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第5話 『サクラ散る』
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「はぁ~~~……金が欲しいぞッッッ……」
「そう言っても稼げないのであれば仕方あるまい……」
アンファンスの街にある飯屋で、昼であるにも関わらずお通夜モードの真千代とコフィンが机に突っ伏していた。
片やモンスターを覇気で消滅させてしまう化物。
片や魔力こそ凄いが、低級魔法しか使えない上に詠唱を欠かさないおかげでテンポも悪い馬鹿者。
どちらも、この世界における資金稼ぎでは全く役に立たない人材だった。
「おいおい……元気出せよ二人とも……」
ユウイチが、人数分のドリンクを2人のいるテーブルに持ってきた。
続いてギルドのウエイターも、人数分の定食を持ってきて、真千代達の机に置いた。
「なっ……! ユウイチ、これは……」
「一文無しはアレだからな……遠慮なく食べていいよ」
「ゆ、ユウイチッッッ!!! 俺は心の底から貴様を尊敬するッッッ!!!」
感極まって滝の如く涙を流しながら、真千代はユウイチの手を握り振り回す。
「うぅ……こんなに優しくされたの3日ぶり……」
(割と最近……)
コフィンも涙を流しながら喜んで定食を食べている。
「しかしいつまでもユウイチの世話になっているわけにはいかんッッッッッッ……なんとかして金を稼がねば……」
皿ごと一口で平らげ、真千代が腕を組み策を思案する。
むしろこの力を芸にして食っていけばいいのではないか。
「…………閃いたッッッッッッ!!!!」
大気を蹂躙する大声をあげ、真千代が机を叩く。
バキバキバキ。案の定砕けた。
「ちょっ! 真千代! まだ食っている途中なのに破壊するでない!」
「食い終わってもダメだろ」
「俺にいい考えがあるッッッ……これさえあれば億万長者間違いなしだッッッ!!!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数多の駆け出し冒険者が集う街、アンファンスの正午。
常に人々で賑わうこの時刻は、いつもより数段騒がしかった。
広場の真ん中で、巨大な漢--真千代が、仁王立ちしている。
その横にはコフィンが、何やら文字の書かれた看板を持って立っている。
その看板には--
『挑戦者求むッッッ!!! 横の筋肉魔人に勝てたら100万ゴールッッッ!!! 参加料金1万ゴール』
「よく日本製の漫画であるタイプの文章が書かれていた。
「おい見ろよアレ……100万ゴールだってよ……」
「どうする、お前やってみろよ……」
「えぇ~……でもあの筋肉だぜ、絶対怪物だよあんなの……」
街人達が、ザワザワと騒ぎ立てる。
100万ゴール……日本円にして100万円の大金とはいえ、やはり真千代の威圧には勝てる気がしないらしい。
「はいはいはーい!! 俺やりまーす!!」
バッ、と群衆の中から1人が手を挙げる。
瞬間、騒ぎはより大きくなった。何故ならその人物は--
「おい嘘だろ……! 『龍殺しのユウイチ』じゃねぇか……!」
「あ、あんなのに挑むのか……!」
そう、手を挙げたのはかの有名な剣士--『龍殺しのユウイチ』だったのだ。
ユウイチが『聖剣コールブランド』を抜き、広場の中央へと向かう。
(作戦通りにやれよ、真千代……!)
