ゲイツラント大陸興国記~元ヤクザが転生し、底辺の身から成り上がって建国をする!

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第三部 王国動乱~逃避行編

第二十二話 エリキュスとの再会

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 村人同士の話しあいは夜通し行われた。
 結論が出るかどうかは、デイランたちには分からなかった。

 デイランたちは、フルーナの家に泊まることを許された。

 夜。
 デイランは星の輝く夜空を眺めながら、一人、外に佇《たたず》んでいた。

 気配がして、振り返ると、ロミオがいた。

「おいおい、一人で出歩くのは駄目だぞ。
マリオットは?」

 ロミオはくすりと微笑んだ。
「大イビキをかいて寝ていますよ」

「何て奴だ。
お前の方がしっかりしているな」

「……しっかり、ですか」

 ロミオの表情が翳《かげ》る。

「デイラン殿。
あの街で何を見たのか、教えて下さい」

「胸くそが悪い話だぞ」

「構いません。
実際に苦しんでいる人々に比べれば、気分が悪くなる程度のことなど……」

 デイランは街で見たことを話した。
 闇の中でも、ロミオの顔から血の気が引いているのが分かった。

「……私は何も見えていませんでした。
玉座にいた頃、王城の中さえ変えればどうにかなると思っていました。
でも……違いました。
多くの人々が、私が何もしないせいで苦しんでいる……。
そんな簡単なことに気づきませんでした。
王が力を取り戻し、力のある軍隊を作り上げる。
そうして帝国を打ち破る……。
それで大陸の平和は、王国は再び蘇るんだろうと、甘いことを考えていた自分が許せません」

「あんまり自分を責めるな。
ロミオはよくやっているさ。
少なくとも、お前は王であることを諦めてはいないし、
民の為の政《まつりごと》をやろうしている……だろ?」

「無論です」

 デイランはうなずく。
「どんな境遇にいたって、どんなにひどい現実にまみれようが、歩みさえ止めなければ、見えてくるものはある……そう思う」

 前世でも、今生《こんじょう》でも、デイランは泥を啜ってでも生きる覚悟だ。
 だからここまでこられた。

「それに、ロミオは良いもんを持ってる」

「良いもん……ですか?」

「王様とも思えない根性だ。
最初は、山歩きなんて無理ですって言われてどうしようかと思ったさ。
あんまり駄々をこねたら気絶して担《かつ》ぐつもりだったからな」

「また、デイラン殿。そのような冗談は……」

 真顔のデイランの、ロミオは「根性があって良かったです」と苦笑し、星空を見る。
「最初は辛かったですが、そんなこともすぐに気にならなくなりました。
ウサギやヘビも美味しかったですし。
宮廷に戻れたら、料理人に是非、頼みたい料理ですね」

 ロミオの冗談とも本気ともつかない言葉に、デイランは笑った。

「そんなに食いたきゃ、いくらでも食わせてやるさ」

「でもその前に、村の人々を助けなければいけませんね。
……村の人達は、立ち上がってくれるでしょうか?」

 デイランは肩をすくめた。
「さあな」

「もし、戦わないと言ったら?」

「ナフォールを目指す」

「では一部の人達だけが戦うと決めたら?」

「そいつらを連れてナフォールに行く。
もちろん、そいつらが了承すれば、の話だけどな」

「えっ」

「さすがに数人しか味方につかないんじゃ、な」

「どうにか出来ないんでしょうか」

「確かに民に心を砕くのは良い王様かもしれないけどな。
お前は王だ。
王には王にしか見えない景色がある。
細々したことは俺たちに任せてくれ」

「……そうですね。すみません」

「ロミオは新しい国の絵《えず》を描いてくれ」

「分かりました。
そろそろ戻ります。
デイラン殿は?」

「しばらくこうしてる」

「……では」

 ロミオは頭を下げ、家に戻っていった。

(さて。どうなるか、だな)

