最愛の敵

ルテラ

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エウダイモニア

60話 両親

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「・・・父さん・・・」
「やあ、トート久しぶり」
 紳士そうな人と傘をさした婦人がこちらにくる。婦人はお腹が膨れている。妊娠中のようだ。トートは恐ろしいものでも見たかのように動かないでいる。
 サッ
 トートは我に返る。トートの異変に気づき、全員でトートを背中で隠す。
「どちら様でしょう?」
 先頭にいるレオが聴く。
「これはこれはかの有名なパイロン様御一行にお会いできて光栄です。私はフェルナンデス家当主セト・フェルナンデス公爵です」
 令色の様な顔をし、品定めする様につま先から頭のテッペンまで見る。
「同じく妻のネフティス・フェルナンデスです」
 傘を畳お辞儀をする。
「トート君のご両親でしょうか?」
 レオが疑った目で両親を見た後トートを見る。トートはラズリの後ろに隠れ、震えている。
「ええ、そうです。トート久しぶりだね。お前は会うのが初めてだね。妻だよ」
「お久しぶりです・・・」
 トートは目を背ける。
「ト・・・」
「すまないが予定がある」
 ラズリがネフティスの言葉を遮り言う。
「行くぞ」
 ラズリはトートの手首を掴み、その場を去る。
「ラ、ラズリさん」
「・・・」
 トートは後ろを見る。そこには先程の優しい顔していたセトはおらず冷たい殺伐とした目をしたセトがいた。

「おかえ・・・」
「すまないがリビングに誰も入れないでくれ」
 メイド長と執事長の言葉を遮り指示を出す。
 トートを1人椅子に座らせる。 
 ラズリは一拍置き。
「トートあれらは親か?」
「・・・はい」
 全員が天井を向く。しかしラズリだけはトートを見ていた。しばらくしてラズリは立ち上がる。
「ラズリ?」
 全員が呼ぶも何も言わずにどこかへ行く。その後を全員が追いかける。
「トート様。少しよろしいでしょうか?」
 トートも追いかけようとするが扉の方で執事長がトートの行くてを阻む。
「え?あ・・・」
「ラズリ様より後をたわまっております」
 その言葉に心が少し軽くなる。
 
 執事がお茶を淹れる。
「ありがとうございます・・・」
 俯いたまま言う。
「アシーちゃんは?」
「ローンメドが見ております」
「そうですか」
 トートは何か話そうとするが言葉が見つからず黙り続ける。
「私たちは子宝に恵まれませんでした」
 トートは驚き執事長を見る。執事長はニコリとする。
「しかし妻と結婚したことは後悔しておりません。我々ずっと子宝に恵まれないとそう思っておりました。しかしパイロンのお方達が来てくれた。もう孫と言っても差し支えない程歳は離れていますが嬉しかった。皇帝陛下から彼らの世話をするように言われた時は。主人と世話役ではありましたが、それでも彼らがここで過ごしている時が何よりの幸せでした。これ以上の幸せはない、そう思っておりました。しかし違った。彼らはまた2つの幸せをくれた」
「幸せ・・・」
 執事長は頷く。
「トート様とアタナシア様です」
「え?」
「お二人が来てくれたことで更に明るくなりました。トート様」
「はい?」
「辛いのなら辛いと言っていいのですよ。彼らはきっと、手を差し出してくれるでしょう。助けたいと思っているでしょう」
「でも・・・」
「あの方達は今もそう行動しているでしょう」
 トートは自身の前に出て来て庇ってくれた全員を、手を引っ張ってくれたラズリを思い出す。優しく温かい手。

「お、お待ち・・・」
 バン
 ラズリは皇帝の元へ訪れる。
「ぶ、無礼・・・」
「全員下がれ」
 家臣達が皇帝を見る。
「下がれ」
 皇帝が睨めつける。

「どうした?」
 皇帝は全員が去った後問う。
「ライ」
 ラズリはいないはずのライを呼ぶ。
「なんでしょう・・・」
 柱の影から気まずそうな顔したライが現れる。
「知ってたんですか?」
 セリアがラズリの肩を掴みレオが代わりに聞く。
「我が内緒にする様に頼んだんだ」
「なぜ?」
 フィールが不機嫌そうに皇帝に問う。
「公爵は皇族の分家にあたるからな。簡単に素性を明かすわけにはいかないのだ。だから軍の情報も操作しライにも言わぬ様にと・・・」
「そこはどうでもいい」
 ラズリの言葉にその場に全員が驚く。
「問題なのはあいつが震えていたことだ。話せあいつのことを」
「それは我に聞くのではなくトート自身に聞くべきだ」
「あの、トート君の両親はトート君ではなく皇帝に会いに来たんですよね?」
 セリアが問う。
「そうだ。公爵家はトートを正式な嫡男とし結婚候補として名乗りを挙げるとのことだ」
「結婚ってあんたの娘とか?」
「そうだ」
 皇帝には5歳になる娘がいる。
「戻るぞ」
 ラズリはそう言い帰る。
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