように諭され、言葉に詰まる。しかもド正論で、俺が我儘を言っているみたいになっているのがまた決まりが悪い。
「......わかりました。けど、一人で行けます」
「いや、警部も今後お世話になる可能性があるから、御堂先生にご挨拶しておいた方がいい」
御堂先生はいつもお世話になっている整形外科の先生だ。専属、というわけではないが、御堂先生も幽霊が見えるため、治療の際には何かとお世話になっている。余計な説明をしなくてもいいので楽なのだ。
幽霊課のみんなは、怪我をしたらまず御堂先生の元へ行き、御堂先生が診断や治療ができなければ他の病院を紹介してもらうのがお決まりなっている。
警部はお世話になっちゃ駄目だろ...と思いつつも、挨拶くらいは確かにしておいた方がいいかもしれない。
気は進まないが、二人で病院へと向かった。
現場は危険だって、神野さんもわかっているだろうに。
署に戻って捲し立てると、神野さんは首を横に傾げた。
「あいつ....?」
しまった。心の中であの野郎とか散々悪態をついていたから、うっかりそのまま言ってしまった。
「あー、いえ。......警部のことです」
「ああ。随分仲良くなったみたいでよかったよ」
「よくありません!」
「まあまあ、仕事は片付いたんだろう?」
「だからそういう問題じゃなくて....!」
その後も、現場は無理だと何度も言ったが、のらりくらりとかわされた。
クソッ...!こんのタヌキ親父が...!
「姫崎さーん、上司に雑用任せるってどういう神経してんすか」
椅子の背もたれに体を預け、少しだらしない格好でへらへらと笑いながら影山が言った。
「うるせえな。向こうがやりたいって言ったんだよ」
「えー、雑用なんてやりたい人います?姫崎さんが押し付けたんじゃないんですか?」
んなわけあるか!.....いや、待てよ。最後のは押し付けた事になるんじゃないか....?
去り際のやり取りを思い出して言葉に詰まる。それを見た影山がやっぱりー、と呆れたように呟いた。
「....適材適所だろ」
「まー、そうですけどー。あんまりいじめないでくださいね?」
「あ?いじめてなんてねーよ」
「ならなんでそんな不機嫌なんですかー。しかも一人で帰ってくるし」
さっきから痛いところを突いてくる。
「....お前、やけに肩持つな」
「そういうわけじゃないですけど...。でもあの人キャリアなのに横柄じゃないし、ノンキャリアにも敬語でキャリアっぽくないじゃないですか」
「.....最初だけだろ」
「まー、そうかもしれませんけど。でもせっかくこんなとこに来てくれたんですから仲良くしましょうよ」
「こんなとこってお前....」
影山の言っていることはわかる。だが、わかるからといって納得できるかどうかは別である。自分でも大人気ないとは思っているが、最初に喧嘩を売ってきたのは向こうだ。向こうにそんな気はなかったかもしれないが。
「お前だって年下の使えない、それも上司が付いてみろ。人の事言えなくなるぞ」
「あー、それはどんまいとしか言いようがないっすね!」
わはは、と笑う影山を殴りたくなったがぐっと堪える。どの道俺に拒否権はないし、喚いたところで何も変わらない。
やり場のない苛立ちを、ため息をついてなんとか逃す。今日何度目のため息だろうか。やっと人手が増えたというのに、いい事などひとつもない。
「ところで、肝心の幽霊についての報告だけまだないんですけど?」
「.....今しようと思ってたとこだよ」
腹に一撃くらった事や、二人で話がしたいと言われた事、自分が狙われているかもしれない、という事以外は全て話した。
「今回は随分話のできる幽霊だったんすね」
全て話し終えた後に、影山が感心したように言った。神野さんは腕を組んで少し険しい表情をしている。
「ああ。みんなそうなら楽なんだけどな...」
「噂、というのが気になるね。独自のコミュニティでもあるのかもしれない」
「だとしたら厄介ですねー。特定は無理でしょうけど、一応幽霊が集まれそうなところ探してみます」
そう言って影山はカタカタとキーボードを叩き始めた。
影山の言う通り、特定は難しいだろう。というのも、幽霊は監視カメラなどの映像に映らないのだ。深夜ともなれば、人目に付かない場所などいくらでもある。
