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第三部 王国動乱~逃避行編
第十七話 赤髪緑眼の追跡者
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「ここだ」
デイランたちは村長や村人たちを、野盗のねぐらへ連れていった。
そこかしこで賊達が屍《しかばね》をさらしていた。
村長は声を漏らす。
「こいつは、すごい……」
デイランは先を行く。
「本当に見せたいのはこれだ」
そうして洞窟の中へ歩き出せば、そこにあるものを示す。
そこには山賊たちが使っていた甲冑や鎧帷子《くさりかたびら》、剣や、どこからか盗んできたのであろう物品が積まれている。
「ここにあるものを金にすれば、これまで奪われてきたものを取り戻すだけの金銭は十二分に工面できるはずだ」
村長は驚く。
「お前さん方は?」
「俺たちは、仲間を治療してくれただけでもありがたいからな」
村長や村人たちは、その場に跪《ひざま》くとデイランたちを崇《あが》め始める。
「おい、やめろっ」
「し、しかし」
「山の中じゃ手助けをするのが当たり前なんだろう。
俺達もその決まりに従っただけだ」
ロミオも同意する。
「そうです。我々は当然のことをしたまでです」
「なら、ごちそうを振る舞わせて欲しい」
デイランは首を横に振った。
「やめてくれ。
そんなことをする必要はない。
それに俺たちも先を急ぐ」
と、そこにマックスが「待って」と言う。
デイランが「おい」と止めようとするが、マックスは軽くなだめて、村長に言う。
「一つ良いかしら。
うちの仲間に塗った傷薬? あれ、少し分けてくれない?
それから作り方も教えて。
うちの人間は怪我をしやすいのが多いから」
「あんなもんでよろしいのか?」
「この村にはあんなものでも、私たちにとってはすっごく貴重なのよ」
「あんなもんで良ければ。では、材料の方も持っていてくれ」
「ありがとう。助かるわ」
村長は続いて、デイランたちよりも一歩引いた所にいる、リュルブレの元へ近づく。
「エルフ殿。
あなたに、村人全員で感謝をいたしたい」
「リュルブレだ」
「リュルブレ殿。ありがとう」
「いや、まあな……」
リュルブレは照れくさそうに微笑んだ。
「エルフというのも非常に素晴らしい種族であったと気づかされた……。
我々も認識を変えなければならん」
「是非、そうしてくれ」
そして去りゆく、デイランたちに、ヨータが最後に言う。
「旅の方々、本当にありがとうございます!
どうか、また機会がありましたら是非、来て下さい!
今度はもっとおいしいものを振る舞います」
デイランはうなずく。
「楽しみにしてるよ」
こうしてデイランたちは山の村を後にした。
※※※※※
それから数日後。
その村を、数人の男たちが訪ねた。
それを村人たちは怪訝《けげん》な顔で民家から見守る。
何しろ、野盗騒ぎがあった直後なのだ。
デイランたちのような善良な旅人もいるが、全ての人間がそうだと思うほど、村人たちは世間知らずではない。
しんと静まり帰った集落に、その男たちの中でも、最も若い旅装姿の青年が呼びかける。
その青年は燃えるような赤い髪に、宝石のように緑色の瞳を持っている。
声を聞かなければ、男であると分からなかったほどだ。
「我々は怪しい者ではありません。
我々は神星教団の星騎士団のものですっ!
私は、エリキュス・ド・デラヴォロと言いますっ!
誰かいらっしゃいませんかっ!」
村長が恐る恐るという風に、エリキュスたちの前に現れる。
それを皮切りに村人たちも一人、また一人と姿を見せた。
村長は言う。
「何かな?」
エリキュスと名乗った赤髪の男が頭を下げる。
「訪ねたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「何じゃ?」
「この辺りに、人が訪ねてきませんでしたか?
若い男と女の……」
「知らんな」
エリキュスは村人たちに目をやる。
「誰でも良いんです。何か覚えがあれば。
情報を頂ければ、相応の報酬は用意がございます」
エリキュスは腰に下げた銀の入った袋を見せるが、反応は鈍い。
村長が頭を下げる。
「……申し訳ない」
「いえ、心当たりがなければ、話せないのは道理なのですから」
エリキュスは村人たちに頭を下げて、集落を後にした。
※※※※※
と、集落が見えなくなってから部下の一人が尋ねてきた。
「デラヴォロ卿。連中は嘘をついているのではありませんか?
