ケーキなボクの冒険

墨汁らぼ

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海の王

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「・・!まちなさい!リーフ!」

マーリン王子は瞬時に状況を理解した。

「ごめんなさい、本当に無理なんです、ごめんなさい!」

リーフはイチカバチか、慌てて扉に入る。王子とリーフの距離はすぐそこ、逃げてもたちまち捕まってしまうだろう。

ガシッ

王子を後ろから誰かが掴む。王子が振り向くと、それは老兵士だった。

「お許しください、王子!あの娘を行かせてあげてください!」

「はなせ・・・!」

腰の悪い老兵士とは思えない力で王子を食い止める。

「おじいちゃん!そんなことをしたら・・・」躊躇するリーフ。

「大丈夫じゃよ!お嬢ちゃんのお菓子を食べてから、力がみなぎって体が軽いんじゃ・・・。
不思議なこともあるもんじゃ・・・。
今ならあきらめていたことも、何でもできそうな気がするよ。 
さあ、わしのことはいいから行きなさい!」


マーリン王子はやはり、リーフの不思議な力を確信した。


「ありがとう、おじいちゃん、ありがとう・・・」

リーフは急いで扉の中に入った。
四つん這いで行くしかないうえ、その通路は暗く古いので 思うように進めなかった。

「行くなリーフ!その道はすでに何十年も使っていない!危険なんだ!」

王子が叫ぶ。

「え?」

王子の声は通路によく響いてきた。と同時に、ゴゴゴ、と音がして周りの空間が揺れる。

その音は地下の牢屋にに閉じ込められている アーサーたちにも聞こえた。


「地震か?!」


秘密の通路は、城の海側の壁に付け加えられるように作っており、昔は敵兵に囲まれた時の脱出用になっていた。しかし今では古くなり土台がもろくなったので使っていなかったのだ。

リーフの足元がガラガラと崩れていく。

「えっ・・うそっ・・・・」

四つん這いのまま、前に後ろに逃げるがどんどん足場がなくなってきた。

かろうじて、レンガが欠けた隙間の一部指をかける。
もう足の下は海、落ちたら助からない高さで、助かったとしても荒くれた波に命を飲み込まれてしまうだろう。


「た・・・たすけて~」 逃げるつもりが絶体絶命のピンチとなった。

レンガを捕まえた手に力が入らない、そのレンガさえもグラグラと揺れている。

王子は急いで扉に向かったが、すでにリーフまでの通路は崩壊しており、手を伸ばすことも出来なかった。


あと数秒でリーフの周りは完全に崩れ落ちる。


マーリン王子は手のひらをリーフにかざし、呪文を唱え始めた。


その呪文が終わった直後、レンガとともにリーフが空中に浮く。

そして真っ逆さまに落ちた!

「うわあああーーー!」 と同時に、明るい光が王子の手のひらからリーフに流れた。

リーフは光の膜のようなものに包まれる。暖かいゼリーみたいな感触だった。

そのゼリーの膜は、城壁や岸壁、海面に打ち付けられたリーフの体を守ってくれる。

多少の衝撃はあるものの、海の中に落ちるまでリーフは無傷だった。

ゼリーの膜がなければリーフの体はぐちゃぐちゃに砕けてしまったであろう。



しかし海の中は安全ではなかった。
ほとんど泳げないリーフが、荒れた海の中に投げ出されたのだ。
ゼリーは水に触れると解けてしまった。

荒れ狂う波、浮いているのか流されているのか、リーフの頭は海面に現れたり沈んだりした。声も出せないほど塩水を飲む。



マーリン王子はさらに呪文を唱える。海に向かって叫ぶように、しかし決して人の「言葉」ではない。



ほとんど力尽きたリーフが海中に飲み込まれそうになったとき、海の中に巨大な人影を見た。

白い肌、蒼い髪、黒い瞳のたくましい男・・・・しかし、体の下半分は魚の形をしている。5メートルはあるだろうか。

「人魚・・・?」



そのまま気を失ったリーフは、その人魚に優しく抱きかかえられた。

男が目を閉じると、あれほど荒れ狂っていた波がみるみるうちに収まっていく。



男は海面に顔を出した。

リーフを抱いて砂浜から海をでると、魚だった下半身が人間の足に変わり、身長も2メートルほどになった。



男が歩いた先にマーリンが来ていた。

「この者は無事だ、兄弟よ。同じ母より生まれ同じ父の言葉を持つ兄弟よ。
願いはかなえた」男はそういった。


マーリンの一族は妖精の末裔であり、人魚もまた、遠い昔の祖先は妖精だったのだ。



マーリンは呪文で、同じ血を持つ人魚に助けを求めた。



「この恩は、いつか必ず返そう。未来永劫、そなたたちとの友情を子孫に語り継ごう」


マーリンは気を失っているリーフを男から受け取った。
男はまた人魚になり、海へきえていった・・・。


マーリン王子はかけ寄ってきたスカーレットを確認した後、白い砂浜に、抱えたリーフを守るようにして倒れこんだ。

「王子!」

急いでスカーレットが王子の体を起こす。
王子の意識はなかった。

まるで死んでしまったように・・・・。
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