何をしているかさっぱりわからないが、影山が最後にエンターキーをタンッと叩くと、パソコンの画面に地図が表示され、赤い点がぶわっと広がった。どうやらこれが候補地らしい。
案の定、数えきれないほどの場所が赤く染まり、密集して点ではなくなっているところも多々ある。この場所を全て見回るのは無理だ。人手不足なのもあるが、場所を変えられてしまえば意味がない。
「さすがに多すぎるね....。一応頭には置いておこう。影山くんは皆んなに共有しといてくれる?」
「了解でーす」
影山は、再びパソコンをカタカタと操作しながら続けて言った。
「ってか、綺麗な人っていう噂も姫崎さんのことなんじゃないんすか?今回の幽霊だって姫崎さん目当てだったんでしょ?」
何で知ってるんだ、と言いかけてやめた。このことを知っているのは俺以外にあいつしかいない。
余計な事まで報告しやがって、と心の中で舌打ちをする。
「んなわけねえだろ。綺麗な奴なんて他にいくらでもいるし。第一抽象的すぎる」
「まぁそうですけど....。でも一応一人で出歩かない方がいいですよ?」
「余計なお世話だ。お前も俺を弱いと思ってんのか?」
「いやいや、そういう意味じゃないですって。っていうかもってことは警部にそういうこと言われたんですか?」
暗にそんなことで怒っているのか、と言われているようできまりが悪く、視線を逸らす。
でも自分より弱い奴にそんなこと言われたら誰だって腹立つだろ。
何も言わない俺を見て、影山はぶっ!と吹き出した。お前、さすがにそれは失礼じゃないか?
「姫崎さんが強い事は知ってますよ?でも真面目な話、万が一ってこともあるじゃないですか。俺だったら完全足手纏いですけど、警部ならよくないですか?本人もボディーガードやりたいって言ってたし」
普段はおちゃらけているのに、たまにこうやって真面目な話をしだす。声のトーンでも本気で心配していることが伝わってきて、少し複雑だ。しかもなんで佐原ならいいんだ。
「下位式神しか使役できないんだぞ?どう考えても足手纏いだろ」
「幽霊相手には姫崎さんの方が強いと思いますけど、人間相手なら多分姫崎さんより強いですよ」
なんだって?
聞き捨てならない発言に、つい顔が険しくなる。影山はまたパソコンに向かうと去年の警察柔道大会の結果を表示させた。
その、優勝者の欄には「佐原壱」の文字が。
「は!?嘘だろ!?」
「いやー、キャリアでも出る人いるんですねー」
恐らく、異例だろう。いたとしてもかなり少ないはずだ。ましてや優勝なんて。
神野さんも「面白い子だねー」とくすくす笑っている。
影山が動画を再生させると、決勝戦の様子が映し出された。見た目では相手の方が明らかにガタイが良い。階級は同じだが、その中でもお互いギリギリなのだろう。相手は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
"始め"という言葉で同時に動き、奥襟を掴もうとしてくる手を退けながら積極的に攻めている。相手から笑顔は消えていた。
なかなか技をかけさせてもらえなくて焦ったのか、相手が強引に脚をかけて投げようとしたがびくともせず、逆にその脚を掬われた。
ばん!と背中を床に叩きつけるように投げ飛ばし、見事な大外返で一本だ。
体幹がしっかりしていることもさることながら、ずば抜けて眼が良い。
相手の重心がどこに乗っているかが見えているので、次の行動がある程度予測できるのだ。
奥歯をギリ、と噛み締める。
敵わない、と思ってしまった。
無駄のない動きやブレない体、それに加えてあの鋭い観察眼。身長の事を抜きにしても敵いそうにない。
「これなら足手纏いにはならないんじゃない?」
「........そう、ですね」
認めたくはないが、確かにこれなら例え幽霊が相手だとしても、自分の身くらいは守れるだろう。
動画を丁度見終えたところで佐原が戻ってきた。
「ただ今戻りました」
「あ、お疲れ様でーす!今みんなで警部の勇姿を見てたとこです!」
影山が手を振って、パソコンの画面を佐原の方へ向けた。
「勇姿....?あー...って、えっ!?動画まで...!?それはちょっと恥ずかしいんですけど...」
「えー、かっこよかったですよ?ね、姫崎さん」
俺に振るなよ!