                    ※※※※※

 翌朝。デイランたちの元を訪れたザルックたちの表情は浮かないものだった。

「デイラン、すまんっ!
なかなかみんな、同意してくれなかった。
戦って負ければ、みんな殺される。でも命乞いをすれば……とな」

「命乞いが通じる相手か?」

「近くの村の星堂の司祭に頼みに行くらしい。
司祭を仲介して、フルーナを返せば、もしかしたら……とな」

「お前は、それで良いのか?」

「冗談じぇねえっ!
今はまだフルーナは子どもだ。だが、あと数年で女になる。
分かるだろ。あんなケダモノの目にとまったら、オモチャにされて殺される!」

「俺たちと一緒に逃げないか?
俺たちはナフォールに行くことになっている。
村が戦うことを決めれば協力するが……俺たちと逃げるのならば」

 ザルックはしばらく考えた後、ぽつりと呟く。
「どうかな。村の連中が許すかどうか」

「た、大変だ!」

 そこに、ザルックの仕事仲間たちが飛び込んできた。

「兵士がきたっ!」

 ザルックは身体を起こす。
「本当かっ!?」

「ああ、いや……。ヴェッキョ共の兵じゃなさそうだ。
格好もしっかりしてるし、それに数人だし。
髪が赤くて緑の目をした女が率いている……」

 デイランは男に聞く。
「確かかっ」

「あ、ああ」

 ザルックがデイランを見る。
「知り合いか?」

「俺達のことは内密に頼む」

「分かった」
 ザルックは仲間と共に走った。

                      ※※※※※

 エリキュスたちは見えてきた集落に、馬を加速させる。
 ルルカの場所を聞き、ようやく辿《たど》りついたのだった。
 村はまだ健在で、焼き討ちされた様子もない。
 間に合ったのだと胸を撫で下ろした。

