最愛の敵

ルテラ

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エウダイモニア

58話 憎しみ

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 自分の心には靄がかかっている。その靄は悪い靄だ。放っておけば溢れてしまえばそれは全身を蝕み、周りを巻き込むだろう。
 しかしそれを消し去ることは今の自分にはできなかった。
「行くぞ」
『了解』
 自分らは領主の屋敷へと向かう。

「来たね」
 領主の屋敷の右側に行くとそこにはライがいた。
「ストゥルティは行ったよ。奴らはここの地下を拠点としている。領主様は2階のバルコニーがある所の部屋で休んでるよ。一様、一階から侵入できる様に窓開けておいたよ」
 と窓を開ける。
「レオ、アイシャ、お前達はここから頼む。扉の前まで来たら連絡してくれ」
「了解」
 レオさん、アイシャさんは音もなく窓から入る。
「じゃあ、俺達は行くね」
「ああ」
 ライ、『影』はその場を後にした。
 数分後、ラズリさんとフィールさんが頷き合う。
「着いた様だ。行くぞ」
 自分は銃に触れる。フィールさんは自分の腰に手を回すと飛び2階のバルコニーに到着する。
「(相変わらず、すごいな)」
 自分は2階から下を見る。
「3、2、1、行くぞ」
 ラズリさんの合図と共にラズリさんはバルコニーのドアを破壊、廊下側のドアをレオさんが破壊する。
 領主はバスローブ姿でいた。突然の訪問者に慌てふためく。
「な、なんだお前達!」
「皇命により貴様を逮捕する」
「な、何!?」
「捕えろ」
 ラズリさんがそう言うとアイシャさんが風で拘束する。
「こ、こんなことが許されると思うのか!」
「皇命だから許されるんだよ」
 フィールさんが領主を気絶させる。
「地下へ行く」
「(え?まだ村には行かないのか?)」
 自分に戸惑いと焦りが現れる。それを落ち着かせるように銃に触れる。
「トート行くぞ」
 フィールさんに声をかけられ我に返る。
「はい」
 自分らは屋敷にいる人達を見つけてはダイニングと思われる所へと誘導(ほぼ脅す)した。
「あ、あなた方はパイロン?」
 綺麗な服を身に纏った女性が言う。恐らく領主の奥さんだろう。
「ご安心下さい。ここにいさえすれば危害は加えません」
 レオさんが落ち着かせるように言う。
「一通り見てきたよ。もう大丈夫みたい」
 アイシャさんがラズリさんに報告すると、ラズリさんは持っていたアーティファクトを取り出しレオさんに渡す。レオさんはそれを受け取り「解放」と言う。
 するとアーティファクトが浮き、部屋の中心へといき、光る。光ると薄い膜が半円を描くようにして集めた人達を覆う。
「ことが済み次第、解放する」
 そう言い部屋を後にする。
「地下へ行くぞ」
 地下には何人か残っていたがフィールさんが先に来ており拘束されていた。
「これで最後っと」
「調べたいのは山々だが・・・」
「急ぎましょう」
 ようやく村へ向かう。自分は出てきそうになる黒い何かを、必死に抑えた。今それを出せば大変なことになると分かっていたから。
 自分はその想いを隠しながら4人の後に着いていく。
 
 村の近くまでくると自分は絶望のようなものに駆られる。
 自分らが行く村の方面は深夜の筈なのに、夕日が落ちかけているかのように赤々としていた。
 この感情はなんと言うのだろうか?自分はこの感情をなんと呼ぶのだろうか。
 村は無惨に焼け野原となっていた。
 ドクン ドクン
 
『盗賊ごと叩くのが一番だが街に被害が出る可能性がある。盗賊が出払っている隙にそちらを叩く』
『了解』

 ああ、自分はなぜあの時、言わなかったんだ。  
 周りにも聴こえているのではないかと思うほど心臓が鳴る。気づいた時には自分はラズリさんの背中に馬乗りしラズリさんの胸ぐらを掴みこちらに向ける。
「なんで!ふざけるな!なんで見捨てた!!」
 違う分かってるラズリさんが悪い訳じゃない。あの時異議を唱えなかった自分が悪い。でも、でも
「強いんだろ!助けてよ!なんで強いのに、その力を使わない。ふざけるな。あなたが思っているほど命ってのは軽くないぞ」

『家族も所詮他人だ。仲間だけは恨むなそれだけできればいい』

 ごめんなさい。あなたが言ったことを破りました。そうかこれが憎しみなんだ。救えなかったことを他人のせいにする。ああ、なんて自分は醜いんだろう。
 情けない。情け・・・。
「トート、僕だ」
 ラズリさんの声ではないのに気づき自分はラズリさんを目を大きくして見る。
「トート、離せ」
 前を向くとラズリさんがいた。自分が胸ぐらを掴んでいるラズリさんとそこに立っているラズリさんを交互に見る。
「順を追って話します。まずはライから離れて下さい」
 やってしまった。っと言う顔でレオさんが言う。
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