最愛の敵

ルテラ

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エウダイモニア

68話 哀傷

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 トート、アタナシアナが寝静まった後、皇城へと向かう。本城ではなくどこの宮からも離れた塔。ここは貴族の罪人を収容する場所『貴族塔』と言われている。しかしパイロンと手を組んでからはパイロンっと関わりのある者もここに収容されている。
「来たね」
 ライがいた。
 今日は珍しく全員が仮面をつけている。
「じゃあ行くか」
 貴族塔は普通の牢とは違い安い宿のような感じの所だ。他の罪人達から見れば天国の様な場所だが貴族にとっては屈辱以外の何者でもない。
 彼らがここへ向かった理由。それはセト元公爵に会うためだ。
 トントを逮捕したパイロンには疑問があった。トントの序列は男爵だ。オムニブスが近づくとは思えないし、あのアーティファクトを手に入れられたとは思えない。ライ達に調べされた結果、フェルナンデス家が浮上したトントの家はフェルナンデス家の配下であったため目を付けていた。だがこれ程速く会うことになるとは夢にも思わなかった。
 セトは地下にある取り調べ室で椅子に縛られている。
「セト、お前に問う。これは何だ?」
 セトがいる牢へと訪れていた。セトは椅子に縛りつける。尋問はレオがする。ラズリは壁によりかかり見守る。
 ライがある一枚の紙をセトの前に差し出す。それは子供の人身売買の詳細が書かれていたものだった。何故それに目をつけたのか。
「他のものは通常の紙なのに、これだけ魔力紙が使われていたのは何故だ?」
 魔力紙とは魔力の宿った特別なインクで描くことしかできない紙で魔力紙に字を書いたのち自身の魔力を流すことで書いた言葉を隠すことが出来たり、その上から通常のインクで書くことで別の文章に偽装出来る優れものだ。
「知らない」
 レオはラズリの方に向く。ラズリは頷く。
 レオは公爵の指を砕く。
「ぎゃあああぁぁ」
 公爵が地団駄を踏む。フィールがセトの髪を掴み顔を上げる。
「な、何をする!!」
 声は震え、体から冷や汗が噴き出る。
「まだ状況が分かっていないんだな。お前に黙秘権なんてねぇんだよ。質問に答えろ」
 フィールは冷ややかな目でセトを見下し雑に頭を離す。
「ぐっ・・・」
 セトは少し考えた後、話す。
「ある日、突然『黒マント』をした奴が現れ『子供をこちらに優遇して下さい』っと、いい魔法持ちなら通常の3倍。いい魔法、魔力も高ければ5倍だ。しかもアーティファクトも融通してくれると言う。断る理由がない」
「そいつらの正体は?」
「知らない」
 レオはまた指を砕こうとする。
「し、知らない!本当・・・あっ!」セトが何かを思い出す。
「そいつの手首にタトゥーがあった」
「どんな?」
「星の真ん中に三角形が描かれていた。それ以外何も分からない。本当だ!!」
 全員が頷く。
「もういい、分かった」
 その場を後にする。

 翌日、パイロンは皇帝の元を訪れた。
「誠か」
「はい、無駄だとは思いますが子供達の足取りを調査します」
「分かった」
 皇帝はライの方を向いた後ラズリの方を向く。
「ラズリ、頼んだ件だがどうなった?」
「受け入れは決まった。1週間後に移動だ」
「分かった。ストゥルティは?」
「そっちも問題ない」
「そうか」
 皇帝は天井を眺める。
「何にせよ問題は全て解決か」
 安堵したように言う。
 皇帝が頼んだ2つの依頼。1つはストゥルティの討伐。2つ目はアデリア帝国の生き残りを引き受けるというものだ。
 それと、ライが話しを切り出す。
「都市にいた者達の行方ですが掴めませんでした」
 やはりっといった空気が流れる。
「仕方ありません。切り替えて行きましょう」
 パイロンが閲覧室を後にする。ラズリはこの後のことを考えたいとのことで先に行く。
 ねぇ、っとライが話しかける。
「どうした?ライ」
「トートのことだけど僕にまかしてくれない?」
 全員が不安そうな顔する。
「ラズリに任せられたんだ。タイミングは僕に任せるって」
「そうか。分かった任せるよ」
 ありがとう、っと言った後ライが目線を少し下にする。
 ライと3人は別れる。
「ライ」
 ライは振り向くとレオがいた。後を追いかけてきた様だ。
「兄さん、どうしたの?」
「ラズリに何を言われた」
「何のこと?」
 兄の余りにも真剣な目に負け、ライは悲しそうな諦めた様な顔する。
「バレちゃった?」
 レオは悲しそうな目で見る。
「ごめん言いたくない。今は言えない」
 レオは肩をすくめ、ライを優しく包み込む。分かった、と端的に答える。
 本当は言いたかった。でも言えばきっと苦しんでしまうから。いつかは傷とくと分かっているなら後でもいいよね。


 
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