 村からは何人もの男女が出てきた。
 その中でも、たくましい体躯をもち、右目が潰れた青年が前に出てくる。

 エリキュスは馬から下り、頭を下げる。
 部下たちも同様だった。

「なんだ、お前ら」

「突然、驚かせてしまい申し訳ありません。
我々は、星騎士団。
私はエリキュス・ド・ヴァラーノ」

「ああ! 星騎士団様っ!」
 村人たちは次々と跪《ひざまず》く。

 青年も相手が星騎士団だとは思いもしなかったのか、茫然《ぼうぜん》としたあと、慌てて跪《ひざまず》いた。

 しかしエリキュスは自ら片膝をつき、頭を上げさせた。
「おやめください。頭を下げられるなど。
我々はそのようなことをされる為に存在するのではありません」

 村の人々は口々に言う。
「星騎士団様、お助け下さいっ!」
「我々はこのままでは殺されてしまいますっ!」
「どうか、どうかぁっ……」

「ヴェッキョのこと、でしょうか?」

「さすがは騎士様!
このままでは村が襲われてしまいますっ!」
「変な連中が、ヴェッキョ様の元から、娘を連れ戻って来て……」

「変な連中?」

「俺たちのことだ」

 はっとして顔を上げれば、そこには紛《まぎ》れもなくデイランがいた。

「デイラン、お前っ!」
 エリキュスは腰の剣に手をかける。

 部下たちは次々と剣を抜く。

 すると、片眼の潰れた青年が前に飛び出し、両手を大きく広げた。
「やめろ! デイランに手を出すなら、俺を切れっ!」

 さらに、村人の間から女の子が飛び出し、青年の横に並んだ。
「やめて!
みんなをいじめないでっ!」

 部下が唸《うな》る。
「貴様らっ。我々を星騎士団と知っての……」

 エリキュスは部下を制止した。
「やめろっ!」

「で、ですが……」

「剣を収めろ。命令だっ」

 部下たちは困惑の表情で渋々、剣を収めた。

 デイランがゆっくりと近づいてくる。
 青年が何か声をかけたが、デイランは「大丈夫」と言って、近づいてくる。

 デイランはかすかに笑みを見せる。
「久しぶり、と言うべきか?」

「それはどうかな。
こんな形でまみえたくはなかったが」

「こんな形でなきゃ、俺はとっくに消し炭になってたさ

 エリキュスは話をそらす。
「こんな所に潜伏していたのか……」

「俺は無実だ。追われる謂《い》われはない」

「謂われがないだと。
アリエミール王を誘拐し、何人もの人間を殺《あや》めた」

「捕らえられた雇い主を助けただけだ。
だいたい襲いかかってくる相手に慈悲の心で許しをいちいち与えてやれと言うのか?
悪いが、俺は聖人君子じゃないんだ。
そもそも、あんなクソみたいな裁判で火あぶりにされたんじゃたまらん」

「……国王陛下はいずこに」

「そんなこと、言える訳がないだろう」

「ならば、力ずくで……」

「そんなことをしている場合か?」

「なんだと」

「この村は今にも滅ぼされそうというのに、
星騎士であるお前は見捨てるのか?
この州の主、ヴェッキョがここに兵を向ける。
連中は野盗のような連中で、村人を皆殺しにするつもりだ」

「……知っている。
私は、あの男が人々を処刑し、その出身の村を焼くと宣言したところを聞いた」

 すると、村人の中、女性たちが啜《すす》り泣きを上げた。

 エリキュスは自分がとんでもないことを口にしたことに思い至る。

 デイランは言う。
「それだけじゃない。
ここにいるザルックを始め、村の人々が、子どもの頃に強制労働を強いられ、身体を傷つけられ、最悪、死んでいる……。
そして」る村人連中は、俺たちが助けた、このザルックの妹、フルーナを再びヴェッキョの元へ返し、許しを乞うとしている」

 エリキュスは村人たちに目を向ける。
 村人たちはうつむく。

 村人の一人が何とか言う。
「フルーナさえ戻して、許しを乞えば、命ばかりは助けてもらえるかと」

 エリキュスは叫んでいた。
「お前たちはあの男のことを知らないのか!?
そんなことで、許すとでも思っているのか!?
いたいけな子どもを捧げて、命を長らえるなど……ありえんっ!」

「力を貸してくれ。ヴェッキョを何とかしたい。
ロミオのことは、晴れて、あの暴君を倒し仰せてからにしてくれないか?」

 エリキュスは村人たちを見、小さく息を漏らす。
「……分かった」

 エリキュスの部下が「デラヴォロ卿。よろしいのですか」と慌てる。

「なら、お前達は村人たちが殺されるのをただ黙っていろとでも言うのか?」

「し、しかし」

「あの男はどう考えてもやり過ぎている。あんな奴が司祭になるなど……。
それに神《アルス》の名を利用し、無辜《むこ》の人々を殺戮《さつりく》することこそ、異端ではないのか?
我々は信仰の自由と規律を守る為に存在している」

「一度、命を仰ぐべきでは?」

「中央が、あのケダモノを司祭に任命した……。
連中が大人しく、ヴェッキョを処罰すると思っているのかっ」

 部下達は一様に目を伏せてしまう。

「従いたくなければ、無理にとは言わない。
私一人ででも協力する」

 自分でもとんでもないことを口にしていることは分かっている。
 しかし罪のない人々が虐殺されるのを黙って見ているなどあり得ない。
 あってはならない。
 あの男を失脚させ、証拠を洗い出せば、自分のやったことはきっと教団は認めて下さるだろう。
 
(神《アルス》よ。私は正義に従います……)

 デイランはニヤッと不敵に微笑む。
「腹は決まったみたいだな」

「ヴェッキョを倒すどうこうの前に、間もなくやってくるだろう兵士どもを倒せる方策はあるのか?」

「俺に考えがある」

「……良いだろう」

 村人たちも、
「星騎士様が味方についてくださるっ!」
「やろう! ヴェッキョを倒せっ!」
「神《アルス》が遣いを使わして下さったのだ!」
 と声を上げて喜んだ。
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