勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

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6話

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あの後、2人は部屋を出て行き今は1人だ。
足枷も外してくれたので身体は軽くなったが心は重いまま。

明日か明後日にはここから出してもらえるらしいが、正直今はそれどころではない。

だって、ここから出たって行くところがない。
ここから出れたって、日本に帰れるわけではない。

今後の生活を保障してくれるとは言ってたけど、それが本当かどうかわからない。
もし本当だとしても、身の安全まで保障はしてくれないだろう。

今後戦争が激化したら、今は安全な場所も戦場になるかもしれない。
そうしたら喉元に矢が刺さったあの光景がきっと当たり前になる。

思い出しただけでも未だ震えが治らないのに、こんなところで生きていけるわけがない。

ベッドの上で布団を被り、膝を抱えて震えが治まるのを待った。



◇◇◇◇



リベルの言葉通り俺は翌日にあの部屋から出してもらえた。
戦争が終わるまでの衣食住はもちろん、戦争が終わった後の住む場所の希望も叶えてくれるらしい。

正直平和ならどこも同じな気がする。
どこへ行っても知ってる場所などないのだから。
それでも、ここで生きていかなければならない。昨日の時点で腹は括った。

そしてこれから住む部屋に案内されたのだが.....。

「えっと....、本当にここで合ってるんですか?なんかの間違いじゃ....」

ここまで連れてきてくれた茶髪の猫耳のメイドさんに尋ねると彼女は首を横に振った。

「いえ。こちらにご案内するよう申し付けられております」

「そ、そうですか....」


いや、広くね?


広すぎて落ち着かない。
俺の部屋の何倍もあるんですけど。
ベッドの大きさも尋常じゃないんですけど。
一体何人で寝るつもりですか?
その他の家具もやたら高そうだ。

「このお部屋の中の物はご自由にお使いください、とのことです」

自由にって....。

試しにクローゼットのようなものを開けてみるとたくさんの服が並んでいる。
どれも手触りがよく、きっと高価な物なんだろう。

こんなのが欲しいわけじゃないんだけど...。

「湯浴みの準備もできておりますがいかがされますか?」

「お願いします」

それにはもちろん即答した。


お風呂にまで着いて来られた時は焦ったけど丁重にお断りした。
お風呂もやっぱり広くて少し落ち着かないが足を伸ばして入れるのは気持ちがいい。

お風呂から出るとトリスさんが訪ねてきた。

「チヒロさん、とてもお似合いですよ」

メイドさんが用意しておいてくれた服を着たのだが、自分ではとても似合っているとは思えなかった。服に着られている感じがする。


「なにか足りない物がありましたら遠慮なく言ってくださいね」

「ありがとうございます」

「今後のことなのですが、チヒロさんには1人、護衛をつけさせて頂きます」

「護衛...ですか?」

「はい。部屋から出る際は必ず一緒に行動してください。部屋の前に控えておりますので御用の際も申し付けください」

「え....」

護衛をつけなきゃいけないくらいここも危ないってこと?

「申し訳ありません。獣人は比較的友好な者が多いのですが中には人を良く思わない者もおりますので...。チヒロさんの安全のためです」

聞けば獣人族は数百年前に奴隷だった時期もあったそうだ。
それなら人を恨むのも仕方ない。それに人だって良い人も悪い人もいるしそれはお互い様だ。

「....そう、なんですね....。分かりました」

「ありがとうございます。それと、なにかやりたい事などがあれば可能な限り叶えたいと思っております。なにかありますか?」

もちろんある。
ここで1人で生きていくためにはどうしたらいいか散々考えた。

「ありがとうございます。でしたらこの国のこと...できれば世界のことを教えてほしいです。あとは、自分の身を守れるすべを身につけたいんですが...」

トリスさんは少し考えてから口を開いた。

「わかりました。ですが、手配に数日お時間をください」

よかった。これが断られると1人では生きていけない。武器を持ったこともない自分が強くなれるかはわからないが護身術くらいはできるようになりたい。
とにかく早くこの世界の常識を覚えて自分にもできる仕事を見つけなくては。


「よろしくお願いします」

「何かありましたら遠慮なく言ってくださいね」

そんなに遠慮してると思われているんだろうか。
再び同じような事を言ってトリスさんは部屋を出て行った。
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