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いや無理だろ」
時は1時間前に遡る。
真千代が提案したのは、真千代に勝てたら100万ゴール』作戦だった。
ユウイチからすれば、なんともアホな作戦でしかなかったのだ。
「何故いかんのだッッッ!? 利口に過ぎると思うがッッッ!?」
「こういうのは普通小柄なやつがやるから効果があるんだよ……自分の姿、鏡で見てこいよ……」
そう。
漫画とかでよく見かけるこの作戦は、小柄な主人公だから成り立つのだ。
『あ、こいつなら勝てそうだな』と思わせて、挑戦を誘うところからが重要なのである。
しかし、真千代は違う。
こんな筋肉の権化を、普通相手にしたいだろうか。いや、したくない。死んでも。
「覇ッ覇ッ覇、その点はすでに万全なのだ……ユウイチ、お前がまず俺に挑めッッッ」
「死ねと?」
「最後まで聞けッッッ、まずお前が挑戦して、速攻で一撃で俺を倒すのだッッッ。 しかしお前は金を受け取らずに帰る……それでどうだッッッ」
真千代が提案したのは、所謂『サクラ』。販売を盛り上げたりする囮みたいなものだ。
「なるほど……けど、それは俺にメリット無いんじゃ……」
しかし、この話、ユウイチに全くメリットが無い。
一撃与えても金が貰えないのならば、協力する価値がどこにもない。万が一、間違って『羅ッッッッッッ』でもされてしまえば粉微塵になること請け合いである。
サクラをして散ってしまうなど、洒落にならない話である。
「ぬ、ぬぅなるほどッッッ……そこまで考えていなかった……」
「クックック……」
不意に、横にいたコフィンが笑い出す。
何か思いついたようだ、ドヤ顔をしている。 ウザいことこの上無かった。
「少しは頭を使え凡愚ども……ユウイチ、よく考えろ。 貴様にもメリットはあるのではないか?」
「メリット……?どこに……」
「貴様が勝ったにも関わらず、金を受け取らず帰る……果たして大衆は、この行為にどんな印象を持つだろうなぁ?」
「…………!」
「『なんて無欲な人なのかしら……!』 『素敵!結婚したい!』……そうなればこの街の人間からは印象マシマシイメージアップ、そしてゆくゆくは大ハーレム!!!」
「お、ぉぉ……!」
コフィンの言葉に、ユウイチが震える。色々あってすっかり忘れていたが、ユウイチの行動理念は『金と名誉のため』。
ここで聖人的アピールをすれば、かなりのイメージアップにも繋がる。
まさにこの話は、ユウイチにとってドンピシャだった。
「ぬぅッッッなるほど……しかしそれはそれで力を示すためだけに挑んだイヤな奴みたいに…」
「真千代、引き受けるよ」
「ぬぉぉッッッ!? マジかぁぁぁッッッ!?」
「ああ、僕に協力させてくれ!」
こうして、利害の一致により、ユウイチは真千代に協力することになった。
……この男も、棚にあげてはいるが、割とバカなのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、今に至る。
「ほうッッッ……骨のありそうな男が来たではないか……!」
「ふふ、さぁてご期待に添えられるかどうか……」
ユウイチが真千代に1万ゴールを渡し、一定の距離をとって両者構える。
「お、おいこれどうなるんだ……」
「あの『龍殺しのユウイチ』だぜ、まさか負けるわけがねぇよ……」
(さぁうまくやれよ真千代……!)
「それでは、始めっ!!」
(さらなる名誉!! さらなる美少女!! 俺はまた一歩理想に近づ……)
コフィンの合図と共に、ユウイチが剣を構え真千代に飛びかかる--!!