内心毒付いたが、時すでに遅し。佐原は期待のこもった瞳でこちらを見つめてくる。何かしら言わないといけない雰囲気になってしまった。
ぐっ....。
「...........まぁ、良かったんじゃないんですか」
なんとか言葉を絞り出すと、目に見えて嬉しそうな顔をするもんだから視線をそっと外す。
なぜこうも俺の言葉に一喜一憂するのか。かなり冷たく当たっている自覚があるからこそ余計だ。
遅れてやってきた罪悪感を打ち消したくて、何か他に情報がないか聞こうと口を開いた時、神野さんに先を越された。
「警部、戻られて早々申し訳ないのですが、姫崎くんの病院に付き添ってやってくれませんか?」
「は!?」
突然何を!
「えっ!姫崎さん、行ってなかったんですか!?」
その言葉で、それも報告したのか、と舌打ちが漏れそうになった。
「俺は別に怪我なんて——」
「なら、お腹見せて」
「っ、」
「怪我してないなら見せれるよね?」
有無を言わせない物言いに、少し反抗したが結局圧に負けてワイシャツを捲った。
「っ!?」
「うわっ、痛そー」
青紫に変色した腹を見て、佐原は息を飲み、影山が声を上げる。見た目は少しアレだが、言うほどの痛みはない。骨も折れてはなさそうだし、病院に行くほどの怪我ではないのに。
「見た目ほど酷くはないですよ。骨も折れてませんし大丈夫です」
「駄目。もしかしたら内臓傷ついてるかもしれないから行ってきなさい」
まるで子供に言い聞かせるように諭され、言葉に詰まる。しかもド正論で、俺が我儘を言っているみたいになっているのがまた決まりが悪い。
「......わかりました。けど、一人で行けます」
「いや、警部も今後お世話になる可能性があるから、御堂先生にご挨拶しておいた方がいい」
御堂先生はいつもお世話になっている整形外科の先生だ。専属、というわけではないが、御堂先生も幽霊が見えるため、治療の際には何かとお世話になっている。余計な説明をしなくてもいいので楽なのだ。
幽霊課のみんなは、怪我をしたらまず御堂先生の元へ行き、御堂先生が診断や治療ができなければ他の病院を紹介してもらうのがお決まりなっている。
警部はお世話になっちゃ駄目だろ...と思いつつも、挨拶くらいは確かにしておいた方がいいかもしれない。
気は進まないが、二人で病院へと向かった。
34
あなたにおすすめの小説
忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった
ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)
「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」
退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて…
商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。
そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。
その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。
2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず…
後半甘々です。
すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
恋人と別れるために田舎に移住体験に行ったら元二股相手と再会しました
ゆまは なお
BL
東京生まれ東京育ちの富和灯里(ふわとうり)は、6年付き合った恋人と別れるために田舎への移住を決意する。ところが移住体験に行ってみれば、そこには4年前に別れた二股相手、松岡一颯(まつおかかずさ)がいた。驚いて移住は取りやめようと思った灯里だが、恋人とは別れてくれず勢いで移住を決意してしてしまう。移住はしたが、松岡とは関係を疎遠にしておこうとする灯里の意思に反して、トラブルが次々起こり、松岡とは距離が縮まっていく……。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
【オメガバース】替えのパンツは3日分です
久乃り
BL
オメガバースに独自の設定があります。
専門知識皆無の作者が何となくそれっぽい感じで書いているだけなので、マジレスはご遠慮ください。
タグに不足があるかもしれません。何かいいタグありましたらご連絡下さい。
杉山貴文はベータの両親の間に生まれたごく普通のベータ男子。ひとつ上の姉がいる29歳、彼女なし。
とある休日、何故か姉と一緒に新しい下着を買いに出かけたら、車から降りてきたかなりセレブな男と危うくぶつかりそうになる。
ぶつかりはしなかったものの、何故かその後貴文が目覚めると見知らぬ天井の部屋に寝ていた。しかも1週間も経過していたのだ。
何がどうしてどうなった?
訳の分からない貴文を、セレブなアルファが口説いてくる。
「いや、俺は通りすがりのベータです」
逃げるベータを追いかけるアルファのお話です。
ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。
みどりのおおかみ
BL
「強情だな」
忠頼はぽつりと呟く。
「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」
滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。
――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。
*******
雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。
やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。
身分差を越えて、二人は惹かれ合う。
けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。
※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。
※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。
https://www.pixiv.net/users/4499660
【キャラクター紹介】
●弥次郎
「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」
・十八歳。
・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。
・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。
・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。
・はねっかえりだが、本質は割と素直。
●忠頼
忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。
「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」
地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。
・二十八歳。
・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。
・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。
・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。
・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。
●南波
・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。
●源太
・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。
●五郎兵衛
・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。
●孝太郎
・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。
●庄吉
・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる