ボスルートがあるなんて聞いてない!

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30.俺だけ!?

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 街に行く前に状況が知りたいと団長さんに言われ、俺の知っていることを全て話した。

 と、言っても俺の知っている事など少ないもので、あの男が精神魔法を使っていたことや記憶まで操作できること、世界を破壊するためにヴァルクを仲間にしたがってたことくらいだ。

 むしろ俺の方が知りたい事がたくさんある。それは団長さんも分かっていたようで、街に向かう道中に話してくれた。


 鐘が鳴ったのは昨日の夜の出来事で、まだ一日も経っていなかった。一番気になっていたブルーとハクは宿屋の部屋で寝ていて、今はギルドでローニャさんがついていてくれているらしい。怪我もしていないようでよかった。

 昨日の夜、大量の魔獣が押し寄せ、早朝にようやく殲滅できたらしい。やっぱりスタンピードが起きたのかと思いきや、魔獣たちは一心不乱に街を目指し、外壁に登ろうとしているものまでいて、その光景は異様だったという。もしかしたら黒髪の男に操られていたのかもしれない。

 冒険者や騎士団総出で討伐にあたり、街への侵入は防いだそうだ。怪我人も出たには出たが、幸い重症者はおらず、街の人も無事だということで本当によかった。

 殲滅が終わってからすぐにロベルトが俺の泊まっている宿屋に来てくれたが、俺の姿はなく、ブルーとハクだけが残されていることに違和感を感じて探してくれたようだ。もう感謝しかない。

 ヴァルクも魔獣の討伐に協力してくれたらしい。やっぱり俺が心配するのはおこがましかったかな。

 俺のこともヴァルクが探索魔法を使って見つけてくれたようで、魔法が使える騎士団員はその魔力の多さに驚いていた。
 夜通し魔法を使っていたのに、広範囲の探索魔法まで使っても倒れないなんて!と団員が興奮したように話していた。

「探索魔法は薄く広げればそれほど魔力を使わない」

 と、団員と普通に話しているヴァルクの姿を見て目が潤む。数人ではあるが、団員もヴァルクを恐れることなく話してくれている。きっと昨日の夜の出来事でヴァルクの見方が変わったんだろう。

 ん?ちょっと待って夜通し?

「ヴァルク、もしかして寝てないの!?」

「ここにいる奴はみんな寝てないぞ?」

「うっそ.....」

 俺だけぐーすか寝てたってこと!?しょうがない事だったとしても非常に申し訳ない。改めて団員全員にお礼を言った。


 ようやく門が見えた頃には日が傾きかけていた。どうやらここは東門のようだ。かなり遠くまで連れて行かれたんだなと思うのと同時に、捜索範囲の広さに驚愕した。
 ほんとに魔力量えぐいな。

 改めてお礼を言おうと隣を見た時、ヴァルクの身体が少しぐらついた。

「ヴァルク!?大丈夫!?」

「....ああ。大丈夫だ」

 倒れはしなかったが、大丈夫だと言う顔色はあまり良くない。きっと無理をしているんだろう。

「あれだけ魔法を使っていれば当然だろう。君も一応人間だったんだと安心したよ」

「いや、あれだけ使って眩暈めまいだけだぞ?化物バケモンだろ」

 団長さんはいつもの様に微笑みながら、ロベルトは吐き捨てるように言ってはいるが、その言葉に棘はない。

「そんなことより!早く休ませないと!」

 軽口を言い合えるようになるのは嬉しいが、今はそれよりも体調の方が優先だ。

「そうしてやりたいのは山々なんだが、この後陛下に拝謁してもらう」

「へっ!?」

 陛下!?トップオブトップじゃん!なんで!?
 まさかの発言に混乱するも、当の本人はわかっているのかいないのか、涼しい顔をしている。

「今回の功労者だからな。これを材料に街へ出入りできるよう進言するつもりだ」

 もちろん住めるようにもな、と続けられた言葉に既に混乱していた頭がさらに混乱し、理解するのに随分時間がかかった。
 理解した途端、目頭が熱くなり慌てて堪えるが遅く、また勝手に涙が溢れてくる。散々泣いたのにまだ枯れていなかったのか。

「サクヤ、もう泣かないでくれ....」

 ヴァルクが心配そうにぎゅっと抱きしめてくれるが、俺だってこんな人前で泣きたくない。でも勝手に溢れてくるんだもん。
 一度溢れた涙はそう簡単には止まってくれない。

 なんとか止めようとしていると、ヴァルクが俺の顎に手をかけ上を向かされた。こんなぐちゃぐちゃな顔なんて見られたくなくて、すぐに逸らそうとしたが顎を掴まれているのでそれもできない。

 仕方なく視線だけ外せば、目尻に柔らかいものが当てられた。

 え.....?
 まさかと思って視線を戻せば今度は反対側に当てられる。柔らかいものの正体はやはり唇だった。

 なっ、なにしてんの!?

「おい、こんなとこでイチャイチャすんな」

 ロベルトの言葉に俺も激しく同意する。俺だって逆の立場だったらそう思う。他所でやってくれって。

 驚きと羞恥で涙はぴたりと止まった。ヴァルクはというと、涙が止まったことで満足げだ。いい笑顔のせいで何も言えず、火照った顔をフードで隠す事しかできない。

 団長さんとロベルトがなにやら言い争っているのが聞こえたが、そんなこと気にしている余裕がなくて内容はよくわからなかった。



 東門に到着すると、衛兵さんたちがヴァルクを見てヒッ、と喉を引き攣らせた。

「大丈夫だ。水晶を持ってきてくれ」

「わ、わかりました......」

 怖がってはいるが、団長さんの言葉に異を唱えることなく従う。
 団長さんが水晶を受け取り、ヴァルクに手を置くよう指示をする。俺も初めて街に入る時にやったやつだ。犯罪歴がなければ緑色に光る。当然、水晶は緑色に光った。


 街に入ってからも、団長さんはヴァルクに髪を隠させるような事はさせず、堂々と王城へ向かって行った。別れ際、「早く着替えろよ」と言われたが元よりそのつもりだ。いつまでもこんな格好で居たくない。

 俺はついて行けないので、ブルーとハクの無事を確認するためにロベルトとギルドへ急いだ。無事だと聞いてはいるが、未だ反応がない事に不安が募る。気づいたら途中から走りだしていた。

「おいっ、落ち着け!怪我とかはしてなかったから!」

「っ、でも.....」

 走り出した俺の腕をロベルトが掴んで止める。

「そんな格好で転んだらどうする」

「う......」

 確かにロベルトの言う通りだ。転んで団長さんの服が破れて弁償なんてことになったら、一生働いても返せない可能性すらある。それは避けたい。

 そして、渋々歩き始めた時だった。

『マスター!ご無事ですか?』
『ますたーどこー?』

 頭の中に待ち焦がれた声が響く。

「ブルー!ハク!よかった!気がついたんだな!今そっち向かってるからちょっと待ってて!」

 よかった!ほんとよかった!

「ロベルト!ふたりとも目覚ましたよ!」

「ああ、良かったな」

「うん!早く戻ろ!」

「おいっ、だから走るなって!」

 あ、そうだった。
 嬉しさのあまり先程言われたことなどもう忘れて、走り出そうとしたのをまたも止められる。はやる気持ちを抑えてギルドへと急いだ。
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