「羅ァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
「ごばっはぁぁぁぁ!!!!!!」
--大衆が、静まり返った。
ドザザザザァ。
消し飛びはしなかったものの、真千代の放った気合いでユウイチが激しく吹っ飛ぶ。ユウイチは泡を吹いて倒れ、ビクンビクンしている。
吹っ飛ばした本人--真千代は『やっちまった』的な顔をしており、コフィンも顔を手で抑え『あちゃ~…』みたいな顔をしている。
「お、おい……負けちまったぞ……」
「あ、あいつバケモンだ…!かないっこねぇって……」
「帰ろ帰ろ……」
群がっていた群衆は散っていき、やがて広場には真千代、コフィン、ユウイチの3人しか居なくなった。
「……す、すまんユウイチ……いつもの癖でッッッ……」
「まぁその……無様だな! 」
アホ2人に声をかけられ、ユウイチは薄れゆく意識の中で、思いっきり真千代を呪った。
『死ね』と。
絶対に口に出せない、その言葉で。
「そう言っても稼げないのであれば仕方あるまい……」
アンファンスの街にある飯屋で、昼であるにも関わらずお通夜モードの真千代とコフィンが机に突っ伏していた。
片やモンスターを覇気で消滅させてしまう化物。
片や魔力こそ凄いが、低級魔法しか使えない上に詠唱を欠かさないおかげでテンポも悪い馬鹿者。
どちらも、この世界における資金稼ぎでは全く役に立たない人材だった。
「おいおい……元気出せよ二人とも……」
ユウイチが、人数分のドリンクを2人のいるテーブルに持ってきた。
続いてギルドのウエイターも、人数分の定食を持ってきて、真千代達の机に置いた。
「なっ……! ユウイチ、これは……」
「一文無しはアレだからな……遠慮なく食べていいよ」
「ゆ、ユウイチッッッ!!! 俺は心の底から貴様を尊敬するッッッ!!!」
感極まって滝の如く涙を流しながら、真千代はユウイチの手を握り振り回す。
「うぅ……こんなに優しくされたの3日ぶり……」
(割と最近……)
コフィンも涙を流しながら喜んで定食を食べている。
「しかしいつまでもユウイチの世話になっているわけにはいかんッッッッッッ……なんとかして金を稼がねば……」
皿ごと一口で平らげ、真千代が腕を組み策を思案する。
むしろこの力を芸にして食っていけばいいのではないか。
「…………閃いたッッッッッッ!!!!」
大気を蹂躙する大声をあげ、真千代が机を叩く。
バキバキバキ。案の定砕けた。
「ちょっ! 真千代! まだ食っている途中なのに破壊するでない!」
「食い終わってもダメだろ」
「俺にいい考えがあるッッッ……これさえあれば億万長者間違いなしだッッッ!!!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数多の駆け出し冒険者が集う街、アンファンスの正午。
常に人々で賑わうこの時刻は、いつもより数段騒がしかった。
広場の真ん中で、巨大な漢--真千代が、仁王立ちしている。
その横にはコフィンが、何やら文字の書かれた看板を持って立っている。
その看板には--
『挑戦者求むッッッ!!! 横の筋肉魔人に勝てたら100万ゴールッッッ!!! 参加料金1万ゴール』
「よく日本製の漫画であるタイプの文章が書かれていた。
「おい見ろよアレ……100万ゴールだってよ……」
「どうする、お前やってみろよ……」
「えぇ~……でもあの筋肉だぜ、絶対怪物だよあんなの……」
街人達が、ザワザワと騒ぎ立てる。
100万ゴール……日本円にして100万円の大金とはいえ、やはり真千代の威圧には勝てる気がしないらしい。
「はいはいはーい!! 俺やりまーす!!」
バッ、と群衆の中から1人が手を挙げる。
瞬間、騒ぎはより大きくなった。何故ならその人物は--
「おい嘘だろ……! 『龍殺しのユウイチ』じゃねぇか……!」
「あ、あんなのに挑むのか……!」
そう、手を挙げたのはかの有名な剣士--『龍殺しのユウイチ』だったのだ。
ユウイチが『聖剣コールブランド』を抜き、広場の中央へと向かう。
(作戦通りにやれよ、真千代……!)
