最愛の敵

ルテラ

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エウダイモニア

73話 帝国議会

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 生きている者の特権は大切な人をいつでも思い出し忘れることができること
 死んだ人の特権は何も感じなくなること


 本番当日、パイロンが帝国議会に初めて参加すること、そして新メンバーの紹介がされるため、都市は今までに類を見ない賑わいを見せた。
「すごいですね」
 皇城の窓から見下ろす。
 自分らは白を基調とした制服に身を包んでいた。身だしなみはローンメドさんが整えてくれた。
コンコンコン
 っとノックされたので自分らは仮面をつける。
「皇后様がお見えです」
 ヤーセさんが一礼して言う。
「通して下さい」
 レオさんがそう言うとセーヤさんは扉をさらに開ける。
「皇后陛下に祝福を、お会い出来光栄です」
 レオさんが代表して言う。
「堅苦しいのはよして下さい。陛下の無理なお願いをお聞きくれたこと感謝します」
 片手でドレスをつまみ、もう片方を胸に当て一礼する。
「頭をお上げ下さい。我々も帝議には一度出たかったので嬉しいです(嘘)」
「そうでしたか。陛下、夫をお願いします」
 一礼する。
 全員が目線を配らせ
『了解です』
 っと言う。

 自分ら3日間のスケジュールはこうだ。1日目は帝議に集まった人達のみに紹介され、2日目は自由行動。3日目に国民にお披露目となり夜のパーティーに参加する。
 1日目の限られた者達へのお披露目は意外とアッサリ終わる。パイロンに会えて喜ぶ者、冷静を装う者などいろんな人がいた。後は皇帝と皇后の後ろの椅子で黙って座っていた。
「いやー、疲れたね」
 ネクタイを緩めながらフィールが言う。
「緊張しました」
 何とか無事に終わったことに思わず安堵する。
「ただ座ってただけでしょう?」
「そうなんですけど、緊張しました」
「これじゃ最終日、不安ね」
「言わないで下さい」
 また緊張が押し寄せる。それを見て全員が笑う。

 2日目、自分らはお休みを貰ったがパイロン(トートを除く)は万が一に備えて皇城で待機。執事長、メイド長はアシーを連れてお祭りへ。ライや『影』さんは情報収集。ストゥルティのファーデン・・・さん以外は久しぶりに羽を伸ばすため街に繰り出していた。
 屋敷には自分とファーデンさんだけになった。
「あっ」
 ファーデン・・・さんとリビングで会う。何故か自分は姿勢を正す。ファーデンさんは一瞬硬直するも歩いてソファーに勢いよく座る。気まずい空気が流れる。が縛りつけられたように動かない。
「なあ・・・」
 ファーデン・・・さんが自分に話し掛ける。
「はい・・・」
「悪かったな」
 自分は何故謝られたのか分からず首を傾げる。
「犯罪者がメンバーに入っちまって」
「へっ?あっ!いや・・・」
 言葉に詰まる。
「パイロンのメンバーにしちゃ素直だな」
 鼻で笑うと一拍置き、話し始める。
「許されたいなんて思っていない。でも・・・やらなきゃやられていた。この思いに蓋をするには余りにも大きすぎた」
 ファーデンさんはフィールさんやアイシャさんと同じような境遇だったようだ。親はおらず盗みなどで何とかその日その日を何とか暮らしていた。フィールさん達とは違うのは、ある組織の下っ端をやっていたようだ。
 盗み、薬の運び屋、殺人など幼い頃より多くの犯罪に手を染めていた。
「失敗すれば殴られ、刃向かえば殴られ、あいつらがむしゃくしゃしていればサウンドバックだ。そんなのはどうでもよかった。殴られて血が出ても骨が折れても仲間がいたから」
 その日、仲間の何人かはあいつらの荷物持ちのために同行した。だがそこに警察が来た。あいつらはそれを荷物持ちの奴らのせいにして、見せしめとして殺された。俺達はただその食べられている所を眺めていることしか出来なかった。
 俺は恨んだ。理不尽に大事な仲間を殺した奴を。憎んだ。警察が来なきゃ仲間が殺されることはなかった。嫌った。何も出来なかった自身を。
「警察を憎んでいたのにどうして関係のない人達を殺したんですか」
「全てが憎くなったその時、目に映るもの全てが憎かった。特に能能と生きている奴らが憎かった。どうして何も苦労したことのない奴らが救われて俺達は救われない。生きた環境で人生が決まる。そんな世界を創った奴らが憎くなって暴れ回った。何も変わらないと分かっていながら自分を否定するのが怖くて、否定したら自分が壊れてしまうのが分かったから。お前の言う通りだ。関係のない奴らを巻き込んだ。感情表現を知らないガキみたいにな」
 その目はもういない仲間を思い出すかのよだった。
「仲間です・・・大事なのは忘れず償おうとする、こと繰り返さないことですから自分は皆さんを信じます」
 ようやくトートはファーデンの目を見て話すことが出来る。
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