我々は野宿の痕跡を探し、ここまで来たのです。
あの集落に立ち寄らぬはずが……。目撃証言くらいはあっても良いはずです。
ああいう連中はよそ者に敏感ですから」
「良い。
あの方々が行き先まで知っているとは思えないからな」
また別の部下が言う。
「デラヴォロ卿。
そろそろサンフェノ卿に遣いをやった方がよろしいのでありませんか」
「もっと明確な足取りを掴めてからで良い」
「しかしそれでは……」
エリキュスは部下を睨み付けた。
「良いと私が判断しているんだ。
そんなことよりも足を稼ぎたい。
あそこに寄ったとなれば、連中の足取りも多少は遅くなっているはずだからな。
急げば追いつくだろう」
エリキュスは早足で山道を踏みしめる。
デイランたちは村長や村人たちを、野盗のねぐらへ連れていった。
そこかしこで賊達が屍《しかばね》をさらしていた。
村長は声を漏らす。
「こいつは、すごい……」
デイランは先を行く。
「本当に見せたいのはこれだ」
そうして洞窟の中へ歩き出せば、そこにあるものを示す。
そこには山賊たちが使っていた甲冑や鎧帷子《くさりかたびら》、剣や、どこからか盗んできたのであろう物品が積まれている。
「ここにあるものを金にすれば、これまで奪われてきたものを取り戻すだけの金銭は十二分に工面できるはずだ」
村長は驚く。
「お前さん方は?」
「俺たちは、仲間を治療してくれただけでもありがたいからな」
村長や村人たちは、その場に跪《ひざま》くとデイランたちを崇《あが》め始める。
「おい、やめろっ」
「し、しかし」
「山の中じゃ手助けをするのが当たり前なんだろう。
俺達もその決まりに従っただけだ」
ロミオも同意する。
「そうです。我々は当然のことをしたまでです」
「なら、ごちそうを振る舞わせて欲しい」
デイランは首を横に振った。
「やめてくれ。
そんなことをする必要はない。
それに俺たちも先を急ぐ」
と、そこにマックスが「待って」と言う。
デイランが「おい」と止めようとするが、マックスは軽くなだめて、村長に言う。
「一つ良いかしら。
うちの仲間に塗った傷薬? あれ、少し分けてくれない?
それから作り方も教えて。
うちの人間は怪我をしやすいのが多いから」
「あんなもんでよろしいのか?」
「この村にはあんなものでも、私たちにとってはすっごく貴重なのよ」
「あんなもんで良ければ。では、材料の方も持っていてくれ」
「ありがとう。助かるわ」
村長は続いて、デイランたちよりも一歩引いた所にいる、リュルブレの元へ近づく。
「エルフ殿。
あなたに、村人全員で感謝をいたしたい」
「リュルブレだ」
「リュルブレ殿。ありがとう」
「いや、まあな……」
リュルブレは照れくさそうに微笑んだ。
「エルフというのも非常に素晴らしい種族であったと気づかされた……。
我々も認識を変えなければならん」
「是非、そうしてくれ」
そして去りゆく、デイランたちに、ヨータが最後に言う。
「旅の方々、本当にありがとうございます!
どうか、また機会がありましたら是非、来て下さい!
今度はもっとおいしいものを振る舞います」
デイランはうなずく。
「楽しみにしてるよ」
こうしてデイランたちは山の村を後にした。
※※※※※
それから数日後。
その村を、数人の男たちが訪ねた。
それを村人たちは怪訝《けげん》な顔で民家から見守る。
何しろ、野盗騒ぎがあった直後なのだ。
デイランたちのような善良な旅人もいるが、全ての人間がそうだと思うほど、村人たちは世間知らずではない。
しんと静まり帰った集落に、その男たちの中でも、最も若い旅装姿の青年が呼びかける。
その青年は燃えるような赤い髪に、宝石のように緑色の瞳を持っている。
声を聞かなければ、男であると分からなかったほどだ。
「我々は怪しい者ではありません。
我々は神星教団の星騎士団のものですっ!
私は、エリキュス・ド・デラヴォロと言いますっ!
誰かいらっしゃいませんかっ!」
村長が恐る恐るという風に、エリキュスたちの前に現れる。
それを皮切りに村人たちも一人、また一人と姿を見せた。
村長は言う。
「何かな?」
エリキュスと名乗った赤髪の男が頭を下げる。
「訪ねたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「何じゃ?」
「この辺りに、人が訪ねてきませんでしたか?
若い男と女の……」
「知らんな」
エリキュスは村人たちに目をやる。
「誰でも良いんです。何か覚えがあれば。
情報を頂ければ、相応の報酬は用意がございます」
エリキュスは腰に下げた銀の入った袋を見せるが、反応は鈍い。
村長が頭を下げる。
「……申し訳ない」
「いえ、心当たりがなければ、話せないのは道理なのですから」
エリキュスは村人たちに頭を下げて、集落を後にした。
※※※※※
と、集落が見えなくなってから部下の一人が尋ねてきた。
「デラヴォロ卿。連中は嘘をついているのではありませんか?
我々は野宿の痕跡を探し、ここまで来たのです。
あの集落に立ち寄らぬはずが……。目撃証言くらいはあっても良いはずです。
ああいう連中はよそ者に敏感ですから」
「良い。
あの方々が行き先まで知っているとは思えないからな」
また別の部下が言う。
「デラヴォロ卿。
そろそろサンフェノ卿に遣いをやった方がよろしいのでありませんか」
「もっと明確な足取りを掴めてからで良い」
「しかしそれでは……」
エリキュスは部下を睨み付けた。
「良いと私が判断しているんだ。
そんなことよりも足を稼ぎたい。
あそこに寄ったとなれば、連中の足取りも多少は遅くなっているはずだからな。
急げば追いつくだろう」
エリキュスは早足で山道を踏みしめる。
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