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いや無理だろ」
時は1時間前に遡る。
真千代が提案したのは、真千代に勝てたら100万ゴール』作戦だった。
ユウイチからすれば、なんともアホな作戦でしかなかったのだ。
「何故いかんのだッッッ!? 利口に過ぎると思うがッッッ!?」
「こういうのは普通小柄なやつがやるから効果があるんだよ……自分の姿、鏡で見てこいよ……」
そう。
漫画とかでよく見かけるこの作戦は、小柄な主人公だから成り立つのだ。
『あ、こいつなら勝てそうだな』と思わせて、挑戦を誘うところからが重要なのである。
しかし、真千代は違う。
こんな筋肉の権化を、普通相手にしたいだろうか。いや、したくない。死んでも。
「覇ッ覇ッ覇、その点はすでに万全なのだ……ユウイチ、お前がまず俺に挑めッッッ」
「死ねと?」
「最後まで聞けッッッ、まずお前が挑戦して、速攻で一撃で俺を倒すのだッッッ。 しかしお前は金を受け取らずに帰る……それでどうだッッッ」
真千代が提案したのは、所謂『サクラ』。販売を盛り上げたりする囮みたいなものだ。
「なるほど……けど、それは俺にメリット無いんじゃ……」
しかし、この話、ユウイチに全くメリットが無い。
一撃与えても金が貰えないのならば、協力する価値がどこにもない。万が一、間違って『羅ッッッッッッ』でもされてしまえば粉微塵になること請け合いである。
サクラをして散ってしまうなど、洒落にならない話である。
「ぬ、ぬぅなるほどッッッ……そこまで考えていなかった……」
「クックック……」
不意に、横にいたコフィンが笑い出す。
何か思いついたようだ、ドヤ顔をしている。 ウザいことこの上無かった。
「少しは頭を使え凡愚ども……ユウイチ、よく考えろ。 貴様にもメリットはあるのではないか?」
「メリット……?どこに……」
「貴様が勝ったにも関わらず、金を受け取らず帰る……果たして大衆は、この行為にどんな印象を持つだろうなぁ?」
「…………!」
「『なんて無欲な人なのかしら……!』 『素敵!結婚したい!』……そうなればこの街の人間からは印象マシマシイメージアップ、そしてゆくゆくは大ハーレム!!!」
「お、ぉぉ……!」
コフィンの言葉に、ユウイチが震える。色々あってすっかり忘れていたが、ユウイチの行動理念は『金と名誉のため』。
ここで聖人的アピールをすれば、かなりのイメージアップにも繋がる。
まさにこの話は、ユウイチにとってドンピシャだった。
「ぬぅッッッなるほど……しかしそれはそれで力を示すためだけに挑んだイヤな奴みたいに…」
「真千代、引き受けるよ」
「ぬぉぉッッッ!? マジかぁぁぁッッッ!?」
「ああ、僕に協力させてくれ!」
こうして、利害の一致により、ユウイチは真千代に協力することになった。
……この男も、棚にあげてはいるが、割とバカなのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、今に至る。
「ほうッッッ……骨のありそうな男が来たではないか……!」
「ふふ、さぁてご期待に添えられるかどうか……」
ユウイチが真千代に1万ゴールを渡し、一定の距離をとって両者構える。
「お、おいこれどうなるんだ……」
「あの『龍殺しのユウイチ』だぜ、まさか負けるわけがねぇよ……」
(さぁうまくやれよ真千代……!)
「それでは、始めっ!!」
(さらなる名誉!! さらなる美少女!! 俺はまた一歩理想に近づ……)
コフィンの合図と共に、ユウイチが剣を構え真千代に飛びかかる--!!
「羅ァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
「ごばっはぁぁぁぁ!!!!!!」
--大衆が、静まり返った。
ドザザザザァ。
消し飛びはしなかったものの、真千代の放った気合いでユウイチが激しく吹っ飛ぶ。ユウイチは泡を吹いて倒れ、ビクンビクンしている。
吹っ飛ばした本人--真千代は『やっちまった』的な顔をしており、コフィンも顔を手で抑え『あちゃ~…』みたいな顔をしている。
「お、おい……負けちまったぞ……」
「あ、あいつバケモンだ…!かないっこねぇって……」
「帰ろ帰ろ……」
群がっていた群衆は散っていき、やがて広場には真千代、コフィン、ユウイチの3人しか居なくなった。
「……す、すまんユウイチ……いつもの癖でッッッ……」
「まぁその……無様だな! 」
アホ2人に声をかけられ、ユウイチは薄れゆく意識の中で、思いっきり真千代を呪った。
『死ね』と。
絶対に口に出せない、その言葉で。
応援ありがとうございます!
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ふむ。最強の拳と最強の鎧(大胸筋)が激突したら拳が勝つのですね。主人公さんはやや攻撃力に偏ったパラメータ構成のようだ。
何という筋肉だ(;・`д・́)ゴクリ…
というか表紙絵の縮尺がおかしいw